New Styles ~桜井夏穂と聖森学園の物語~   作:Samical

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また遅くなってしまった。キリがいいところまでと考えてこんなことに・・・。
 ★簡単な人物紹介コーナー(その3)
・矢部川昭典・・・聖森学園高校野球部2年生。外見はどこかで見たことのあるあの人とそっくり。俊足がウリ。ガンダーロボと女の子には目がない。
・花﨑紗耶香・・・野球部のトレーナー兼コーチ。25歳。元高校球児の女性。大学を出てからこの野球部に勤める。保険の先生も兼任。
・榊原勝也・・・野球部の監督。32歳。かつてはプロ入りこそしなかったが大学でも有名だった名選手。その後は教師の道を歩む。担当は政治・経済。

P.S.一部打者の名前等の間違いを修正しました


22 信念、それと意地

 激闘第一との初戦をコールドで制した聖森学園は2回戦でもパワフル学園高校相手に、投げては杉浦くんが5回を無失点に抑え、打線はパワフル学園高校の投手陣を次々と捉えて14点を奪いコールド勝ち。・・・私の出番は無かった、残念。

 気を取り直して3回戦、相手は文武高校。甲子園出場経験もあり、予選ではベスト8の常連校。勉強面でも優れているという。その対策のミーティングにて、

「明日の相手、文武は手堅い野球をしてくる。相手の警戒すべき打者は武、鎌苅、古長と言った所だな。特に武は率も残せるし、長打も打てる厄介な奴だ。あと滅茶苦茶頭の切れる奴だ。隙を見せたらそこに付け込んでくるから注意だぜ。氷花、投手の方を」

 トモに促されて氷花が慌ててノートを取り出して立ち上がる。

「は、はい! えーっと、エースは才田という投手です。最速140キロ中盤のストレートと縦のスライダーが武器の奪三振能力の高い投手です。こう言っていいのかわかりませんけど・・・、文武らしくない投手だと思います」

 氷花の意見にトモが頷く。

「確かに。例年なら球速は遅くても制球力と変化球で躱すタイプの投手が来るんだけどな・・・。しかもかなり速いな・・・」

「はい。ただ縦のスライダー以外の変化球は苦手みたいで、基本的にこの2種類しか投げてきてませんね。なんとか絞り切るしかないかと・・・」

「なるほどな。あとは打たれないようにするしかないな。投手陣は頑張って耐えねーと」

 ミーティングを聞いていた監督が一段落したのを見てメンバーに話し始めた。

「明日の試合、オーダーを少し弄ろうと思う。文武は相手をよく研究してくる。作戦を読まれるのは厳しいしな。そして先発投手は、桜井。お前に任せる。」

「! はいっ!」

 突然指名されてびっくりした。いよいよ待ちに待ったマウンドだ。相手も不足は無いし、頑張るよ!

 

 迎えた3回戦当日。天気は秋晴れの快晴。野球日和! そんな中、両陣営のスタメンが発表される。

 

   先攻 聖森学園高校

 1番 ライト    空川

 2番 センター   初芝

 3番 サード    桜井満

 4番 キャッチャー 松浪

 5番 ショート   梅田

 6番 ピッチャー  桜井夏

 7番 レフト    久米

 8番 ファースト  竹原

 9番 セカンド   椿

 

  後攻 文武高校

 1番 セカンド   鎌苅

 2番 センター   矢部吾

 3番 サード    古長

 4番 ファースト  武

 5番 ピッチャー  才田

 6番 キャッチャー 福井

 7番 ライト    菊地

 8番 レフト    高島

 9番 ショート   樋口

 

 聖森はかなり大きく打順を変えた。左打者と右打者が交互に来るようなジグザグ打線。調子の上がらない大は大きく打順を下げられたりしているけど・・・。上位には速球を得意とするメンバーが並んでいる。

