SAO-U   作:楠乃

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 小説の単行本しかなく、アニメも見てないので、多少の誤差やミスは許してヒヤシンス。






1−6 応援

 

 

 

 

「折角《転移結晶》まで貸したのに、同じホームとか、キリト君ないわー」

「いや、その言い草は酷いんじゃないか……?」

 

 全百層あるアインクラッドのちょうど中間にある《アルゲード》は、現在ある内で最大級の都市だ。

 一層にあるはじまりの街のような大きな建築物はないが、それ以上に小さい建物や複雑な路地が入り組んでおり、迷うのも当然と言えるぐらいの煩雑さがある。

 

 そのアルゲードの広場、転移門の前で、またキリトと再会するとか。

 格好つけた私の身にもなって欲しい。無駄……いや、無駄なら良いか。無駄なんだし。

 

 

 

 まぁ、何はともあれ、SAO内部では最も付き合いの長い友人であるキリトと、結局の所住んでいる階層が同じ場所ということは、つまり。

 

「これじゃあやっぱりキリトの部屋までついていかないとダメかなぁ」

「やめろって……それに、一度換金とか買い付けする予定だし」

「あらそう。じゃあそこまでご一緒しましょうかね」

「……」

 

 別に私としても今日からは少し休みにしようとしていた所なので、あまりにも嵩張っているドロップアイテムの整理をしたい所ではあった。

 

 

 

 妖怪としての、現実世界における脳の書き換えを実行し続ける鍛錬は、今も続けている。

 

 私の原点とも言える妖怪の血の所為か、それとも、寝たきりという生活を強いられているからか。

 反射神経、反応速度は鍛錬の度に恐ろしい勢いで研ぎ澄まされていき、そして戦闘・鍛錬がなくなれば、時間と共に神経は勢い良く衰えていくようになっていた。

 

 そんな極端な急成長と急退化の繰り返しが面白いものだから、私なりの攻略をソロで続けている内に、いつの間にかゲームクリア至上主義ではないのに最前線で活躍しているのが、今の私である。

 

 長時間相手の行動を見切り続ければ反射神経と共に、感覚が一つ、一段階、更に上の層へとギアが上がり続けていく。

 その歯車がどこまであるのかは分からない────けれどまぁ、感覚的には現実での最高速のギアにはまだ辿り着けていない気はする。

 

 今まで更新した速度感覚の一つ上、あるいは二つ上に辿り着いたら、不眠不休で十日前後ほどダンジョンに篭っていた生活を止めて、それからまた数日ほど何もしない休息日を設けて、感覚のレベルが初期レベルの1に戻ったら、また鍛錬を再開する。

 

 そういう生活────もとい、攻略法を続けている。

 一番初めに、キリトとクラインに言ってしまった単語が何処かから漏れ、そして極端な戦闘スタイルから、いつの間にか《妖怪》とか言う渾名まで出来てしまった。

 ……まぁ、事実だし、それとはまた別の要因で呼ばれていたのもあるんだけどさ。

 

 

 

 そんな訳で、容姿で注目されて、プレイヤーキルにてまた目立ってしまって、最前線もとい、戦闘スタイルでも何やら噂が立ってしまって。

 

 そりゃあ、プレイヤーが多く集まる五十層。私は非常に良く避けられている。

 誰が見ても、私の周囲数メートルには近寄ろうとしない。

 一番近い人物も合わせて、目立ってしまうぐらいには、空白が私の周囲にはあった。

 

 

 

 で、「だから何?」って話なんだけど。

 

 まぁ、私の隣に居ることで多少人目を浴びているキリトには、少し居心地が悪いかもしれない。

 

 そういう訳で。

 

「それで、何処の店? ここらと言えば、エギルの所?」

「……本当、メンタル凄いよ。シナ」

「伊達に恨まれ慣れちゃいないよ」

 

 私がそう返すと、軽い溜息を吐いて彼は広場から西に向けて歩き出した。

 

 NPCを含んだ中央広場は文字通り人混み状態で、それこそ真っ直ぐ歩くなんてことは出来ず、人と人との間を避けながら通らなければならない────私を除いて。

 キリトを追うように私も動き出すと、それに遅れて私の周囲の空間も合わせて動き出す。NPC以外のプレイヤーがほとんど避けているというのに、それでも一目で分かる程度には避けられている。

 

 中央広場から続く大きな通りに入ってしまえば、ある程度プレイヤーの数は少なくなり、人の居ない空間はある程度輪郭を失うとはいえ、それでもその範囲が分かる程には六千人の内の何割何分何厘かが同じ道を歩いている訳であって。

 

 そう考えると……存外この五十層には人が集まっているな、という感覚になるから不思議なものだ。

 

 

 

 そんな事を連々と考えている内に、キリトがとある店へと入っていく。

 

 入れ違いに槍使いが店から出ていき、眼の前に居る私の顔を見てギョッとした表情を浮かべ、逃げるように去っていく。

 まぁ、叫び声を挙げないよう口を抑えていたのは褒めてやろう。意味は無いけど。

 

「よぉ、キリト。それにシナも」

「やっほエギル。鑑定と換金、よろしく」

「おめえ、いつも量がえげつないんだからよ。キリトの後で良いか?」

「どーぞどーぞ。どうせしばらく休みにするし」

 

