New Styles ~桜井夏穂と聖森学園の物語~   作:Samical

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 年を越してしまいました・・・。パワプロ2018の発売も決定したので、それを楽しみにこの執筆も頑張ってきたいものです。
 加えてUA5000を達成させていただきました。本当にありがとうございます!
  あらすじ
 始まった最後の夏。快進撃で準々決勝へと駒を進めた聖森学園の次なる相手は戦国工業という謎多き相手だった。


27 討て! 仲間の思いを乗せて!

 いよいよ準々決勝当日。準々決勝は地方球場で行われ、今までよりも多くの観客が応援に訪れていた。私たち聖森学園はベスト4をかけて戦国工業と戦う。戦国工業は今年になって急に強くなったらしい。そんな中、両チームのオーダーが発表された。

 

 先攻、聖森学園高校

1番 ショート   梅田

2番 セカンド   椿

3番 サード    桜井満

4番 ファースト  竹原

5番 ライト    空川

6番 キャッチャー 松浪

7番 ピッチャー  久米

8番 レフト    初芝

9番 センター   露見

 

 後攻、戦国工業高校

1番 ショート   伊達

2番 セカンド   木下

3番 ライト    武田

4番 ピッチャー  織田

5番 キャッチャー 徳田

6番 センター   常盤田

7番 サード    矢部野

8番 ファースト  真田

9番 レフト    長曾我部

 

「エースで4番の織田が中心だな。他も粒ぞろいだけど」

「・・・ねえトモ、あの格好は・・・、なんなんだろう?」

「ツッコんだら負けな気がする・・・」

「なんかすごく強そ~」

「なんだかまるで戦争しそうな殺気だけどっ!?」

 

「当然じゃ!!」

「「「うわっ!?」」」

 恵や姫華と話していると大声で向こうからやって来た男が一人。

「ここは戦場! そして我らは今から命をかけ戦うのじゃ! 殺気立っていて何がおかしいか!」

「ちょ、信長さん! ストップ! ストップ!」

 するともう一人慌ててその男を止めに来た。

「常盤田よっ! なぜ邪魔をするか!」

「相手の人たちが引いてるから! 信長さんは正々堂々戦いたいんだろう!?」

「うむ。当然じゃ。全力でぶつかってこそ戦じゃ」

「だから変に脅しちゃダメだ! それより仲間のみんなの士気を上げてくれないか? 相手にあいさつするのはオレがするから。信長さんはみんなの方へ行く方がいいと思うしさ」

「で、あるか。ならば任せよう」

 と言って信長さん?は去っていった。

「いやー、驚かせてごめんな。俺はキャプテンの常盤田倫太郎(ときわたりんたろう)。さっきのは織田ってやつなんだけど、ちょっと前から自分は信長だって名乗り始めてさ・・・」

「うん・・・、まあ・・・、大変そうだね」

 それは何というか気苦労が絶えなさそう・・・。見た感じ信長さんだけでなく、他のメンバーもどう見ても戦国武将みたいな見た目してるし・・・。

「まあいい奴らだよ。それにあいつらも全力で甲子園、そして全国制覇目指してるし。この試合、良い試合にしよう!」

「望むところだよ!」

 そして試合は始まろうとしていた・・・!

 

 1回表、マウンドには織田が上がり、打席には風太が立つ。

「風太―! まずは出塁だぞー!」

「先頭大事だぞー!」

 初球、織田はダイナミックなフォームからボールを投じる。

「ストライク!」

「うおっ、速え!」

 バックスクリーンに表示された球速は147キロ。今まで対戦してきた中でもトップクラスに速い! 続く2球目もストレート。風太はスイングするも空振り。そして3球目は・・・、

「ふんっ!」

「なっ・・・!?」

 ストレートだと反応してバットを出した風太だったが、ボールは手前でストンと落ちてバットは空を切った。今のはおそらくSFFだろうか。

「これは厄介だね・・・」

「速いし~、落ちる球もあるし~。難しいな~」

 続く姫華はインコースに集められてセカンドゴロに倒れる。3番の満もSFFに苦しめられ高めのストレートを打ち上げてしまってショートフライに倒れた。

 1回裏、こちらの先発は百合亜。先頭打者は右打者の伊達。

「打てるものなら、打ってみろ!」

 百合亜は初球から伊達のインコースへとボールを投じた。伊達はスイングしたがやはり空を切った。百合亜最大の武器、カゲロウストレートをストレートと狙って振る限りは当てることはできないはずだ。結局伊達は3球とも空振りに終わり三振に倒れた。

