自由にやれよ! という願いを籠めて彼女を主人公にしたら自由すぎてぐだった。
そんなお話。
その日、境界 鈴蘭は家出をしていた。いや、彼女の家には彼女以外誰も居らず、一人暮らしなため家出という言い方には語弊があるのだが……彼女が家出だと思っているので家出ということにしておく。
「やーわん助、おねーさんの一人言聞いてくれるかい?」
なんの気もなくポツンと、鈴蘭が腰掛けたベンチに佇んでいた犬━━━どうでもいいがポメラニアンと追記しておく━━━に話し掛ける返事は返ってこないが、鈴蘭には彼女の声は聞こえるため「ありがとなす!」と言ってから話し始める。
「昨日ねぇ、変な子に会ったんだ。身体中ボロボロでひょーどーくん……あ、一緒にいたお友達……お友達? のことね。そのひょーどーくん曰く、一緒にいたおにゃのこに虐められてるんだって」
犬は両の前足を顎の辺りの下に乗せて鈴蘭の表情を見る。彼女がよしよし、と頭を撫でて来るので少しだけそれに甘える。
「そんでねー、その子、虐めてくる子に着いてってるんだってさ。不思議だよねぇ」
犬は体勢を崩さずに静かに話を聞く。自由なわんこにしては珍しいなぁ、なんて思いながら話を続ける。
「だからあの子がすっごく気になるんだぁ。私、あの子とこうしてお話してみたいなぁ。楽しく気ままにお喋りしてさ、お菓子でもつまんで……ひゃわっ」
突如、犬が立ち上がって鈴蘭の脇腹に頭を押し付けて来た。少しくすぐったかったようで「ひひひひっ」なんて気味の悪い笑い声を出しながら彼女を抱き上げる。
「やめ、やめロッテ……! ひゃひゃ……わっ、顔舐めるなって!」
たまらず自分の顔から引き離すと、一転して犬はハッハッと犬特有の体温調節をしながら真っ直ぐ鈴蘭を見つめる。
「……え? んにゃー……あんまし深ぁく考える事はないかなぁ。んでもありがと」
舐められないように四苦八苦しながらなんとか首回りを弄る。気持ち良さそうにクネクネしている犬を見て満足気な顔をすると、彼女を元のベンチに置く。鈴蘭は座らなかった。
「あんがとね! 考えるよりも動くべしだよね! やってくるぜ!」
そう言うと鈴蘭はやっほーい!と叫びながら跳び去っていった。
後日、謎のクレーターが某所に出来て小さな騒ぎになったのは秘密である。
◆◇◆
「そんなわけだから教会にカチコミにいこーぜ☆」
「どんなわけか全く解らない上に何の脈絡もなく窓ガラスを粉砕しながら来ないでもらえるかしら」
割れた窓ガラス、ぶちょーに頭を下げてるひょーどーくん。そして私!
いやぁ、我ながらなんて見事なタイミングで来てしまったのだろうか。すごく、面白そう!
「でもさでもさぶちょー! あの神父くんとかに好き放題させるのもマズいと思うんだっちゃよ! だってこのままじゃ昨日のモブさんみたいに価値なく死んじゃうよ?」
「……鈴蘭、今さっきイッセーにも言ったけどね、私達悪魔はそう易々と教会━━━それも神父やシスターに関わるのはある種のタブーでもあるのよ」
「……ほむ」
「
「ま、わかりますぜ。なになに! 元々一緒にトイレ行こう! みたいな感覚で来ただけだからさ! 断られても私行ってたんだけどネ」
空気と窓ぶっ壊してごめんちゃい! それではサヨナラバイバ~イ。私は一人で旅に出る~。
はい! 視点しゅーりょ! チェンジ!
