ここはとある鎮守府の執務室。
広大な海を流れる波の音と青々とした空を飛んでいく海鳥たちの鳴き声が、静かな朝の執務室のBGMとなって流れてくる。
ここの鎮守府の提督は朝から黙々と執務をこなしている。
部屋には他に誰もおらず、提督は一人自分の仕事である書類にペンを走らせる作業を行っていた。
そんな時、コンコンという控えめなノック音。
少し遅れて、執務室へと一人の艦娘が提督の元へとやってきた。
「おはようございます、提督。 今日もいい朝ですね」
青い制服と帽子に身を包み、黒のショートカットとモデル顔負けのスタイルを持つ女性。 高雄型重巡洋艦1番艦『高雄』はにっこり微笑みながら、提督へと朝のあいさつを交わしてきた。
「ああ、おはよう高雄。 君も朝からきれいだね」
高雄の挨拶に笑顔で返事を返す提督。
その言葉に、高雄は思わず顔を赤くしてしまう。
「も、もう提督ったら…! 私をおだてても何も出ませんよ……!」
「あはは、失礼した。 今日の秘書艦は君が務めると聞いていたからね、一足先に執務室で待っていたんだよ」
「そうだったんですか。 すみません、先に提督にお仕事をさせることになってしまって……」
申し訳なさを感じ、高雄は提督に深々と頭を下げる。
だが、提督は『気にしないでくれ』と言わんばかりに首を振ると、すでに書き上げた書類を手に彼女のもとにやってきた。
「それじゃ、俺の代わりにこの書類を大本営の方に送ってもらえないか? 他の仕事はもう済んであるし、あとはこれだけなんだが……」
提督の言葉に、高雄は笑顔で「はいっ、喜んで!」と書類を受け取り、執務室を後にする。
鼻歌交じりに廊下を歩いていく彼女を見届けた提督は、ゆっくりと椅子に座り深い溜息を吐くと、
「…ふう、やっと行ったか」
「全く… あんな化け物と二人きりになるなんて、気が気でないってんだよ」
さっきの笑顔から一変、忌々しげに顔を歪める提督は天井を見上げながら、一人悪態をついていた。
男は艦娘が嫌いだった。
ある日突如として海から現れた異形の怪物、深海棲艦。
通常兵器が効かない深海棲艦と唯一戦える存在、それが艦娘だった。
だが、艦娘も人と同じ姿形をしながら、その実態は人類とは全く違う人ならざる存在。
そんな艦娘を男は気味悪がり、なるべく関わらないようにしようとしていた。
しかし艦娘を統括している海軍が、彼女たちを指揮する提督が足りないとの事で、代理役として男に白羽の矢が立ってしまった。
男は軍に関しては何の知識もない一般人だったのに、祖父が軍人だったという理由で無理やりここへ連れてこられてしまい、それ以来新しい提督が見つかるまでの間だけここで働くよう命令されたのである。
当然男は怒り、抗議したが、軍はこれ以上刃向かうなら君の将来が大変なことになるよ、と遠回しな脅迫をして男をこの鎮守府へと置いていった。
男としては、初めは艦娘たちに関わらずに済むよう自ら嫌われ者になるように振る舞おうと考えたが、そのために下手なブラック鎮守府まがいの事をすれば嫌われるどころか彼女たちの怒りを買うことになりかねない。 そうなれば自分の身がどうなるか分からない。 その結果、男は遠回しに艦娘たちを避け続ける方法をとることにしたのである。
朝の食堂では横長のテーブルに艦娘たちが揃って朝食をとっていた。
大勢の艦娘たちの食事と会話で盛り上がっている食堂だったが、そこに提督の姿はなかった。
提督はいつも食事を自室か執務室で食べるようにしていた。 艦娘たちが大勢いる食堂で食事なんて、考えるだけで恐ろしいからだ。 しかし……
「司令はん、今日もウチ等と一緒に食堂来てくれへんかったなー…」
「きっと私たちのために頑張って仕事してくれてるのよ。 司令、朝から執務に精を出してたって、秘書艦の高雄さんが言ってたわ」
「なるほど… さすがは司令ですね、不知火たちも見習って今度ねぎらいに行かなくては」
と、艦娘たちからは良い意味で誤解されていた。
