New Styles ~桜井夏穂と聖森学園の物語~ 作:Samical
「昨日のドラフト、見た?」
「当然ッ!! 見た見た!」
「鈴貝は4球団競合の結果、夢ヶ咲に決まったね~」
鈴貝とは今年、春夏連覇を成し遂げた逢坂翔陽(あいさかしょうよう)高校のエースで、最速154キロの速球に140キロを超える高速スライダーを武器としておりプロ即戦力の呼び名も高い超高校生級の投手だ。
私もテレビで見たけど決勝戦の13奪三振完封はすごかったなあ。
そして夢ヶ咲とは夢尾井から近い地域を本拠地とする「夢ヶ咲タイガース」のこと。多くの熱心なファンを持ち、私も小さいころから何度か応援に行ったんだ。
「激闘第一の黒塚くんはどうなったっけ~?」
「激闘第一のメンバーは確か・・・、黒塚は3位で仙城が、蛇島は2位で中部、シブヒデは1位で東都が指名してたね」
今のNPBにはミラクルリーグとストロングリーグの2つがあって、ミラクルリーグ(通称、ミ・リーグ)に北海ノーザンフォックス、東北仙城(せんき)イーグルス、幕浜マリナーズ、埼玉(さきたま)キャットハンズ、阪戸(はんと)バッファローズ、九岡猪狩カイザースの6チーム。
ストロングリーグ(通称、ス・リーグ)には東都タイタンズ、夢ヶ咲タイガース、シャイニングスワローズ、中部ワイバーンズ、浜須賀(はますか)ブルースターズ、広山頑張パワフルズの6チーム。
合計12チームが毎年ペナントレースを戦っている。
「すっごいなー! 3人プロ入りとかっ!」
「特に黒塚は本当にシンデレラボーイだね。去年の今頃は名前も知られてなかったのにね」
「そういえば仙城は今年最下位だったからねっ。もしかしていきなり出ちゃったりしてっ!」
「本当にそれで活躍したらすごいよね~」
それにしても、プロ、かあ・・・。
「? どうしたの夏穂?」
「え? ああ、プロ入りってどんな感じなんだろう・・・って思って」
「プロ入りかあ、考えたこともなかったっ!」
「私はきっと無理だし、そこまでしないよ~」
「私もっ! それより今は高校野球を全力でやるんだもん!!」
「べ、勉強もしようね・・・?」
「うぐっ!? そ、それは・・・」
「そうだよ~。勉強も大事だよ~」
そんなやり取りをしながらふと考える。私はプロになりたい・・・、というか憧れている。中学までそんなつもりはなかったけど、そんな時に私の目標を作ってくれた人がいる。
その人は“早川あおい”。恋々高校のエースとして、高野連のルールをも変えて活躍し、ドラフトではマリナーズから2位指名を受けた史上初の女性プロ選手。
私の考えを変えてくれた人は数多いるけど、もっとも大きな一人に違いない。
でも、それ以降は女性プロはいない。女子も甲子園を目指せるようになったけど、プロ入りはいないのだから簡単ではないのは分かる。
「(でも、目指せるなら目指してみたいよね・・・)」
でも、今は先のことより目先のこと。私は一刻も早く、新フォームを完成させなきゃ・・・。
* * * * *
「もう一丁! お願いします!!」
「よしっ! じゃ、サード!!」
花﨑コーチの打つ打球に岩井さんは素早く飛びつくと、すぐさま立ち上がって1塁へ送球。この送球も正確に投げ込み、しっかりと内野のノックを締めた。
「では、今日の練習はここまで!」
「「「はい! ありがとうございました!!」」」
「寒くなってきたからみんな体調に気を付けてね!」
「「「はい!!」」」
今日の練習も終了。木寄さんはまだ復帰していない、というかそのメドも立っていないんだけど。どことなく部員のみんなには元気がない。精神的な支えであった木寄さんの離脱がどれだけ痛いかがよくわかる。
正捕手の木寄さんが離脱したため、捕手は実質トモ一人ということになった。そのために野村さん、元木くんが捕手の練習を始めた。元木くんは一応経験はあるらしく形にはなっていた。しかし、まさしく司令塔であった木寄さんの穴は簡単に埋まらないだろう。
「おう、夏穂。えらく浮かない顔じゃねーか」
「え、そうかな?」
「ああ。いつもなら練習終わるや否や、『さ、自主練だー!』か『帰るぞー!』って騒いでるじゃん」
「失礼な! そんなことしてないし!」
「そうそう、そんな感じでさ」
・・・どうしてこうもトモはこっちの考えを呼んでるのだろうか・・・。
「ま、そんなことより、今日は帰るのか?」
「え、まあ今日は恵たちと帰るつもりだったけど」
「じゃ、ちょうどいいや。一人暮らしの奴ら誘って松吉屋に行こうかなって思ってさ。今日までの割引券が大量にあるんだわ」
「そういうことならみんなに声かけてみるよ」
「おう、よろしくな」
・・・そして・・・、
ワイワイ・・・、
「にしても夏穂、意外とよく食うんだな」
