New Styles ~桜井夏穂と聖森学園の物語~   作:Samical

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 本当に遅くなってしまいました。すみません。
 ここから大事なパートなのでできるだけ間を詰めていきたいんですが・・・。


夏穂と最高の仲間たち
26 挑め! 最後の夏!


カキ――ン!! カキ―――ン!!

シュッ! バシッ!! シュッ! バシッ!

「へえ、やっぱり冷泉はなかなかやるみたいだな」

「そうだね。打撃も守備もかなりのものだね。守備位置もショートに加えてセカンド、サードもこなせるし。しかも同等レベルで」

 今は5月の末であり、入部した1年の中で今のところ唯一夏のベンチ入りに食い込もうとしているのは冷泉のみ。しかしユーティリティープレーヤーである冷泉もメンバー争いに加わったことで争いは激化している。あと半月ほどで決まるメンバー争いは榊原監督が提案した最後の紅白戦も参考にするということになった。

 紅白戦は各メンバーにほぼ平等に出場機会を与える変則ルールで行うことになり、前日にオーダーが発表された。

  紅組

1番 セカンド   冷泉

2番 ショート   梅田

3番 キャッチャー 松浪

4番 サード    田村信

5番 センター   初芝

6番 ライト    空川

7番 ピッチャー  杉浦

8番 ファースト  田中

9番 レフト    村井

 

  白組

1番 センター   露見

2番 セカンド   椿

3番 ショート   田村快

4番 ファースト  竹原

5番 サード    桜井満

6番 ピッチャー  桜井夏

7番 レフト    矢部川

8番 ライト    元木

9番 キャッチャー 雪瀬

 

 というスタメンで始まった。

 初回から夏穂と冷泉が対決することになる。

「(この人がこのチームのエースってとこッスか。ベンチ入りするためにも打たせてもらいますよ・・・!)」

「(白石くんたちから打ちまくってたし、実力があるのは分かってる。全力で勝負!)」

 夏穂は小さく振りかぶると体の力を目いっぱいボールに伝えて投じる。綺麗なスピンのかかったストレートはまっすぐとミットに突き刺さる。

「ストライク!」

 主審を務める榊原監督がコールする。各チームのサインはそれぞれでキャプテンを務める松浪と夏穂に任されており、交代のタイミングはあらかじめ決まっている。

「(! これが130中盤のストレート!? もっと速いだろ・・・!?)」

 冷泉は実際に打席に立つまで夏穂のことを軟投派の投手、130キロ台のストレートと変化球で戦うというイメージでいたのだが今の1球で考えを改める。続く高めのストレートにも振り遅れ空振り。そして・・・、

「くっ!?」

 3球目のチェンジアップにまんまと泳がされ三振を喫する。続く風太もスライダーを引っ掛けセカンドゴロ。そして迎えるのは、

「さてと、久々のガチ勝負だな。夏穂」

「トモ・・・! 打たせないよ!」

 夏穂のボールを知り尽くす松浪に対してどう配球しようかと氷花は考える。

「(まず・・・、アウトローいっぱいに、ストレートで・・・)」

「(OK!)」

 洗練されたフォームから夏穂がストレートを投じ、構えたコースに突き刺さる。松浪はほぼ動くことなく見逃しストライク。

「(・・・チェンジアップ、インローで。これでファールを打たせましょう・・・!)」

「(インロー、ねっ!)」

 2球目に投じたストレートとほぼ同じ腕の振りからのチェンジアップ。しかし・・・、

「もらいっ!」カキン!!

「えっ!?」

 松浪はタイミングをバッチリ合わせてボールを捉える。しかし打球はレフト線際には飛んだもののギリギリ切れていった。

「あれ、ちょっと早かったか」

「(・・・た、助かった)」

 氷花は一息ついてマスクをかぶり直す。チェンジアップは無し。となるとストレートかスライダーなのだが夏穂の様子を見るに投げたいのはストレートだろう。気持ちの乗った夏穂のストレートは簡単には打てないと踏んでインハイに構える。そしてまたしても要求通り来たストレートは今度は1塁側へのファールに。松浪が取っている独特の体重移動は他の構えと体重の足への乗せ方が独特で他の打者より松浪は緩急に強い。加えて選球眼が良いので不用意なボール球は自分の首を絞めかねない。甘い球も強く振り抜いてくるのでキャッチャーとして非常にやり辛い。1球ストレートを外に外して反応を伺うが。追い込まれているとは思えないほど落ち着いている。