 まぁ、何を隠そう、私もエギルのお得意様なのだ。

 ……ますますエギルがこの店を構えてから、キリトと一切出逢わなかったのが謎である。

 

 篭りに篭った約十日の内に手に入れたアイテムは、ここでほぼ全て売り払っている。

 

 私の戦闘スタイルは、敏捷に極振りした短剣・投剣での回避系タンクだ。

 防具は防御力度外視のおしゃれ着浴衣だし、トドメ用の短剣と、それと投擲用の武器を大量にストックするだけで良い。

 

 短剣だけはオーダーメイド品だけど、それ以外は別に量産品で別に構わない。

 ダメージ喰らわなければ、別に消耗するものもあまりない訳だし。

 

 そういった訳で、大体アイテムをほぼ全てエギルに渡して、後で金額を受け取るというやり方がいつもの鑑定・換金のやり方だった。

 

 

 

 後回し、ということで久々にこの店の品揃えでも確認するかなー、とぶらつき始めた所で、

 

 店の扉が開いた。

 

 

 

「────げ」

 

 店内に入ってきた紅白の騎士服を着た女性剣士は、私の顔を見るなり、その端正な顔を歪ませて似合わない『か行発音による独自の健康法』を行い始めた。

 

 ……まぁ、《Knights of the Blood(血盟騎士団)》と簡単な契約を結んでいる私とは、幾ら副団長とはいえ、出逢いたくはないという所だろう。

 なんか勝手にライバル認定されちゃってるみたいだしねぇ。ふふ。

 

 そんな私の含み笑いが伝わってしまったのか、苦々しげな顔をしていたその女性はだんだんと好戦的な笑みへと変わっていった。

 

 好戦的というか……弱みを握らせまいと必死に強気に見せている感じの威嚇、というか、何というか。

 

「あら、《妖怪》さんじゃない。こんな所で奇遇ね」

「やぁ、KoB副団長《閃光》さん。こんな所とは酷い。一応私の行き付けなんだけどなぁ」

「ふぅん?」

 

 奇遇も何も、追っ掛けてきたんだろうに、と思わなくもないけど……それを指摘するのは面白くないので何も言わず、ただ含み笑いは止めて普通に笑いかけることにする。

 

 

 

 誰かさんと長年付き合って、ようやく気付いた、私のとある癖だ。

 

 ────私は、特に心根が強い相手だと、幾ら嫌われても苦手になれない、らしい。

 

 

 

「シェフ到着」

「相も変わらずの仲の悪さだなお二人さん」

「こんばんわキリト君。お久しぶりですエギルさん」

 

 ニヤニヤとする私の横を振り切るようにアスナが通り過ぎ、カウンターに居る二人へと近付いていく。

 まぁ、私としては彼女個人は気に入っているし、そんなに邪険にするつもりもない。恋する少女は端から見ている分には面白いしね。

 

 

 

 邪魔なのは、寧ろ血盟騎士団というクランそのもの、といった所だ。

 

 店の入口から感じる視線に振り向けば、副団長の護衛二人が私をジッと睨んでいる。

 長髪の方はアスナの方が気になるらしく、カウンターの方へもチラチラと視線を飛ばしているが、バンダナを巻いている方は今にも腰の剣を抜こうとしている。

 私が何か行動を起こせば、躊躇なく私に斬り掛かるつもりなのだろう。それぐらいには殺意が感じられる。

 

 

 

 とは言え、私から何かをするつもりもない。

 私から言う事は一つだけだ。

 

妖怪()とKoBは『不可侵』って決まっていたかと思うんだけど?」

「……ちっ」

 

 基本的に私は、攻撃されたら攻撃し返すし、このゲームから排除するつもりなら排除し返す、というスタンスでやっている。

 その際に、まぁ、結構な人数を殺すこともあり、攻略組からは基本的に恨まれている訳だ。

 

 アスナは、まぁ、私が気に入っているという事もあり、彼女の前で本性────もとい、いつもの私を見せたことがないというのもあり、彼女自身とはまだそれほど険悪な関係にはなっていない。それでも話は絶対何処かで聴いているとは思うけど。

 

 けれども、眼の前に居る二人はおそらく違うのだろう。

 仲間を殺されたか、それとも私が躊躇なく人を殺す事に対する偽善心か何かか。

 

 まぁ、別にどちらでもいいけど。

 

 私の言葉に舌打ちをした方は、瞬時に武器を抜けるような体勢から自然体へと戻った────右手は剣の柄を握り締めたままだったけれど。

 そして視線は相も変わらず、憎々しげに私を睨んでいた。

 ……うーん、少なくとも見覚えのない顔なんだけど。

 

 

 

 そんな感じで、カウンターに居る三人には知られない冷戦もどきを繰り広げていた間に、若い少年少女達が何やら興奮した声でキャッキャと騒いでいるのが聴こえてくる。

 

「は・ん・ぶ・ん!!」

 

 

 

 ……その少年が持っている《ラグー・ラビットの肉》の、三倍の個数は私も持っている、と掻き回してあげても良いんだけどねぇ?

 まぁ、後ろの人達がウザいってのもあるけど……ここは手出しせず、陰ながらに応援してあげよう。青春せよ少年少女達。

 

 

 

 

 


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