New Styles ~桜井夏穂と聖森学園の物語~ 作:Samical
今回はいよいよ準々決勝第二試合と、準決勝です。
p.s. 秋内をおまけに追加しました
私たちと同じ地方球場で行われる準々決勝第2試合はくろがね商業高校と秋に私たちが敗れた才田、武を擁する文武高校の1戦。この試合に勝った方が準決勝で戦う相手だ。
「ねえ、トモ。くろがね商業ってどんなチーム?」
「個性的な選手が多いな。チーム戦術を得意としてる文武とはある意味真逆みたいだな。なんでも活躍によって校内通貨がもらえるらしい」
「・・・まあでも、お金に釣られただけのチームがこんなところまで来ないよね」
先攻 文武高校
1番 セカンド 鎌苅
2番 センター 矢部吾
3番 サード 古長
4番 ファースト 武
5番 ピッチャー 才田
6番 キャッチャー 福井
7番 ライト 菊地
8番 レフト 高島
9番 ショート 樋口
後攻 くろがね商業高校
1番 キャッチャー 大鐘
2番 センター 矢部兼
3番 レフト 宝塚
4番 ライト 蓮賀
5番 ショート パピヨン
6番 サード 祝井
7番 セカンド 大村
8番 ファースト 佐藤
9番 ピッチャー 銭形
ここまでの戦績を見たところ、1回戦では好投手を要していたというダン&ジョン高校相手に12回を一人で投げ抜いたスタミナがあるタフな投手らしい。しかし背番号は11。今まで1番を背負う秋内(あきうち)という投手は一度も登板していない。
先ほどトモに喧嘩を売ってきていた蓮賀は4番ライトで出場している。そして・・・、
「ねえ、あの謎のマスクマンは何なんだろ?」
「不審者にしか見えないよね〜?」
そう、白鳥?がついたマスクをかぶった選手がくろがねのショートにいる。メチャクチャ浮いてるし、怪しい。
「5番ショートのパピヨンだな。リリーフ投手も務める二刀流投手らしいな」
「・・・あの見た目で?」
「どうやらな」
そして試合開始。先攻は文武。そしていきなり・・・、
「さすが文武。手堅いね」
「ああ。先頭の鎌刈が粘ってフォアボールを選んで、続く矢部吾もキッチリ送ってあっさり1アウト2塁のチャンスだ」
さらに古長、武、才田の連打で3点をあっさり先制した。
「しっかり研究してやがるな。相変わらずリードまで研究してるみたいだ」
「厄介な相手だね・・・」
しかし、なんとここで速くもくろがねベンチが動いた。
「え・・・、ピッチャー交代・・・、どころかバッテリー交代!?」
「ここまでほとんど投げてきた銭形をもう諦めたのか!? にしても早すぎる!」
すると選手交代のアナウンスが流れ、スタンドがざわついた。
「くろがね商業高校。選手の交代をお知らせします。ピッチャーの銭形くんに変わりまして、秋内くん。背番号1。キャッチャーの大鐘くんがライト、ライトの蓮賀くんがキャッチャー。1番、ライト、大鐘くん。4番、キャッチャー、蓮賀くん、9番、ピッチャー、秋内くん。以上に変わります。」
銭形はわずか1/3イニングでの交代。そして秋内は今大会初登板となる。
「トモ・・・、どう思う?」
「蓮賀がキャッチャー復帰してたのか・・・。あいつら、何か企んでるな・・・」
* * * *
くろがねベンチ前・・・、
選手交代の時のベンチ前ではこのような会話が交わされていた。
「大鐘、銭形。俺の言ったとおりだったろ?」
「ですが納得できませんね。正捕手として背番号を頂いたのは私のはずですが」
「俺もスタメン入札でスタメンを勝ち取ったはずだ。なんで変えられなきゃなんねーんだ! 俺はまだやれる!」
レガースを装着している蓮賀に対して大鐘と銭形が反論していた。くろがね商業ではスタメンを校内通貨を用いたオークションで決定する。校内通貨の“Kマネー”が全て。それがくろがね商業高校の校風だった。
「わかんねーかな。今ので分かったろ? おめーらじゃ文武は抑えれねえよ」
「ふざけんな!」「心外ですね。たったの1イニングではないですか」
「ほう。たったの1イニング持たなかった奴らが吠えるじゃねえの。お前らは言っても聞かねえからカントクに言ってこうしたんだよ」
「「なっ・・・!?」」