朝食を終え、提督は執務室を出て一人外を散歩している。 執務はすでに終わらせたが、下手に執務室にいれば秘書艦や他の艦娘たちと一緒になってしまう恐れがある。 彼にとってもそれは避けたかったので、今は他の艦娘に出会わないよう人気のない場所を歩いていたのであった。
「あっ、おはようございます、しれぇ!」
しかし、そんな時にも艦娘とは出くわしてしまう。 提督が声のした方を振り向くと、そこにはボール片手にこちらに駆け寄ってくる雪風たちの姿があった。
ただでさえ艦娘が苦手だというのに、よりによって相手は話の通じない
提督は顔をしかめたくなるのをこらえながら、雪風たちに笑顔を向けた。
「おう、おはよう雪風。 今日も元気がいいな」
「しれぇ、たまには食堂に来てください。 他の皆もしれぇが来てくれないって寂しがってました…」
「あ、ああ… すまない、行きたいのは山々なんだが書類作業以外でも提督としてやらねばならないことがあってな…」
「そうですか… それじゃ仕方ないですね」
雪風は肩を落としながらしょんぼりと落ち込む。
提督も申し訳ない気持ちがないと言えば嘘になるが、やはり人と同じ姿でも化け物は化け物。 提督はとても受け入れられなかった。
「ごめんな…」と言葉だけでも謝って、提督はその場を後にしようとしたが、雪風の隣にいた時津風が服の袖を引っ張って提督を引き止めた。
「そうだ。 しれぇ、時津風たちこれからキャッチボールするの。 せっかくだからしれぇも一緒にやろうよ」
「ちょっと、駄目よ時津風! 司令官は仕事を終えたばかりで疲れてるのよ」
「ええー、ちょっとくらいいいじゃん!? ねえしれぇいいでしょねえねえ?」
腕にしがみつきながら一緒に遊ぼうとせがむ時津風。
慌てて天津風が時津風にやめるよう窘めるが、提督は時津風にゆすられたまま笑顔で言った。
「構わないよ、天津風。 俺もちょうどデスクワークを終えたばかりで体を動かしたかったから」
その言葉に時津風だけでなく雪風もばんざいしながら喜び、天津風は戸惑いながらも二人に手を引かれていく提督の後を追っていった。
(受けるしかないだろ… こいつらも子供といえど艦娘、下手に断ればどうなるか分からないんだから…!!)
そんな本音をひた隠しにしながら、提督は広場の方で雪風たちとのキャッチボールに付き合うのであった。
時刻はもうすぐ昼に差し掛かろうとする頃。 雪風たちと別れ、提督はまた一人あてもなく散歩する。
ただでさえ執務仕事で疲れていたのに、キャッチボールまでしたせいで余計に疲れがたまっている。
どこでもいいから一人静かに休めないか…?
そう思いながら工廠の脇を通ろうとしたとき、
「あっ、提督!」
「…夕張か」
この艦隊の開発を担当している艦娘、夕張に呼び止められた。
本来は他の艦娘たちと同じように出撃している彼女だが、今は作業用ズボンに白のタンクトップというラフな格好になっていた。
先ほどまで開発を行っていたのか彼女の顔は油で汚れていたが、そんなことにかまわず夕張は提督に駆け寄り笑顔を見せる。
「この前は大量の資材の使用許可を出してくれてありがと。 おかげでいい装備がたくさんできたし、皆も提督にお礼が言いたいって言ってたわ」
「そうか… それはなによりだ」
喜々として話す夕張とは裏腹に、提督は引きつった笑みを浮かべていた。
実は夕張に大量の資材の使用許可を出したのは、資材を開発でどんどん溶かし艦隊を運用できなくして無能な提督だと艦娘たちに印象づける。 そして艦娘たちから嫌われ提督をクビになろうと思い許可したのだ。
だが夕張はそんな提督の計画を知らず、自分のためにここまでしてくれた提督に報いようといつも以上に頑張って開発をこなし、その結果強力な装備が大量にできたため、嫌われるどころかかえって艦娘たちからより好感を持たれてしまったのであった。
「もし提督も欲しいものがあれば私に言って。 提督のためならなんだって作って見せるからね♪」
「…今は気持ちだけ受け取っておくよ。 ありがとうな」
(今は提督をクビになるきっかけがほしいんだよ…!!)