「ナイスピー! 百合亜!」

「百合亜ちゃん! どんどん行くでやんすよ!」

「はいっ!」

 

 一方の戦国工業ベンチ・・・、

「信長殿、面目ない・・・」

「政宗よ、うぬが簡単に討ち取られてくるならば何かしらのからくりのある球を投げてきたのだろう?」

「は! 何やら得体のしれぬ速球であった! 速さはそれほどであったが・・・」

「信長さま、私が偵察して参りましょう」

「サルか、ならばおぬしに任せよう」

「は! 私に策があります。お任せください」

 

キン!「ファール!」

「くっ・・・、しつこい・・・!」

「百合亜! 負けるな!」

 今右打席に立つ木下にかれこれ10球ほど粘られている。カウントはまだ2-2。百合亜のカゲロウストレートはバットに掠らせる形でカットされている。

「ふふふ。この秀吉にかかればこの程度はお手の物。この“兵糧攻め”こそ拙者秀吉の得意な戦術よ」

「(こいつ、まじでカットに専念してやがるな・・・。できれば使いたくなったがあれを使うか・・・)」

「(仕方ないですね・・・、分かりました!)」

 百合亜がトモのサインに頷いてボールを投じた。それは・・・、

「!? 緩いボール! 記録には無かったはずだが・・・! とにかく当てねば!」

 百合亜が投げたのはサークルチェンジ。あの御林も得意としていたチェンジアップの1種である。カゲロウストレートの裏でタイミングを外すためのボールとして磨いていた。

それでも木下はタイミングを外されながらもなんとか捉えて3塁際へと引っ張り込んだ。

「この!」

 そこに飛びついたのはサードの満。線際の打球を横っ飛びでグラブの先でつかみ取った。

「アウト!」

「なんと! 今のを捕るとは敵ながらあっぱれじゃ!」

 土を払って立ち上がった満は百合亜にボールを投げて返した。

「あ、ありがと満。助かった」

「ピッチャーのしんどさはよくわかってるからさ。あれぐらいは捕ってやらねーと。ツーアウトな」

「・・・うん、ツーアウト!」

 続く武田はカゲロウストレートをひっかけてファーストゴロに打ち取ってスリーアウト。両チームが三者凡退というスタートとなった。

 

 その後も百合亜、織田の両投手は好投。百合亜は常盤田にセンター前ヒットを浴びるも、後続の矢部野をカゲロウストレートを意識させてからのスライダーで空振り三振に切って取った。織田はSFFに加え、高速スライダー、高速シュートといった高速系の変化球と力強いストレートで聖森学園打線を1巡パーフェクトに抑え込んだ。

 

「うむむ、どういうことじゃ。あの小娘の投手にここまで抑え込まれるとは・・・」

「うん、信長さんの言う通りだね。ことごとくやられているよ」

「常盤田よ。なぜお主は打てたのじゃ。それを広めんか」

「うん。まあ、でも。多分秀吉さんも気づいたんじゃないかな?」

「サルよ。それは本当か?」

「はっ! 信長様! 常盤田殿の言う通りでございます! 先ほど打席にて何球も見て気づいたのです。次の打席でヒットを打って見せましょうぞ」

「デアルカ。して、そのカラクリはなんじゃ?」

「それは俺が説明するよ。あのボールはさ・・・」

 

 カキン!

「あっ・・・!」

 4回表も三者凡退した後、その裏に百合亜は先頭打者の木下にあっさりと初球をライトに弾き返された。しかも打たれたのは・・・、

「今の打たれたのは・・・」

「カゲロウストレートでやんしたね・・・」

 百合亜のカゲロウストレートはムービングファストとは変化量が段違いで空振りも取れるレベルだ。しかしあの木下はおそらく選球眼も良く、バットコントロールも上手いのだろう。

「(さっきの打席を考慮してリードに注意を払ったつもりだったけど・・・、あんなギリギリまでボールを見てくる打者は久米にとってまさに天敵だな・・・。まあ、次の武田は・・・)」

 続く3番の武田はここまでの打席を見ても分かる通り振り回してくるタイプ。これなら・・・、

カツン!