「お前らはスタメンを落札したんだろうけどな。俺、秋内、パピヨンはカントクから絶対的な評価を得ている。金でしか何とかできないお前らとは違うんだよ」
「てめえ、それはこの高校の制度を全否定してるじゃねえか!」
「勘違いしてるのはお前だ、銭形。ウチの高校が本当に教えてえのは“金こそ全て”じゃねえんだよ。じっくりベンチで頭冷やして考えてな。・・・大鐘。お前は外野手としての評価の方が高いんだ。しっかり守ってくれよ」
「・・・わかりました」
「おい! 待て!」
銭形を無視して大鐘はライトへ、蓮賀はキャッチャーへと向かう。
「(悪いな、銭形。お前の努力は認める。だけど、勝つためにはこうするしかねえんだよ・・・。・・・お前は昔の俺そっくりだ。)」
* * * *
マウンドに上がった秋内は打席の6番福井を迎えた。秋内は投球練習を見た限り右のサイドハンド。これは厄介な投手かもしれない。
その初球。
「っ!?」
右打者の福井へのいきなりのインコース。あわやデッドボールとなるコース。そしてその2球目もインコースのボール。落ち着いている文武ベンチからも故意に投げてるだろうという文句が飛ぶ。
「(へっ。コントロールの良い秋内がわざとじゃない訳ねーだろ!)」
「(だますようで嫌だけど、勝つためだ。許してくれ!)」
続く3球目はインコースのボールからスライダーで入れてきてストライク。さらに、
「遠い!?」
外のストレート。ストライクゾーンだが、インコースに続けられて無意識に腰が引けていた聞だけ遠く見えてボールに見えてしまう。そして次の球は、
「(これはさすがに遠すぎる! 外に外れた・・・!)」
そう思って見逃そうとした福井だったが、
ググググッ!! バシイ!!
「ストライク! バッターアウト!」
「な・・・!?」
外から唐突に食い込んできたのはシュート。その曲がりの角度の鋭さに福井は反応できなかった。
「・・・良かったな。あいつをスタンドからとは言え、試合する前に見れて」
「うん・・・。あのシュート。キレ、スピード、曲がりの大きさ。どれをとっても1級品だね・・・」
新たにマウンドに上がった秋内の内外の投げ分けに文武打線は翻弄される。銭形を打ち込んだ上位打線さえろくにヒットを打てない。何より蓮賀のリードも悉く文武の裏を突いていく。
そんな中で才田は好投を続ける。新たに修得したらしきスローカーブを有効に使い、伝家の宝刀Vスライダー、ストレートのコンビネーションでくろがね商業を抑え込んでいた。
しかし8回裏のくろがね商業の攻撃。先頭の秋内がスローカーブを狙い打ち、出塁する。さらに・・・、
「!? 走った!?」
「マジかよ!」
「・・・ピッチャーだからって走らないで入れるほど余裕は無いしね」
なんと投手の秋内が躊躇いなくスタートを切り盗塁成功。さらに大鐘もストレートを弾き返す。この間に秋内はあっさりとホームを落とし入れ、1点を返した。
「トモ、流れが変わりつつあるんじゃない?」
「ああ。多分くろがねはある程度Vスラを捨ててきたな」
Vスライダーは速度もあり、変化が大きい。そのため空振りが増えるがその分ストライクを見逃しで取るのが難しい。くろがねはおそらく狙っても打つのが難しいVスライダーを捨ててスローカーブとストレートに山を張っているのだろう。そしてその作戦がくろがねの潜在能力の高い選手たちによって実りつつある。
カキン!!
「くそっ、こいつはまずいな!」
「才田、落ち着けよ。まだ点差はあるんだ」
「ああ、秀英。わかってるさ。ただこれは本当にヤバイかもしれない」
その予感は当たる。続く矢部兼にもストレートを弾き返される。宝塚にはVスライダーを続けるが見極められフォアボールに。これで0アウト満塁のピンチ。ここで迎えるのは・・・、
「4番、キャッチャー、蓮賀くん」
「はは、ここでこいつかよ」
ここまで3打数の2安打、リードでも文武を翻弄してきた蓮賀が左打席に立つ。
「才田だったか? お前はいい投手だったぜ。ここまで見極めるのに時間がかかるとは思わなかったぜ」
「・・・それは誉め言葉として受け取ってもいいかい?」
「ああ。俺にとっちゃ最高の誉め言葉のつもりだ」
「悪いけど、まだ負けるつもりは、」
才田はセットポジションからボールを投じる。
「無いんだよ!」ズドン!!
