New Styles ~桜井夏穂と聖森学園の物語~ 作:Samical
何人いるかは分かりませんが読者の方々のために引き続きがんばらせていただきます!
前回までのあらすじ・・・
秋季大会地区予選の準決勝、激闘第一と激突した聖森学園。木寄の策が功を奏し、互いに一歩も譲らぬ死闘を繰り広げる中、激闘第一の主将の羽生の策略が木寄を襲い・・・
「そんな木寄さんが・・・!」
「ファールチップが直撃したでやんす。しかもほぼ打球は死んでなかったでやんす・・・」
「当たったボールも跳ねずに落ちてたしな・・・」
スタンドは不安に襲われた。担架で運ばれていく木寄さんはいつもよりも、遥かに小さく見えた。でも、きっと木寄さんなら、帰ってきてくれるはずだ。あんなに強い人がそう簡単に倒れてしまう訳がない!
しかし待つこと5分、待っていたのは非情なアナウンスだった。
「聖森学園高校、守備の交代をお知らせします。キャッチャー、木寄さんに代わりまして松浪くん。6番キャッチャー、松浪くん。背番号12」
こ、交代・・・。木寄りさんは大丈夫なんだろうか?
「私、医務室に行ってくる!」
「わ、私も行く!」
「あ、待ってよ! 夏穂! 彩ちゃん!」
「ちょっと~、姫華まで~!」
私と彩ちゃんは慌てて医務室へと向かった。
「お、俺たちも・・・!」
「み、みんな・・・」
「何考えてるでやんすかっ!」
田村や元木も動こうとし、村井ちゃんが何か言おうとしたとき、それを遮ったのはなんと矢部川くんだった。
「矢部川、お前は心配じゃねえのかよ!?」
「当然! 心配でやんす!」
矢部川くんの様子はいつもとは別人だった。
「だからと言ってオイラ達が大勢行ったところで何もならないどころかむしろ迷惑でやんすよ! ここは夏穂ちゃんと彩ちゃんで十分でやんす!」
そんな矢部川くんに村井ちゃんも同意する。
「や、矢部川君の言う通りだよ・・・。それに、まだ試合は続いてるんだし・・・」
「・・・そ、そうだな・・・」
「彩ちゃん、桜井頼むな!」
みんなも納得したようで引き下がったみたいだ。
「・・・行こう、彩ちゃん」
「そうだね、急ごう!」
私と彩ちゃんは医務室へと急いだ。
* * * * *
「サインはこれでいいですか?」
「あ、ああ。それでいいよ・・・」
時間が空いたため、数球の投球練習の後にサイン交換で、御林は松浪の問いには答えたもののどこか上の空だった。明らかに退場した木寄を心配しているのだろう。松浪だってそれは心配である。あの痛がり方はただ打球が当たったものではない。
「(おそらく、元から肩に問題を抱えていた可能性がある・・・!)」
確かにそれは大変なことだ。だがそれよりも・・・、
「御林さん」
「・・・どうしたんだい?」
松浪は勇気を持って御林に告げた。
「・・・そんなに木寄さんが気になるのなら今すぐマウンドを降りてください」
「・・・っ! 心配して何が悪いっていうのさ・・・!」
「俺だって心配ですよ、でも・・・」
松浪はいつもより強めの口調で御林に対した。
「御林さんは、このチームのエースナンバーを背負って、金村さんや杉浦、夏穂の投手陣の代表としてここに立ってるんです! マウンドで試合のこと以外を考えるっていうなら今すぐに変わってください! 」
「・・・! それは・・・、そうだな。すまない、どうかしてたよ。今思えば、健太もそういうだろうね」
松浪は厳しい表情を崩し、一転笑みを浮かべる。
「リードは松浪に任せるよ。その通りに投げて見せるさ!」
「いいんですか? 俺の“試合での”リードは・・・、なかなか強気ですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫さ。 さ、行こうか」
「了解です!」
松浪は戻り、プレーは再開された。羽生は後退した松浪を横目に睨んだ。
「(公式戦初のマスク・・・、“夢尾井の知将”だかなんだか知らんが所詮1年・・・)」
「羽生さんでしたっけ? 失礼ですけど強気に行かしてもらいますんで」
「・・・何?」