そう叫びたい気持ちを抑えながら、提督は無難に夕張にお礼を言うとその場を立ち去ったのである。
午後の執務室。 そこでは昼食を終えた提督が一人執務にいそしんでいた。
秘書艦の高雄には資材備蓄の確認をしてほしいと適当な理由をつけ執務室から追い出していた。 もちろん艦娘と二人でいたくなかったというのが本当の理由だ。
「はあ… 一体いつまでこんなこと続ければいいんだ?」
誰にでもなくひとり不満を漏らす提督。 しばらくは執務作業で書類に記入する音だけが響いていたが、廊下から複数の足音が聞こえてきた。
その音に一瞬眉根をひそめたが、すぐに表情を変え執務を再開。 その直後扉が開き提督に声をかける者がいた。
「提督、第一艦隊が戻ったぞ。 中々に手ごわい相手だったが、どうにか勝つことができた」
第一艦隊旗艦を務める艦娘、長門を筆頭に大和や武蔵、大鳳たち第一艦隊所属の艦娘たちが次々に執務室に入ってくる。
皆、服はボロボロで体にはいたるところに生傷があったが、彼女たちは朗らかな笑顔を見せると提督に戦況報告を行った。
「……流石だな、長門。 レ級が出ると言われている海域なのに、全員無事に戻ってくるとは」
「なに、提督はいつも私たちを強敵が出るという海域に送り出してくれるから、その期待に応えたいだけさ」
自身を褒める提督の言葉に長門は胸を張り、大和も自分の胸に手を置きながら嬉しげに微笑んだ。
「それに、提督は私たち大和型も積極的に運用してくれますから、つい頑張ってしまうんです」
「他の鎮守府では、ここと違って資材が減るからと中々出撃させてもらえないからな。 そう思うと、ここへ来て本当に良かったと思うよ」
武蔵も素直に称賛の言葉を贈り、他の艦娘たちも口々に提督を褒めたたえていた。 そんな艦娘たちを見ながら…
(クソッ、また戻ってきたのかよ…! 轟沈させるためにわざわざあんな過酷な海域に放り出したっていうのに、こいつら本当にしぶとい…!!)
本当は提督が長門や大和たちを出撃させるのは、強い敵がいる海域に放り込みうまく敵に沈めてもらい、艦娘を轟沈させてしまった責任をとるという形で提督をやめようという企みによるものからだった。
しかし、そんな彼の思惑とは裏腹に、長門たちは提督がこんな危険な海域に送り出すのは自分たちにそれだけ期待してるからなんだと勘違いし、その期待に応えるべくどんな強敵だろうと負けずに帰還してきたのだ。
「では提督、私たちは少し入渠してくるよ。 高速修復材を使うから、すぐに終わるさ」
「いや、今日はもう出撃の予定はないからゆっくり休むといい。 戦艦といえど、たまにはのんびりつかりたいだろ?」
「あ、ありがとうございます提督! それではお言葉に甘えて、失礼します」
そう言って、長門たちは執務室を後にしていった。
足音が遠ざかり、彼女たちがいなくなかったことを確認した提督は、
「…そうしたほうが、しばらくお前らの顔を見なくて済むんだよ!」
もうそこにはいない長門たちに悪態をつくのであった。
時刻は夜。 艦娘たちも皆寮へと戻り、提督は深い深い溜息を吐きながら今日も一日無事に過ごせたことにほっとしながら、机に突っ伏していた。
「くそ… こんなことがいつまで続くんだ? これじゃ、俺の身が持たないじゃないか…!」
彼がここへ来てからしばらく時間がたつが、大本営の方からは未だ連絡がなく、嫌がおうににも関わりたくない艦娘たちの相手をし、提督業をつづけなくてはならない始末。 正直、提督は極度のストレスで心身ともに限界に達していた。
「ああ、もうなんでもいいから早く新しい提督決まってくれ――――!!」
やりきれない気持ちを胸に、提督がそう声高に叫んだとき、
ジリリリリリリン!!
