最近は暑さ寒さの変わり方が激しいですね。
とはいえ、自分も夏は夏イベと夏コミがありますから気合入れて行かないとです!
皆さんも、夏の暑さに負けず頑張ってください。
とある鎮守府の執務室。
夏特有の唸るような暑さに煽られ、提督は額に汗しながら書類作業を行っていた。
「ふあぁ…… 今日もまた暑いな。 窓を開けても風が流れないし、本当に参るねこれは…」
窓は少しでも外気を取り込めるよう全開になっていたが、そこから流れるのは風ではなく外の熱い空気とセミの鳴き声だけ。
少しでも暑さをしのごうと手で仰いでいると、中央のテーブルで作業をこなす秘書艦がにっこり笑いながら言った。
「ファイトなのです、司令官さん。 電も手伝いますから、あとちょっとだけ頑張りましょう」
秘書艦として今日の執務を手伝ってくれている艦娘、電の言葉に提督も「ああ… そうだな」と返事をすると、再び作業の手を動かし始めた。
「ふいー、ようやく終わったな。 手伝ってくれてありがとな、電」
「いえ、秘書艦としてこれぐらい当然なのです。 司令官さんも、暑いのにお疲れ様です」
今の執務室は風が吹き込まず蒸し暑い。 それは自分も同じだったろうに、電は辛そうな様子も見せずに提督に励ましの言葉を贈る。
そんな彼女を見て、提督はゆっくり腰を上げると電を呼んだ。
「それじゃ、暑い中執務を頑張ってくれた秘書艦さんにはご褒美として好きなアイスを提供しよう。 何がいい、電?」
「ふぇっ…!? い、いえそんなの司令官さんに申し訳ないですし、それにお姉ちゃんたちにも悪い気が……」
「なら、暁たちの分も一緒に買ってこよう。 その代わり、電にはもう一つ好きなアイスを買ってあげるということで、どうだ?」
イタズラっ子のような笑みを浮かべてそう提案する提督。 これには、電も思わず顔をほころばせた。
「あ、ありがとうなのです司令官さん! じゃ、じゃあ電はバニラアイスがいいのです!!」
「よし、分かった。 その代わり、これは……」
「…あっ、はい! これは電と司令官さんだけの秘密なのです!」
年相応の無邪気さを見せながらはしゃぐ電。
その姿に、提督もクスリと笑いながら電と一緒に執務室を後にするのであった。
鎮守府の食堂。
昼を少し過ぎたその時間は、出撃や遠征から帰還してきた艦娘たちが遅い昼食をとっており、その中には電の姉妹艦、暁・響・雷の姿もあった。
電から配られたアイスに舌鼓を打ちながら、雷はテーブル越しに座る電に尋ねた。
「ねえ、電。 今朝は司令官のお手伝いをしてたそうだけど、そんなにニコニコして何か嬉しいことでもあったの?」
雷は姉妹の中では一番の世話焼きな性格。 普段と比べるとやけに嬉しそうな電の様子が気になっていた。
「えへへ… それは内緒なのです♪」
「またそれー? いいなぁ、電は司令官と一緒にいられておまけに司令官のお世話までできるんだもん。 私もまた秘書艦やりたいなー」
口を尖らせながら不満を漏らす雷。 そこへ、雷の隣に座る暁が電へと詰め寄っていく。
「だからって、司令官と一緒にいられただけにしてはずいぶん喜んでるじゃない。 何か暁たちに重大な隠し事があるんじゃないの!?」
「あ、暁ちゃん落ち着いて…」
「正直に話しなさい! 一人前のレディは周りに隠し事なんてしないのよ!」
テーブルを乱暴にたたきながら電を睨む暁。 姉妹の中では一番子供っぽいところがあるが、同時に姉妹の中では一番勘が鋭いとこもあった。
だが、電の怯える姿を見て、響は落ち着いた様子で暁を諭した。
「それなら昨夜、暁が私を起こしてトイレについてきてもらったことも話さないといけないんじゃないかな?」
「ひ、響……!! 余計な事言わないの!!」
顔を真っ赤にしながら響を睨む暁。 しかし、雷も暁に同意の言葉を贈る。
「でも電もずるいわ! 自分だけ司令官との秘密を作るなんて…!」
雷がふてくされるのも無理からぬ話。
電や雷に限らず、ここの鎮守府の艦娘たちは提督を慕っている。 それも、上官と部下としてでなく、一人の女性として提督という男性に想いを寄せている。 だからこそ、電と提督がお互い秘密にしていることが雷にとっては面白くなかったのだ。
そんな姉の気持ちを知っていた電も、姉妹たちに顔を向けながらぺこりと頭を下げた。
「それは…ごめんなさいなのです。 でも、これは電と司令官さんにとって大事な秘密だから……」
畏まった様子で正直に謝罪する電。 その姿に、響も電へとフォローを入れた。
「仕方ないさ。 私達だって姉妹同士でも言いたくないことや内緒にしたいことはある。 それを無理に聞き出すのは、流石にかわいそうだよ」
落ち着いた口調で語る響の言葉に、流石に暁と雷も二の句を告げられず黙り込み、電は自分をかばってくれたクールな姉へと頭を下げたのであった。