「むう! またしてもやられたか!」

「信玄さん・・・、あれだけ叩きつけて打ってくれって言ったのに・・・」

 あっさりとカゲロウストレートを引っ掛けてくれた。武田のような打者は百合亜にとってはカモになる。トモもそのあたりを理解して甘めのコースにカゲロウストレートを要求したのだろう。しかし続く打者の織田は只ならぬ存在感を放っている。

「(織田はさっきの打席、ショートゴロ。カゲロウを引っ掛けてくれたんだけど・・・)」

「(久米のサークルチェンジは単体じゃまだ大したレベルじゃない。あれはカゲロウストレートと組み合わせることで真価を発揮する。ここはストレートか、カゲロウストレートか、スライダーか・・・)」

 百合亜がトモからのサインに頷く。しかし、ここで私はひとつ気になったことがあった。

「彩ちゃん、ここまで百合亜の球数って・・・」

「えっと・・・、っ!? うそ、72球!?」

「えっ・・・、そんなに!?」

 先発投手の72球はそれほど多いわけでは無い。だがまだ4回。しかも百合亜はカゲロウストレートを多投、カゲロウストレートはボールに強い回転をかけつつストレートのように力を入れて投げるので疲労が激しいと氷花が言っていた。しかも強力打線相手に飛ばして全力投球を続けている。加えて1打席目はショートゴロで全力疾走。

 悪い予感がした。そしてそれは的中してしまった。

「・・・っ! しまった!?」

 スライダーを投じたのだろうか。だけど、明らかに高い!

「ふん。甘いわっ!」カッキ――ン!

 失投を逃さず、織田はそれを捉えてレフトスタンドへ叩き込んだ。

「やったぞ、信長さん!」

「さすが信長様!」

 戦国工業は俄然盛り上がる。チームの要たる織田の先制ツーラン。流れは完全に戦国工業だった。

 

*      *      *        *       *

 

「・・・まただ・・・!」

 百合亜は悔しさに歯を食いしばった。秋に打たれたのが悔しくて。もうあんな思いをしたくなくて。様々な武器を磨いて夏を迎えたというのに。そしてこの夏に負ければ終わってしまうのは自分ではない。自分たちを励まし、引っ張ってくれた先輩たちの夢が終わるのだ。自分のせいで・・・。

「・・・!」

 悔しさで手を強く握りしめても力が入りきらない。カゲロウストレート、サークルチェンジを磨いてきた。だがその一方で、足りていなかったのは、基礎的な体力、握力。自分ならできると考えてやって来たのは、自惚れだったのか。

「久米、ピッチャー交代だ」

 松浪に声を掛けられた百合亜は弱弱しく返事をしてベンチへ引き返そうとした。しかしそこに声を掛けたのは意外な人物だった。

「・・・久米」

「白石・・・」

 白石は百合亜にボールを手渡すように求めながら話しかける。

「・・・俺はさ。高校に入るまで本格的に野球をしてこなかった。何も知らなかった。でも久米は全部持ってた。俺に無いものを・・・。だから久米は俺の憧れで、追い求める目標なんだ」

「白石がそんなこと思ってて、そんなに喋るなんてね・・・」

「・・・久米。まだ終わってない。この試合はまだ・・・」

「!」

「今までずっと久米が俺のミスを尻拭いしてきてくれたんだ。・・・だから・・・」

 白石はしっかりと久米を見据えてはっきり言った。

「今日はお前の仇は俺が取る。だから・・・、見届けてくれよ」

「・・・わかった。この後は・・・、任せた!」

 百合亜はボールを白石に託して白石の背中をポンと叩いてベンチへと戻っていく。

 ボールを託された白石に松浪が話しかける。

「今日は気合入ってんな。白石」

「はい。今日は絶対に・・・、打たせません」

「おっし。じゃあ・・・、飛ばしていけよ!」

「はいっ!」

 

*         *        *        *

 

「ふっ!」 ズバン!