その声に答えるかのように執務室に一本の電話がかかる。
提督は驚きつつも、受話器を取り電話に応じる。
「はいっ、提督ですが… ああ、大本営の方が何の用でしょうか?」
「……えっ、本当ですか!? 来週にはこちらに来ると…… はいっ、分かりました! お願いします」
提督は受話器を置くと、夜中にもかかわらずもろ手を挙げて大声で喜びだした。
「やったー! ようやく新しい提督がここへ来る。 ついにこんな場所とおさらば出来るんだ、ばんざーい!!」
大本営からかかってきた電話。
それはここへ新しく着任する提督が出たとのことで、彼にはその日をもって提督を解任するとの通達だった。
彼にとってはこれ以上ないほどの吉報に、まるで子供のようにはしゃぎまわる提督。
その声は夜の廊下にまでかすかに響いており、
「…青葉、聞いちゃいました………」
報告書を提出しに来た青葉の耳に届いていた。
その時の青葉は能面のような無表情に、黒くよどんだ眼をしたまま呆然としていた。
新しい提督がやってくるこの日、提督は笑顔で鎮守府の入り口に立っていた。
ようやく新しい提督が来て、自分が解放されるかと思うと今から心が躍る。
約束の時刻に差し掛かったころ、一台の車が提督の待っている鎮守府の入り口の前で止まり、中から海軍の大将が下りてきた。
「やあ、久しぶりだね。 突然とはいえ、君に提督を任せてしまって済まなかった」
「いえ、自分も微力ながら力になれたのなら嬉しいです」
相手は上官とはいえ、自分をこんな目に合わせた原因の一人。
正直文句の一つも言いたいのだが、今はその気持ちを抑え提督はさっそく大将へと本題を切り出した。
「あの… それで新しい提督はどちらに…?」
彼は周囲を見回すが、車から降りてきたのは大将一人だけ。 他にそれらしい人物の姿が見当たらない。
どういうことかと首をかしげていると、
「いや、君には本当に申し訳ないことをした。 まさか、君がここまで艦娘たちを大事に思っていたなんて…」
「…えっ?」
まるで意味が分からない、といった表情を浮かべる提督。
そんな提督を意に介さず、大将は話を続ける。
「実は君に新しい提督が来ると告げた次の日に、君の鎮守府の艦娘たちが私の元へ押しかけてきてね。 君が彼女たちのためにどれだけ尽くしている熱心に聞かされたんだ。 君は出撃や開発だけでなく、日ごろの業務まで負担をかけまいと頑張っていたそうじゃないか」
「えっ、いや!? それは…その…!?」
「それで、艦娘たちはこれからも君をここの提督にしてほしいと頼んできて、私もここまで艦娘を大事にする男を解任するのは心苦しくてね。 それで、今回の件については白紙にしようと思い、今日はそのことを直接話しに来たんだ」
「ま、待ってください! そんな突然言われても…!? それに、あれは艦娘が好きでやってたわけじゃ……!!」
「提督……」
提督が大将を引き止めようとしたとき、ふと自分を呼ぶ声が後ろから聞こえてくる。
振り返ると、そこにはこの鎮守府に所属する艦娘たちが自分を見つめていた。
「青葉さんから聞きましたよ。 なんでも、大本営の人が新しい提督をここヘ寄越すとか…」
「ひどい話ですよね。 提督が一生懸命榛名達を支えてくれているというのに、他の人が入ったら提督が出ていかなきゃいけませんもの。 だから、榛名たちが代わりに断っておきました」
「心配しないで。 提督さんを追い出そうとする奴は瑞鶴たちが許さないから、これからもよろしくね♪」
朗らかな笑みを浮かべながらそう話す艦娘たち。 それを見た提督は頭の中で何かがはじけ飛んだ。
「ふ…ざ…けるな……!!」
わなわなと拳を震わせ、艦娘たちを睨み付ける。 もう、我慢の限界だった…