「ス、ストライク!!」
才田はここで今日1番のストレートの走りを見せた。
「ほう、まだこんな球投げれるのか」
「俺たちも負けるわけにはいかないんでね」
続く2球目もストレート。これは差し込まれファール。その後1球外れてカウントは1-2。
「(これで決める!!)」
才田と福井が選択した4球目はVスライダー。高さもコースも完璧。ここ一番で最高のボールを投げ込んだ。
「・・・お前ならそのコースに決められると思ってたぜ!」
「なにっ・・・!?」
その完璧なVスライダーを、蓮賀は一振りで捉えた。
カキ――――ンッ!! と快音を響かせ打球はバックスクリーンに直撃する。
「ぎゃ、逆転だー!!」
「逆転満塁ホームラン!!」
「これほどとは・・・、読み違えたな・・・」
「ははは、あそこまで飛ばされちゃ、逆に呆れて来るや・・・」
「ここまでアンビリーバブルな奴だとはな・・・」
文武の心もへし折る一撃。それでも才田はこの後も投げ続けたがその後も追加点が入り、9回にはパピヨンがリリーフして打線が逆転することは叶わず、8-3で試合は終了したのだった。
* * * *
「結局ワンサイドゲームだったね・・・」
「銭形が出てくるかがわからねーけど、基本的には秋内、パピヨンの好投手2人。それに加えて大鐘、宝塚、蓮賀に注意しねえとな」
「・・・あ、君たちは確か聖森の・・・」
「「才田!?」」
松浪と夏穂が出会ったのは文武のマウンドに立ち続けた男、才田だった。
「君たちともう一回やりたかったんだけど、この様さ。本当に情けない」
「ああ、俺たちもお前らにリベンジしたかった」
「他のメンバーはいいの?」
「みんなしっかりしてるからな、意外と。・・・まあ、変な奴も多いけど。・・・それと蓮賀だったか。あいつは相当ヤバイ」
「ああ、知ってる。あいつは元チームメイトだしな。とはいえ、あれほどとは俺も驚いてる」
「あいつは単純に打撃がすごい、とかリードがすごい、とかいうよりも・・・何と言うか・・・」
少し才田は考えてから松浪たちに告げた。
「先回りされてる、って感じだった」
「「先回り?」」
「ああ。こっちが何かしようとしたら、その対策をするんじゃなくてそれを受けた上で返しの一手を用意してる。・・・上手くは言えないけど・・・、まあ、がんばってくれ。応援してるよ」
「ああ」
「ありがとね!」
そう言って二人は才田と別れた。
「さて、何をしてこようがあいつらを倒して決勝へ。そして甲子園に行くぞ!」
「当然!」
* * * *
その2日後・・・、県内でも最も大きな球場。その名もドリームフィールド夢ヶ咲。天然芝の使われている綺麗な球場でプロ球団“夢ヶ咲タイガース”の本拠地。夢尾井と地名が似てるけどそれは隣の市だから。この辺りは“夢”が入る地名が結構並んでるロマンチックな地域だったりする。
それはさておいてプロも使用する球場で準決勝、決勝を戦うことになった。しかもここからはテレビ中継もされるそうだ。そして準決勝の相手は準々決勝にて文武高校を破ったくろがね商業。そして試合開始の時刻が近づき、間も無く両校のオーダーが発表された。
先攻 くろがね商業高校
1番 ライト 大鐘
2番 センター 矢部兼
3番 レフト 宝塚
4番 キャッチャー 蓮賀
5番 ショート パピヨン
6番 サード 祝井
7番 ファースト 佐藤
8番 ピッチャー 秋内
9番 セカンド 大村
後攻 聖森学園高校
1番 ショート 梅田
2番 セカンド 椿
3番 サード 桜井満
4番 ファースト 竹原
5番 キャッチャー 松浪
6番 ピッチャー 杉浦
7番 ライト 空川
8番 レフト 初芝
9番 センター 露見
くろがねが少しオーダーをいじり、こちらは先発が杉浦くんである以外は大きな変化はない。
「松浪。この試合、楽しめよ。・・・お前らの最後の試合になるぜ」
「その大口叩きは昔から直ってねーな・・・」
「悪いが事実になるさ」
トモと蓮賀が火花を散らす。この試合は2人にとっても大事な試合になりそうだ。
そして、プレイボールとなった。
先攻はくろがねで、右打席に立つのは大鐘。ぽっちゃりした体格だが前の試合を見た限りは抜け目の無い実力をした万能型の選手だ。
「さああ、きばってこー! 杉浦くん!」
「初回、大事に行きまししょう! 杉浦さん!」
ベンチから百合亜と一緒に声援を飛ばす。試合前の様子を見ていたら相当気合が入っていた。それが空回りしてないといいんだけど・・・、
ズバン!!「ストライク!」
どうやら杞憂だったみたい。初球から代名詞とも言えるインコースへのストレートを決める。いい感じにテンションが上がってるのだろう。
「どりゃあ!!」ズバーーン!!「ストライク、ツー!!」
「むむむ、これは想像以上ですね」
打席の大鐘も事前の情報以上の投手であると気付いたのか、ミートに徹しようとしたけど、
「! カーブ!」