「ほう、これは中々・・・!」

 白石は最初の打者の徳田はストレート3球で空振り三振に打ち取ると、打席には先ほどヒットの常盤田を迎えた。

「さっきの子とは一転して速球派か」

「ああ、こいつも厄介だと思うから覚悟した方がいいぜ」

「ご丁寧にどうも」

 白石は初球は強気のインコースのストレートから入った。その球速は146キロと表示された。

「今日の白石、走ってますね」

「うん、トモもそれを踏まえて直球メインでリードしてるし」

 ベンチに戻った百合亜は素直に感想を述べる。今日の白石の調子は今までで一番いい。その上に気合も入り、いい具合に力が入っている。

 

 2球目もストレートで外れてカウント1-1、3球目も内角へのストレートで常盤田はスイングし、ファールとなる。そして追い込んで4球目、トモのサインは・・・、

「! ここで外角か!」

 外のコースのボールに常盤田は咄嗟に反応してスイングしたが、

「まずい! これは・・・!」

 ボールはストンと落ちる。白石がこの夏まで磨いてきたフォークボール。結局白石はこれしか磨く余裕がなかったけど、その分ストレートが活きて来ればそれだけでこのフォークは脅威になる。これで三振。白石はこの回を見事切り抜けた。

 

 しかしこの後は試合は硬直する。5回の表は竹原がツーベース、恵は浅いライトフライに倒れるも松浪がヒットを放ち、1アウト1、3塁のチャンスを作る。白石がフォアボールを選んで満塁としたものの、織田が意地を見せる。環に対して押し出しを恐れぬインコース攻めで追い込むとこれまたパスボールを恐れぬ低めのSFFで空振り三振を奪った。2アウト満塁となって迎えた初芝くんも低め一杯のSFFを詰まらせてショートゴロに打ち取った。

 それ以降は織田も白石もランナーは出すものの互いに譲らず、試合は終盤戦へともつれ込む。1点が遠い聖森学園と2点のリードで逃げ切りたい戦国工業。

 そして8回の表、聖森学園の攻撃。先頭の白石は会心の当たりを飛ばしたがセンターライナーに倒れ、続く打者はここまでセカンドゴロ、三振と良いところのない環。しかしこの打席もカウントは1−2と追い込まれた。するとここで環が仕掛けた。

「! セーフティー!」

「なんと!?」

 織田が投じたSFFに器用にバットを合わせて3塁側に転がした。スリーバントな上、今までひとつも素振りを見せなかったバントという奇襲に、フォームの大きい織田に加えてサードの矢部野も出遅れた。俊足を飛ばしてチャージをかけた矢部野の送球よりも速く、環が1塁へと到達。さらに続く初芝くんもきっちりとバントを決め2アウトながらランナー2塁のチャンスをつかんだ。

「よっし! チャンスだ!」

「頼むぜ風太!」

 しかしここで戦国工業バッテリーが選択したのは・・・、

「! 敬遠!」

「風太も姫華もここまでノーヒットだけど・・・」

「打ち取られ方を見て、凡打でも芯で捉えていた風太さんより、ここまで力負けして打ち取られている姫華さんを選んだんでしょう・・・」

 

 敬遠を選択したのはキャッチャーの徳田だった。

「(信長様は『勝負から逃げるとは何事か!』と仰ったが、ここまでを見るにこの選択の方が確実。なんとか納得してもらった。この2番の女子には内攻めをすればどうということはないだろう)」

 そして梅田が敬遠され、2アウトランナー1、2塁となり迎えたのが2番の姫華。

「いっけー! 姫華―!」

「かっとばせ~!」

「かましてやるでやんす!」

「みんな・・・!」

 声援に後押しされ姫華は打席に立つ。しかしここまでセカンドゴロ、ピッチャーゴロ、サードゴロと全て詰まらされている。完全な力負けだった。

「(みんな応援してくれてる。監督も代打を出さなかった。・・・これに応えないでどうするのさっ!)」

 初球、インコースのストレートに対して姫華は普段はしない全力のフルスイングをした。

カッキ―ン!!

