SAO-U   作:楠乃

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 割と書くのに手間取った(クソゲーに時間掛け過ぎたとも言う)






1−2 発端

 

 

 

 2022年11月6日、日曜日。

 私は『彼』の代わりに、世界初のVRMMOの世界、というのに浸っていた。

 

 何の事はない、休日であるにも関わらず社長に呼び出されて仕事を手伝わされたから、真っ先に乗り込めないというだけだった。

 三十路手前になっても、そういうゲームに興味は惹かれ続けているのが、これまた私らしく、それでいて『私』らしく、『彼』でもあるのだなぁ、なんて思った。

 

 まぁ、ちゃんと私も『彼』から許可を取ってこのゲームをやっているのだし、何ら問題はなかろう。

 『彼』と出逢って二十年。私も『彼』も、何も変わらない。

 変えたく、なかった。

 

 

 

 

 

 

 容姿の変更に幾らか手間取ったりもしたけれど、無事、私はその仮想空間とやらに入り込むことが出来た。

 人間と違う部分もあるだろうから、弾き出されるかな〜? と若干の期待もしていたのだけれど……どうやら紫の策は見事に進んでいるらしい。嬉しいやら、悔しいやら、むず痒いやら。

 

 ざわざわ、と私を見て噂話を立て始める人達から離れるように、中世風な広場から歩き始めて街の外へと向かう。

 石畳をカツカツと鳴らし、その内どこかで下駄でも手に入れたいなぁ、とか考えながら、人の視線を振り切るように『外』へと向かう。

 まぁ、残念ながらその街の外へと向かう人々は大量に居たから、紛れ込むのは出来ても視線を完全に切ることは出来なかった。

 

 皆が、楽しげに外へと走り出していく。

 イケメンな青年が、金髪を踊らせて走るお転婆な姫が、いかつい顔で人を寄せなさそうな壮年の男性が、皆どこか期待したように、走り、スキップし、また浮ついたように早足で、大通りを歩き、そして大きな城壁をくぐって外へと出て行く。

 

 見渡すかぎりの草原。奥には森や山。現代日本じゃありえない光景。

 ここからがMMORPGの始まり、ということなんだろう。

 

 モンスターが出て、生きるために戦い、戦利品や経験値で自分を鍛え、そしてたまに死ぬ。

 

 ここ数十年の幻想郷はかなり落ち着いてきて、殺し合いが起きることなんて地下以外で滅多にないという話になっている、けど、まぁ、それでなくとも、生き死にの世界を長年体験してきた身としては、あまりに腑抜けた話のように聴こえる。

 

 殺されたのに死なない、ってのはどういう了見なんだい?

 とも、言ってみたいし、

 殺されたが死なない、っていうのをゲームと言うんだろう?

 とも、言ってみたい。

 

 

 

 そんな事をふらふらと歩きながら考えている内に、いつの間にかあの大量の人々はそれぞれの方角へと散っていったらしく、私の周囲には誰一人として居なくなっていた。

 

 いや、もしかすると視界の範囲外なだけで聴き取ろうと努力すれば聴こえるんじゃないか?

 そう考えて、耳を澄ます。

 

 

 

 聴こえて来るのは、機械が出す非常に小さな電子音。

 通り過ぎる車の音。冷蔵庫が出す音。暖房器具の音。

 

 あまりにも、現実的すぎる、音。

 

 

 

 おそらく、耳を澄ました所で聴こえて来るのは、私の能力。

 『衝撃を操る程度の能力』が拾ってしまう音だけなんだろう。

 

 それは人間でない、という証。

 私が、妖怪である、という証。

 

 脳という『肉体』の反応を拾って、仮想世界の『肉体』を動かすという話。

 けれど、『魂』が直接操っている能力は、この世界の『肉体』に何ら影響を与えない、という話なのかもしれない。

 

 まぁ、それならそれでこちらの断絶した意識から、魂が操る能力を使えば現実世界でも動けるという話になるのだから、良しとしよう。

 『彼』が帰ってきても私のスキマに持ち込むことが出来る。それもこの仮想世界にダイブしたまま、ナーヴギアを被ったままで!

 いやぁ、なんという成果だろうか。ニヤニヤが止まらないね。

 

 

 

 ────少なくとも、その時はそんなイタズラを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 私はこのゲームを攻略する気がなかった。

 もっと詳しく言うなら、最前線でゲームをやるつもりがない、と言った所だ。

 

 私がしたいのはあくまで『彼』への嫌がらせ・からかいであり、このゲームに対する興味、というのはそれほど高くない。

 精々が、私が居た過去の世界から二十年後にはこんなものが生まれていたのか、と多少の悔しさと羨ましさと、上からの目線で遊んでやる、と言った気分が正しい、と思う。

 

 だからまぁ、幻想の世界と、現実の世界と、仮想の世界──まぁ、他にも大量に世界はあるけど──どれがどれだけ違うか、見比べてやるか、という感じで今、ログインしている。

 

 

 

 例えば、目の前に居るこの青いイノシシに、物理反射能力は効果が適用されるのであろうか?