 先攻は聖森。1回の表の先頭は恵。

「よ~し、いくよ~!」

 気合を入れて打席に立つ恵の相手、才田はノーワインドアップから右腕を振るう。初球はストレート。確かに速い。続く2球目もストレートだったけど恵は捉えきれずファール。3球目は外してボール。そして4球目、

「うわあ!?」

 投じられたのは縦スラだった。恵は当てることさえかなわず三振に倒れた。戻ってくる恵に初芝くんが尋ねた。

「どんな感じだった?」

「う~ん、縦スラが思ってたよりキレもいいし、速かったな~。本当に山張っとかないと難しいんじゃないかな~?」

「そうか、サンキュ」

 打席に立った初芝くんに投じられたのは縦スラだった。初芝くんは思わず振ってしまったようだ。

「(確かに速いし、キレてるな。こいつは厄介だな)」

 初芝くんは3球目のストレートに詰まらされファーストゴロ。今日は3番に座る満は初球から積極的に手を出すもライトライナーに倒れ3者凡退に終わった。

 

*      *      *       *      *

 

 文武高校ベンチは今大会初登板となる夏穂の投球練習を眺めていた。そして策を練り始める。

「データが少ない相手だな。夏に2試合のリリーフ、今大会は投げていない。別にケガ持ちでもなさそうだな。どう思う? 才田」

「オレに聞くなよ・・・、秀英(武の下の名前)の方が頭いいんだからさ」

「俺は将よりも参謀向きなんだ。表だって責任は背負えないからな」

「・・・それは負けの責任をオレに押し付けようとしてるんじゃないのか?」

「いやいや、その方が俺は自由に動けるから楽なんだ。その方がいい働きをする自信もあるぞ。チームを盛り上げるのは才田、お前の方が適任だ」

「わかったわかった・・・、って善治。もう戻って来たのか?」

 どうやら先頭の鎌苅(下の名前が善治)は早々と打ち取られたらしい。

「ああ、遅い球がカムしたから思わずスイングしちまった。もう少しオブサーブするつもりだったんだが・・・」

「つまり、もう少しボールを見ようとしたら思わずチェンジアップに手を出しちゃったと、そういうことだな?」

「ああ、そういうことだ」

 そんなやり取りをしているうちに矢部吾も打ち取られたようだ。

「むむむ、高速スライダーにやられたでヤンスよ。かわいい顔してすごい球投げてくるでヤンス」

「まあ、確かにそうだけど・・・、持ち球はとりあえずストレート、ハイスラ、チェンジアップか・・・」

「たのむぜ。善治と矢部吾が出て、古長と秀英で返す。それがウチのパターンなんだからさ、点取ってくれよな。俺も福井も頑張って踏ん張って見せるぜ」

「ああ、任せろ。2巡目で捉えてやる」

 武は才田の言葉を聞いてニヤリと笑った。

 

*      *      *       *      *

 

「うおお!」ズバン!!

「ストライク! バッターアウト!!」

「ちっ、真っすぐだったか」

 トモが見逃し三振に倒れ、続く風太も縦スラを引っ掛けてしまいセカンドゴロ。

「6番、ピッチャー、桜井夏穂さん。背番号1」

「よーしっ! 打つぞー!」

「夏穂ー、ほどほどで良いぞー」

 トモが声をそう言うけど打席に立つ以上は全力だよ!

「打つ気満々ってか、上等!」

 そう言って投じてきた才田の縦スラを2球続けて見逃した。

「(意外と冷静だ・・・。しゃーなしだな)」

 福井が出したサインに頷き才田が投じたのは、

「待ってました、ストレート!!」カキン!!

「「うおっ!?」」

 ストライクを取りに来たストレートを私はフルスイング! タイミングもバッチリ!

 引っ張った打球は左中間を破ってツーベースに! これが公式戦初打席初ヒット!