「むう!?」

織田と徳田は慌てて打球の方向を見たが、

「ファール!」

 打球は1塁線のわずかに外。しかし、ファーストの真田は反応できなかった。真芯で捉えた会心の当たりだったが・・・、

「惜しい! あとちょっとだったのに!」

「少し早かったか・・・!」

 姫華は一度バッターボックスから外れて素振りをする。

「(今のは決めておきたかった! 間違いなくインコース攻めと分かって打ちに行ったのに!)」

 一方で徳田も肝を冷やしていた。

「(一歩間違えればやられていた・・・! どうしたものか・・・、内を狙っているかもしれぬ・・・!)」

 すると織田は低めにSFFを投じるも見逃されボール。そして高速スライダーもボール。そして3球目、

「(外角へ逃げる高速シュート。これでカウントを稼ぎますぞ!)」

「(うぬ!)」

 織田は真ん中からやや外のコースからさらに外へと逃げるシュートを投じた。しかし姫華はこのボールに思いっきり踏み込んだ。

「このボール、逃さない!」

 姫華はずっと自分が非力なことを理解して練習してきた。そしてその理想としてきたのがコースに逆らわない打ち方だった。そして今日の試合の中で一つの理想形を見つけた。

 それは4回に百合亜から打った木下のライト前ヒット。これが姫華にとっての理想の具体的なビジョンとなった。

「(打ち返すんじゃなくて、受け流す感じで・・・、ここだ!)」カキン!

「「何とっ!?」」

 姫華の放った打球は飛びついた矢部野のグラブを掠めてレフト線ギリギリへと落ちる。

「よっしゃ! ナイスバッティング、椿!」

「姫華~! すご~い!」

「よっしっ! 私、やったよっ!」

 レフト線を破るタイムリーツーベース。これで1点入り、さらに2アウト2,3塁で3番の満を迎える。ここまでノーヒット、しかし満は姫華に打たれて少なからず動揺した織田の甘くなった初球を逃さなかった。

カッキ――ン!!

「む! しまった!」

「くそっ、追いつかない!」

 打球は右中間、常盤田が必死に追ったがボールはフェンスにまで到達した。一気にランナーが返って逆転、さらに満は3塁へと到達した。

「ナイスバッティング! 満!」

「さすが、私の弟!」

 さらに竹原も初球を弾き返し、もう1点をもぎ取った。恵は三振に倒れたものの、この回だけで4点を奪い、逆転に成功した。

 そして8回の裏。榊原監督は選手の交代を主審に告げた。

「聖森学園高校、選手の交代をお知らせします。サードの桜井満くんに代わりまして田中くん。背番号16。ピッチャーの白石くんに代わりまして桜井夏穂さん。背番号1。

 3番、サード、田中くん。7番、ピッチャー、桜井さん。以上に代わります。」

 聖森学園のマウンドにはエース、夏穂が立つ。

「ふむ、ここであちらの主戦投手が出てくるか」

「エースがここでか。・・・よくない流れだね」

「常盤田よ。心配は無用。我々は幾度となく窮地を乗り越えてきた。・・・違うか?」

「・・・そうだね、信長さん。まだ試合は終わってない!」

「そうじゃ! ここからじゃ!」

「まだ我らには勝機があるぞ!」

 織田と常盤田の言葉に奮い立つ戦国工業。

 

 しかし、その闘志を砕いたのは夏穂の快投だった。

ズバ――――ン!!!

「ストライークッ!」

「「「!?」」」

 夏穂のストレートがミットを鳴らすたびに戦国工業の戦意を削いでいくのを常盤田は感じていた。戦国工業の選手たちにとってはマウンドで躍動する夏穂の姿は可憐な少女では無く、鬼神の如き武将にさえ見えた。