「(氷花・・・、“アレ”。行こう!)」

「(使うんですね・・・。分かりました。・・・全力で捕って見せます!)」

「(うん! 頼むよ!)」

 夏穂は今日までずっと氷花と共に磨き上げてきたあの変化球を投げるつもりだった。松浪には本当は完璧になってから披露するつもりだったのだが・・・、今のところ夏穂と氷花の気持ちは一致していた。

“この好打者(トモ)(松浪)を今抑えるにはここで使うしかない”と。

 夏穂は小さく振りかぶっていつもと同じフォームから、いつもより指先に意識を集中し、可能な限りのトップスピンをボールに伝える。

「いっけええ!!」

 強烈なスピンのかかったボールはストレートに近いスピードでインハイへと向かっていく。

「(ここでもう1球インハイか! レフト前くらい意識で・・・っつ!?)」

 インハイの真っすぐと思って出した松浪のスイングが夏穂のボールを捉えることは無かった。そのボールは真ん中低めに構えられた氷花のミットに収まっていた。

「・・・ナ、ナイスボール! ですっ!」

「よっしゃー!!」

 夏穂も満面の笑みを浮かべてベンチへと引き返す。

「(なんだ今の? 高速スライダー? いや、あいつのはあんなに落ちない。となると・・・)」

今起きたことを理解した松浪はベンチへ向かおうとしていた夏穂に声を掛けた。

「・・・夏穂」

「? なに?」

「今のひょっとして・・・、パワーカーブか? それもちょっと違う気がするけど」

「流石トモ! でも、ちょっと違うんだ。あれはね御林さんのアドバイスの元、氷花と密かに磨いてきた新変化球! その名も・・・、“フルブルーム”! 」

「・・・なるほど。オリジナルの変化球ね。知らないうちにまた一つ強くなったんだな。・・・やっぱりお前は・・・、最高に面白いピッチャーだ!」

「えへへ、誉め言葉だと信じておくよ!」

 松浪はそう言うとベンチに引き返す。夏穂も意気揚々とベンチに引き返していった。

 

*         *       *         *

 

 一方の杉浦も負けていない。

「もう、相手が男か女かとか、関係ないぜ!!」

 いつもなら無意識にしていた力配分を無くして全力で投じる。露見、姫華と続く巧打者2人を力でねじ伏せた。

「杉浦さん、気合入ってましたね」

「うん、インコースにビシッと来てたねっ! あれは難しいなー」

 そして杉浦は3番の田村快を迎える。しかし、ここで不意打ちのセーフティーバントを決められて2死1塁に。続く竹原はアウトコースのストレートを引っ張るも伸びが足らずレフトフライに倒れた。3年生投手同士の投げ合いは3回まで繰り広げられた。結局どちらも無失点で抑えた。その後も投手戦が続き、紅白戦は2対2で終了した。

 

 試合の後、冷泉は自販機で購入したジュースを飲みながら試合を振り返っていた。自分の実力ならこのチームでスタメンの座に就くことは容易だと思っていた。だが自分のプレーに対し監督たちの反応は良くなかった。それが理解できなかった。

「椿さんより俺の方が打力も守備も勝ってるはずだ。なのに・・・」

「よう冷泉。何一人で黄昏てるんだ?」

 そこにやって来たのは松浪だった。

「いえ、別に・・・。ただ今日のプレーに納得が行かなかっただけです」

「ふーん。3打数1安打、守備もそつなくこなした。それじゃ納得も行かねーか」

「・・・ま、夏のスタメンはもらうつもりですけどね」

「あくまでスタメン決めるのは監督たちだから一概には言えねーけど。お前が必ずしも姫華に勝ってるとは俺は思わねーな」

「へえ・・・、俺はあの人に負けてると?」

「負けてるとは言ってない。人によって長所はそれぞれだし」

「俺は短所のない選手を目指してるんスよ? 弱点は無くしてきたつもりですが・・・」

 反論する冷泉に松浪は指で“5”を示して答える。

「5球」

「・・・なんスか、それ」

「お前が今日の3打席でお前に費やされた球数だよ。しかも最初の打席で3球だから後の2打席は初球打ち・・・。ヒット1本出たものの、もう1打席は初球のスライダーを当てっただけ。最悪の打ち取られ方だ。まあ、俺にとっては、だけど」

