書け次第投稿してるからか、当初の予定と既に若干違ってきている件()
突然鐘のような音が鳴り響き、クラインとキリトの身体を青い輝きが包み込み始めた。
そして気付けば私もそのブルーの光の柱に包まれていた。
柱の外の風景が、少しずつ薄れていくのを見る限り、何かしらの移動手段なのだろう、とぼんやりと考えてしまう。
さっきの鐘の音も、もしかすると転移時に聴く効果音なのかもしれない。
……まぁ、青い壁の向こうに居るキリトやクラインの表情を見る限り、そんな事実はないような気もしていた。
事実、ベータテスターでも────後に《ビーター》と呼ばれた彼としても、想定外だったらしい。
青い輝きがようやく収まり、まぶしい光によって遮られていた視界へ、新たに映ったのは夕暮れ時の草原などではなく、ゲームのスタート地点である、《はじまりの街》の広場だった。
「…………」
「…………」
一時的にパーティを組んでいる二人は、転移時に少し驚きの声を上げた程度で、今のこの状況に追い付けず、呆然としているようだ。
まぁ、私としても、ゲームのチュートリアルイベント・オープニングイベントにしては些かやり過ぎというか、面白すぎるだろう、とは思っていた。
ゲームのスタート地点である広場には、一万人ぐらい居るんじゃなかろうか、というぐらいのゲームのキャラクターが居た。
その人々も私達と同じように転移してきたらしく、どのアバターも突然の出来事に戸惑いを隠せていなかった。
どれもがイケメンだったり、美人だったりするアバターが、右往左往としているのは何ともまぁ、という感じではあったけど。
数秒間、自分が居る場所についてを確認し、周囲に同じような人物がいることに気付き、パーティメンバーや近くの人にどうなっているのかの質問をする人や、とにかく周囲を見渡して状況を確認しようと努めている人々。
────人間はいつの時代も変わらんな。
と、彼らを見て少し冷静になったのは、覚えている。
まぁ、キリトやクラインのように、私も混乱していたのは、間違いないだろうから。
周囲に対する確認の言葉のボリュームが、少しずつ大きくなっていく。
言葉はそのうち、怒号や叫びに変わり、現状への確認から、ゲーム状況への不満へ変わっていく。
喚き声が一定のレベルに達した所で、一つだけ、その他の人々とは色が違う大声が放たれた。
「あっ……上を見ろ!!」
その声に瞬時に反応して、両隣に居るパーティが瞬時に上を見た。
私も遅れて一層の天井部分を見上げてみれば、赤い市松模様が天井を覆っていく所だった。
【Warning】と、【System Announcement】の二つのパターン。
隣で、キリトが少し身体の力を抜いたのが分かった。運営のアナウンスが入るとでも思ったのだろう。
しかし、天井部分から一つの真紅の液体がしたたり、傀儡へと姿を変えていくと、広場の空気は一気に凍りついていった。
イベントにしては、少々気味が悪すぎた。
悪趣味、とも言えそうだった。出来すぎている、とも。
まぁ、少々説明を省いて、結論だけを先に言ってしまえば、ただ一人のゲームマスターが言っている事はある意味、ふつうのコトだった。
『もう一つの現実と言うべきこの世界で、死んだのなら、死にたまえ』と。
「……馬鹿馬鹿しい」
「……つまらない世界になったもんだ」
「シナ……?」
「いんや、なんでもない」
キリトがそう呟いた瞬間に、つい私も本音がポロリと出てしまった。
私の本音は具体的には聞き取れなかったらしく、地面に座り込んでいたクラインが私達の方を見て、『おい、どうするよ?』とでも言うかのような視線を向けてくる。
まぁ、私としても些か面白くない展開になってきていたので、そんな質問目線は無視してしまったけれど。
『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントを用意してある。確認してくれ給え』
その言葉の文章が終わると同時に、キリトがアクションを起こしてアイテムストレージを開いている。
反対に居るクラインも同じような感じで、小さな四角い鏡────《手鏡》を取り出している。
二人の間に居る私と言えば、この後の展開が薄っすらと予想出来てしまい、少しばかりうんざりしていた。
何もここまでやらなくとも、と言うか、テンプレにしても本当にやるかね、と言うか。
あ、これどっかで読んだな、と言うか。
見たのは確か『彼』のパソコンだったか。色々ありすぎてどれだったか思い出せないけど。
まぁ、ここまで来て取り出さないのもおかしいだろうと、半ばヤケクソで慣れていない右手の指を二本揃えて真下に降ろして振った。