 

 ゲームで言えば、初戦闘。チュートリアルが始まっても良い頃合い。

 まぁ、そんなもの、無いのだけど。

 

「……そろそろ、スイッチを入れるか」

 

 あくまで、私の主目的は、『彼が帰ってくるまでに色々と遊んでからかってやる』というものだった。

 けれど、まぁ、風雲のように流されやすい私の目的は、時に、簡単に変わってしまう。

 

 

 

 例えば、そう、一時間以上も掛けてデザインしてしまった、完全に『両儀 式』を真似たアバターを作って、自分の口調を変えてしまう、とか。

 

「色々と試させてくれよ?」

「ブギーッ!!」

 

 まぁ、別に男口調に変えただけで、精神を真似るつもりは更々無いんだけどね。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 結果を言えば、予想通り、能力が仮想世界内に適用されることはなかった。

 

 まぁ、仮想世界で受けた衝撃を、脳が誤認したか──はたまた魂が感知したか──現実世界に衝撃を返す、というオモシロ状態が起きたりはした。

 あとで『彼』に謝らなくちゃね。予想以上に衝撃が強すぎて天井に穴が空いてしまった。

 

 それと、面白い事にも気付いた。

 この世界は、現実世界の脳波を拾って仮想世界の『肉体』を動かす、というものだ。

 簡単に言えば、五感。

 脳が持つ、それぞれの感覚器の信号を受信する部分。

 人間にはおいそれとは鍛えられない部分。視覚、聴覚、触覚、嗅覚。

 まぁ、味覚はどうでもいいとして。

 

 

 

 妖怪なら、それも鍛えられる。

 

 いや、鍛えられる、はおかしいか。

 

 正確に言うなら、必要とする分に足りるまで造り直す。が正しいだろう。

 反射神経なんて特にそうだろう。見て把握してから行動するまで最速で0.1秒。人外はもっと早いし、幻想郷にはそもそも時を止める人物すら居る。

 あれで三十歳間近の人間だとか言うんだから、阿呆かとか思う。

 

 話が逸れた。

 妖怪である私なら、自意識のみで自身の構成そのものを組み替えられる私なら、

 

 必要となれば、それだけゲーム内での経験値を必要とせずに、ステータスそのものを書き換えられるのではないか?

 

 

 

 そう思い付いたのが、三十分程前。

 今私は、必死に突進してくる青いイノシシを、限界までギリギリになってから避ける、というのをただひたすらに繰り返している。

 

 ただ……元から妖怪としての地があったからか、イノシシ自体の突進が非常に遅く見える。

 

 そして、私の回避も、ただひたすらに遅い。

 肉体が非常に遅い。何だこのトロさ。人間かよ。

 

 

 

 まぁ、考えてみれば成長してないステータスなのだから、敏捷力(AGI)なんて今周囲から見ている人間とほぼ変わらない訳だ。

 パラメータ振りどころか、レベルアップすらしてない身では、まぁ、当然の事。

 

 それでも成果はあった。

 

 努力をすれば間違いなく、脳の認識力は上がっている。

 

 青いイノシシが一歩ごとに土を踏み締め、蹴り飛ばし、宙へと浮かぶ土を数え上げ、その突進に跳ね飛ばされるごとに、数え終えれた土塊の数は、少しずつ増えていっている。

 

 十回に一個は、確実に数えられる土が増えていっている。

 

 

 

 まぁ、そんな事をしている内に、私のHPが無くなりそうではあるけど。

 なんて事を吹き飛んで空を仰ぎながら考え、地面へと落ちる。どこからともなくベッドが軋む音が聴こえる。壊さないよう能力も遮断すべきか。

 

 別に死に戻りでも良いんだけどねー、とか考えながら立ち上がり、また《フレンジーボア》の蹴散らす土の数を数えようと振り返って────ガラスが砕けるような音がした。

 

 

 

「大丈夫ですか、お嬢さん?」

 

 

 

「お、おう……」

 

 凛々しい顔をわざと更に格好良くさせたかのような、キザな表情を浮かべた赤いバンダナを着けた男が、海賊刀を地面に振り下ろしたままの姿勢で、ポーズを決めている。

 

 そんな彼に、私が中途半端な返答しか言えなかったのは、悪くない筈だ。多分。

 そして、そんな私に対してそんな反応が返ってくるとは思ってなかったのか、そのままのポーズで固まる青年。

 

 

 

「……クライン、横取りはマナー違反だぞ」

 

