「この学園、こんなとこあったんですねぇ」
「貴女はつい先日に転校してきたばかりでしょ? 知らなくても無理はないわ」
おおー、なるほど。旧校舎なんて確かに行く人限られてるしね。ちくせう、もっと念入りに歩き尽くすんだった。
「で、旧校舎に呼び込んでどんなごよーじなんでございましょ。私は別にいつどのタイミングでがっこーに来れても問題ないんですけど!」
「貴女、あんなことしておいてわかってないの?
「ははー、なるほど。いやぁ、私問題は答えが出るまで疑問にし続けるタイプなので」
旧校舎の中に入って旧校舎という名前にはあんまり似合わない━━━その中でも特に綺麗になっている部屋についたかと思うと紅い髪の女の人、リアス・グレモリーセンパイはソファに丁寧に座る。私は特にその辺りを気にせず座っちゃうぜ。
さてさて、おにぎり開封~♪ 何度も言うけどネギトロの味がいいんだなぁこれが。
「さて、ひとまずは歓迎しましょう。ようこそ境界 鈴蘭さん。ここは私達"オカルト研究部"、オカ研の部室にして」
リアスセンパイが一息置くと思うと先程よりも若干緊張した空気が張り詰め━━━
「私、リアス・グレモリーとその眷属の悪魔達の集いでもあるわ」
バサッ、とひょーどーくん以外の皆が一斉に黒いいかにもな悪魔っぽい翼を広げた。そのひょーどーくんもワンテンポ遅れたけどその翼が現れたとも追記しようかにゃ。
……うん。じーじ、どうやら私、さっきの変なバイザーさん含めておかしな人達に巻き込まれてしまったようです。
◆◇◆
それから数分後、リアスに悪魔や堕天使などの事を聞かされてうんうんわかった、と基本的な疑問すら言わずだいたいのことを理解した、と言った鈴蘭は早くもオカ研に溶け込んでいた。溶け込むどころかソファを占拠してどこに仕舞っていたのか全く解らない謎の物をポイポイと取り出している始末だ。
「んーっと、とりあえずなにかあったときの為にお家にあるものと同じものは一式揃えておいた方がいいよねー。収納用の道具もその辺りに置いておいてっと。お洋服はどれだけ詰め込もうかなぁ。できればはち切れるギリギリ程度は入れておきたいんだけど━━━」
早い。あまりにも早い。既にこの部室が自分の部屋であるかのように物を出しては入れてを繰り返している。
「……鈴蘭、ちょっといいかしら?」
「はい! なんでせうぶちょー!」
ビシッと右腕を上げて元気いっぱい笑顔溌剌。リアスは彼女のこのテンションを相手にしにくいのか若干頭が痛そうなポーズをとっている。
「悪魔の事とかは説明したし、貴女も理解したのよね?」
「バッチリグー!」
「それじゃあ次の事を聞きたいのだけれど、
「知りませーん!」
「正直でよろしい」
「褒めても何も出ないよっ!」
曰く、神器とは"聖書の神"なるものが考案、開発したシステムの事。人間、ないし人間の血を持つもののみが先天的に、その他のものや先天的に持たなかったものが後天的に得る器。
歴史上に名を馳せた偉人達も多くがこの神器の所持者であったと記録されており、今現役で活動している世界的有名人の中にもそれは潜んでいるらしい。
「ほぇー、そんなのがあるんですねぇ」
「そう。貴女に一番聞きたいのはこの事なのよ。鈴蘭、貴女どう見てもただの人間よね?」
「恐らく純度100%の人間でっす!」
「そこよ。どうして貴女は神器の反応も示さない普通の人間なのに
「そう言われましてもなぁ」
コクリ、と首を横に傾げる。
「私のこの魔法……センパイ達の言う魔法とは違うっぽいし、異法って読んじゃうけど、異法は私が物心つく前から持ってたものなんすけど」
「少しでもいいわ。何か知ってることはないの?」
「っちゅーか、なんでその神器ってゆーのが私の異法とかんけーあるんすか?」
鈴蘭がそう聞くとリアスは途端に神妙な面持ちになって話し出す。
「さっき言った堕天使はね、悪魔とは違って転生システムがないの」
「……ほい」
