書き方が変わっている? そりゃあ二年越しに書いたからな!()
商品棚によりかかりながらニヤニヤと少年少女を見ている私。
そしてそれをキツく睨み続けているバンダナを巻いた青年。
その青年と私を無視して、何やら黒の剣士を睨む細顔の男。
そんなことは我関せずとばかりに話し合う少年少女と、それを呆然と見守る巨漢の男性。
……何だこの混沌とした場は。
そう思いながらも、その光景をのんびりと楽しんでいるのだから、私も大概ロクでなしという奴だろう。
まぁ、その辺りについてはだいぶ昔に吹っ切った。既にどうでもいい。
「────今回だけ、食材に免じてわたしの部屋を提供してあげなくもないけど」
そうしている内に、視線の先で中々にとんでもなく、度胸のある言葉をサラリと言い切っている。
いやぁ、青春してるなー。
羨ましいとは思わんが、傍から見ているだけなら非常に面白いのが思春期の子供たちだな。ガキは嫌いだけど。
少女がそう宣言した時点で、少年が持っている《ラグー・ラビットの肉》の行方は決定してしまったらしく、キリトから振り返って私達の方へ向き直る副団長殿。
まぁ、私の顔が視界に入った途端、一瞬だけフリーズしたのは見逃してやろう。少し頬を赤らめたのが見れたからな。ふははは。
「……こほん。今日はここから直接《セルムブルグ》まで転移するから、護衛はもういいです。お疲れ様」
商品にダメージを与えない範囲で商品棚によりかかっている私を無視して、入り口を固めている護衛の二人にアスナはそう声をかけた。
途端にその護衛の二人は表情を改めた。どう見ても怒りの表情で、片方は恐らくアスナを通り越してキリトに対する不信感と怒り。
もう片方は多分私の目の前でそう言い切ってしまう、無防備すぎる副団長殿と、私への敵意の裏返しだろう。多分。
どうでもいけど。
「何をいきなり!? 《妖怪》の前でそんな事を言ってはなりません!!」
「そもそも、こんなスラムに足をお運びになるだけに留まらず、素性の知れぬ奴をご自宅に伴うなどと、とんでもない事です!」
おーおー、吠えなさる。
別に、あくまでも物理的な『不可侵』であって、私とKoBは互いに攻撃し合う、獲物を横取りする、間接的に相手を攻撃する指示を出すなどがアウトなだけであって、別に口撃や掲示板にアレコレ書かれたり悪評を立てられたりしようが、実害がなければ別にどうだって良い。
まぁ、そもそもあの子供の団長さんが半分以上勝手に決めた条約らしいし、そもそも私だって攻撃さえされなければ基本的な無害なつもりだし、団員を抑えるのが目的の条約なんだろうとは思う。
過去に何度か起きた条約破棄、──というか協定違反というか、──私がKoBの団員を殺害したのも、ほぼほぼ向こうから手を出してきたのが原因で、締結する前なら兎も角、こっちはキチンと守っている筈なんだけどねぇ。
バンダナの青年が持つ、私に対する敵意の強さを見る限り、多分『不可侵』が締結した後で身内がやられたんじゃないかな、と察することは出来るけれど……まぁ、彼の顔には一切見覚えがないので、どうしようもない。
例え覚えていても何もしないけどさ。
……さて、そんなどうでもいいことは置いといて。
KoBに対しては義理も友情もなく、ただ線引がされている状態だけれど、友人に対してはだけは特に私は寛容だ。寛容になっているつもりだ。
「私はエギルの店に用があるんでね。副団長殿が自宅まで逃げれるよう、私を監視していたらどうだい?」
「シナ……」
敵対する気ゼロなので、むしろ口添えしているというのに……。
何故か私を庇おうとしてアスナの隣まで来るのが黒の剣士、キリトくんである。
やれやれだわ。
いや、私は別にどうでもいいから、そっちの嫁(仮)の誘いに乗れよヘタレ。
そもそも、素性の知れぬ奴とか言われてるんだし、そっちに反応しなさいな。
そんな反応するからアスナとかから勝手に私がライバル認定されるんだからな?