ここで得意球の大きなカーブを低めに決めて空振りの三振。さらに2番の矢部兼にもカーブで追い込むと、インハイのまっすぐで2者連続で三振を奪う。3番の宝塚はスイッチヒッターで左打席に立った。杉浦くんは宝塚にはにはカーブをうまく見極められ、カウント3-2。そして6球目には外角から入る大きなカーブ。宝塚はうまくバットに合わせてファールにして見せる。
「いいカーブだけどこれじゃボクは打ち取れないよ」
「さあ、どうかな?」
杉浦くんは7球目にも外角から同じようにカーブを投じた。
「だからそのボールは・・・!」
宝塚は大きく踏み込み打ちに行った。しかしこのカーブはあまり曲がらずに外のボールゾーンに構えられたトモのミットに収まった。
「曲がらなかったでやんす!?」
「あれ、杉浦くんがずっと練習してた小さいスローカーブだね」
スローカーブは本来変化の大きな球種だけど、杉浦くんはそれをあえて小さなものにすることで得意のカーブとの区別化をしたみたい。
「よっしゃああ!」
「ナイスピー杉浦!」
「珍しいね。月斗がボールを振らされて三振なんて」
「あの野郎にうまくやられたな。まあ仕方ねえ部分はあるが」
「蓮賀、どういう意味だい?」
「あの大きめのカーブと小さめのカーブはグラウンドレベルで見ねえと違いが分からなかったからな」
「なるほどね」
「まあ打ち崩すのは俺らの仕事だ。秋内、お前は自分の仕事に集中しろ」
「オーケーオーケー。やってみせるよ」
カキン!!
「あれ?」
1回の裏、先頭の風太に初球をヒットにされると、
カツン!
「むむ、仕方ない」
2番の姫華にきっちり送られる。
蓮賀は早めにマウンドの秋内に駆け寄った。
「おい、あっさりピンチになってんじゃねえか!」
「スライダーをこうも簡単に打たれるとはね・・・」
「まあそれはあるかもしれねえな・・・」
「・・・シュートは出し惜しみできないね」
「仕方ねえ。ガンガン出していくからしっかり投げてこい!」
「分かった!」
「(1アウト、2塁。風太さんの足ならワンヒットで帰ってこれるはず・・・!)」
打席に立つ満は冷静に秋内を分析する。しかしその初球はインコースへのストレートだった。
「ッ!」
「ストライーク!!」
プレートの3塁側を踏みながら、サイドハンドで投じてくる秋内の内角へのストレートは左打者の満から見ると想像以上に角度があった。
「(あれは張らずに打ちに行ったら間違いなく詰まる・・・!)」
続くボールもインコースへ。先ほどのボールより打ちに向かってきた。
「(! これは当たる!?)」
思わず満は身を引いたが、そこからボールはインコースに構えたミットに吸い込まれるように曲がった。
「ストライク、ツー!」
「なっ!?」
「あの配球は相当面倒だね・・・」
「あのシュートは一筋縄ではいかねえな・・・」
「(ぐっ・・・、内か? 外か? 全然わからない・・・!)」
「(へへっ、迷え迷え・・・)」
そして3球目は外角へのストレートだった。しかし満は手が出ず、見逃し三振。インコースが目に焼き付いて外のボールが遠く感じたのだった。
2アウトになって竹原が打席に立つ。そしてまたしてもインコースへとストレートが続く。そして1-1の平行カウントからの3球目、ボールは真ん中よりのコースへとやってきた。
「(これは捉える!)」
竹原はフルスイングしたがボールは急激にシュート方向に曲がり、竹原の足に当たった。
「うおっ!?」
「しまった!」
当たったボールは1塁側へと転がっていく。慌てて蓮賀は拾いに行くが風太は3塁を陥れた。しかし今のシュートは聖森側の選手に強烈なイメージをつけてしまう。
「(真ん中からバッターに当たるぐらい曲がっちまうのか・・・!)」
「(とんでもないキレでやんす・・・!)」
そしてやはり竹原も腰が引けてしまったのか。外のスライダーに手を出し、空振り三振。2アウト3塁のチャンスは無得点に終わった。
「(この感じならしばらくは凌げる! あとはアイツを打ち崩すだけだ!)」
しかしここから試合は硬直する。くろがねはヒットを出すものの、要所を好守に阻まれ点は奪えない。一方で秋内はヒットさえも碌に打たせぬ好投を見せた。5回までに聖森の出したヒットは初回の風太と4回の竹原のみ。
そして6回の表。先頭の矢部兼は三振に仕留めるも宝塚にインコースの真っすぐを弾き返されてツーベースを浴びる。1アウトランナー2塁で打席に迎えるのは4番の蓮賀。
「(嫌なところで回ってくんなー、こいつ)」
「(ここで点を取れれば流れは間違いなくこっちに来る!)」
松浪、蓮賀の両名はそれぞれ考える。松浪は敬遠するかの選択肢も頭にあったが、
「(かといってここで逃げてたらこの後に差し障る! ここは抑えに行く!)」
「(当然だぜ!)」
杉浦は松浪のサインに頷き、初球を投じる。アウトコースいっぱいへの際どいコースはボールの判定。
「(今の、入っててほしかったな・・・)」
続く2球目は大きなカーブでストライクを稼ぐ。カウントは1-1。
松浪のサインは内角低めへのツーシーム。杉浦は思い切って腕を振り、サイン通りに投じた。
「この程度か! 甘いぜ!」カッキーーン!!