「夏穂ちゃ~ん、ナイバッチ~!」

「夏穂やるうっ!」

「へへー、どんなもんよ!」

「あの馬鹿・・・、走り回ってバテるんじゃねーぞ・・・」

 

 夏穂がツーアウトから出塁して打席には久米を迎えた。片足で交互に地面を均すルーティンを終えてから特有の振り子打法で構える。

「(夏穂さんをランナーに出したままこの回を終わらせるわけにはいかない・・!)」

 そう思った久米は才田が投じた初球の外角低め、見逃せばボールというストレートを踏み込んで振り抜いた。振り子打法の利点を生かして逆らわずに流し打つ。

「ちょ、そこを打つのか!」

 才田は慌てて打球を目で追ったが叩きつけられて跳ねた打球は三遊間へと飛び、レフト前へと抜けていった。バットにボールが当たった時点でスタートを切っていた夏穂は一気にホームイン。聖森が先制に成功した。

「才田、あれを打たれちゃ仕方ねえ、次だ!」

「オッケー! 分かってるよ!」

 続く8番の竹原だったが縦スラ2つであっさりと追い込まれた。

「これで、しまいだ!」

「むうっ!」キイン!

「ファール!」

それでも竹原は縦スラに必死で食らいついてファールで粘る。カウントは2-2の並行カウント。ここまで才田が投じたのは全て縦スラだった。

「(ここらで真っすぐ。釣ってやろうぜ)」

「(縦スラで抑えられないのは癪だけど・・・、仕方ないな!)」

 そして投じられたのはインハイのストレート。釣り球のつもりのストレートが高めのストライクゾーンに入ってしまう形となったが、

「むっ!?」

 竹原は手が出ず見逃し三振。これでスリーアウトとなった。三振して戻って来て守備へと向かう竹原の背中を松浪は自らも守備へと向かいながら見つめた。

「(大・・・、お前がこんなもんじゃないことは俺と風太がよーく知ってるんだ・・・、お前ならもっとやれる、そうだろ?)」

 

*        *        *        *       

 

 2巡目から夏穂を捉えようと意気込んでいた文武高校の選手たちだったが気が付けば4回が終わっても1人のランナーを出すことすらできずにいた。一方、才田もランナーは出しても後続を断ち、3回以降は無失点で来ていた。迎えた5回の裏、先頭の武はチェンジアップを打ち上げてしまいショートフライに倒れた。続く5番の才田も1-2と追い込まれてしまった。

「(アウトローに真っすぐ。ボールでもいいから腕をしっかり振ってこい!)」

「(うん、OK!)」

 松浪のサインに夏穂が頷き、ボールを投じる。しかし、

「(おい!? ちょっと浮き過ぎだ!)」

「(しまった!)」

 打席に立つ才田はストレートを待っていた。そこにやってきたストレートを打ちに行ったのだが、

「(あ、やべ! ボール球じゃないか!)」

 しかし才田のバットは止まらず、むしろ諦めてフルスイングして打球を捉えた。打球はフラフラとレフトへと流し打った形になった。夏穂と松浪は打ちとったと確信したのだが・・・、

「! まずい!」

 レフトの百合亜は打球が中々落ちてこないと感じて慌てて下がった。しかし、久米の後ろにはフェンスが迫って来た。

「う、嘘!?」

 久米はフェンスに追い詰められ、打球はそのままレフトのポール際へと飛び込む同点ホームランとなった。

「打球が、思ったより伸びたの・・・?」

「ボール球だったけど、放り込まれるのか・・・!」

 しかし一番驚いていたのは打った張本人の才田だった。

「(確かに感触は思ったより悪くはなかった・・・。だけど、あの捉え方でここまで飛ぶものだろうか?)」

「才田、ナイバッチ!」

「あんなボール球打てるとか流石だなあ!」

「あ、ああ。サンキュ」

 才田は次の回の準備をしながら武に話しかけた。

「なあ秀英」

「ん、才田。どうした」

「あのピッチャーについてひとつ気になってさ。今さっき福井と菊地にも言ったんだけどさ。もしこの予想が当たっていたら・・・」

「当たっていたら?」

「あのピッチャーを引きずりおろせる。後は・・・、分かるだろ?」

 そう才田が言ったと同時に福井が夏穂のボールを弾き返した。

 