「誰がそんな事をしろと言った!? ようやくここをやめられると思っていたのにお前らのせいで台無しになったじゃないか、どうしてくれるんだ!?」
「このさいはっきり言わせてもらうがな、俺はお前ら艦娘が大嫌いなんだよ!! お前らのような人の形をした化け物となんて一分一秒でもいたくない!! 俺は提督をやめたいんだ、分かったらもう俺に関わるな!!」
溜まりに溜まった本音をぶちまけた提督は、「ぜい… ぜい…」と息を切らせながら艦娘たちに目線を向ける。
言いたいことは言ってやった。 これで嫌われたのなら願ったりだ。 そう思いながら提督は急いで先ほど去っていった大将を追おうとする。 正直に訳を話してどうにか解任の件を取り付けてもらうためだ。
だが、提督の本音を聞いた艦娘たちは、
「…もう、提督は冗談がうまいですね」
「ほんとほんと。 あの提督さんがそんなこと言うわけないもんね」
怒るどころか、みんな一斉に彼の本音を冗談だろうと笑いながら否定してきた。
その異様な光景に、提督は怒りより若干の恐怖を感じていた。
「な、何言ってんだお前ら…!? 俺は本当にお前らが嫌い……」
「…提督、少し疲れているんですね。 早く戻って休みましょう、大事な提督の身に何かあったら、榛名は大丈夫じゃありません」
そう言って、艦娘たちは提督を連れ戻そうと取り囲んでくる。
提督は必死になって艦娘たちを振りほどこうと抵抗するが、艦娘たちの数が多すぎて抑え込まれてしまう。
「よ、よせ…! 来るな!」
艦娘たちに抵抗しようとしたとき、提督は艦娘たちの顔を見て気づいた。
皆の目が黒く染まり、正気ではなくなっていることに…
そして気づいてしまった。
彼女たちが自分という存在に依存するあまり、正気を失ってしまったということに…
結局、抵抗もむなしく提督は取り抑えられ、艦娘たちの手によって再び鎮守府へと連れ戻されてしまったのである。
「ただいま司令官! さっき遠征から帰ってきたけど、ちゃんといい子にしてた?」
「………」
「提督、ここらで少し休憩にしましょうか。 私、お茶を入れてきます」
「………」
「提督、艦隊戻ったぞ。 今回も敵艦隊が手強かったが、こうして全員無事に帰投することができた。 これも提督がいてくれたからだな」
「………」
鎮守府の執務室。 そこでは一人の提督に親し気に話しかける艦娘たちの姿があった。
あれ以来、提督はこの鎮守府から出ることなく日々を過ごしていた。
初めは脱走を試みようとしたが、艦娘たちの厳重な監視からは逃れられず捕まり連れ戻されていた。
その後、提督には秘書艦という名の見張りがつき、常に複数の艦娘たちが彼の傍にいることで逃げられないようにしてしまった。
食事や執務中はもちろん、寝るときやトイレに行く時まで彼女たちが監視を緩めることはなかった。
ただでさえ嫌いな艦娘に厳重に監視され、提督は日を追うごとに心身共に摩耗し、今は廃人同然の状態になっている。
艦娘たちの言葉に何も答えず、提督は壊れた人形のように「…おれは……お前らが……嫌い……」と拒絶の言葉を繰り返していた。
だが、彼女たちはそれでも構わなかった。
大好きな提督が傍にいてくれればいい。 彼に依存しきってしまった艦娘たちにとっては、その事実が重要だった。
虚ろな目をしながら椅子に腰かける提督に、傍らにいた大和はそっと囁きかける。
「…提督、今は私たちのことが嫌いでも構いません」
「…でも、大丈夫。 時間はたっぷりあるんです」
「…私たちが貴方のことを好きになったように、いつか貴方も私たちのことを好きになるようにしてみせますからね」
「…だから、どうかこれからも私たちの傍にいてください。 提督……」
他の艦娘と同じ、黒く濁った瞳に最愛の人を映し出しながら、大和は提督の顔を覗き込むのであった。