電はこの鎮守府の初期艦であり、この艦隊では最古参の艦娘。 ゆえに提督との付き合いは一番長く、二人の間にはいろんな秘密があった。
ある日の事。 このころはまだ鎮守府の規模が小さく、電はよく出撃に加え遠征の旗艦を務めていた。
この日も遠征を終えた電は報告をすべく執務室へ向かい、執務室にいた提督は電へねぎらいの言葉をかけた。
「ありがとう、電。 お前には出撃も行ってもらっているのに、遠征までさせてすまないな…」
「いいのです。 ここはまだ人手も資源も少ないですし、これで少しでも司令官さんのお役に立てるなら電も嬉しいのです」
遠征を終えて疲れているだろうに、そんなそぶりを見せることなく笑顔を見せる電。
そんな彼女に提督は、
「それじゃ、今日はこの後二人で間宮さんのところに行こうか。 他の子には内緒でね」
「えっ、いいのですか? 電だけそんな贅沢してしまって……」
「旗艦として遠征を大成功させてくれたご褒美さ。 電はいつも頑張ってくれてるんだから、それくらいいい目を見てもバチはあたらないよ」
その言葉に、電も顔を綻ばせる。 大好きな提督の誘いに心躍らせながら、彼女は提督の後についていくのであった。
またある日のこと。
時刻は深夜。 外は真っ暗になっており、灯りのともった執務室では提督と電が二人でせっせと事務仕事をこなす。
ようやく最後の書類を書き上げ、提督は思い切り椅子の背にもたれながら歓喜の声を上げた。
「や、やっと終わったー! すまないな電、最後まで付き合わせてしまって」
「いえ、最後まで手伝いたいと言ったのは電です。 そういう司令官さんこそ、電の我儘に付き合ってもらって申し訳ないのです」
「そんなことないぞ。 電が手伝ってくれたおかげで、無事に終わらせることができたんだ。 ありがとうな」
提督は書類をまとめる電の頭を優しくなでる。 嬉しさと気恥ずかしさが入り混じったような笑みで電も大人しくなでられ、拒否するようなそぶりは見られなかった。
「電には一日頑張ってもらったから、何かお礼ができればいいんだが…」
そう言いながら提督は顎に手を当て考え込む。 彼なりに何をしてやれば電は喜ぶか…?
すると、電は少し顔を赤くしながら、
「じゃ、じゃあ今夜は司令官さんと一緒に仮眠させてもらってもいいですか…!? あの… その… い、いつもお姉ちゃんたちと一緒に寝てたから、一人だとなかなか寝付けなくて……」
電から出た突然のお願いに提督は一瞬きょとんとしたが、それが彼女の頼みとあれば自分にも断る理由はない。
提督は軽く頷くと、
「ああ、いいぞ。 それくらいお安い御用だ」
「あ、ありがとう…なのです!!」
そうして、電は提督と一緒に執務室のソファで添い寝してもらったのであった。
今でこそ鎮守府は艦娘が増えて規模も大きくなったが、電ほど提督と親密な時間を過ごした艦娘はいない。 それは事実だ。
ただ、そのことがいつしか電の中で周りに対する優越感へと変わっていた。
自分は他の子たちより司令官との秘密をたくさん持っている。
自分ほど、司令官に一番近しい艦娘はいないんだと。
表には出さないものの、そう考えると自然と電の心は踊った。
今日もこの後大好きな提督と二人の時間を過ごせる。
そんな下心を抱きながら執務室の扉へとやってきたとき、扉の向こうから何やら話し声が聞こえる。
『提督…… 本当に、私とケッコンカッコカリしてくれるんですカー!?』
『本当だよ。 金剛には前々から前線で活躍してもらってたし、これからもその雄姿を見せてほしいんだ。 いいかな…?』
『もっちろんデース!! 私の渾身のバーニングラブ、これからも見せてあげるネー!!』
偶然聞こえてしまった、提督が金剛とケッコンカッコカリを行うという会話。 その事が電の心にナイフを突き立てるように刺さった。
ケッコンカッコカリは本来戦力強化を目的として行われる近代化改修の一種。
しかし、それ以上に疑似的とはいえ、好きな艦娘と結婚をできるということが、ケッコンカッコカリの魅力となっている。
提督である彼も、自分たち艦娘を一人の女性としてみてる以上、戦力強化のために行ったとは考えられない。
ありうるとすれば、ケッコンカッコカリを申し込んだ金剛を異性として好きになったという事。
そうした結論にたどり着き、ようやく電は気づいた。
提督に一番近しい艦娘だと思っていたのは自分だけ。 提督から見れば自分は一番じゃなかったんだと……
その時、彼女の心の中で何かがざわめいた。
まるで何かにほのめかされるようにブツブツと呟きながら廊下をさまよう電。 しばらく幽霊のように歩みを進めていたが、突然ぴたりと止まるとゆっくりと顔を上げる。
その表情は何かを企てるような不気味な笑みを浮かべており、瞳はまるでよどんだ闇を体現したかのごとく、黒く濁っていた。