◆◇◆
そんなこんなで教会前。どんな風に華麗な登場をしてやろうかと考えていた鈴蘭だったが、程なくして一誠がオカ研の同僚(オカ研は全員悪魔らしい)の木場 祐斗と搭城子猫を伴ってやって来た。
鈴蘭にはよくわからないが、リアスはタブー、認めないと言いつつも勝手に行く分には見過ごす、というような対応をしていったらしい。で、この三人がやって来たと。
それから二、三と悪魔三人ははぐれ悪魔祓いの性質や教会の作りから考えられる敵の配置等、それなりに理知的に話し合っていたのだが……
「つまりひょーどーくんの目的のおにゃのこは地下にいるから地上だったらやりたい放題しちゃっていいってことだね!」
にこやかにそんな事を言うと鈴蘭は手元にこういう関係になった切欠の夜に持っていた杖━━━微妙に先端に作りが違うが━━━を出すと、槍のような装飾が施されたそれを教会に向ける。
「……なぁ鈴蘭」
ガギンッ、という音と共に装甲が開き、今の今まで一つだった穂先は二つに別れる。男心がちょっと燻られる。
「なにかなひょーどーくん」
鈴蘭はなにかおかしいかな? とでも言いたげに一誠の方を向く。槍の上辺り、鈴蘭の正面に半円状に歪曲した半透明のディスプレイが現れる。悪魔の持つ特性、言語翻訳によってディスプレイに書かれた文字は日本語として見えているが、彼女の趣味や経歴、人間性からして間違いなく外国語で書かれているのだろう。しかも書いてある文字の内容が結構物騒だ。
「一応聞きたいんだけど、
一誠をはじめ、三人が顔を引き吊らせながら問う。ディスプレイのド真ん中に教会の映像が浮かび上がると、鈴蘭は右手でグリップを捻る。教会がズームアップした。
「そりゃ、正面突破っしょ!」
にこやかに告げると、杖の先端から赤銅色の光が収束し始め、やがて鈴蘭の貧相な胸元と同じ高さにまで膨れ上がる。
「えーっと、ドレッドノート・ブラスター、アサルトゴー!」
大きく身体を仰け反らせ、大根切りの要領で光を殴り付けると、光は凄まじい速度で教会に向かって飛んでいった。光が教会に直撃する前に四方面に巨大な異法陣が取り囲む。
光はそのまま教会を突き抜けたかと思うと奥の陣に吸い込まれていき、教会以外の物を破壊することなく消えていった。
「……うんうん、消音用の陣もキッチリ働いてくれたねん☆ さぁいこーぜぇいえ!」
それだけ言って鈴蘭はさっさと教会だった場所に向かってトテトテと走っていった。
「あ、ちょ、待て!」
「それなりの配慮はしてくれたみたいだけど……」
「消音措置がなかったら全力で殴るところでした。七割くらいで勘弁してあげます」
突っ込む事も面倒なのだろう、呆れ顔の木場とジト目の子猫が二人を追いかけて行き教会(だったなにか)に入ると、そこには既に衣服がボロボロになっているフリードと彼女を庇ったのであろう、左腕が焼けている少年の姿があった。
「なんだなんだと思ったらやっぱりテメェらかよクソ悪魔共……」
「やーやーシスターさん、遊びに来たぜ!」
「テメェにだけは来て欲しくなかったんですけどぉ? でもお仕事ですし、相手しないとってのはめんどくせーよなぁ」
フリードが光の剣を、少年が拳銃を抜くと、二人が同時に仕掛ける。当然、鈴蘭も杖を用いて剣を受け止め、銃を弾き、余裕綽々と言った風に杖を振り回して頭に直撃する。
「あでっ……」
「あんまり遊んでると思わず殺しちゃうってぇ!」
二人の挟撃。それを見ると鈴蘭は地面に杖をぶっ刺し棒運動の要領で回転して同時に対処。
「鈴蘭! 今加勢に……!」
「ひつよーなっしんぐ! ひょーどーくん達もやりたいことやってきなよ!」
「っ、助かる!」