「牛丼の超特盛を平然と平らげるなんてどんな食欲してるのさっ!」
トモ、姫華ががそれぞれ聞いてきた。
「そうかなあ。姫華だってスイーツならこれくらい食べるじゃん」
「スイーツは別物ッ!」
などといった感じで、私と姫華、恵、トモ、風太、大、村井ちゃん、矢部川くんの8人は松吉屋にやってきていた。
「竹原くん、よく食べるんだね~」
「・・・そういうお前もかなり食べてると思うぞ・・・?」
「うわっ、てか俺と同じぐらい食ってんじゃん!」
「・・・風太が少ないのもあるんだがな・・・」
「オ、オイラもそれくらいでやんす・・・」
「いっぱい食べて~、いっぱい寝る~。これが元気の秘訣だよ~」
「恵ちゃん、いつも元気だもんね」
村井ちゃんが感心したようにうなずく。恵のモットーは“衣食住を楽しむ”だそうだ。なんともまあ、清々しい生き方なんだろう。確かに恵の生き方そのものを表す言葉だ。
「そろそろみんな食い終わったし、帰るか」
「そうだね~」
「気を付けて帰ろうねっ!」
食べ終わって店から出るとそれぞれ家路に就いた。
家の方向(どちらも一人暮らしだけど)が同じな私とトモはやがて二人になった。
「なあ、夏穂」
トモが自転車を押しながら聞いてきた。
「何?」
「木寄さんが離脱したことだけど・・・」
「どうしたの?」
「俺、考えたんだ。あの人がいない以上は俺がこのチームの正捕手やらないといけねえってさ」
「正捕手・・・ね。でもさ・・・」
「ああ、分かってる。この秋、俺は木寄さんとのスタメン争いに負けた訳だ。そんな俺が木寄さんの代わりになんてならないことは俺が一番分かってるつもりだ」
トモは大きく息をついて話した。
「信頼も、経験も、チームへの配慮も。どれをとっても木寄さんの代わりにはなりっこないさ。悔しいけどさ」
「それは・・・」
「だから俺は木寄さんの代わりにはならない。俺は“新しい司令塔”になる。そしていつか、みんなから信頼を得る・・・!」
「新しい・・・か・・・」
「ああ、だから俺はひたすら前に進む。そして強くなるんだ!」
トモは前を見据えて言った。その目には力強さが溢れていた。
「そっか。じゃあ、私も・・・、目指そっかな!」
「へえ、夏穂は何を目指すんだ?」
「次の夏にはベンチに入って、トモとバッテリー組むよ!」
「そうか、それならエースの座を御林さんから奪うってことか?」
「できるかできないかは置いといてそのつもりでいるよ!」
「ま、取り合えず前向いて頑張ろうぜ!」
「よーしっ! 頑張るよー!」
こうして私たちは寒くなってきた秋の夜空に二人で誓ったのだった。
* * * * *
冷え込みも厳しくなってきた11月の終わり頃・・・、病院から帰宅の途に着いた木寄はふと気づくと河川敷へとたどり着いていた。
「・・・いつの間にこんなところに・・・」
そこではおそらく小学生とみられる野球チームが練習をしていた。
木寄はケガして以来、練習に顔を出していない。自分が野球ができないと思うとどうしても足が進まないのだ。別に野球部員と不仲という訳でもない。むしろ皆心配してくれて声も掛けてくれるし、普段通り接してくれてもいるのだが、グラウンドに顔を出す気にはなれなかった。
河川敷で練習しているチームの選手たちは必死にボールを追いかけている。
「・・・そこのお前、どうしたんだ?」
「・・・って、うわっ!?」
どうやら木寄は随分と練習しているグラウンドへと近づいてきていたようだった。
「どの選手かの保護者か家族か?」
話しかけてきていたのはとても少年野球の指導者とは思えないほど、いかつい顔をした大男だった。
「いいえ、私はただの通りすがりで・・・」
「通りすがりでここまで来るとは相当に野球好きか、怖いもの知らずと言った所か。野球のボールが当たればただじゃ済まんぞ」
「あはは、大丈夫ですよ。私もキャッチャーですから・・・。・・・いや、“元”キャッチャーと言った方が正しいかも」
「・・・“元”・・・だと?」
「ええ、私こう見えてもとある高校で選手やってたんです。ついこの間まで・・・。でも、試合中にケガしてしまいまして・・・。もうしばらくは練習に行く気も起らなくて・・・」
「・・・」
「あ、すみません。見知らぬ人にペラペラと喋ることじゃありませんね・・・。それよりこの子達、小学生にしては上手ですね」
「・・・ああ、この辺りでも名の知れたチームだ。いつも全力で練習に取り組んでいる・・・。こいつらは野球が大好きだからな」
「野球が大好き・・・か」
「お前もフラフラとこんな練習場に足を運んでしまうぐらいに野球が好きなんだろう? 練習に行かないのは、自分の思い描くプレーができないから・・・。違うか?」
