New Styles ~桜井夏穂と聖森学園の物語~ 作:Samical
いよいよ決勝も終盤に突入!
「さあ! いよいよ、1-1のまま試合も後半戦! 果たして両チーム、どんな熱い戦いを見せてくれるのか、私、非常に楽しみです!」
5回終了後のグラウンド整備を終えて試合が再開された。6回の表の聖ジャスミンの攻撃は3番の美藤から。
「ガンガン飛ばしていくよ!」
シュッ!! ズバーーン!!
「むう・・・!」
ここに来て夏穂のストレートは凄みを増していく。ミート力に定評のある美藤のバットに掠りもさせず三振を奪う。さらに4番大空にも真っ向勝負を挑み、空振りの三振。柳生にはストレートを3球続けたカウント1-2からフルブルームを投じて空振り三振。ジャスミン側に行きかけた流れをしっかりと引き留めた。
「ナイスピッチ夏穂っ!」
「いやあ、恐れ入ったぜ」
「まだまだ! ここから勝ち越すよ!」
しかし、尻上がりに調子が上がったのは太刀川もであった。
「はあああああ!!!」ズバー―――ン!!
「うわっ!(さっきよりももっとノビてきたっ!?)」
先頭の姫華は空振りの三振。続く松浪はストレートに詰まらされてセンターフライ。大は一転して投じられたスクリューを引っ掛けてサードゴロに倒れた。
加速していく夏穂、太刀川の両投手の投げ合いに球場の緊張感も高まっていた。
「松浪君は前評判通り…。まさかあの東出君にここで出会えるとは嬉しい誤算だったな。野手に転向してるのは驚いたが、あの身体能力をもってすれば十分に通用することは分かる。それに加えて…、」
「どうも影山さん。良い選手はいましたか?」
スタンドでぶつぶつとメモを取っているのはスカウト界隈では有名な男、影山。何人もの名選手をプロへと導いた名スカウトだ。…見た目は明らかに不審者っぽいのだが…。
「ウチのお偉いさん方は将来、チームを背負えるスター候補を見つけてこいと。まあ、中々の重荷を背負わされたわけだ」
「影山さんは今はタイタンズでしたか。確かにあそこは面倒そうだ。OBも偉そうですし…」
「NPBの大御所だから仕方ないな。それより千家(せんけ)くんの方はどうだい?」
千家と呼ばれた男は見た目は40代といったところの、少し年のわりには若く見える。その正体は東都タイタンズと同リーグで永遠のライバルとも言われる夢ヶ咲タイガースのスカウト長に若くして就任した若き名スカウトである。
「ウチも幹部方の頭固くて。スポーツ新聞でも話題のいわゆる虎の恋人ってやつ? それにゾッコンでして。…ただそんな当たって当然みたいなやつだけいかれてもスカウトとしてムカつくんで話はつけてきました」
「ほう?」
「もしウチの監督を納得させられるなら、誰を2位指名候補に推しても構わない、ってね」
「…随分と信頼されているな」
「はあ、外したときは分かってるな?って脅されましたけどね」
影山からすれば驚きしかない。この男は自分の選手を見る目に自分の将来さえ賭けているのだ。
「では、ここにいるのはどうしてだい?」
「いましたよ。俺の目が間違えじゃなけりゃ、いや。間違いなくその選手は成功します」
7回の表、ノリにノッてきた夏穂を今度は松浪が上手くリードした。
先頭の6番小鷹に対して、初球からチェンジアップを投じさせた。ストレートにヤマを張ってた小鷹を嘲笑うかのように空振りを奪い、さらに2球目にもチェンジアップ。これにも小鷹はタイミングが合わない。
「(連続チェンジなんて…、バカにしてくれる…!)」
「(お前がリードの上手さを利用してヤマ張ってくるのは分かってんだよ…!)」
続く3球目には高速スライダー。ストレートが来たと判断した小鷹のバットは空を切り、3球三振。
悔しそうにベンチに戻った小鷹に続き太刀川もストレートとチェンジアップに苦しめられ、サードフライに倒れる。そして8番の矢部田もあっさりとセカンドゴロに打ち取った。
ベンチからそれを見ていた他の投手陣、スタンドで見守る投手陣はそれぞれの感想を心の中で持っていた。
「(アイツ、あんなにすげーやつだったんだな…)」
「(すごい…。これが夏穂さんの全力…!)」
「(ボ、ボクより男らしいかも…)」
そして、同様にレフトからベンチに戻ってきた百合亜も、
「(いつでも行けるように、とは言われたものの。こんな投げ合いに、割って入れる気がしない…)」
それだけ今日の夏穂は最高の投球をしていた。そう。誰もがそう感じたのだ。
―――桜井夏穂こそ、聖森学園のエースである、と。
カキンッ!