その夜、電はいつものように提督と一緒に執務を終える。
後片付けを済ませ、もう戻っていいぞという提督に、電はあの時聞いた話について尋ねた。
「あの、司令官さん…… 金剛さんとケッコンカッコカリをするって本当なのですか?」
そう聞かれた途端、提督も驚愕の表情を浮かべる。
初めは気まずそうに顔を背けていたが、真っすぐにこちらを見つめる電に根負けしてか、提督も気弱な声で答えた。
「…ああ、本当だ。 まさか電がこのことを知っていたなんてな……」
「お昼の時、執務室の前で偶然聞いてしまったのです。 すみません、盗み聞きするつもりはなかったのですが……」
「電が謝る必要はないさ。 …正直言うと、電には隠したくなかったんだが、金剛と最大練度を迎えるその時まで秘密にしておこうと決めててな……」
提督の話を聞き、電の心はずきりと痛んだ。 提督は、自分以外の艦娘とも二人だけの秘密を持っていたんだということに……
「電にはすまないが、正直に言わせてもらう。 俺は金剛の事が好きだ、だから電が俺を想っていても俺はその気持ちに応えられそうにない。 本当にスマン……!」
机から身を乗り出し、提督は額を机につけながら深々と頭を下げた。
今の自分にはこうすることしかできない、と言わんばかりに必死に謝る提督だったが、それを見た電は提督の頭を優しくなでながら暖かい笑みを浮かべた。
「もういいのですよ、司令官さん。 電が司令官さんを好きになったように、誰かが誰かを好きになるのはその人の自由ですし、それを阻む権利なんて誰にもないのです。 司令官さんが金剛さんを好きになるのは司令官さんの自由ですし、それを阻む権利は電にはないのです」
「司令官さん… 正直に話してくれてありがとう、なのです。 司令官さんが正直に話してくれたこと、電も嬉しく思ってます。 ただ……」
「…ただ?」
「…もしできるのなら、もう一つだけ電との秘密を作ってほしいのです!!」
笑顔から一転、顔を赤くしながら提督へと迫る電。 その気迫に気圧されながらも提督は、
「わ、分かった… それじゃ、その秘密を言ってみてくれ」
その言葉を聞いて、電はにっこり笑いながら提督へとその秘密について打ち明けたのであった。
「金剛さん。 司令官さんとケッコンカッコカリおめでとう、なのですっ!」
「ヘーイ、サンキューネ電ー!! そう言ってもらえると嬉しいのデース!」
時は流れ、鎮守府では提督と金剛とのケッコンカッコカリが執り行われ、電を初めとした他の艦娘たちは二人へお祝いの言葉を送っていた。
金剛は自分たちをお祝いしてくれる皆へとお礼の言葉を返していたが、電の元へ来ると声を小さくしながら話しかけてきた。
「…ところで、電。 提督から聞いたんですケド、電も提督とケッコンカッコカリするそうですネー」
「…あっ、知ってたんですか? 金剛さん」
「電も近いうちに私と同じ場所に立つことになりそうデース」
「そうですね。 司令官さんとケッコンカッコカリ出来たことは嬉しいですし、電も司令官さんのこと好きですけど、一番にケッコンカッコカリした金剛さんには敵いそうにないのです」
「もちろんネー。 私の提督へのバーニングラブは、誰にも負けまセーン!!」
そう言いながら、誇らしげに胸を張る金剛。
そんな彼女の姿に提督は苦笑いを浮かべ、電はクスクス笑いながら見つめていた。
その後、金剛は提督の手を引いてその場を去っていき、残された電は一人ポツンと佇んだまま、静かにつぶやいた。
「金剛さん。 残念ですけど金剛さんは司令官さんの一番にはなれないのです」
「いえ、金剛さんだけじゃない… 他の子たちもそう。 いくらケッコンカッコカリをしたところで、司令官さんの一番にはなれません。 だって……」
「司令官さんの『初めて』は、電がすでに頂いたのですから…♪」
そう言って、電は自分のお腹を優しくさする。
実は、電はあの日の夜に無理やり提督を襲い、既成事実を作っていた。
子供と言えど彼女は艦娘。 人間である提督が力でかなうはずがなかった。
そして、それこそがあの日の夜に電と提督の間にできた二人だけの秘密。
電が金剛は提督の一番にはなれないと言った理由なのだ。
「司令官さんにとっての一番は電です。 たとえ金剛さんだろうと、それだけは譲れないのです」
「司令官さん、ごめんなさい。 でも、やっぱり司令官さんを諦めることは電にはできなかったのです」
「でも、この秘密がある限り電はいつまでも司令官さんの一番です。 いつまでも司令官さんの傍にいられます」
「だから、ね…… これからもよろしくお願いします、司令官さん」
そう言いながら、電は笑顔を浮かべる。
あの時見せた不気味な笑みと黒く濁った瞳をしたまま、彼女はいつまでもそこで微笑んでいた。