アイテム欄の、最も新しく入手したであろう一番上にあるアイテムを選択し、その《手鏡》を取り出した。
覗き込むまでもなく、映っているのは、私が苦労して作った、『両儀 式』のアバター。
そして、周りのアバターが白い光に包まれ、私もその光に巻き込まれ、数秒視界が真っ白に染まり……元のままの風景が戻ってきた。
いや、私風に言うなら、変化した時のように視線が低くなって、『いつもの風景になった』、と言うべきなんだろう。
手鏡を覗き込めば、式じゃない────詩菜が映っている。
「お前……誰?」
「おい……誰だよおめぇ」
視界を上げれば、人相が完全に変わってしまったパーティメンバーが居る。
二人共、身長はほとんど変わっていない様子だけど、呆然と相手を見てしまうのも仕方ないと思うほどに、その『仮想世界のアバター』と、『現実世界の容姿』は違っていた。
「お前がクラインか!? ………………変わってない!?」
「おめぇがキリトか!? ………………おめぇ変わらねぇな!?」
「うるさいな。ちょっと真似た、って言ったじゃん」
「いや、そういう意味だって誰が分かるかよおめぇ……」
志鳴徒や『彼』ぐらいの高さに設定していた身長も、肉体年齢を少し老けさせたのも、すべて戻ってしまった。
私が数時間掛けてデザインした、憧れであったあの容姿には、おそらく戻れないだろう。
茅場晶彦とやらは、絶対にそうしないだろう。──彼の事はつい先程知ったけれど──あの演説、もといチュートリアル説明からは、彼の信念が伺える。
如何に感情を圧し殺して説明しようとしても、私の長年培ってきた感覚と勘が、囁いてくる。
『彼は、子供だ』
若干の私怨も混じって、上空に浮かぶ傀儡を睨む私とは打って変わって、
「……シナって一体何歳だよアレ?」
「さぁ……あの見た目だと小学生か中学生じゃ……」
「……SAOって年齢制限あったよな……?」
「確か13歳以上推奨……」
「……なんつーか、貫禄? あるよな……」
「見た目が……年下だろうけど、年下とは思えない」
「すっげえ分かる。めっちゃ落ち着いてるしな」
とか、容姿が現実世界に変化したことも忘れて、私について隠れて話し始めたパーティメンバーが居た。
話す内容それで良いのか君達。もっと、こう、どうやって現実の肉体を再現したのかとか、話すこと、あるだろ。良いのかそれで君達。
まぁ、そんな彼らも、子供の彼の演説が再開すると、やはりこの世界が気になるらしく、すぐさま口を閉じて、厳しい視線を傀儡へと向けた。
『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。────』
彼の、少し感情を滲ませた演説を聴いていく内に、やはり、と私は勘を確信に変える。
子供の時に夢見たものを、現実に持ってこようとする、半ば妖怪めいた、狂人の類。
……言うなれば、私達の同類、だ。
『────健闘を祈る』
最後の一言が消え、傀儡は吸収されるかのように天井へと消えていき始めた。
説明は完全に終えた、とばかりにそのフードは、とぷん、と赤く染まった警告文に沈み、そして市松模様も出現した時と同じように消えていった。
厳かな雰囲気は消え去り、私がこの世界にログインした時に流れていた市街地のBGM流れ始め、本来の空気感が戻ってきた。
まぁ……プレイヤーの方は、完全に発狂し始めたけど。
悲鳴。怒号。絶叫。罵声。懇願。咆哮。
理解不能を突き詰め、押し付け、絶望させるとこうなるのか……と妖怪が恍惚としそうな地獄絵図に、少し笑ってしまう。
これが私に向けられたのなら、妖怪として完全覚醒出来そうなもんだけどね……と、妖怪の私が囁いているけど、まぁ、そこまで堕ちる訳にもいかない。
元の容姿に戻ってしまった私が腕を組みながら周囲を観察していた所へ、肩にポン、と手を置かれて引っ張られる。
手の先を見れば、キリトが私とクラインを引っ張っていこうとしている。
「クライン、シナ……ちょっと、来てくれ」
周囲の人々とは全然違った──まぁ、それでも焦りの感情はまだ視えたけど──冷静さを持った、私より少し身長が高く、やはり童顔で先の細い顔をしていた彼は、人の輪を抜けて、何処かへ私達を連れて行こうとしていた。
クラインの方は、未だショックが抜けきっていないのか、未だに呆然としたままだ。唯々諾々と腕を引っ張られて、広場から続いている街路の一つに入り、キリトが止まるまでただ腕を引っ張られていくだけだった。
リアルに変化した容姿から察するに、成人した男性だろうに……いや、大人だから余計にショックが大きかったのかな?