 夏穂の正確なコントロールからのストレート、変化球のコンビネーションに8番の真田、9番の長曾我部だけでなく、1番の伊達さえも空振りの三振に倒れた。

「・・・まだじゃ」

 意気消沈するメンバーに織田が再び奮起を促した。

「まだ終わっとらん! あちらの攻勢を防ぎ、再び攻め込むのじゃ!」

「「「はっ!」」」

「(さすが信長さん。みんな引っ張り続けてくれるや。あと1イニング・・・)」

 織田は気迫の投球を見せた。松浪にヒットを浴びるも、夏穂を三振に。さらに露見をショートゴロゲッツーに打ち取った。

 しかし夏穂は止まらない。久米を苦しめた巧打者木下をも圧倒する。

 初球はインコースにストレート、さらに2球目にはアウトローいっぱいにストレートを決め、あっさり追い込んだ。そして3球目、

「む、ストレート・・・ッ!?」

 ストレートと思った木下の予想を裏切り、ボールはインコース真ん中から鋭く落ちた。

新変化球、フルブルーム。木下のバットは空を切り、なんと三球三振。

 続く武田も同じくフルブルームに翻弄され最後はアウトローいっぱいのストレートを見逃し、三振に。これで5者連続三振。そして打席に織田を迎えた。

「・・・ここで終わるわけにはいかん。我々は天下統一を目指しておるのじゃ・・・!」

「俺たちだって負けるわけにはいかねえのさ・・・!」

「ここで、終わらせて見せる・・・!」

 夏穂は凄まじい威圧感を放つ織田に対し、小さく振りかぶる。

 百合亜は先発投手としての責任を果たせなかったことに涙していた。そして白石はその仇を討ってやると7回まで相手を封じ込めて見せた。環、姫華、満たちも必死につないで点をもぎ取った。

 ならばエースナンバーを背負う自分が、不甲斐ない投球をするわけにはいかない!

「勝つのは・・・、私たちだっ!!」

 しなやかなフォームから、松浪のミット目がけて糸を引くようなストレートが放たれる。

「ぬうっ!!」

 織田のバットは空を切った。

「(信長さんのスイングがボールの下を振ってる。それだけボールが伸びてきてるってことか・・・!)」

 ベンチから打順が回ることを信じてヘルメットをかぶった常盤田はそう感じた。そして2球目、ここで夏穂が投じたのはスライダー。これはわずかに外れてボール。3球目はストレートと似た腕の振りから投じられたチェンジアップ。織田はタイミングが合わず空振り。これで追い込まれた。

「信長様!!」

「信長殿!!」

 ベンチから声援が飛ぶ。

「さあ、来い! 桜井とやら!」

「これで・・・、決める!!」

 夏穂は振りかぶって、大きく踏み出す。体をしならせ、全身の力をボールに伝える。そして一気に解放する!

 綺麗なバックスピンのかかったストレートが松浪の構えたインコースに突き進む。

「ぬおおお!!」

 織田も全てを込めたスイングでボールを叩き、捉えた。

キイイイインッッ!!

 という音を響かせ打球は高く舞い上がった・・・。

 

*         *       *          *

 

「・・・信長さん」

 球場の外で遠くの夕日を眺めていた織田に常盤田が声を掛けた。

 最後の織田の打席、高く舞い上がった打球は結果的にレフトフライに終わり、4-2というスコアで試合終了となったのだった。

「常盤田か・・・。どうした?」

「・・・力になれなくてごめん。みんなの全こ・・・、いや。天下統一の」

「・・・謝るのは我の方だ」

「えっ・・・?」

「今日この日まで、お前を散々振り回したのだ。迷惑をかけたな」

「どうしたのさ、急に・・・」

「まあ、時機に分かる。それよりお主に見せたい“舞”があるのじゃ」

「“舞”?」

「そうじゃ。お主にも何か感じるものがあるはずじゃ」

「・・・じゃあ、頼むよ」

「ああ。では・・・、“敦盛”。・・・人間五十年 下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり。一度生を・・・」

 

「どうじゃ?」

「さすが信長さん。舞もできるんだね」

「うぬ。人の一生など一瞬じゃ。まさに夢のごとく、な。その一瞬一瞬が勝負の連続なのじゃ。して常盤田よ、一度きりの人生。悔いの無きよう暴れてまいれ!」

「ああ!」

「さて、帰るか。お主は進むべき未来に向けて準備せねばならんだろう。我々もな」

「そうだね・・・。帰ろうか」

 常盤田は信長の様子がいつもと違うと感じたが、きっと試合に敗れて珍しく感傷的になっているのだと捉えて大きくは気にしなかったのだった・・・。

 

*      *     *      *       *

 

