その日、何かと騒がしい駒王学園には新たな騒動の火種……じゃなくて火炎放射機と揮発油税に換算するとどれだけ持っていかれるか不安になるくらいのガソリンが二年生にやって来た。
まず彼女の容姿は茶髪と若干紫がかった灰色の瞳と、あまり特筆するような特徴はない。顔に関しては。
しかし体型はその限りではなく、すごい小さい。恐らく駒王学園のマスコットと呼ばれる搭城 子猫と互角かギリギリ大きいか程度の幼児体型。
それだけなら騒動の火種になどなるはずもないのは容易に想像がつくだろう。問題は彼女が凄く━━━有り体に言うとアホだったことだ。
最初のアホな行動は朝一に学園についてここだ! と思った教室に入ったこと。暫くそこでそわそわしていたら部活動に勤しむ女子を隠れて覗こうとして早くに学園に来ていた兵藤 一誠らに発見されたこと。
次いで改めてホームルームで自己紹介をする時に「私の子分になりたいのは早く教えてね!」とか言っちゃう。極めつけには授業中唐突に意味不明な発言をしてクラスメイトからは「なんだこいつ……」状態。
しかしそれでもすぐにクラスに溶け込んだのは一重に彼女の魅力だろう。明朗快活。若干空気を無視するところもあるが、彼女の人となりがわかるとすぐに彼女は男女問わずのマスコットと化した。アホ可愛い的な意味で。
発火性ガソリンと呼ばれる通り彼女は転入してたったの数日で馬鹿げた逸話を幾つか残した。やれ、間違えて男子トイレに入ったけど気にせず用を足した。やれ、何をトチ狂ったのかほぼ素っ裸で更衣室から出たとか。というかこういった説明口調では言い回しが陳腐で表現しきれない有り様というのが事実だ。
「ほっ、よ、ていっ!」
ワッと沸き上がる歓声。歓声の中心にいるのはたった今側転、連続バック転、捻りバック宙とどこかで見たことのあるパフォーマンスを披露していた鈴蘭その人だ。
「スズちゃんもっかい!」
「えぇ~? これ結構難しいんだよねぇ。別に構わないけどぉ!」
ニヤニヤしながら喜んで引き受ける辺り彼女のお調子者な性格が滲み出ている。そして彼女は調子に乗って更に助走無しでの前宙や逆立ちからのハンドスプリングなど、次々にパフォーマンスを増やして複雑な事をやった結果、最期のバック宙の時に疲れのせいで捻りと脚力が足りず派手にすっ転んだ。
もう派手に。どぐしゃあっという結構ヤバい擬音が出てくるくらいには派手に転んだ。
「あっははは! いやーミスっちった失敗失敗! 許して!」
しかし彼女は間髪入れずに起き上がって、頭から全体重を乗せて着地した筈なのに何事もなかったかのように起き上がる。出血すらない。
実に陽気。彼女のそんな仕草は自然と彼女への心配を払拭させてどんな空気でも、どれほど心配されていてもそれを杞憂だったと思わせる。
……さて、彼こと兵藤 一誠はそんな彼女にむしろ不信感を抱いていた。
つい先日彼女(だった)少女天野 夕麻に殺されめでたく……とは言い難いが、悪魔として転生した彼には彼女の異常さが特に際立って見えたのだ。
つい先日様々な事を知ったせいかその辺りが普段よりも過敏になっていて、より発達した悪魔の身体能力を以てすれば、見れば見るほど彼女は奇妙だ。
今見せた驚異的な身体能力や頑丈で済まされないような耐久能力。アホなのにやたらと外国語に精通している、etcetc……
それらの要因から一誠は"彼女は悪魔、ないしは堕天使かなにかではないか"という疑問を抱いている。しかし彼を悪魔へと転生させた主人、リアス・グレモリーは「彼女からはそういった類の気配は感じられない」と言った。しかし同時にそれらを隠蔽する力を持っている可能性も否定できないとも。
なので現在彼は同じクラス、彼女の事を告げた者としての責任云々の都合から彼女を監視している。
現状は至って異常なし……いや、普通なら間違いなく死ぬような事をして平然としていられるのは十分異常なのだが。
「兵藤……今境界の事見てたな?」
「間違いない、物凄く獣欲的に見てた……ロリコンも拗らせていたとはたまげたな……」
「ちげーよ! 確かに境界はロリぃし活力に溢れているのは魅力的だとは思うが、もっと根本的に違う意味で見てたわ!」
「見るのは否定しないのか」
そんな風に言い合っていると、彼女は自分が話題にされていると気付いたのか、三人の方に向かってにへらと笑いながら手を振る。
「……まぁ確かに、こんな俺達にも分け隔てなく接する事ができるのは境界の美点だな」
「だから見てたのは事実だけどちげーって」
そんな事を話しているうちにまた鈴蘭は馬鹿げた変態軌道を描きながらその無駄に高い身体能力を遺憾無く発揮していた。
◆◇◆
「んー……まだ首がいってー気がするぞぉ」
その晩、夕食の買い出しに近くのコンビニまで来ていた私は首に多少なりとも違和感を感じて右腕を添える。正確には痛いというわけじゃないんだけど、どうにも首の骨がズレてる気がする。若干視界が左に逸れてるのはそれが原因かにゃ?
