今日中に何とか更新しようかな、とか思ってたら感想来るんだもん。書くしか無いよね!
ふと、そんな物思いから現実に帰ってきてみれば、通路の奥の方に光が見える。
二年前とさほど変わらないように見える彼もその光を確認したのか、ほっと息を吐いたのが聞こえる。
まぁ、過去の記憶を振り返った所で、戻ってくる場所は仮想空間内で異世界だし、隣の奴はちょいちょい過去から変わったと言えば変わったし、変わらないと言えば変わってないし……まぁ、どちらにせよ、どうでもいいか。
一瞬だけ歩く速度が上がったキリトは、チラリと私を見て、結局変わらない速度で歩き続けた。
少年らしい所が随所にある彼は、多分、外の光を見て走って外に出たいのだろうと思う。
「走らないの?」
「……ノーコメント」
「あらそう」
ニヤニヤしながらそう問い掛けてみれば、バツの悪そうな顔をしてくる。
別に私の事を気にせず走れば良いのにねぇ? どうせ追い抜いて嘲笑うだけなのに。
通路を出ても、やはりそこは安全な場所では決して無い。
家に帰るまでが遠足、もとい、ホームに帰るまでが冒険、とか何とか。
魔法の森ほどではないにせよ、日光を遮るほどの鬱蒼とした森の中に、小さな一本道が、何処までも続いている。もうすぐ夕焼けが見えるほどの時間帯。
やはりダンジョン内とは空気が違うように感じるのか、キリトが右隣で立ち止まり、急に深呼吸をし始めた。つられて私も足を止めてしまう。
別に深呼吸をした所で、私が感じるのはスキマ内の変わらない空気だから、私は深呼吸をしないけどね。
彼は、深く息を吸い、ゆっくりと息を吐き、
「─―――で? 何処までついてくる気なんだ?」
腰に両手を当て、そう上から目線で尋ねてきた。
まぁ、身長差が歴然とした差であるから、保護者というか、子供扱いされているかのような状況になるのは仕方がないとして。
「キリトの部屋までで良いよ」
「やめろ」
「ってのは冗談で、七十四層の《主街区》で良いよ」
「……はいはいお嬢様」
「うむ、よきにはからえ」
「やれやれ……」
自分のペースに引き込んで、私の調子を狂わそうなんて、千四百年早い。
ケラケラと笑いながら、私が小路へと進み始めれば、後を追うようにキリトも歩き始めた。
すぐに追い付かれ、木漏れ日が差す小道を一緒に歩き続ける。
……こうして隣同士で、誰かと歩くのは、果たしていつ以来か。
「シナは……相変わらずか?」
「ん、何の話?」
そんな物思いに耽っていると、やっぱり飛んでくる声。
私がこう、何か考え事をしている時に限って、どうして皆声を掛けてくるのかしらねぇ……? いや、別に良いけどさ……大抵どうでもいい考え事ばっかだし。
そんな事を考え直しつつ、聞き返しながら隣の彼を見上げてみる。
今度は、視線が合わなかった。
第一層からのフレンドは、どんよりと、重いものを担いでいるかのような、苦しそうな顔でまっすぐ正面を見続けている。
「……喧嘩とか、色々」
「ああ、殺しに来る奴? んー、これまた止まらないんだよねぇ」
そう普通に言い返してみれば、今度は唇を噛み締め始めた。
なんでこの子は私の事を担おうとしているんだろうね?
プレイヤーの中でも特に幼い容姿の私は、ゲーム開始から既に話題になりつつあった。
それも、どこぞのキャラクターに似ていて、それでいて戦闘にも物怖じしないとなれば、当然のように囲もうとする連中は出てくる。
まぁ、近寄ってくる人は大抵私の言動や行動に、勝手に失望しては去っていくのがほとんどだったけれど、数ヶ月も経てばゲームに心を侵された人物も出てくる訳で。
普通に襲われたから普通に殺し返した。
別に今更、人を殺したことで罪悪感があるかと訊かれれば、無いとしか答えようがない。
数千年妖怪でやってきた身だ。食物に対する感謝ならともかく、喰えもしない仮想肉体に対して感謝も罪悪感も忌避感も、何一つとしてない。
そういう態度で、そういう信念を、《自分の芯》を、第一層から持ち続けて、寧ろ公言し、そして実践してみれば、─―――出るわ出るわ謎の偽善者が。
「ここ一ヶ月で、《シナの討伐》を掲げてやってきたのは2グループかな。
「……よく生きてるな」
「まぁ、慣れてるし、慣れたし」
いつの間にか、私は『クリアを阻む狂人』という扱いになっていた。
まぁ、クリアを最重要視していないのは事実ではあるけど、普通に仮想空間内で生活して、襲われたら返り討ちにしているだけなのに、何故それだけで狂人呼ばわりされないといけないのかと。
それなら殺人嗜好のあの集団を狂人集団だと言うべきだと思う。少なくとも私は殺人鬼ではないし、殺人が好きな訳ではない。