……と、まぁ、色々と言いたい事はたくさんあったけど、面倒になってきたのでさっさとエギルの元へと向かって商談を始めるとしよう。
一応念の為、《インスタント・メッセージ》をキリト宛に、『楽しんでこい』と片手間で打って送っておく。
恋愛沙汰を引っ掻き回すつもりはないが、巻き込まれるならそれなりに対応しなければならない。それもその相手が二人共気に入ってる場合は、下手をすれば修羅場どころではなく地獄の直行便だ。
「馬に蹴られて死ぬつもりはない。けど、くっそめんどくさい……」
「……S級食材……」
「エギル……」
後ろで少年少女の話し声が聞こえてくるけど、とりあえず今は無視だ。
エギルが未だに諦めきれないのか、私をスルーしているけれど、まぁ、今はまだ良い。
今はエギルとの商談中────という体で、向こうの奴らからの注目を外しつつ、そしてなおかつ、エギルと実際に鑑定・換金を『開始してはいけない』のだから。
落ち込んでキリトをただぼんやりと眺める店主。
普段なら拳の一発でもくれてやろうかと思うのだけれど、上記の条件も含めて、今現在KoBも居て一挙一動に視線を感じるのだから性質が悪い。
マジで監視のつもりなんだろう。背後から感じる視線の主が誰かは確認してはないけれど、まず間違いなくバンダナの青年の方だろうとは思う。
あの警戒さ、殺意の感じ方から察するに、私がエギルに対してちょっかい、あるいは知り合いや友人に対するツッコミであっても、何か私が行動してしまえばそれを攻撃と見做し、『不可侵』を超えて、私に対して斬り掛かってくるであろう。
それぐらいの思い、圧を視線から感じる。
……電脳世界、VR越しとは言え、妖怪にそれを感じさせる程度の悪意を、よくもまぁ、たかだか条約一つで我慢できるな、と、逆の意味で感心する。
そんな彼の心について、軽く思いを馳せながら商品棚をぼんやりと眺めていると、視界の端で、ピコンとメッセージが届いたというランプが付く。
スイッとジェスチャーを行ってメッセージを開けば、中身はキリトからで『またな』と簡潔な一文が来ている。律儀な奴め。
後ろを振り返れば、いつの間にか店内にはバンダナの男のみとなっている。
本当に監視してるよこいつ。副団長殿が解散って言ったんだから、解散すりゃあ良いのに。
確かに、私を監視してればどうだ、なんて言ったのは事実だけどさ。
まぁ! 何はともあれ、これで邪魔者は居なくなった!
「エギル、いいからそろそろ私のアイテム換金してよ」
「おう……いやでもS級食材だぜ? 味見ぐらいさせてもらってもバチは当たらねえだろ?」
「見た目だけの阿漕な商売やめたらもっと運が向くんじゃない?」
「……何の話だ?」
「まぁ、そういうことにしておこうか。良いから早く鑑定よろしく。────あ〜、商売早くしてくれりゃあ、私から幸運を呼んであげよう」
「《妖怪》からの幸運って、そりゃあ呪いなんじゃねえか……?」
そうブツクサ言いながらもようやく再起動を果たしたエギルに対して、全アイテムウインドウを可視モードにしてそのままエギルへと渡した。
何十回もやっているやりとりだ。私が必要とするアイテムは基本的に装備しているものぐらいで、後は投擲用の武器ぐらいしかストックしない。
攻撃が当たらなければ回復する必要もない。そういう訳で回復アイテムも一つか二つ程度だ。
エギルはそれを見て、いつも何とも言えない表情を浮かべているのを知っているけれど、何か言ってきたのは初回ぐらいで、それ以降は特に物申された事は一度もない。
まぁ、今回は別のアイテムがあるせいで、そんなことは頭からすっぽ抜けているんだろうけれど。
「……ん? ………………んん? ……S級、食材……?」
「ねぇ、エギルさん。シェフ知らない?
キリトに隠れて、《ラグー・ラビットの肉》、三つ、豪勢に食っちゃおう?」
「シナぁ!! 誠心誠意な商売してて良かったぜ!!
お前が《妖怪》だなんて言われてるが俺はお前信じてたからな!!」
さっきと言っている事が正反対な気もするけれど、気分が良いので良しとしよう。
それからエギルと食事会の綿密な打ち合わせを行うということで、早々に雑貨店は店仕舞を行った。
私を監視してたKoBのバンダナを巻いた男はエギルにあっさりと追い払われていった。
何やら「騙されるな! そいつは《妖怪》だぞ!! 二人になった瞬間喰われてしまう!!」なんて台詞が聞こえてきたような気もした。
まぁ、それに対する返信が「悪いが多神教派でね。それに二人になったら殺されると言うが、それなら既に何百回と死んでるな」というのは若干笑えたものだったけど。
雑貨屋の二階にて、綿密な計画を練り────結果、シェフが居ないという結論に至ったため、後日キリト経由でアスナを呼び出そう、という話になった。
いや、生粋の職人エギルは兎も角として、食事をともに出来るレベルの友人が私は居ないんだ。
ビジネスの知人ならうんざりするぐらい居るんだけどさ……。
まぁ、また後日ということで、アイテムの鑑定と換金をしてもらい、ついでに《ラグー・ラビットの肉》はエギルに渡してその日まで保管してもらうことになった。