松浪は羽生に話しかけてきた。しかし、それだけで松浪はサインを出し、構え始めた。
「(何を考えている? いや、そもそもカウントはフルカウント。チームメイトが負傷退場したんだ。御林は体力的にも精神的にも余裕は無いはずだし、四球も出したくないだろう。どんな上手いリードをしようと俺は打てる・・・!)」
御林がセットポジションがボールを投げ込む。しかし、そのボールは羽生の考えを遥かに超えてきた。
「(・・・!! ど真ん中の、直球だとっ!?)」
僅かに反応が遅れるも、羽生はフルスイング。しかし、その遅れは致命傷となった。
ガツンッ! と鈍い音を残し、セカンド正面へ。里田がこれを捕ったが打球は弱く、併殺は取れなかったため1塁へと転送され羽生はセカンドゴロに倒れた。
計画通りに事を運んだ松浪はとりあえず息を吐いた。
「(とんでもねえ博打だったけどかかってくれたな。 見るかに打つ気満々で、『ストライクは全てヒットにできる』って雰囲気だったし、意表をついてサインを出してみたけどな・・・。とにかくこの回は何とか乗り切らねえと・・・)」
「くそがっ!!」
一方でベンチに帰ってきた羽生は悪態を突く。屈辱以外のなんでもない。この自分が、あんなボールに詰まらされるなんて。
「(次の打席・・・、お前らも潰してやる・・・!)」
羽生は次であのバッテリーを仕留めようと決めた。その時だった・・・。
時を同じくして医務室・・・。
医務室には聖森学園高校の校医である湯村がいた。湯村は複数人いる聖森学園高校の校医でありながら野球部のスポーツドクターも兼ねている。スポーツ医学に精通した人物である。その湯村も木寄の状態には驚きを隠せなかった。
「あなた、よくこんなになるまで我慢していたわね・・・」
「・・・すいません」
「ファールチップのダメージもかなりのものだけど、それ以上に・・・」
「「木寄さん!!」」
そこで夏穂と彩が医務室へと飛び込んできた。
「け、ケガは大丈夫なんですか!?」
「みんな、心配してたんですよ・・・」
「木寄さん、あなたもしかして・・・」
「・・・はい、部員の誰にも教えていません。ずっと、一人で秘密にしてきました」
湯村の問いに木寄は静かに答えた。
「秘密・・・? どういうことですか・・・?」
夏穂が問いかけに木寄はアイシングの最中である自分の肩に触れ、告げた。
「この肩は・・・、私の右肩は、もう、とっくに限界を超えていたの。来る日も来る日も、私は男に負けないようにって。必死に、スローイングや守備練習を続けたの。
次第に遠投も距離は伸び、2塁へのスローイングのレベルも上がってきた。だけど、そのツケは今年やってきたの」
「ツケ・・・、ですか?」
彩も聞き直した。
「そう。慢性的な肩の痛み。春ぐらいからアイシングしても、マッサージをしても、一向に良くならなかった。でも・・・、私は騙し騙し練習をこなした」
木寄はため息をひとつつき、続けた。
「次第に痛みはひどくなっていった。そしてこの前の流星高校の足攻め、長引いた試合・・・、そして今日の試合。その全てが私の肩の寿命を削ってしまったの」
「・・・治るんですよね?」
夏穂は聞き返したが、湯村が答えた。
「・・・それは・・・、難しいわ・・・」
「えっ・・・!?」
「木寄さんの肩はね・・・、かなり深刻なものだわ」
「それに私はこの前医者に言われたの。『次に強い痛みが走ったら、キャッチャーは無理だ』ってね・・・」
木寄は諦観の見える表情で告げた。つまりはもう治らない、ということだ。
「みんなに心配させたくなくって黙ってたの。そして、原因は私の管理不足。これじゃあ、副キャプ失格ね」
「・・・どうして・・・」
夏穂はその全てを聞いて、木寄に詰め寄った。
「どうして! そこまでして、自分を犠牲にしちゃうんですか!? そんなにボロボロになるまで、誰にも言わず、一人で抱えちゃうんですか!?」
いつも笑顔で明るい夏穂が目に涙を浮かべ、言葉を吐き出す只ならぬ剣幕に彩も木寄も押された。