「くうっ・・・!」

 才田の後に福井、菊地と連打を浴びて1アウト1,2塁としてしまった。連打と言ってもどちらもポテンヒットではあるのだが・・・。共通していることは・・・、

「(夏穂のストレートが狙われている? とはいえ狙って打てるほど簡単なボールじゃないはずだ・・・)」

 だが実際、才田にはホームランを浴びて福井と菊地には打ち取っていた当たりではあったもののポテンヒット。ここで松浪が気づいた。よく考えれば似たようなことは夏にもあった。あの最後の試合、永村に投じたストレートも逆方向にスタンドに運ばれた。つまり考えられるのは・・・、

「(ストレートの球質・・・、夏穂のは軽いってことか!)」

 夏穂のストレートは綺麗なバックスピン(ここでの“綺麗”は特にボールの回転軸の傾きの少なさを指す。すなわち抵抗が少なくなり、球速の減少が小さくなる)がかかっている。これによって球速以上の速さに見えるようになる。しかし、バックスピンをかけることを狙うのは投手だけではない。野手も打球に回転をかけて打球の飛距離を伸ばしている。

 速い球による反発力も相まってノビのある速球は一歩間違うと“よく飛ぶボール”となってしまう。夏穂のストレートにはがいわゆる体重の乗りが足りない。力をより前へと出すことに意識を置き過ぎた分だけボールに“重さ”が足りていなかったのだ。

「(向こうがどこかで気づいたんだろーな。今の2人はおそらくストレートをとにかく当てに来ていたんだ)」

 慌てて松浪はタイムを取って夏穂の元へと向かった。

「どうしたの? トモ」

「多分だけど、真っすぐが狙われているみたいだ。・・・夏穂。お前の真っすぐはどうしても球質が軽い。当てられると簡単に飛んじまう」

「・・・薄々は感じてたんだけどね・・・。でも、どうしようもなくて・・・」

「・・・確かにな。こればっかりは対策出来なかった俺にも責任がある。でもこの試合、なんとかしねーといけないぜ」

「リードはトモのを信じるよ。だから、お願いね。私はそこに投げ切るから」

「・・・よっしゃ、投げ切ってきて打たれたら俺の責任だ。だから思い切って来い!」

「うん!」

 

 ここから夏穂と松浪の配球が変わった。直球主体から変化球中心へとシフトした。高速スライダーとチェンジアップをメインに、ストレートを見せ球にして8番の高島をストレートの釣り球で三振。9番の樋口は高速スライダーで詰まらせてピッチャーゴロに打ち取った。

「よしっ、ナイスボール! 夏穂!」

「うん、なんとか踏ん張れたね!」

 すると6回の表にチャンスが訪れる。先頭の満がストレートを捉えセンターに弾き返すと、続く松浪は縦スラを狙ってフルスイング。やや詰まったものの地面に叩きつけられた打球は三遊間を破ってレフト前へ。梅田は送りバントを1球で決めて1アウト2,3塁とした。ここで打席には6番の夏穂。

「ここは、打つ!」

「(絶対に打たせねえ!)」

 ここで文武バッテリーは縦スラを選択。しかし、夏穂はこれに手を出さない。これが2球続いてカウントは2-0。ランナーが3塁にいることから低めの変化球を投げづらいと相手が予想してストレート待ちだろう、と考えあえて低めの縦スラを選択した文武サイドだったが夏穂は手を出さず、振る気配すら見せなかった。

「(こいつ、まさかこっちの考えを呼んで見逃したのか・・・!)」

 と福井と才田は警戒したが一方の夏穂はというと、

「(ふー、危ない。良かった縦スラで。正直縦スラ打てる気がしないし、真っすぐに絞るしかないんだよね・・・。でも、ついてる! 2球続けてボールだったし、次は多分ストレートで取りに来る!)」