「「!!」」
蓮賀はツーシームを下からすくい上げるようにして捉えた。快音を響かせた打球は左中間を真っ二つに。
「くろがね商業! 主砲、蓮賀のセンターへのタイムリーツーベースで先制―!! 均衡を崩したのはチームの柱、蓮賀。この男だったー!」
中継をしている実況者がテンションを上げて伝えている。それだけにこの1点は大きい。
「(こんなことで・・・、この程度で・・・、)」
続くパピヨンも強打者。しかし、杉浦は臆することなく立ち向かった。
「折れてたまるかってんだよおお!!!」
「甘い!」
パピヨンはやや甘く入ったストレートをジャストミート。快音を響かせた打球はセンターへと抜ける・・・、と思われたが。
バシッ!!
「「!」」
杉浦が手を伸ばしそれをつかみ取っていた。そしてそのまま2塁へと送球。ランナーの蓮賀は戻り切れずにダブルプレーとなった。
「ナイスキャッチ! 杉浦!」
「よく反応したね~」
「へへっ、なんか手を伸ばしたら入ってたぜ。それより、悪い。1点取られちまった」
「まだ1点だよ! それくらいサクッと返そう!」
「「「おおおっ!!」」」
しかし6回の攻撃もあっさりツーアウト。姫華が内野安打で出塁するも満は芯で捉えた当たりがセンタライナーとなり無得点。7回の表は杉浦が立ち直り、三者凡退に抑えた。
7回の裏。先頭の竹原はサードフライに倒れ、迎えるのは5番の松浪。
「松浪、そろそろ決めさせてもらうぜ」
「いや・・・、そろそろこっちも反撃させてもらうぜ・・・!」
「へっ、言ってろ・・・」
初球、秋内が投じたのはインコースへのスライダー。松浪は体を引くがストライク。続く2球目はストレートを外してカウント1-1.
「(さっきの打席、コイツは打ち取りはしたがいい当たりを打っている。そん時はストレートだった。ストレートでストライクを取るのは避けたい・・・)」
となるとスライダーかシュートのどちらか。蓮賀が選んだのは・・・、
「(外から入るシュート! 簡単にヒットにはできねえはずだ!)」
秋内は頷いてサイン通りの球を投げる。しかし松浪は迷わず踏み込んでいた。
「なにっ!?」
カッキーン!
松浪は外のボールゾーンから入ってきたシュートをうまくバットに乗せてライト線へと弾き返す。松浪は一気に2塁へと到達。1アウト2塁のチャンスが訪れた。
「(ちっ、配球が単調だったか?)」
「(・・・焦ってストライク取る必要なかったろうに)」
杉浦は送りバントを決め、2アウトながら3塁のチャンスを得た。
「恵―! いっけー!!」
「かっ飛ばせでやんす!!」
応援の声が飛ぶがここまでの恵はショートゴロと三振。シュートとストレートのコンビネーションにやられていた。
「(スライダーだけは違うってわかるんだけど~、シュートとストレートの区別がつかないんだよね~)」
恵の中ではスライダーは軌道が違うのでわかると判断したが問題はストレートとシュート。途中まで区別がつけづらく、どちらかに決めつけてしまうとまず打てない。そしてこの打席も追い込まれてカウントは1-2。
「(スライダーは今来たから、次は多分シュートかストレート・・・)」
秋内が投じる5球目、恵は一つの賭けに出た。追い込まれている以上、どちらかに張るのは危険。だったら・・・、
「(シュートとストレートの間ぐらいを・・・!)」
恵は絶対に逃せないこのチャンスでも、己を貫き通す。
「(全力の、フルスイング!!)」
結論から言えば来たボールはストレートで、恵はバットの根っこでボールを捉えた。
「いっけえええ!!」
鈍い音を響かせた打球はふらふらと力なく上がった。くろがね商業のバッテリーは打ち取ったと確信した、しかし・・・、
「打球は・・・、ふらふらと、意外と伸びます!」
実況がそう伝えると同時に・・・、打球は追いかけていた佐藤と大村のわずかに後方にポトリと落ちた。
「なんだと!?」
「よっしゃ~!」
「聖森学園! 7番空川の意地のタイムリーで同点! 試合を振り出しに戻しました!!」
「(くそっ、フルスイングをした分、打球が伸びたのか! ・・・敵ながらこの場面であれだけ振れるのはあっぱれだぜ。・・・だがここで止める!)」
ここでくろがねベンチが動く。蓮賀はそれに驚いて監督を見た。