「それは・・・」

「対して姫華は同じく3打席で計24球。ヒット1本と四球1個を選んでる。守備もエラー無し」

「・・・」

「傍から見ればお前みたいに打てて走れる選手の方が上手く見えるだろうけど。姫華の本当のすごさは記録には表れにくいんだ。打席での粘り、打者に応じたポジショニングの変更、バントの成功率、右打ち技術、隙を突く走塁・・・、あいつはそういったところをずっと努力してきてるんだぜ。・・・あれ、グランド見てみろよ」

「えっ・・・、あっ・・・」

 松浪が指さした先には暗くなってきてなおノックを受け続ける姫華の姿があった。姫華のみならず多くの部員が素振りやノックなど、居残りで自主練をしていた。

「姫華だけじゃねえ。このチームにいる奴らはみんな、自分の弱さに自分なりにアプローチして、それを直しつつ長所を伸ばそうとしてる。だからちょっと自分が出来るからってスタメンが簡単に取れるなんて考えねーほうがいいと思うぜ」

「だ、だけど俺は中学時代から・・・!」

「その慢心こそ、お前の“弱点”だよ。 ・・・さて、俺は帰るわ。飯作んねーと」

「・・・さっきから勝手に上から物を言いやがって! アンタだって名門から誘いがあったのにそれを蹴ってここに来てるじゃないか! レベルの低いところに逃げて試合に出ようとしてるのはアンタもだろう! “夢尾井の知将”と言われたアンタが!」

 松浪の言葉に逆上した冷泉は松浪に向かって食って掛かった。しかし、この言葉が松浪の逆鱗に触れた。

「・・・おい1年坊主。お前みたいに、スタメン取る事しか頭にねー奴と一緒にするんじゃねえ。ここでスタメン取ったら野球が上手くなるのか? 試合に勝てるのか? んな訳ねーよ! 誰もスタメン取るためだけに頑張ってるんじゃねえ! もっとその先、甲子園目指して毎日死ぬ気で努力してんだ! 俺がここに来たのは憧れた人たちがここにいたからだ。俺はその人たちにたくさんのことをここで学んだ。名門校に行くよりも俺はこの決断が合ってると信じてる! 勝手にお前と俺とを比べんな!」

「っ・・・!」

 冷泉にとっては今の松浪は知将ではなく鬼神に見えた。松浪は冷泉に対して明確に怒りを露わにし、最後に背を向けて言った。

「言葉遣いにも気を付けろ。二度目は無いぞ」

「・・・は、はい」

「野球がちょっと上手いで終わるか、1流になるか・・・。自分で選びやがれ。前者を選ぶなら好きにしろ。後者を選ぶなら、覚悟見せてみろよ。お前の本気をよ」

 そう言って松浪は去っていった。一人残された冷泉は拳を強く握り近くの壁を殴りつけた。

「チクショウ・・・! 言いたいこと好き勝手言いやがって・・・!」

 冷泉にとって無性に腹が立つのは、冷静になって考えれば考える程、松浪の言っていたことが正論に近かったこと。そして・・・、

「(いつからだ・・・? 自分が試合に出ることばっかり考えて、チームメートともろくに口きかなくなったのって・・・。そもそも俺はいつから野球することを楽しめなくなったんだよ・・・?)」

 冷泉はケースにしまってたバットを手に取る。

「(もう少し・・・、本気でやってみるか・・・。このまま言われっぱなしは柄に合わねえ・・・)」

 

*       *      *        *         *

 

 

 そしていよいよ大会目前。抽選会の前日。私たち選手全員が集合して榊原監督からの言葉を待っていた。

「さて、今からこの夏のベンチ入りを発表する。選ばれなかった者は大会が終わるまでサポートを、選ばれた者はチームの代表としての自覚を持つように」

「「「はいっ!!」」」

「では背番号1! 桜井夏穂!」

「はいっ!!」

 1番に呼ばれた私は監督の前まで出てきて背番号を受け取った。

「エースとして、副キャプテンとして。投手陣をまとめてくれることを期待しているぞ。がんばれよ」

「はいっ!」

「続いて背番号2! 松浪将知!」

「はい!」

「キャプテンと扇の要の両方は大変かもしれんがお前ならその重責を果たせると信じているぞ」

「はい! ありがとうございます!」

 こうして次々と選手が発表されていった。メンバーは、

背番号1  桜井夏穂 (投手、3年)、副主将

背番号2  松浪将知 (捕手、3年)、主将

背番号3  竹原大  (内野手、3年)