まぁ、対する私は、もう口調も詩菜のに戻してしまったし、世界はゲームで無くなったし、もう自然体で良いか、と考えている所だったけど。
脳を焼き切られても生きていける自信があるのは、精々私のような人外ぐらいだろう。
「……クライン、シナ。よく聞いてくれ。俺はすぐにこの街を出て、次の村に向かう。お前たちも一緒に来てくれ」
ログアウト不可能のデスゲーム、生き残るためには強くならねばならない上に、一万人との経験値の奪い合いを制さなければならない。
ベータテスターである彼の先導なら、少人数で効率よく序盤を進めていくことが可能だ。
誰よりも早く、この世界の現実を受け入れて、行動を素早く起こし、そして、現実として認識して動き始めている。
彼は、私達二人を守りつつ、三人でクリアを目指そうと、言っている。
それが引率する身として、どれほど辛いかも重々理解して尚、友人を守り通すからと、私達を誘っている。
しかしクラインは、その言葉に対して張り詰めた表情で、その言葉に首を振らなかった。
「おりゃ、ダチを……置いて、いけねぇ」
「…………」
キリトも、その言葉に首を振らなかった。
クラインだけ、私だけ、というのなら兎も角、私とクラインや、クラインの仲間達を含めてクリアを目指すのは、とてもキツイだろう。
そして、もし、誰かが死んだ時に、その責任を引率者として引き受けれるか。
どう見ても、そんな重責に耐えられそうには、無かった。
クラインもそれを察したのか、少し引き攣った笑みを浮かべ、心配すんな! と笑ってみせた。
「気にすんな! おめぇにこれ以上世話んなるわけにゃいかねえしな」
「……そっか……シナは、どうする?」
「ん〜……」
私を見る彼の目には、覚悟があった。
妖怪に殺されそうになった時、人間が最期のあがきの時に魅せてくれるような、生への執着と、一人だけなら背負ってみせる、とも言ってきそうな、決意の光。
まぁ、有り体に言えば、格好良い姿だった。
だからと言って、私は私のスタンスを崩そうとも思わない。
彼には、まだ、それだけの価値を感じなかった。
「私はまだしばらく街に居ようかなぁ。RPGとか序盤から調べ尽くしてから進めるタイプだし」
「……シナ、おめぇ口調変わってねえ?」
「いや、もうロールプレイとか面倒くさくてやってられないし」
「うわぁ……」
何故か引かれた。
ま、何にせよ、今のところ、キリトに着いていくつもりはない。
「私は私で何とかするよ。色々と試したい事があるし」
「試したい事?」
────ここで『友人』になら言っても良いか、とか考えてしまった事が、後に私の二つ名を決定付けてしまった。
「んー、妖怪の力?」
「「はあ?」」
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そうして、私達三人はパーティを解散した。
クラインは、キリトのリアルの顔をカワイイと明るい雰囲気で冗談を叫んで見送り……私には、「妖怪だろうがなんだろうが、何かあったら頼れよ! おりゃ何処でもすっ飛んでいくからよ!」と言って、広場へと走って戻っていった。
キリトは、クラインもその野武士ヅラが似合ってるよ、と叫びあって別れた。
私に対しては、「君が望むなら、いつでも助けに戻る。無理しなくても良いから、いつでも言ってくれ」と言って、次の村へと走っていった。
まだ私が見た目通りの人だと思われているからか、二人共とても心配そうな雰囲気があったけれど、──けどまぁ、もし仮に見た目通りの年齢だとして、放っていくのか君達、と考えなくもないけど──それでも三人は、ここで別れた。
キリトは一人クリアを目指して、クラインは友人を守り切るために。
「さて……と」
私は現実世界の『彼』と直接話して、スキマにナーヴギアごと移動するとしますか。
後は家族にちょいとスキマに篭もらないといけなくなったと説明しないと。うーん、色々やらないとなぁ。
この現実と何ら変わらなくなったゲームじゃない世界を下りることは、いつでも可能だけれど、とりあえずは続けてみよう。
そう、二人を見て思った。