「監督! ここで代えるんすか!? まだ秋内はいけるッスよ!」
「流れは向こうに来ている。・・・これを断ち切るにはパピヨンを出して捻じ伏せて貰う他ない」
「しかし秋内はまだ・・・。それにパピヨンも・・・」
「分かっている。だから秋内もフィールドに残すさ」
「くろがね商業高校、シートの変更を行います。レフトの宝塚くんがショート、ショートのパピヨンくんがピッチャー。ピッチャーの秋内くんがレフトに入ります」
「ここで代えてくるか・・・」
「パピヨンもかなり手ごわいよね・・・」
「ああ、だがとりあえず追いつけた。試合はまだまだこれからだぜ」
マウンドに立ったパピヨンは先頭の初芝に対してストレートで真っ向勝負を挑む。最速148キロをマークした直球攻めの後に大きく落ちるドロップカーブを決められ、初芝は三振に倒れた。
8回の杉浦はツーシームが冴えわたり、大鐘を打ち取った後に矢部兼にフォアボールを出すが、宝塚にツーシームを引っ掛けさせてゲッツーを奪い、無失点で切り抜けた。
「よし! 流れは来てる!」
「一気に押し切るぞ!!」
聖森学園のムードが高まりつつある中、榊原監督がカードを切った。
「聖森学園高校、選手の交代をお知らせします。バッター、露見さんに代わりまして、冷泉くん。背番号、14」
代打に送られたのは冷泉。マウンドのパピヨンを一度見やると一度大きく深呼吸して打席に立つ。
「(こいつが聖森のゴールデンルーキー。何度か代打で出てるが、相手が相手だったし、当てになんねえ。・・・様子見するか?)」
蓮賀はアウトローにストレートを要求した。パピヨンは頷いてボールを投じる。
「思ったより、単純ッスね!!」カッキーーン!!
「うお!?」
アウトロー、147キロをマークしたストレートを冷泉は軽々と打ち返して三遊間を破って見せた。
「(あいつ、マジで直球には滅法強いんだな)」
そしてすかさず代走が送られる。冷泉は渋ったが、代わりのランナーを見て渋々納得する。
「1塁ランナー、冷泉くんに代わりまして矢部川くん。背番号17。」
登場したのは俊足の矢部川。パピヨンも執拗にけん制して盗塁を警戒する。
「(このレベルの代打がいたとは想定外だった。にしてもやべえな)」
パピヨンが投じると同時に矢部川もスタートを切った。
「初球スチール! なめんじゃねえ!!」
蓮賀も無駄なく2塁へ送球、矢部川は頭から滑り込んだ。
「セーーフ!!」
「ナイスラン矢部川!」
「男だね!!」
0アウト2塁。風太はバントの構え、パピヨンが投じたのは・・・、
「やべっ! インハイ!」
慌ててバットを引くがノビのあるストレートが引ききれなかったバットに当たってしまった。力なく上がった打球は蓮賀がつかみ、ワンアウト。
「(よし、これで・・・)」
安堵した蓮賀だったがすぐさま再び苦しくなる。姫華は必死にパピヨンのボールに食らいつき、粘る。これは蓮賀が危惧していたことの一つ。
パピヨンのスタミナ不足だ。
度重なる連戦を最初は銭形とパピヨンで、ここ2試合は秋内とパピヨンで戦ってきた。元々パピヨンはスタミナがある方では無い。打撃、走塁、守備、投球。このいずれもチームを引っ張る彼は練習時間が限られてしまう。そのうえ野手としても出場。だからこそ蓮賀はパピヨンの起用法を守護神に限定しておきたかった。しかし、今日の試合の状況がその判断を焦らせてしまった。
ただでさえ厳しいこのスタミナ事情にさらに粘られるのは辛い。
「ボール! フォア!」
「よし! よく粘った、姫華!」
10球投げさせられ、フォアボール。1アウト1、2塁。ここで迎えるのはここまでノーヒット。しかし前の打席でセンターライナーを放った満。
「(理想はゲッツー・・・、最悪2アウト1.2塁になりゃいい!)」
パピヨンの初球はフォークが抜けてボール。明らかにパピヨンは疲れてきている。
「(頼む、ここは何とか耐えてくれ!)」
「(分かっている。私はこのチームを勝たせるためにここに来たんだ! こんなことで!)」
パピヨンの投じたボールは球威こそ衰えていなかったがやや真ん中に寄った。
「(やべえ!)」
満はそれを芯で捉え、弾き返す。会心の当たりだったが矢部兼の守備範囲だった。これで2アウト。
「大―!! 打てー!!」
「負けるなー!」