「だから堕天使はどうやって戦力を増強させているのか━━━簡単よ。神器所有者を拐えばいい」
そう言うとようやく粗方の事情を理解した鈴蘭はあー、と合点がいった声を挙げる。
「にゃるほど。敵陣営に私を渡したくないと」
「そうとも言えるけど、堕天使は過去の戦乱において悪辣を極めていた者達よ。元々天使が邪な感情や悪事を行って堕天しているのだから、そんな奴らに私達の契約相手の人間をおいそれと渡すわけにもいかない、という都合もあるわ」
それでも鈴蘭は納得のいかない顔をしている。納得できない、というよりはあまり興味がないといった風だ。
「……センパイ、ぶっちゃけ私がそっちについてもメリットねーと思うんですけど」
「堕天使から貴女を守るくらいはするわ」
「んにゃぴ……いや、それが必要ねーのでメリットがねーと言ってるんですじゃ。そもそも思い返すとさっきみてーな変なことはここに来る前から遭遇してたんすよねぇ」
思い返せばあ、これが堕天使だったのかというのがいくらでもある。正直脅威もクソもない事だらけだったし、そもそも鈴蘭はこういう押し付けがましい(本人の推量に基づく)善意は苦手だ。
加えて彼女がここに来た理由も似たような自分と人物を探すため。リアス達との会話で確信したが、それはきっと悪魔でも堕天使でも、まして天使でもない。というか誰かの庇護下にあるとかえって動き辛くなることだってある。
まぁ、庇護下にあって動きを抑制されても好き勝手に動くのが鈴蘭なのだが。
「てなわけでセンパイ達のとこに行くのはパース☆ テメェの安全はテメェで保証せよってね」
ばいちゃー、と言うと彼女はコンビニのビニール袋をぶら下げる竿代わりにしていた杖で足下をトン、と叩きその場から一瞬にして霧散した。
「あ、ちょ、待ちなさい!」
リアスが引き留める頃にはもう鈴蘭の姿は影も形もなかった。
暫く固まっていたが、困ったように頭を掻き始めて彼女のいた場所に視線を送る。
「……帰るのなら片付けるか整理してからにしてほしかったのだけれど」
そこには整理の途中と言わんばかりにごちゃごちゃになっていた鈴蘭の持ち込み物が散乱していた。
◆◇◆
幾度か日の降り昇り。
血の臭いだ。鉄と同じ臭いを放つそれは少年の心を酷く無感動なモノへと変える。
「はいはーい、お疲れちゃんですお人形ちゃん」
「はい、フリード様」
鉛弾で不自然に歪んだ男に更にもう二発血とは異なる鉄の香りを叩き付ける。死んだ事は始めの一発目で十分理解していたが、所謂トリプルタップというヤツだ。"向こう"からは弾の補填はある程度利くといっても、所謂はぐれなので無駄遣いはできないが……未来の不安よりも現在の確実性を重視するのは彼の悪い癖だろう。
「そう律儀にやってくれるのはいいんだけどねぇ、さっさと召喚に使われた魔方陣を回収しましょーよ。オレちゃんただでさえ重い腰上げて来たんだしぃ? ああ、お人形ちゃんも腰重いの変わんなかったっけ!?」
「フリード様……申し訳ないのですが、ボクはフリード様のその発言に対する適切な返答を用意できません。よろしければご教授してくださると」
「んぅ~んぅ。いいねぇ。勤勉だねェお人形ちゃんはさ。いいですかぁ? 今の質問の返答は昨日ヤってれば同意を、ヤってなければ否定をすれば万々歳ってものなんですよぉ?」
「了解しました。ではそうですね、ボクも腰が重いと思います」
「……んあ、なぁ~んかしっくり来ないけど、ままいいっすわ」
ガサガサとその人間のモノだった部屋を好き放題に漁る。仮にも聖職者であるフリードは死人の過去の所有物であってもそれを易々と奪う事はしない。あくまで探すのは冷蔵庫の中とかそういうのでは断じてなく、机の上とか、散らかった紙の中とかである。
「……フリード様。恐らくこれではないかと」
「んぅ? こぉれはこれは……あぁはいはい。お手柄だよお人形ちゃん。帰ったらイイコトしてやろう」
「はい、ありがとうございます」
