TABOOTATTOOの世界で王子様 作:クルス@アルマゲドン
人としては異常な速さで迫ってくる美人さん。
まぢで意味がワカラン。
現在俺氏は、父親が訓練という名の名状しがたい人外(美女)との戦闘を行っていた。
「若様、避けるだけでは勝てませんよ」
そう言いながら放つ剣戟。地面が抉れる。
いや、近づけないから。言っておくけど俺戦闘経験ゼロの平和主義者よ。
いくら何でも攻撃するなんて無理っす。
しかも、黒髪ロングの美人さんに攻撃なんても以ての外ですよ。
あ、美人さんの名前カルさんって言うらしい。
そんなことよりも今、どうするかを考えるべきだった。
…時間になるまで避け続けよう。
「………若様。時間切れを狙ってますね」
うげ、何故気づいたし、しかも剣戟がヤバくなってきたぞ。
うひゃぁぁあ、斬られる刈られる突かれる。ヤバいよヤバいよ!
「っ!?……それならば」
ん?何か嫌な予感がするぞ……とりあえず、横に避けるしかない──痛っ!頬が切れとる。ええ、見えない斬撃でも飛ばせるのあのカルさん。
ヤバい、今のは運良く避けられたけど、次に飛んできたら──
「……グズッ」
──え?何でカルさんが泣いとるんねん……
◇◇
カル・シェーカル。それが私の名です。
現在、私は姫様の命により若様の訓練を行っています。
私の前任者が若様を意識不明になるまで訓練をさせたための姫様が国王に直々に物申し、私が抜擢されました。
私は人に教えるというものが初めてで手合わせという形で現在試合形式の訓練ををしています。
何事も実戦の経験がものを言うと言うことです。
それに、ある程度若様の力量を知ることで、基礎の固め方を考えることが出来ます。
それにしても、若様の動きが素人同然。けれども──―
──攻撃が一度も当たらない。
おかしい。動きは素人同然なのに何故か攻撃が当たらない。手加減をしているものの、一度も当たらないなんて…
それに、一度も反撃してこないどころか呪紋すら起動している素振りもない。素の身体能力でこの動きをしているのは驚異的なものだ。そして、何かを狙っているような動き。
先程から若様は上の方ばかり気にしている。
上には――時計があった。
「……若様。時間切れを狙ってますね」
舐められている?
前任者の実力は私より格下。そんな相手に遅れをとっていた若様は私に攻撃せずに時間切れを狙う。
若様に対して怒りという感情が生まれてくる。
これでも強いというプライドがある。それを目の前にいる若様は何をしている?
悠々と私の攻撃を避け、時間切れを狙っているのだ。
無意識のうちに力が入る。
袈裟に迅速の一閃。
避けられる。
首を刈り取る一閃。
また、避けられる。
心の臓を貫く一突。
これも、避けられる。
ほぼ同時に放つ無数の剣閃。
全て避けられる。
「っ!?……それならば」
やってはいけない。そう理解していたのに呪紋を起動してしまう。
っ!マズイ!
気付いた時には遅かった。
『絶対境界』(イージス・アルマジロ)を起動させてしまっていた。
愛刀を使用しないから起動はしない。いや、させない。そんな甘い考えをしていることによる失態。
また、若様に苦痛を与えてしまう。
しかし、そんな私の考えに反して若様は紙一重で避けた。
私は驚きで頭が一杯になっていた。若様にコレを見せるのは初めてだ。私自身この絶対境界は初見殺しと理解している。
それを若様は避けた。
そして、私は気付く。
若様は戦闘中でも、普段の状態でも無表情なのだ。
幾ら何でもこれは異常だ。
意識不明になる前の若様とは話したとこはある。
お喋りの感情の変化が激しい方。
言い方を変えれば口数が多く感情豊かな可愛い少年。
私と会話をした際に見せてくれた笑顔。太陽のようなお方だ。
しかし、今はどうだ?
口数が少なく、感情が無くなっている。
幾ら何でもコレは酷い。
私は若様の笑顔が好きだったのだ。
今の若様は──
「……グズッ」
「……カル、どうした?」
急に若様が声を掛ける。私は慌てて構えるが若様はそんなことはお構いなしと近づいてくる。
「…泣くのは止してくれ」
そう言い、いつの間にか目の前まで近づいた若様に目元を綺麗なハンカチで拭かれる。
いつの間に間合いに入られた?
いや、それよりも私は、泣いてたのか?
何故?泣いていた?
何故、何故と思考の海に潜ってしまう。
「……?カル、本当に大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
「…そう、それならいいんだけど」
そう言い残し、若様は屋内に戻っていった。
若様は優しい。それは意識不明になる前。そして、今もだ。
けれど、昔の表情豊かな若様の方が好きだ。
……若様が好き?