打席には4番の竹原。パピヨンはストレートで何とか追い込む。危ないファールも打たれていたがカウント1-2は俄然投手有利。
「(ここで・・・、断ち切る!)」
パピヨンが投じたのはドロップカーブ、しかしそれはまたしても真ん中に寄ってしまった。
「(大きいのは、必要ない!)」
竹原は真ん中に入ってきたドロップカーブを軽打する。打球はレフトへ―。
「バックホーム!!」
秋内が猛チャージしてボールをホームへと転送。さすが投手だけあって好返球が返ってきた。突入してきた矢部川も迷わず3塁を蹴った分、タイミングは際どい。
「(ぜってー止める!!)」
「(絶対に帰って見せるでやんす!)」
蓮賀はホームを守る門番として、矢部川はずっと磨いてきた自分の武器を最大に発揮するため。2人は互いにこのプレーで負けるわけにはいかなかった。
「「うおおおおお!!!」」
蓮賀は送球を捕球すると矢部川をアウトにすべく手を伸ばす。タイミングは完全にアウトだ。そう確信した蓮賀だったが矢部川はグラウンドの内側から飛びついて手を伸ばした。
砂埃が舞い、グラウンドが静まり返った。その静寂を破ったのは主審のコール。
「セ―――フ!!!」
「勝ち越し! 勝ち越しです! 代走の矢部川が執念でセーフをもぎ取りました! キャッチャーのタッチをかいくぐる素晴らしい走塁―!!」
「やられたっ・・・」
聖森はついに大きな1点をもぎ取ったのだった。
そして最終回、聖森学園は再び選手を代える。
「聖森学園高校、選手の交代をお知らせします。代走しました矢部川くんがそのまま入りセンター。ピッチャー、杉浦くんに代わりまして、桜井夏穂さん。ピッチャー桜井さん。背番号1」
球場は大きな歓声に包まれた。ここまで度々好投を見せてきた夏穂はその実力とルックスから少しづつ人気を集めていた。そして迎える先頭打者は・・・、蓮賀。
「まだ終わってない! お前を打ち崩してやらあ!!」
蓮賀は気合を入れて打席に立つ。もうあれこれ考えない。ただ目の前の投手と戦うだけだ。
その初球、糸を引くような軌道のストレートはミットを大きく鳴らした。
「ストライーク!!」
スピードガンは138キロを示し、蓮賀は納得する。
「(なぜこの程度の球速を多くの打者が空ぶってきたのか。よくわかったぜ。確かに、球速以上に速く見えるな・・・)」
続く2球目も振っていくが今度はスライダー。ファールが1塁側へと飛んだ。夏穂は大きく振りかぶり、3球目を投じる。ボールは3球勝負の、ストレート。
「舐めるんじゃねえええ!!」
蓮賀はタイミングを早めに取って、138キロのタイミングでなく、見た目通りの球速のタイミングでバットを振った。タイミングはバッチリだった。しかしバットに感触は無い。
夏穂のストレートは、蓮賀のバットの上を通過してミットに収まった。
「ストライーク!! バッターアウト!!」
わあっ、とスタンドが盛り上がる。蓮賀を打ち取った夏穂のストレート。バックスクリーンに表示された球速は、140キロだった。
パピヨンも三振に切って取り、6番の祝井も追い込んだ。その様子を杉浦はベンチから眺めていた。気づけば夏穂はずっと大きな存在になっていた。
入学当初。自分を含めて投手は4人。高校野球では少なくても投手は3人はいる。そして自分の同学年の投手は女子。負けるわけないと思っていた。実際、秋はベンチ入りを果たせた。しかし、夏にはその夏穂にベンチ入りの座を奪われた。そして気づけば、投手陣は激しい競争となっていた。ストレートの質で他を圧倒する夏穂、豪速球が武器の白石、投球術で勝負する久米。気づけば置いて行かれていた。そして夏の背番号が決まった後、杉浦はあることを悟った。
自分では、主役になれない。昔の自分ならそんな事実、認めなかっただろう。だがこのチームで2年半、仲間たちと切磋琢磨した杉浦はこう考えるようになった。
――こいつらと、頂点を目指したい。
だからこそ、今日の試合の先発を伝えられた時、こう決意した。
――今日の試合、他の奴らを休ませてやる。
その決意で今日の試合、気合と根性で8回、126球を投げぬいた。明日は投げれないかもしれない。でもそれでも良かった。
夏穂がカウント2-2からボールを投じる。
――桜井、久米、白石。決勝は任せたぜ・・・!