「(才田、ここはストライクゾーンにまっすぐだ。しっかり投げ切ってくれ!)」

「(おっし・・・!)」

 それぞれの考えが交錯する中、才田が投じたのはストレート。それを夏穂はフルスイングで引っ張り込んだ。

「行け!!」

「ストレート待ちだったのか!?」

 快音を響かせた打球だったが・・・、無情にもサードの古長に阻まれ、捕球後にそのままベースを踏まれてしまった。満は戻りきれずにアウトになってゲッツー。再び聖森はチャンスを失ってしまった。

「! ゲッツー・・・!」

「よっしゃあ! こっから反撃だ!」

「「「おおっ!」」」

 落胆する聖森学園とは対照的に勢いづく文武ベンチ。そして、

 

カキン!

「っ! しまった!」

 6回の裏の先頭打者である鎌苅に初球の高速スライダーをジャストミートされてレフト前ヒットにされてしまう。つづく矢部吾にはきっちりバントを決められて1アウト2塁のピンチとなる。さらに古長にもスライダーをレフト前に運ばれてしまい1アウト1,3塁となってしまう。

「(夏穂の高速スライダーが簡単に打たれてる・・・!?)」

「(ここで4番・・・!)」

 松浪と夏穂は突然の文武の猛攻に浮足立つ。打席に向かう武はその様子を見て自分たちの策の成功を確信していた。

「(松浪は優秀なキャッチャー、桜井はストレートも変化球もレベルは高い。だがどちらも隙が無いわけじゃない。松浪のリードには癖があるし、桜井はストレートの球質が軽い。そして松浪はこれまでのデータから見て・・・、連打を打たれた球を投球の軸から外しがちだ。この癖は今年の夏から続いていた。そこでさっきの回に才田からストレートを連打された。この回は高速スライダーを打たれた。そして残る球種は・・・)」

 打席に立つ武は初球のストレートを平然と見逃し、続く2球目。狙っていたのはチェンジアップだった。

キイイイン!! と快音が響き、打球はレフトスタンドへと消えていった。

「(ふむ、やはりこの策は間違ってなかった・・・。才田、お前の偶然がもたらした策、機能したな)」

 才田はこういった打開策のきっかけをよく持ってくる。武にとって才田は底の見えない男だ。だから武はこの男の意外性に興味があった。主将になった彼が、堅苦しいだけの野球しかできなかった文武高校野球部に革新を与えたのもそうだ。

「(コイツとなら・・・、もっと上を目指せるかもしれないな)」

 武はそう考えながらベンチで待ち構えるチームメイトの元へと戻っていった。

 

*       *      *        *

 

「矢部川、白石を呼んで来い。ピッチャー交代だ」

「っ! 承知しましたでやんす!」

 夏穂はベンチからブルペンへと駆けていく矢部川の姿を見て悟った。

「(交代・・・!)」

 6回途中、ソロとスリーランの2本を浴びて4失点。エースとしては不甲斐ない、不甲斐なさ過ぎた。

 白石がマウンドへと向かうと交代を告げられた夏穂が笑顔でボールを差し出してきた。

 ・・・いつもとは全然違う。力のない笑顔で。

「夏穂さん・・・」

「白石くん、後はよろしく・・・、・・・ごめんね・・・」

「! は、はい・・・!」

 白石は夏穂からボールを託される。

「(夏穂さんから受けたマウンド・・・! 情けない投球はできない・・・!)」

 投球練習を終え、打席に立つ才田と対峙する。薄々この人には打たせてはいけないと白石は感じ、松浪のミット目がけて自慢の速球を投げ込んだ。しかし、才田はストレートを難なく流し打った。

「ううっ!?」

 打球はレフト線を破ってツーベースとなる。

「よっ!」カキン!