「……私は若様が好き」
ボソッと呟く。
若様が好き。その言葉が頭の中をループし始める。
グルグル何周したか分からないけれど、顔が熱くなってくるのが分かる。
我ながら恥ずかしい。年下の異性に対してこんな感情を持っていること。
「…し、ししし、しかし、私がお慕いするのは前の若様な訳で──」
──ここに来て先程のクールな若様を思い出す。
──泣くのは止してくれ
………凛々しいお顔からのクールな大人っぽい対応。
以前の若様とは違うギャップ。
これは──
「カル、そんな所で百面相しながら顔を赤くしてどうしたのかしら?」
「ひゃっ!?ひ、ひひ、姫様!」
「…随分と慌ててるようだけれど……まあ、いいわ。それよりも兄さんはどこにいるのかしら?」
「わ、若様なら屋内に戻られまし…た?」
いつの間にか若様がいなくなっている?
「あら、早く訓練が終わったのね」
そう言い、姫様は屋内に戻っていった。
◇◇
ストップ。待って、何でカルさんが泣いてるの!泣きたいのは俺の方だよ。
不可視の鋭い何かを飛ばされて、頬斬られて。避けなかったら頭が真っ二つだったんだよ!横に真っ二つだよ!大事なことなので以下略
……いや、そんなネチネチしていたらイケメンにはなれないんだよな。外面はイケメンでも内面がクズなのはいけないよな。
「……カル、どうした?」
優しく、クールに事情を聞く。それが大人なイケメンよ。
けれど、涙ぐみながら構えるのは止しとくれ。まるで、俺が虐めているみたいじゃないか。寧ろ逆だったよね。何、立場逆転する出来事でもあったの?
ボカァそんな出来事知らないよ。
取り敢えず、涙拭こうや。主に俺のために。社会的死なないように。これで俺の父親に知られても見ろ、ぶん殴られるぜ。息子だからって、容赦なく晒しあげるぜ今の父親。
妹ちゃんが寝言でそう言ってたもん。
「…泣くのは止してくれ」
ハンカチでカルさんの涙を拭く。
美人さんに合法的に間接的タッチ出来るとか役得過ぎでしょ。
んん?なんか、難しい顔しているけど、どうしたん?……もしかして、下心バレた?それは、ヤバいぜ。
「……?カル、本当に大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
「そう、それならいいんだけど」
よかった。バレてなかったみたい。でも、下心有りの間接的タッチなんて駄目だよな、イケメンとして。本当のイケメンは堂々とするもんだ。
だから、イケメンはクールに去るぜ。
……決して、訓練から逃げた訳じゃないぞ。後、1時間あるとかボカァそんな事知らないし。
それよりも、お家の外出たいよ。街に行ってみたい。けど、どうやって抜け出すものか……
「に・い・さ・ん~」
背中に衝撃が走る。
どうやら、妹ちゃんのアリヤが突進してきたらしい。
ちょっと気を抜いたら倒れる所だった。
「…アリヤか。急に飛びつくな。危ないだろう」
「…兄さん、可愛い妹が抱きついたのにその反応はナンセンスよ?」
……いや、めっちゃ嬉しいからね。でも、表情に出せない訳よ。前から気付いてたけれど表情筋が動かないんよ。イケメンが笑顔が出来ないとか無いわとか思っちゃったけど……
まあ、表情に出ない分ラッキーと思えばいいや。
更に、声だって震えないというかハイスペックなのだ。ポーカーフェイスな上ですべての言葉がクールに変換されるとか……どうなんだろう。
「…悪かった。別に嫌な訳じゃない」
俺がそう言うと、アリヤちゃんは嬉しそうな表情をして、もう一度抱き着いてくる。今度は正面からだ。
「兄さん、今日は一緒に寝ましょう。約束よ?破ったら妾とブラフマン、侍女で兄さんを追いかけ回すから」
ちょっ、何それ。というか、聞きなれない単語が『ブラフマン』ってなんぞ………記憶しておりました。
いや、待って待って異常性癖集団やんソイツら。
『ブラフマン』って、部隊名だったのね。
いや、アリヤちゃんと侍女に追いかけ回されるのなら良いよ。だって美人さんしかいないし。
けど、ブラフマンは断固拒否。だって、隊長が死体しか興味ない異常性癖の持ち主ですよ?
後、マゾヒストもいるし、調教好きのサディストもいるし、……ホモもいるやん。
嫌だそんな部隊全員が異常性癖の変態集団なんて。でも、一番ショッキングなのは、カルさんが副隊長って所だ。
え、何カルさんも異常性癖の持ち主なの。やっぱり、頭を横に真っ二つにするのが好きな人なの。
今後の訓練はマヂにならないと俺がヤられる。
「……分かった」
とりあえず、OKの返事をしておこう。可愛い妹と一緒に寝るなんて役得だしね。
「ふふ、約束よ兄さん」
アリヤちゃんはそう言い残しどこかに行ってしまった。
よ~し、逃げ足を鍛えよう。主にブラフマンと関わったとき逃げるために。
……訓練でカルさんと合うやんか。
「………力が欲しい」
主に逃げるための。
そう思いながら俺は部屋に戻った。