夏穂のストレートがミットを鳴らし、主審が試合終了を告げた。球場が歓喜と悲鳴で包まれた。
全国高校野球選手権大会 県大会準決勝
くろがね 000001000 1
聖森学園 00000011× 2
* * * *
試合終了後、整列を終え悔しがる選手がいる中、蓮賀はある人物のもとへと向かった。
「おい、矢部川・・・、だったか」
「? な、なんでやんすか?」
「別に因縁つけようとかそういうんじゃねえよ。・・・なんであの時、“内に”飛んだ?」
ホームのクロスプレーで滑り込むときは外から回るのが一般的だ。追いタッチとみなされ、セーフになる確率が高いためだ。
「・・・松浪くんが教えてくれたでやんすよ」
「・・・あいつが?」
「やんす。あのとき・・・」
――「代走、矢部川行くぞ」
「はい! でやんす」
「ちょっといいか? 矢部川」
「なんでやんすか?」
「もしクロスプレーになりそうになったらな・・・」
「そ、それは怖いでやんす・・・。あの蓮賀くん、怖いでやんすし・・・」
「大丈夫だ。あいつはな・・・、くそ真面目なんだ」
「あれで、でやんすか?」
「ああ、だからあいつはクロスプレーになったら、必ず一回体を引く」
「どうして・・・、あっ、コリジョンルールでやんすか!?」
コリジョンルールとはキャッチャーとランナーの交錯による負傷を防ぐためのルールで、原則キャッチャーはブロックしてはいけないということになる。
「ああ、さじ加減は審判次第だが・・・、あいつは中学の時から必要以上に守るんだ。だから、かならずあいつは、ベースを開けるために一歩下がる」――
「・・・そうか、あいつが・・・」
そう言って蓮賀は松浪の元へ向かった。
「・・・蓮賀」
「負けんなよ、俺以外・・・、いや俺たち以外に・・・」
「当然だ。頂点取るに決まってんだろ」
「俺は結局、お前に勝てなかった。だが、だからこそ得られたものもあった。・・・だからお前には感謝してるぜ。・・・じゃあな」
「ああ・・・」
そう言って蓮賀は去って行った。
「(金が全てのこの高校で、俺は金じゃどうにもできないことの大事さを知った。信頼、これもそうだが・・・、もうひとつ・・・、“共に何かを目指した仲間”、これだけはいくら金を積んだって得られない。・・・帰るか、仲間のところに)」
去って行った蓮賀を見送った松浪は言葉にはしなかったが思ったことがあった。
「(蓮賀、お前は強いやつだ、スタメン争いに敗れた後でも必死に打撃を磨いて、外野のスタメンの座を勝ち取った。果たして俺が同じ境遇ならそうできたかわからねえ。・・・だから俺も感謝してる。・・・ありがとうな、蓮賀。)」
かくして聖森学園は決勝への切符を掴んだ。・・・甲子園まで、あと一つ。
気づいたらすごく長くなってました。矢部兼って2013ではキャッチャーなんですけど、登場キャラの都合で矢部的な感じに扱いました。今回は脇役にスポットライト当てた感じでしたね。
今回のおまけはオリジナル選手である蓮賀と秋内です。その他メンバーは、パワプロアプリとかでもわかると思います。
蓮賀堅介(れんがけんすけ) (3年) 右/左
くろがね商業の正捕手で外野もこなす。松浪たちの元チームメイト。自分からスタメンを奪った松浪を強くライバル視していて強く当たりがち。口調の荒さから勘違いされがちだが、非常にまじめで不器用な男。ちなみにやりくり上手で、Kマネーと呼ばれる独自通貨を用いた生活は苦労していないどころかむしろ後輩たちにおごってやる余裕さえあり、慕われている。
弾 ミ パ 走 肩 守 捕 守備位置
4 C A D B C C 捕C 外C 一E
パワーヒッター 広角打法 チャンス〇 三振 キャッチャー〇 慎重打法 選球眼
強振多用 積極守備
秋内信(あきうちしん) (3年) 右/右
くろがね商業のエース。監督やチームメイトから大きな信頼を受けている。
優しい性格だが強気にインコースを攻めることもしばしば。蓮賀が本音を話せる数少ない男。
球速 スタ コン
140㎞/h C A
スライダー 3
シュート 6
弾 ミ パ 走 肩 守 捕 守備位置
2 C D C B C C 投C 外D
驚異の切れ味 内角〇 逃げ球 奪三振 変化球中心
流し打ち 盗塁〇 バント〇
次こそもう少し早く更新したいなあ・・・と思います。ではまた次回もお願いします!
この作品の中で好きな登場人物は?(パワプロキャラでもオッケー)
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桜井夏穂
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松浪将知
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空川恵
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久米百合亜
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ここに上がってる以外!(コメントでもオッケー)