「まぁそれは帰ってから治すとして……今大事なのはこの素晴らしいディナーだよねぇ」
ぬふふ……今日の夕食は豪華中の豪華!コンビニのモンブラン(285+税)とネギトロおにぎり(120+税)、ざるそば(320+税)その他諸々!
いやー、美味しそうだよね! お家で待っている素敵なジンジャージュース!
「おい、小娘」
「特にネギトロが入っている癖に普通のお握りとお値段変わらず! コンビニイズヒストリー!」
「聞いてるのか!」
「コンビニ、おにぎりネギトロ蕎麦……うぇひひひ、やっぱり最高な国は日本だよねぇ!」
「娘ェ!」
「━━━おろ?」
おや? 空から聞きなれぬ声が。そこにいたのは女性の胴体と獣の下半身を併せ持つ凄いファッションをしたお方。コスプレかにゃ?
「誰ですかー? 私境界 鈴蘭でーす!」
「あ、ご丁寧にどうも。はぐれ悪魔のバイサーと言います……ってそうじゃねーよ!」
「かっかすんなよバイザーさん、焦らない焦らない、一休み一休み」
「私ゃバイサーだ! あとそれは一休だしさっき
のはヒストリーじゃなくてカルチャーの方が適切だからな!?」
むがー! と叫びながらあーだこーだと丁寧に一つ一つ答えてくれるバイザーさん。偉いっ。
「ま、まぁいい……人間、私に会ったのが運の尽きだったな。ここはこちらのテリトリーだ。ここで私の夕食にでもなってもらおうか」
「私のネギトロはやらんぞ!」
「違うわ! 食うと言ったのはお前自身の事だ!」
なん……だと……
「おいしくないよ!」
「ええい、お前の無駄に高いテンションにはもう付き合ってられん! さっさと殺してやる!」
そう言うとバイザーさんは両手に持った槍を私に向けて突撃してきた。
━━━あ、これがアレか。じーじが言ってた似ていたような力。じーじが言ってたのと私自身が感じたモノよりもこマ? 貧弱すぎ、というくらいだったからぜぇんぜん気付かなかった。
「その達者な口から縫い付けてやるッ!」
「ま、襲ってくるならエネミーだよねっと!」
私はその槍を間一髪、手元に喚んだ杖で受け止める。バイザーさんの槍は二本共纏めて、弾く素振りも見せなかった杖に弾き返された。
「なっ……」
「残念無念ってさ。モンブラン溶けちゃう前に終わらせたいんだけど、ちゃっちゃと終わらせてくれるのはOK?」
「ふざけるなよ小娘がぁぁぁぁ!!」
激昂したバイザーさんは弾かれた槍を取り戻したかと思うとそれを纏めて投擲してくる。槍はそれぞれ異なる不規則な動きで迫り来る。
だが、しかし━━━
「動きがバレバレだわさ!」
杖を分裂させて二つで右と左に添えるとそこに面白いように槍が吸い寄せられる。ぐちゃぐちゃに見えても一定の法則さえ解れば、そこから狙いなんて直ぐに解る。
「もっと勉強してから挑みなさいや!」
弾いた槍を一纏めにして手前に置くと杖の先端を変質させて所謂ハンマー状に変える。
そして私は左足を上げ、体重を右足一本で支えて捻った身体のは反動を一気に解放、左足の着地と共に杖を全力で振り抜くッ!
「ストライクゥゥゥゥ!! ショットォォォォォォォォ!!!」
杖と衝突した槍だったモノは弾け飛び、音を越えて光を越える! 衝突に耐えきれなかった槍はバラバラに砕けて散弾状に散り、バイザーさんの肉体を容赦なくぶっ飛ばす!
「ギ━━━」
哀れバイザーさん、彼は断末魔の叫びを挙げる暇すらなく吹っ飛ばされてしまいましたとさ☆
「ふぃー! スッキリした! それじゃーさっさとおハウスに帰って夕食でも」
「できると思うかしら?」
ふぇ? なんて思って、もう一つの全く違う声が聞こえる。ま、またお邪魔ですか!? これ以上はモンブランが死にますけど! モンブランが許しても私は許さんぞい!
辺りを見渡すと私は三人の女の子と二人の男の子に囲まれて━━━あ、ひょーどーくんだ。やっほー。あ、手を振り返してくれた。
「……貴女、自分の立場わかってる?」
「わかってますとも! 今の私の立場はネギトロとざるそばとモンブランがことごとく御預けになってる状態です!」
ありゃ、皆様閉口。何故?
「くえすちょーん。私これからどうなります?」
なんだか雰囲気がピリピリしてるのは伝わるから聞きたいことは大事になる前に聞かないとね。
「もしこれから私が長時間拘束されるよーでしたら少なくとも! モンブラン食べさせてください! ケーキは時間勝負なんですよ知ってます!?」
「それくらい知ってるわよ……本っ当に学園内やイッセーに聞いた話に違わないマイペースっぷりね……わかったわ、さっさとモンブラン食べなさい」
「ありあとあーす!」
赤い髪の先輩やさしーっす!