 続く福井にもライト前ヒットを放たれピンチ拡大。またも1アウト1,3塁に。

「(うっ・・・、どうしてこんな簡単に打たれる・・・?)」

才田は3塁から白石を見て誇らしげに笑う。

「(ウチは非力な奴が多い。秀英や古長、俺以外は強豪校相手には長打は難しい。だからこそ速球は逆らわず流し打てるように練習してる。みんな真面目にやってくれたしな。だから白石だっけ? お前は今のウチにとっては、カモ同然だ)」

 才田の考えた通り、白石はストレートは弾き返され、フォークは見極められる悪循環に陥った。流し打つことを意識することでボールを長く見られることによりフォークを見極められてしまっていた。菊地からは三振を奪うも、その後はフォークを見切られての四球と2本の長短打で3点を失ってしまう。ここで再び投手交代。杉浦へと交代する。杉浦は矢部吾に対しインコースのストレートで攻めると外角にカーブを決め見逃し三振。しかし聖森学園はこの回だけで7点を失う形となった。

 7回の表、この回に最低でも1点は取らなければコールド負けとなってしまう。

 しかし先頭の久米はファーストゴロでワンアウト。

 ここで打席には8番の竹原が向かう。

「(ここで打たなくては・・・、出られなかった他のメンバーに示しがつかん・・・!)」

 ストレートをファールにしてしまってから、冷静になってここまでの自分を客観的に見る。ストレートにはタイミングは合ってきている。だが追い込まれると縦スラを意識してしまっていた。それゆえに1打席目は低めの真っすぐに手が出なかった。2打席目も差し込まれてファーストファールフライ・・・。ここまでまるで歯が立っていない。ならば・・・、

「(狙うのは・・・!)」

 才田が投じた2球目、縦スラを前で捌くイメージでバットを振るう。

「(縦スラの落ち始め・・・!)」カッキイイイン!!!

 

「縦スラを弾き返したあ!?」

 才田が慌てて打球の行方を追う。レフトの高島も打球を追っていくが程なくして背後にフェンスが迫り、打球は落ちてこない。竹原の打球は起死回生のホームランとなった。

「ナイスバッティング! 大!」

「どんだけ飛ばすんだよ、お前!」

 聖森学園も少し息を吹き返したが才田もそう簡単に動じなかった。代打ででてきた元木をセンターフライに打ち取ると、空川にはライト前ヒットを浴びたが続く初芝を縦スラで三振に打ち取った。しかし希望はなんとか繋がった。

「よしっ、ここからもう1点もやらねーぞ!」

「「「おおっ!」」」

 7回裏は3番の古長から。ここまでレフトフライ、三振、レフト前ヒットと全部引っ張りだった。松浪はその上でリードを組み立てる。

「(これだけの引っ張り専だ。外の球にでも手を出し、引っ張りに来るはず。外のツーシームを打たせよう)」

「(わかった)」

 サインに頷いた杉浦はアウトロー一杯にツーシームを投げ込みストライクを取る。

「(次は・・・、いやもう一球ここに)」

 古長の反応を見て同じところに要求、これに古長は手を出してきた。

カッ!!「ファール!」

 強引に引っ張られた打球はかなりの速度で3塁線のギリギリを破っていった。

「(・・・あのコースも引っ張ってあの打球・・・、危ないな。1球外してからカーブで勝負しよう!)」

「(おっし、わかったぜ!)」

ストレートを見せ球に外してからカーブで勝負に出る。しかし・・・、

「(っ! 甘い!?)」

カッキーン!!!