聖森学園のベンチ裏通路にて・・・、

「ついにベスト4! あと2つ!」

「ここまで来たからには甲子園行くよっ!」

「がんばろ~!」

「準決勝の相手はこの後にやるくろがね商業と文武の勝者だな。試合見て帰るぞ」

「オッケー! どっちが来ても負けないけどね!」

「ああ、その意気だ!」

すると正面から一人の男が歩いてきた。

「おうおう、女と仲良くベンチから撤収とはいい身分だなあ? “知将”さんよお?」

 夏穂たちが見るとくろがね商業のユニフォームに身を包んだ男だった。

「ん? なんだお前・・・っ!?」

「よお、松浪。久しぶりだな? 卒業式以来じゃねえか?」

 ニヤリと笑いを浮かべる男に。松浪が答える。

「そうだな・・・。そうか、お前はくろがねに行ってたのか。」

「おうよ。2番手捕手の俺なんかに誘いをかけてくれたからな」

「ま、お前の打撃ならどこでも通用するとは思っていたよ」

「相変わらず上から言ってくれるなあ、てめえはよぉ? まさかお前らはこんな無名校に進んでたとはなあ?」

「これから名をあげるのさ」

「いいや。お前らの夏は次で終わりさ」

 男はすれ違いざまに松浪に言い放つ。

「お前らはくろがねに負ける。そして俺たちが甲子園に行くのさ」

 そう言ってベンチへと向かっていった。

「トモ、誰? 今の無駄に態度でかいやつ!?」

「なんかムカつくっ!」

「まあまあ二人とも~」

「ああ、あいつはな・・・」

松浪は尋ねてきた3人に答えた。

「あいつは蓮賀堅介(れんがけんすけ)。俺と同じ夢尾井シニアの同期で、第2捕手・・・、だったけどそのずば抜けた打力で外野にコンバートされてた強打者だ」

 




 長くなってしまいました・・・。なんとか1話に押し込んでしまいましたが・・・。
 パワプロ2013はそれほどしっかりプレイしてないので所々曖昧でした・・・。
 今回のおまけは大会開始時の夏穂と松浪の能力。そして活躍が少なかった常盤田を紹介します。

 桜井夏穂(3年) 右/右

 最後の夏に挑む集大成。すべての面において大きく成長した。また夏穂の魅力にひかれた生徒たちによってファンクラブができてるが本人は知らない。ちなみにフルブルームの意味は”満開”という意味。

 球速    スタ コン 
140km/h C  A  
 ⇒Hスライダー 3
 ⇘フルブルーム 4
 ⇓チェンジアップ 3
  弾 ミ パ 走 肩 守 捕  守備位置 
  3 D E D D D D  投D 外野F
 ノビ◎ ピンチ○ 球持ち○ ケガしにくさ◎ 闘志 軽い球 速球中心  
 初球○ ムード○ 三振 積極打法 積極守備

 松浪将知 (3年) 右/右

 県外にもその名を轟かせる名捕手となった。いまや”聖森の知将”。足が速い訳でもなく、加えて盗塁が苦手なのだが、なぜか本人は走れると自信を持っているらしい(やはりサインは出ない)。

 弾 ミ パ 走 肩 守 捕  守備位置
 3 C B D B B B  捕B 一E 三E 外E
チャンス○ 送球◎ 広角打法 キャッチャー◎ 逆境○ 盗塁△ 選球眼 強振多用 

 常盤田倫太郎(ときわた りんたろう) (3年)右/左

 戦国工業のキャプテン。ここでは語られないが、通っていた高校の校舎が一夜にして戦国時代のお城のようになったり、部員が武将みたいになったりとなにかと苦難を乗り越えてきた。非常にお人好しだが芯の強い性格。選手としては抜け目のないオールラウンダー。

 弾 ミ パ 走 肩 守 捕  守備位置
 3 D B B B B B  外B
送球〇 レーザービーム バント〇 打球ノビ〇  

 武将たちの能力は割愛させていただきます・・・。ちなみに本家に登場する高校には、各校に一人以上は主人公的ポジションの選手がいます。例えば今までで言えば激闘第一の黒塚、文武高校の才田、今回の常盤田などです。
 次回はいよいよ準決勝! 松浪と因縁のある相手とアイツが登場・・・!?
 また次回もよろしくお願いします!

この作品の中で好きな登場人物は?(パワプロキャラでもオッケー)

  • 桜井夏穂
  • 松浪将知
  • 空川恵
  • 久米百合亜
  • ここに上がってる以外!(コメントでもオッケー)
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