「私がフォーム改造に苦しんで、行き詰ってる時だって! 『焦る必要なんてない。まだ先は長いんだから』って! 『困ったときはチームメイトを頼りなさい』って! そう言ってくれたのは木寄さんじゃないですか! なのに・・・!」
夏穂は泣きじゃくりながら、続けた。
「どうして、木寄さんは一人で抱え込んじゃうんですか!!」
「夏穂ちゃん・・・」
彩も見たことがないのだろうが、木寄は初めて見た後輩の涙に申し訳なさを感じた。
桜井夏穂は木寄にとって高校最初の後輩だ。この野球部にやってきた日から人懐っこい笑顔で、元気な夏穂の姿は野球部の雰囲気をぐっと明るくしたのだと木寄は感じた。夏穂のことは投手を支える捕手として、他のメンバーよりも気遣ってきたつもりだった。それが先輩の役目であり、投手を支える捕手の役割である。
夏穂は今日まで野球部で一度も涙を流してこなかった。紅白戦でどれだけ打たれても、守備練で厳しい言葉を飛ばされても、いつだって・・・。
自分のケガは、そんな夏穂を泣かせてしまうほどだったのか。
「・・・ごめんね、夏穂・・・」
そう答えるのが精いっぱいだった。
「私はやっぱり、本当に馬鹿な奴だね・・・」
そしてその時、外からはひと際大きな歓声が聞こえた。
* * * * *
その時、聖森学園のスタンドの誰もが目を疑い、ベンチの誰もが呆然とし、フィールドの誰もが打球の行方に目をやった・・・。
激闘第一の5番打者、少豪月の打球はバックスクリーンに直撃する3ランホームランだった。松浪は愕然とした。
「(コースは悪くなかった! 外角低めのストレートが要求した所よりボール一つくらい浮いただけなのに・・・、それを軽々と・・・!)」
「ぐあっはっは! 今日は空に白球が映える晴天じゃけえ! 気分がええのう!」
「ドアホー! 少豪月! そんな上がってねーだろがっ!」
「ナイバッチは認めるから早く戻ってこい!!」
激闘第一のメンバーは大仕事をした1年生を手荒い祝福で迎えた。
一方の聖森学園は静まり返ってしまった。誰が見ても心が折れたであろう、と感じさせるほどであった。
「(・・・だめだ、こっちのメンツのメンタルが限界だ・・・!)」
その状況を見た松浪は悟った。中学時代に幾度となく激戦を潜り抜けた経験がそう思わせたのだ。キャッチャーが試合を諦めたらそのチームはお終いだ。
・・・しかし、キャッチャーが諦めなかったとしても、そのチームがお終いにならないとは限らない・・・。
「ツーアウト、ツーアウト!! ここで切りましょう!」
「「「お、おう・・・」」」
「そうだ! まだ3点差だ!! 気張ってこうぜ!!」
松浪の掛け声に岩井は力強く周りに声をかけるが、他の選手は覇気が感じられなかった。
「(木寄さんの負傷退場に加え、ピンチを乗り切れそうなところからの被弾・・・。これじゃあ・・・)」
松浪は次の打席に立った6番の右打者三船に対し、御林に外のサークルチェンジを要求した。しかし・・・、
「! あ、甘い!?」
「もらった!」カキンッ!!
サークルチェンジはほぼ変化せず真ん中へ行ってしまい、簡単にツーベースを許してしまう。続く7番の松尾にも長打を浴び、もう1点を失ってしまった。
松浪は耐えられず、御林の元へ駆け寄った。
「御林さん、大丈夫ですか?」
「・・・すまない、構えたところに投げきれなくて・・・」
「いえ、とにかくここで止めたらまだ何とかなるはずです」
「あ、ああ」
「辰巳―!! しっかり踏ん張れよ!!」
しかし、御林の球威と制球は戻ることはなかった。8番の村上、9番の坂上には連打を浴びてもう1点を失った。ここでたまらず監督が動き投手交代。代わってマウンドには金村が上がった。速球とカーブを武器とする金村ではるが打席に迎えるは1番の鶴屋。
松浪は警戒してカーブから入ろうとしたが、金村のカーブは2球続けてボールとなった。
「ぐっ、くそっ。コントロールが・・・!」
「(仕方ない、ストレートを投げさせるしかない・・・!)」
苦し紛れのストレートが通用するほど甘い相手ではなかった。
「やっ!!」カキ―ン!!