 古長に対してのカーブは外角に要求したのだがやや真ん中に寄ってしまった。

「悪い、松浪。甘かったか・・・」

「切り替えろ、次で勝負だ!」

 打席には主砲の武、ここで杉浦の制球が定まらない。

「ボールスリー!!」

「クソッ・・・」

 松浪はインコース、杉浦が最も得意とするコースに要求していたのだが杉浦の頭からはどうしても先程のホームランが離れなかった。

 そして結局歩かせてしまう。ここで監督が動いた。レフトの久米をピッチャーに、杉浦をレフトに回した。久米は制球の面で杉浦より安定感がある。そう判断してのリリーフで先ほどの攻撃の間も投球練習はしていた。

「すまねえ、久米。あとは任せた」

「はい、何とかしてみます」

 ここで左打席に才田が立つ。ここまで3の2、長打2本の活躍。左対左の上、久米にはムービングファストがある。文武が今までの試合をしっかりと研究してきているのはよく分かっているが、こればっかりは初見で打つのは難しいはずだ。松浪がサインを出し、久米もそれに頷く。

「(アウトコースの、スライダー!)」

 投じられたスライダーは文句なしのコースに決まる。

「(問題は百合亜のムービングをどこで使うか・・・、か)」

 松浪は深く考える。久米の最大の武器であるムービングは変化量そのものは大きくない。初球で仕留めたいところだ。

「(ここで行こう。低めいっぱいに、ムービング)」

「(わかりました)」

 久米は要求通りのコースへと投じた。想定外のことがあるとすれば・・・、

文武が、聖森学園の予想以上に研究をしっかりしてきたことだった。

「悪いな! その球は、対策済みだぜ!」

才田は小さく変化するムービングファストに対して、とにかく強くバットを振り抜いた。

 快音とまでは行かないが痛烈な打球が、三遊間を破ろうとする。

「抜かせるか!」

 サードの満が打球に飛びついた。しかし、無情にも打球はグラブを弾いた。そして弾かれたその打球は大きく向きを変え、カバーに回った梅田をあざ笑うように傍を抜けていく。そして、2塁ランナーの古長は悠々ホームイン。

 

 そう、コールドを決めるサヨナラの1点だ。

「・・・そんな、」

「嘘だろ・・・」

「こんなところで・・・」

 聖森学園の各メンバーは皆立ち尽くしていた。特に1番の自信のあるボールを打ち返された久米はカバーに入ったホームの後ろで膝を突き俯いた。松浪はホームベースの傍で打球の方を見たまま立ち尽くしていた。

 サヨナラ打を放った才田は自分たちの努力が間違ってなかったことを確信する。

「(ありったけのデータを集め、何度も見返した。俺たちは実力では劣るから、その分頭を使うよう努力してきた。優秀な奴も多いし。なにより、立てた対策は今日全て実った。ムービング対策もそうだ。変化の小さなムービングには、芯が広くて太いタイ・ガップ型のバットが効果的だったわけだ。後は強く振り抜くだけだ)」

こうして新チームとなって最初の大会は3回戦にてコールド負けという結果に終わったのだった。

 

秋季大会地区予選3回戦

聖森学園 0100001  2

文  武 0000171×  9

           (大会規定により7回コールドゲーム)

 

 




 やっと投稿できた・・・。かなり文章構成に悩みました・・・。テンポ上げるつもりが上がってないし。もっと早くしたいですね。今回のおまけは文武にぶっこんだオリキャラです。

 才田翔矢 (2年) 右/左
 文武高校のエースでキャプテン。学校の掲げる文武両道に勉強面で苦しんでいたため、2年までは出場もままならなかった。しかし、ベンチ入りするとその実力を遺憾なく発揮する。何かを起こしそうな雰囲気と強いメンタルを持つ。変人揃いの文武高校でのトラブルの主な被害者は彼である。

 球速  スタ コン
145km/h  A  D
 ⇓ Vスライダー 5
 弾 ミ パ 走 肩 守 捕  守備位置
 2 C C C B D D  投D 外E
 ピンチ〇 打たれ強さ〇 闘志 ノビ〇 キレ〇 奪三振 根性〇 一発 
 チャンス〇 意外性 対エース〇 逆境〇 ムード〇 悪球打ち

この作品の中で好きな登場人物は?(パワプロキャラでもオッケー)

  • 桜井夏穂
  • 松浪将知
  • 空川恵
  • 久米百合亜
  • ここに上がってる以外!(コメントでもオッケー)
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