確かにSAO内で、非常に気に食わない人を殺した事も何度かあるけどさ。
ていうかそもそも、狂『人』じゃねーし。
そんな訳で親しい友人、もとい、連絡が常時取れる、及び、険悪なムードにならない相手というのはかなり限られてくるもので、隣に居るキリトもその一人だ。
「『殺しに来るなら殺される覚悟して来てよね』って私毎回言ってるんだけどなぁ……」
「……」
「まぁ、人間、自分と異なるものは排除したくなっちゃうもんだよね」
「……《妖怪》、本当にメンタルが凄いと思うよ……」
「伊達に数千年生きてないし」
SAOの良い所は、本当の事を言っても『そういうプレイスタイル』だと認識してくれることだと思う。
まぁ、そのプレイスタイルが身に付きすぎる人が後を絶たないせいで、私も襲われているんだろうけどさ。偽善も正義の内、と言うか何と言うか。
ん。
「……!」
右手を挙げて、キリトを止める。
即座に考えを切り替えたのか、暗い表情を変えて後ろに担いだ剣へ手が伸びた事を確認し、《索敵スキル》を走らせる。それとほぼ同時に、高い音が一瞬聴こえた。
音源の方向を探れば、恐らく私が感じた違和感の元である敵モンスターを、木の枝影に隠れているのを見付けた。
隣で息を詰める気配がする。
レアモンスターの《ラグー・ラビット》だ。
「……」
会話を介さず、隣と視線が合う。
恐らく、この距離で気付かれていないのは奇跡。
ハンドサインとアイコンタクトで作戦をさっと組み立て、彼は腰のベルトから投擲用ピックそっと抜き、私もゆっくりと短剣を抜く。
私の準備が整ったのを確認し、キリトが改めて投擲用ピックを構え、
そして、投げた。
梢の影に投剣が隠れたのを確認し、即座に短剣を構えてダッシュを始める。
もし、彼の先制攻撃が外れたなら、私の極振りした敏捷力でラビットを追い回し、敵を先程の作戦で決めておいた場所に誘導する。
そして私が合図を出せば、キリトが予め構えておいたソードスキルで、逃げ惑うラビットを死角から、的確に貫く手筈だった。
まぁ、狙い違わず、彼のピックはラビットの急所、頭を貫通してHPを全損させたので、私の行動は何も意味を生まなかった訳だけど。
「よしっ!」
「……おめでと」
急停止しながら、ラビットがポリゴンになっていくのを見る。
そして振り返れば、そんな事はどうでもいいとばかりに自身のアイテムリストを確認してガッツポーズをしている奴。
……まぁ、分からんでもないけどね。ゲームにおいてレアアイテムが手に入ったかどうかの確認するまでの手に汗握る僅かな時間が楽しい、っていうのはさ。
若干呆れつつ、先程の小道に戻ってきてみれば、さっきとは打って変わって嬉しそうな表情で喋りかけてくる。
どうやらその様子だと、お目当てのS級食材を手に入れられたようである。
「悪いな、S級食材頂いちゃって」
「良いよ別に。二、三個持ってるし」
「……は?」
「作戦通り、追い掛けてとどめを刺す戦法で、既に何個か取ってるし」
「………………相変わらずだな、シナ……」
「失礼な」
それこそ私の台詞である。
で、まぁ。
「どうすんの?」
「……何を?」
「いやさ、そんなレアアイテムを持ってるなら、転移クリスタル使ってさっさと帰りたいんじゃないかなぁ、って」
「……あー、まぁ……それもそうだけど」
まぁ、私や『彼』とはまた違って、捩じ曲がった根性を持ってない彼がどんな言葉を言うか、なんて、分かってはいたんだけど。
照れ臭そうに、頬を指で掻きながら、勇者はそう言ってのけた。
「お嬢様を一人で帰す訳にはいかないだろ?」
「……いつか刺されるよ? 夜道に、後ろから、女性に」
「……んな馬鹿な」
まぁ、刺すのは私じゃないから、別にどうでもいいけどさ。
個人的な考えだけど、勇者と英雄ってだいぶ違うんと思うんだよね。
英雄は虐殺しつくして武勲を立てた者だと思うし、勇者は情と蛮勇を結果として残せた者だと思う。
キリトはそういう意味じゃあ……多分勇者なんだよなぁ。大丈夫かしら。
ん、人の心配する身分でもないか。ヒトだし。
まぁでも、こういう所が、私の甘い所でもあると思うけどね。
「ほれ」
「ん、って、《転移結晶》?」
「転移。アルゲード」
もう一個取り出して、そう宣言すれば青い結晶が砕け、自分の体が青い光に包まれていく。いつぞやのように。
光の向こう側で、一瞬唖然としつつ、慌てて青い結晶を指しながら必死に叫んでいるキリトをニヤニヤと見ながら、一足先に帰るとする。
転移結晶はお駄賃として受け取ってくれたまえ。はっはっは。
まぁ、まさか私のホームタウンとキリトのホームタウンが被ってるとは思わなかったけどさ。