背番号4  椿姫華  (内野手、3年)

背番号5  桜井満  (内野手、2年)

背番号6  梅田風太 (内野手、3年)

背番号7  初芝友也 (外野手、3年)

背番号8  露見環  (外野手、2年)

背番号9  空川恵  (外野手、3年)、副主将

背番号10 久米百合亜(投手、2年)

背番号11 杉浦智也 (投手、3年)

背番号12 雪瀬氷花 (捕手、2年)

背番号13 白石和真 (投手、2年)

背番号14 冷泉涼介 (内野手、1年)

背番号15 田村信  (内野手、3年)

背番号16 田中則之 (内野手、3年)

背番号17 矢部川昭典(外野手、3年)

背番号18 元木久志 (外野手、3年)

背番号19 田村快都 (内野手、2年)

背番号20 村井綾  (外野手、3年)

 

 無事3年生は全員ベンチ入り。1年からは冷泉が唯一のベンチ入りとなった。

「よっし、今年こそ初の甲子園出場目指して! やるぞ!!」

「「「おおおっ!!」」」

 

 そして抽選会が行われ今年の組み合わせが発表された。

「1回戦の相手は・・・」

「笹島高校か。公立の高校だな」

「相手がどこだろうと甲子園まで突っ走るよ!」

 

 迎えた1回戦。聖森学園のオーダーは、

1番 ショート   梅田

2番 セカンド   椿

3番 キャッチャー 松浪

4番 ファースト  竹原

5番 ライト    空川

6番 レフト    初芝

7番 サード    桜井満

8番 ピッチャー  桜井夏

9番 センター   露見

 おそらくこれが今のウチのベストオーダーだろう。そして試合は打線が爆発。強打でスタメンを勝ち取った満が7番に座る強力打線は相手投手から長短打を重ねて4回で14点を奪った。私も相手打線を5回でヒット1本に抑え込み。参考記録ながら完封。1回戦を14対0のコールド勝ちで突破した。

 

 2回戦は山野宮高校を相手に百合亜、白石くん、杉浦くんのリレーで1点に抑える。堅守の山野宮から思うように点が取れず、1-1で迎えた8回にトモ、大の連続ホームランで2点を奪いなんとか勝利した。

 

 3回戦は私たちにとっては3度目の対戦となる流星高校。しかし阿久津がいた時と比べれば絶対的な選手はおらず、地力の差を見せて7-2で勝利。

 これで準々決勝進出となった。

 

*      *      *       *      *

 

「今年はあんまり苦戦せずに来てるね!」

「今年は甲子園目指してるんだから、これくらいはできねえとな。次は準々決勝。今まで通りにはいかないぜ」

「わかってるよ!」

「ね~ね~。次の相手~、戦国工業高校だって~」

「戦国工業・・・? 毎年1、2回戦負けしてるところじゃねえのか?」

「なんだか・・・、今年は優秀な選手が多いらしくて、快進撃を進めてるそうです」

 風太の疑問に氷花が答える。

「例年の実力は関係ありません。今のその相手を全力で迎え撃つだけです」

「へへっ、百合亜。良く言った!」

 今の私たちはどんな相手が来たって負けない! 私たちは気合を入れ直し、対戦国工業戦へと向けて動き始めた。

 




 ちょっと駆け足で行きましたがここからは試合が長くなります(多分)。
 いいところになってくるのでできるだけ早めの投稿をしないと・・・。
 今回のおまけはゴールデンルーキー冷泉です!

 冷泉涼介(れいぜいりょうすけ) (1年) 右/左

 やや生意気な1年生。中学時代にはかなりの成績を残したが、名門校からの誘いは蹴り、家から近く”それなりに強いがスタメンは取れる”と考えて聖森学園の野球部に入部した。ただ入部してから選手たちがいかに努力しているかを目の当たりにし、考えを改め始めた。趣味はダーツでかなりの腕前らしい。

 弾 ミ パ 走 肩 守 捕   守備位置
 3 D D C C C E   一D 二C 三D 遊C 外E
 チャンス〇 初球〇 流し打ち 三振 プルヒッター 気分屋 悪球打ち ムード× 積極打法 積極守備 


【挿絵表示】


 次回もまたお願いします!

この作品の中で好きな登場人物は?(パワプロキャラでもオッケー)

  • 桜井夏穂
  • 松浪将知
  • 空川恵
  • 久米百合亜
  • ここに上がってる以外!(コメントでもオッケー)

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