 半分ぐらいフリーズしかけていた彼と私ではあったけど、運良く──というか、仕方なく? ──救済の手を差し伸べてくれたのが、少し離れたところから見守っていただけの、これまた青年だった。

 バンダナを着けていない方の青年は、先程助けてくれたキザっぽい青年よりかはまだ話が通じそうな雰囲気があった。線が細くて弱そうという言い方もできる。

 

 まぁ、そのキザな奴は、私と共にフリーズしてからその風貌を段々と情けないものへと変えていったので、『優しい人』という印象よりかは『イジられやすい人』というイメージが既に出来上がりつつあった。

 

「い、いやぁ、避けるのに苦労してたみたいだし、武器も持ってないしでよう? オレぁ完全な初心者かと……」

「あ〜……いや、まぁ、うん。助けてくれたのは、感謝する。助かったよ」

 

 そこまで事情を説明されるとなると、こちらとしても動かざるを得ない。

 この性別でこの口調、っていうのはあまり慣れてないけど……まぁ、それはその内慣れる。私が私に慣れたように、ね。

 

 

 

 と、そんな内心をおくびにも出さないつもりで話し掛けたつもりが、クラインと呼ばれたそのキザ男が、妙にキラキラと目を輝かせて話し掛けてきた。

 

 まぁ、その反応から察するに、私の事を知っているのだろう。

 詩菜、という私じゃなくて、【sina】の事だけど。

 

「な、なぁ! それよりアンタ、その……式、だよな?」

「ふふふ……ああ、ちょっと真似た」

「いやそれちょっとってレベルじゃねぇぜ……」

 

 書籍として出て、映画にもなって、それから十年ぐらい経っているのに、コアなファンがまだ居る。

 ま、私も一ファンとして、そういう人が居るのは嬉しいけどさ。

 

 残念ながら、今の私は初期装備なもんで、和服も浴衣も紬も、それらしいものは何一つ着けていない。

 とは言え、服装除く表面だけなら完璧に『それ』にした、という自負はあるもので、クルリと一周りしてみて自分でも確かめてみる。

 

 ま、長年付き合ってきた体格が急成長したような感覚の方がずっと強いのは、多分私だけだろう。

 キザ男はその私の顔だけを見て「おおー……」と呟いて感動をしている。

 

 

 

 そして、あの硬直を解いてくれた方の青年は、疑問気な顔で……今度はこっちがフリーズしてるのかな?

 

 

 

「な、なぁ、クライン。その人、有名人なのか?」

「……はぁ? おめぇ、《空の境界》を知らねぇのか?」

「あ、ああー……名前ぐらいなら……」

「まぁ、そんなものだろ。今となっちゃあ」

 

 彼の年齢については……まぁ、私と似たようにアバターを弄っているだろうから、見た目では予想が付かないけれど、言葉遣い辺りから察するに中高生辺りかな?

 それすらも演技って可能性がある訳だけど……幻想郷じゃあるまいし、そこまでやる奴は居ないだろう。多分。

 

「えぇ、だっておめぇ……」

「知らない奴に無理強いしてオススメすることはないだろ。オレだってそこまで真似をしているつもりもないし」

「あーまぁ、そうだけどよう……」

「……悪かったな、知らなくて」

 

 そう言って、ボリボリと頭を掻く青年。

 知らないから悪いとは、ここにいる二人は一つも言ってないのだけれど。

 

 

 

 まぁ、良いか。

 丁度良い友人、もとい手助けしてくれるカモが釣れた、とでも考えておこう。

 

 

 

「そう思うなら、色々引率(レクチャー)してくれないか? 見ての通り、完全初心者なんだ」

「……初心者は、あんな真似しないよ」

 

 飲むだろうと意識もせずに思っていた条件提示には何も答えず、青年はまっすぐにこちらを見ながら言ってきた。

 へぇ……と少し関心しながら腕を組んでみる。

 

 ふむ、『あんな真似』とは、はて、何の事だろう?

 とかまぁ、脳内でしらばっくれても意味が無い。

 なので、

 

「うん? 『あんな事』?」

「あんな……限界ギリギリまで見切ったりはしないよ」

 

 我ながらあくどい顔をしているな、とかある意味いつもの事を思いながら問い掛けてみれば、逆に相手が息を吐いて、苦笑いしながらそう言ってきた。

 

 青年の方が張り合ってこない、というか、降りてしまった、というか……う〜ん、向こうなら相手もノリノリで乗ってきてくれるんだけどなー。

 さっき関心したけど、やっぱナシかな。

 

「引率ならさっきもしてたしな。引き受けるよ」

「おう、オレも教えてやるぜ!」

「クラインも教えられる立場だろ……」

「ま、お手柔らかに頼む」

「……そういえば、武器は?」

「買ってない」

「……」

「……オイ、マジかよ……」

 

 

 

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