フリードの労いの言葉を少年は少年なりに、心からの感謝をするふりをした。当然だ。この感謝の仕方だって目の前にいるこの女に刷り込まされた物に過ぎない。そこに本人の誠心誠意は例え敬意があったとしても存在しない。
「はいはぁい! そんじゃ撤収! オレちゃん達の脚が掴まれる前に逃げちゃいましょーねぇ!」
フリードがそう言ってドアに向かって歩を進めたその時だった━━━
「ちわーっす、グレモリー眷属の悪魔の者なんすけどー」
声だ。年齢はおよそ10代後半くらいだろう。いやむしろ二人が気に止めたのはグレモリー眷属、そして悪魔という二つの単語。
ガチャ。ドアが開く音がした。そこから現れた少年は部屋に入ってまず鼻についた異臭と目についた死体、その二つを見て一瞬で顔面を蒼白させた。
手を口元に抑えたまさにその時━━━現れた少年、兵藤 一誠の首元にもう一人の少年が手に持っていたハンドガンを突き付けた。
「━━━!?」
「……誰?」
一誠は少年に銃を突き付けられた事で更なる混乱に陥った。何故こんな年端もいかないように見える少年がこんな場所に居合わせていて、そして自分にそんな物騒なモノを突き付けているのか。
理解できない。理解しようがない。それでもここ数日で二度、三度と命を狙われ超状的な存在とも出会い、その一部となった一誠の生存本能はそこで思考を止める事を良しとしなかった。
「……だ、誰だよ、アンタら……それにその人……死んでるじゃねぇか」
「………? そう、だよ。だってこの人は死んで当然の事、したって聞いてるから」
「き、聞いたからって……そんな理由で人殺しをする理由になるのかよ……!?」
「そもそも人を殺すのに、理由って必要?」
「━━━!!」
一誠は自分の耳が信じられなかった。どう見ても自分より小さな少年がこんな事を平然と口にしている。それも信じられないけれど、それ以上に少年の言葉が不思議と"浮いて"聞こえる。
まるで生物としての根本的な価値観が生物と異なっているかのような、あらゆる物事に無感動で、だからこそ何もかもやってのけてしまうような雪のような心。
僅かな風にすら流されるようで、それでいて気付けば世界を自らの色に多い尽くしているかのような雪。
「お人形ちゃ~ん? ソイツに仲間呼ばれると面倒だし、殺っちゃっていいっすヨ~?」
「はい、フリード様」
少年はなんの躊躇いもなく引き金を引いた。咄嗟に首を動かしたため奇跡的に一誠の首を掠めるだけに済んだが、その一発を避ける事に全神経を費やした一誠は直後腹部に放たれた裏回し蹴りを回避する事が出来ずアパートの外の鉄柵と背中を反発させ合った。
「ゴガッ……!?」
「ボクが殺す理由、ないんだけど。フリード様が殺せっていうから……貴方はきっと悪いヒトなんだよね」
パン、パン。と銀色の鉛が一誠の身体を貫く。
「仕方ないよね。フリード様がそう言うんだから。フリード様がそれが正しいって言ってるんだから。フリード様がボクを褒めてくれるんだから。フリード様が、フリード様が、フリード様が、フリード様がフリード様がフリード様がフリード様が━━━」
少年はひたすらに、盲目的に後ろで下卑た笑みを浮かべる女の名を呼び続けながらハンドガンに込められた銃弾を撃ち続ける。数発は一誠の身体に当たっていたが、すぐに銃の反動に腕が追い付かなくなったのか身体を掠めたり明確に外したりすることが多くなってきていた。
フリードとしてもそれが面白かったようで後ろからケラケラと嗤っている。
「ギャハハハハ!! いいぜいいぜお人形ちゃん! もっと面白くしてくれたら今日は
フリードの余計な声援を聞いた少年の口元が初めて吊り上がった。まるでその言葉を待っていたとだも言いたげにだ。
「……じゃあ、そういうことだから。バイバイ。恨むならボクを。フリード様は恨まないであげてね」
パン、パン、パン。先程彼がやったようにトリプルタップの銃声が辺り一体に響いたのだった。