隣の席のチャンピオン 作:晴貴
俺のクラスの隣人、宮永照はチャンピオンだ。
それもエクストリームアイロン掛けのようなマイナーなジャンルのトップではなく、世界的な人気を誇る麻雀の高校チャンピオンである。
『絶対王者』やら『高校生一万人の頂点』やら宮永の強さを物語るご大層な肩書きも多く、今でも定期的に雑誌やテレビの取材を受けていてメディアへの露出もあるので下手な芸能人よりもよっぽど知名度は高いだろう。
当然宮永が在籍している白糸台高校でも
だが俺こと
それでいて性格はマイペースというかちょっと天然が入ってるし、不測の事態が起きると案外すぐにテンパる。んでもってお菓子と猫が好きで、実は胸が小さいことを密かに気にしていたりする。
学校でさえクールで完璧超人なイメージを持たれているが、ところがどっこいそうでもない。
その人間性は噛めば噛むほど味が出るというか、その味に深みがあるというか、とにかく全体的に面白おかしい反応を返してくれる存在だ。だから俺は今日も今日とて宮永をからかって遊ぶのである。
「宮永はスルメとコーヒーどっちが好きだ?」
「……なに、突然?というか組み合わせが変」
「俺は今、宮永をスルメかコーヒーどちらに属させるべきかを真剣に悩んでいるんだ」
「私は人間」
「……待て、本当にそうか?」
「どういう意味?」
俺と宮永の間に緊張が走る。目を逸らした方が負ける、生きるか死ぬかの視殺戦だ。
さすがに高校麻雀の覇者だけあって宮永は俺の射抜くような視線に動じた様子は見せない。しかし対する俺も宮永から放たれるプレッシャーには押されな……なんか宮永の背後にオーラみたいなのが見えてる気がするけどなんだあれ。あと右腕に竜巻宿してるけどどっちも幻覚か?幻覚だよな?
いや幻覚でもやべーって。
宮永のツモ牌はいつもこんな危険を感じてんのか。まあ俺も三日に一回は感じてるけど。
だがこのままでは押し負ける。そう予期した俺は不意に立ち上がった。
足は肩幅より少し広めに開き、身体をくの字に曲げて左手は腰に置く。そして右手は目元に持っていき、月に代わってお仕置きするどこぞの美少女戦士よろしく横ピースを決める。『きゃる~ん』的な効果音が聞こえてきそうなポーズをとった俺は、精一杯の裏声で決め台詞を叫んだ。
「あっわちゃんだよー☆」
「……」
「……」
俺と宮永の間に……訂正しよう。クラス全体に沈黙が降りた。朝のホームルーム前のざわついた空気が一瞬にして凍り付いている。肌がヒリつくぜ……!
そんな痛いくらいの沈黙を先に破ったのは宮永だった。さすがインハイ王者、胆力が並の者とは違う。
「……それはなに?」
「大星の真似」
「舐めてんの?」
後ろから声が聞こえた。本物のあっわちゃんの声だ。
ただし結構なドスがきいている。そうか、これが真のあっわちゃんボイスか。
ならば見さらせ本物!贋作がオリジナルを超えられることを証明してやる!
「あっわちゃんだよー☆(重低音)」
「指摘したのはそこじゃないよ!」
知らんがな。
「てかなんで大星がここにいんの?」
割とマジで。ちょくちょく来てるけどクラスはおろか学年違うからね。
俺達三年生。お前一年生。アーユーオーケー?
「いちゃ悪いのー?」
唇を尖らせながら大星が宮永に抱き着く。おかげで宮永のオーラと竜巻が収まった。
しかしそのせいで大星の高一らしからぬ二つのおもちが宮永の左腕に押し付けられてダイナミックに形を変えている。お前それもう成長する余地がほとんどない宮永に対する当てつけ?
胸囲の下克上だ。宮永にかける言葉が見当たらない。現実ってやつはいつでも残酷なのさ。
「悪くはねーがそろそろホームルームだしはよクラスに戻れ。百年生(笑)のクラスにな」
「むっ!」
なんだよ『むっ!』て。百年生ってお前自分で言ったんだろうが。
弘世から聞いてるぞ。
「まあ麻雀の実力が高校百年生レベルでもその表現は小学一年生レベルだけどな」
「言ったな!そこまで言うなら私の実力をその身に教えてあげる!」
「上等だ。俺も真の力を解放してやろう」
「見汐君、麻雀のルールほとんど知らな……」
宮永が何か言いかけたが、それを遮るようにチャイムが鳴る。
大星は「昼休みにまた来るから逃げないでね!」とアイルビーバック宣言を残して廊下をダッシュしていった。もうチャイム鳴ってるけど今からで間に合うのか?まあ遅れたら自業自得ってことで。
「さっきなんか言ったか宮永」
「……何も」
「あっそ」
ちょうど担任もきたので宮永との会話はいったん打ち切る。
ちなみにこの後、本当に昼休みにまた来た大星と俺、隣にいた宮永、そして訳も分からず他のクラスから連れてこられた弘世との四人で麻雀を打つことになった。
もちろん大星に狙い撃ちにされた俺はめちゃくちゃ飛ばされた。お前それ弘世の持ち技じゃねーのかよ。