「それは・・・」
男はグラウンドを所狭しと走り回る子供たちを眺めながら続けた。
「・・・ケガしたのは肩か肘だな?」
「!? どうして分かったんですか!?」
「足に何か不自由があるような雰囲気では無かったからな、あとは勘だ」
「・・・はい、肩を故障したんです。投げ過ぎたのに加えてボールを食らってしまって」
「それで“元”キャッチャーということか」
「まあ、そんなところですね」
木寄もまたグラウンドを走り回る子供たちを眺め、続けた。
「私は、ずっとキャッチャーをやってきたんです。でもやっぱり同年代の男子にはただやるだけじゃ勝てなかったから、必死に練習してカバーしてたんです。でも、そうやって高いレベルの捕手を目指そうとすればするほど私の選手生命を削っていたんですよ・・・」
「・・・俺の昔の教え子にもいたんだ。野球バカで、上を目指そうとし過ぎてオーバーワークを続け・・・、選手生命が断たれた奴がな」
「昔の、教え子・・・」
「ああ、そうだ。もっと早く俺がしっかりと止めていれば助けられたかもしれん。だが、終わってしまったものはどうすることもできん。そのような悲劇を見た者にできるのは・・・、それを未然に防ぐ道を見つけることだ」
「未然に・・・」
「そうだ、そして新たな道を探すこと・・・。これぐらいしか“何か”を失った者にできることはないんだ」
大男は木寄の元から立ち去ろうとする。そして、最後に言い残していった。
「誰だって失敗はするものだ。アマチュアだろうとプロだろうと関係なくな。だがそれを恐れてはいけないんだ。だからと言って忘れてもいけない。“悔しい”という気持ちはしっかりと持って前に進まないといけない。お前も自分が頑張れる道を探すことだ・・・」
「・・・自分が頑張れる道・・・」
「まあ、精々頑張るんだな・・・」
そういって大男は去っていった。木寄も今の言葉を胸にある決意を固めた。
「(自分が頑張れる道、野球が好きだという気持ちに嘘はつかない・・・)」
やってやろうじゃないかと、木寄は久々にすっきりした気分になった。
そして、後ろの方ではおそらく先ほどの大男が子供たちの指導に向かったのだろうか。きゃーきゃーと騒がしくしていた。
「コーチ! 鬼河原コーチ! さっきのプレー見てくれた!?」
「俺だってファインプレーしたし!」
「わ、私も・・・」
「お前はエラーしてたじゃんかよ~!」
「そ、それは・・・」
「お前たち、確かにファインプレーも大事だがな、ミスした時の悔しさは忘れるなよ?」
「「「は~い!!」」」
なんだ、あの人。あんなに怖い顔なのにあんなに子供たちに人気なんだ。と、思いながら木寄は今度こそ帰路に就いた。
* * * * *
またある日の練習で練習が始まる前に集合を掛けられた。
「今日は2つ、話がある。一つは冬練についてだ。いよいよ12月になり寒さも厳しくなってきた。そこでそろそろボールの使用を控え、基礎的なトレーニングを積む冬練に切り替えていこうと考えている。投手は走り込み、野手は素振り、共通で体感強化を中心にやっていく予定だ。そして、もう一つの話だが・・・」
監督と花﨑コーチの後ろから、懐かしい姿がジャケットを羽織って表れた。
「「「!!」」」
「今日から木寄が復帰することになった。ただし、捕手ではなくまだポジションは未定だが野手として復帰してもらうこととなった」
「・・・みんな、迷惑掛けてごめんなさい。また・・・、一緒に野球を楽しむために、勝利を目指すために・・・、またここで頑張らせてもらいたいと思います。よろしく!」
こうして再び全員揃った私たちは、また夏を目指す・・・!
プロの球団はある程度、現実にある球団から文字っています。なんとなくどこの球団かは分かりますよね?(笑)
今回は特に紹介する選手もいないのでおまけは無しとします。
また次回もよろしくお願いします! 感想、評価などもできればお願いします!
この作品の中で好きな登場人物は?(パワプロキャラでもオッケー)
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桜井夏穂
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松浪将知
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空川恵
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久米百合亜
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ここに上がってる以外!(コメントでもオッケー)