鶴屋はそのストレートを右中間へ運ばれ、スリーベースとされる。
次の2番垣内にもヒットを浴びてもう1点失った。
3番の中岡はなんとかサードゴロに打ち取ったが、この6回だけで8失点。
7回の表の攻撃で点を取らないとコールド負けとなってしまうが聖森学園に反撃する力は残されていなかった。
先頭の松浪はセンターライナーに倒れ、竹原は見逃しの三振。そして、里田に代わる代打の野村。しかし、低めのSFFに手を出してしまいサードゴロに倒れてしまい、ゲームセット。こうして聖森学園の秋大会は地区予選の準決勝敗退という結果に終わった。
秋季大会地区予選準決勝
聖森学園 0000000|0
激闘第一 000008×|8 (大会規定により7回コールドゲーム)
試合に敗れた後、聖森学園の選手たちは木寄のケガの内容、隠していた肩の状態、そして・・・、もう治らないという事実を知った。
部員の誰もが、あの岩井でさえ衝撃を受けたのかひどく落ち込んだようだった。
監督もそれを察し、反省会もほどほどに部員を解散させたのだった。
* * * * *
私たちが負けてから1週間の間、監督は大会後の休みを私たちにくれた。
その最終日、私は近くの河川敷で一人黙々と自主トレをしていた。
とはいってもランニングとシャドーピッチングしかできないんだけどね。一通りメニューを終えて帰ろうとした時にふと木寄さんが思い浮かんだ。
『それに私はこの前医者に言われたの。「次に強い痛みが走ったら、キャッチャーは無理だ」ってね・・・』
そのことを監督と花﨑コーチがみんなに伝えたときは誰もが言葉を失った。そして、病院に運ばれた木寄さんは全治1~2か月の診断を受けたそうだ。でも、スポーツ外科の先生によると投げられるようになるわけでなく、日常生活に支障がなくなる状態になるまでが1~2か月ということだそうだ。そして・・・、
「キャッチャーができるようになることはもうない・・・か・・・」
それは私の夢でもあったんだ。いつか木寄さんと大会でバッテリーを組むんだって・・・。
しかし、それはもう、叶わない願いなんだ。そう考えると自然に涙が出てきた。
「・・・どうして・・・、どうして木寄さんが・・・こんなことに・・・」
「ね、どうしたの?」
「・・・えっ?」
振り返るとそこにはヒロがいた。
「って、うわっ!? 夏穂! どうして泣いてるのさ!?」
「えっ!? ああ、これは・・・」
なんとか慌てたヒロに事情を説明して落ち着かせたけど今度はこっちがまた悲しくなってきた。
「なるほど、先輩が大ケガしちゃったんだ・・・」
「そうなんだ・・・」
「ケガって怖いよね。たった一つの大ケガが、その人の選手生命を断っちゃうんだもん・・・」
「・・・」
「でもさ、夏穂。夏穂はいつまで落ち込んでるの?」
「・・・えっ?」
「悲しいのは分かるよ・・・。でも・・・、夏穂がその先輩のことを本当に慕ってて、その人が夏穂のことを心配してくれる人だったら、余計に夏穂のことを心配しちゃうんじゃないかな・・・?」
「私のことを・・・?」
「うん、夏穂は夏穂らしくしてなくちゃ・・・」
「私らしく・・・」
「ごめんね、上手く言えなくてさ・・・」
ヒロは恥ずかしそうに笑った。
「そうだね・・・、明日から頑張ってみようかな・・・」
「うん、頑張ってね!」
「ありがとう、ヒロ。じゃ、また今度ね!」
私は立ち上がり河川敷を後にした。
そして、長い冬が始まる・・・。
太刀川、2度目の登場。とにかく長かった試合パートは終了です。
今回の選手紹介は激闘第一の選手の紹介です。ちなみに”彗星のエース”黒塚(紹介はしません)とは2013の主人公の1人だと思ってもらったらいいです。他にも2013の主人公に当たる人物はたくさん出て来るかもです。時系列滅茶苦茶なのはご了承願います・・・。あと、パワプロに登場する選手も能力は少し違います。
鶴屋勝 (2年) 右/左
激闘第一のエースで、練習熱心で真面目な男。顔はいいのだが野球一直線すぎて付き合う相手はいない。オーバーワークしがちで常に自分のプレーに物足りなさを感じており、1つ上の先輩の黒塚を尊敬している。プレースタイルはコントロールがウリの投球と俊足好打の打撃で投手としては珍しく1番を打つことが多い。
球速 コン スタ
144km/h B C
⇒スライダー 3
⇓ SFF 3
弾 ミ パ 走 肩 守 捕 守備位置
2 C D B C C C 投C 外E
ノビ〇 対左打者◎ 短気 四球 走塁〇 盗塁〇
羽生鋭牙 (2年) 右/右
激闘第一の主将で4番打者のサード。表には出さないがその性格は非常に狡猾で残忍。”勝つためになんでもする”をはき違えっており、勝つためならば手段は選ばない。
1つ上の先輩、蛇島を尊敬しているが、羽生には蛇島とは違い、野球に対する情熱は大きくなく、相手を痛めつけることに楽しみを見出している。
プレースタイルは技術で打つタイプで、守備も上手い。
弾 ミ パ 走 肩 守 捕 守備位置
3 B C B B B B 三B 二C 遊C
送球〇 アベレージヒッター 流し打ち チャンス〇 対左投手〇 盗塁〇 守備職人 粘り打ち ミート多用 選球眼 積極打法 積極守備
では、次回以降はすこし野球描写が減る・・・、と思います。
ということでまた次回もお願いします! 感想とか評価もお待ちしてます。コメントにはできるだけ早く返事しますので・・・。
矢部川君の評価が上がってくれてたらなあ(笑)。
この作品の中で好きな登場人物は?(パワプロキャラでもオッケー)
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桜井夏穂
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松浪将知
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空川恵
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久米百合亜
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ここに上がってる以外!(コメントでもオッケー)