一誠が木場と子猫の先導で地下に向かって行く。フリードがそれをさせまいと銃口を一誠に向けるが、発射の瞬間に銃を蹴り上げることで弾丸を剃らす。
そして両手に光を収束させるとフリードの腹部に強烈なボディブロー。腹部を抑えて身動きが取れなくなると逆の手で今度はアッパーカットを叩き込む。
「これが私のぉ! なんとかフレイムじゃあああああ!!」
「がぶぁぁああ!?」
思い切りフリードを吹っ飛ばす。彼女は完全に気絶したようで、強い余韻を残しながら鈴蘭はすっごく格好つけながら着地をする。
「隙、あり」
瞬間、少年の右腕が異形のカタチに変貌した。まるで龍の手のようなそれを大きく振りかぶり鈴蘭に叩き込む━━━
「杖がないと異法を使えないとでもお思いかァ!」
奇妙なテンションで叫ぶと同時に両手を重ねて光の鞭を発生させると思い切りしならせて薙ぎ払う。
「っ、ぎぁ……」
「そっ首採ったり!」
少年に馬乗りになった鈴蘭は彼の両手足を地面から発生した光の鎖で縛って身動きを止める。
「よっしゃ目標たっせー!」
「なに、する気……」
「……んあー、なにする、て言われてもなぁ……」
そんな大層なことじゃあないんだけどね、と前置きをすると、グッと顔と顔が衝突するくらいに顔を近づける。
「……なに?」
少しだけ頬が紅潮していた。恐らくこれもフリードに刷り込まれた生理的反応なのだろうが、それを良しとした鈴蘭は初いヤツよ、と笑う。
「私さ私さ、キミのこと知りたいんだ!」
「……ボクの、こと?」
「そう、キミのこと。なんて言うのかな、キミを初めて見た時、私はヴィヴィっと来たんだ……キミはいったいなにをしたいんだろうって。儚い顔をしてるんだって。気になった。だから私は、キミの事が知りたいな」
笑顔で話し掛ける少女。だが少年は少女とは対称的に苦々しい顔をしていた。
例えるなら、答えられない質問を押し付けられた子供のような顔だった。
「そういう顔、できるんだね」
少女はまた笑った。なんとなく必要最低限の感情表現しかしないだろうと思っていたのだが、この反応は予想外だった。
「……、わからない。けど、ボクも初めて見た時……キミのことが、気になった。その、ヘドが出る笑顔が」
「お? そうなの?」
コクン、と小さく相槌を打つ。少女が少年を縛って押し倒す、なんて図でこんな会話をするのは端から見ると変なのだが、そんなことを気にする二人ではない。
二人にとって大事なことは今話しているということなのだろう。
「そう。今まで感じたことがないくらい後ろ髪を引かれて……すごく、他のことが少しの間だけ……気にならなかった。だからボクは、キミの事が気になる……かも」
「おお! 私とまったくおんなじじゃんか! これはもしかして私達、うんめー共同体だったり!?」
「そ、なの?」
収拾のつかない会話を暫く続けていると少女は唐突に少年の縛りを解放するとよっ、と少年を起こす。
「キミの名前を教えてくれないかい? 私、境界 鈴蘭ってーの」
一瞬ポカンとしていた少年はやがて、少女の名前を小さく復唱すると鈴蘭を真似た下手くそな笑顔をして、応えた。
「……ボクの名前は、リンドウ……です」
「よし覚えた! 私それが聞きたかっただけだからさ、そいじゃバイバイ、リン!」
それだけ言うと
暫くぼう、としていた
「……きっとフリード様は、さっさと見捨てて逃げるんだよぉ、って言う……かな」
そう判断した少年は未だに気絶しているフリードを抱えると静かに教会の跡地を去っていった。
今更ながら、彼女を主人公として起用するのは絶望的であると気付きましたよええ。
元々二人の視点を動かして進めるつもりだったんですけど……これはやっぱり彼の方を多めにしないのいけないのかもしれません。