7回の裏、先頭の恵はアウトコースへと逃げるカーブを強引に引っ張りヒットにして見せた。
「やった~!」
ここに来て0アウトのランナーが出る。そして夏穂はきっちり送りバントを決めて、1アウトランナー2塁のチャンスとなる。ここで7番の満。前の打席まで積極的に打ちに行っていた満だったがこの打席は冷静に見極めてフォアボールを勝ち取る。初回からフルスロットルで飛ばして来た太刀川には疲労の色が見え隠れしていた。
「(こんなところで崩れる訳には行かない!)」
しかしこのピンチに太刀川がギアを上げた。初芝に対する初球のストレートは序盤以上の球威と勢いでミットに突き刺さる。
「ストライッ!」
「ぐっ…!」
続けて2球目もストレートで追い込まれる。そして3球目に選んだのはまたもストレート。しかもコースはインコースいっぱい。
「ストライク! バッターアウト!」
「(ここでクロスファイヤー…! 手が出ねえ…!)」
2アウトランナー1、2塁で打席には9番の百合亜。
「(絶対に打つ!)」
「(ここは何がなんでも踏ん張る!)はああああ!!」
太刀川も気合いを込めてストレートを投じる。百合亜はそれを芯で捉えた。ネクストバッターズサークルから、このギアを上げた太刀川のストレートにはイメージしてタイミングを合わせていたのが功を奏し、打球は綺麗にセンターへと弾き返された。恵は迷わずホームへと突入する。センターの矢部田の肩ならば帰ってこれるという判断だ。この判断は間違ってなかった。
ただし、ひとつ見落としていたとすれば、矢部田は迷わずショートの東出にカットを繋いでいたことだった。矢部田からのボールを受けた東出はホームへと正確で、素早い送球を返した。
「アウトーーー!」
「なんと! またしても、聖森学園は東出くんを中心とした固い守備に得点を阻まれてしまいました!」
実況の響乃がテンションが上がるのと同様にスタンドの観客も好プレーに沸き上がった。
「形は良い攻撃だった! あと少しで捕まえられるぞ! しっかり守ってこーぜ!!」
「「「おー!」」」
一度沈みかけた雰囲気だったが松浪の一言で再び元気を取り戻した。
8回の表。夏穂は未だに相手を寄せ付けぬ圧巻の投球を披露する。9番の川星はバットに掠りもせずに三振に倒れた。そして1番、ここまで3安打の東出だったが、
ズバッ!!
「(さっきよりもノビてくる! これに変化を混ぜられるとキツい!)」
カウント1-2。ここまで全てストレート。
「(ストレートを散々見せて、フルブルームか? それともスライダー? チェンジアップ? どれだ…!?)」
ズバーーーン!!
東出の読みは当たらなかった。ここで投じられたのは渾身のストレート。右投手の夏穂から左打者の東出へとクロスファイヤーにあたるコースのストレートにまったく反応出来なかった。
「ナイスボール夏穂!」
「よーし! ツーアウト!」
「(くっ…、手が出るどころか、反応すら出来ないなんて…、素晴らしいボールだった…!)」
ここまで夏穂を捉えていた東出が打ち取られたことが聖ジャスミン側にとってかなりのショックとなった。続く小山もセカンドゴロに倒れる。
「桜井夏穂さん、この回も圧巻の投球! これには俄然、スタンドも盛り上がることでしょう!」
流れが徐々に傾いてきたことに盛り上がる聖森学園。対して徐々に追い詰められる感覚を覚え始めた聖ジャスミン。しかし太刀川はまだ折れなかった。
「絶対、点は、やるもんか!」
疲れはあるはずだがそれを押し殺して投げ続けた。球威の戻ったストレートは聖森の上位打線も苦しめた。
先頭の風太は三振に打ち取ると、続く姫華からも簡単にツーストライクを奪った。しかし…、
「ボール! フォア!」
「よっしっ!」
「おーっと! ここで太刀川さんカウント0-2から4球続けてのボールでフォアボールを出してしまいました!」
慌てて小鷹がマウンドに向かった。
太刀川の目には慌てた様子の小鷹が駆け寄ってくる姿が見えた。何か聞かれたらこう答えるつもりだった。
――大丈夫だ、と。
だが小鷹とはずっとバッテリーを組んできた仲だ。きっと誤魔化せないだろう。
……自分の左肩はとうに限界であることは。
夏穂のいたチームとは違って中学時代の太刀川のチームは投手事情が苦しく、太刀川はエースとして多くの試合に投げていた。
投げて、投げて、また投げて…。そんな日々を送る内に太刀川の肩には異変が起きていた。
――疲労が抜けない。酷いときは痛みが出る。だがチームのみんなには黙っていたし、病院にも行かなかった。誰も、心配させたくなかったから…。しかし、夏の大会が終わってから行った病院でこう言われた。
「相当酷い肩の炎症ですね。なんとか治療で治まる範囲ですが…」
「…投げられなくなるんですか…? 私…」
「いえ、投げられなくは無いです。ですが…、次はありません」
「次…」
「もし、治療が終わってからまたこのようなことになったら…。その時は、もう投手としては野球をすることは叶わないでしょう」
このことに小鷹はすぐ気付いた。太刀川が度々、スポーツ専門の病院に言ってる姿を見ていたからだ。そして小鷹は太刀川に進学を決めた聖ジャスミンでソフトボールをやらないかと勧めた。
「嫌だ。私は…、私は野球がしたいの!」
「バカ! そんな肩でピッチャーなんてやったらアンタはすぐ壊れちゃうでしょ!? ソフトボールなら野手としてプレーすれば…」
「私には、野球のピッチャーしか無いの! ソフトボールなんてやるもんか!」
こうして小鷹とも高校に入ってから険悪になったりしたのだが、そんな2人の関係修復に一役買ったのが東出だった。
2年の秋頃にソフトボール部部長だった小鷹を説得し、野球部に協力してもらうことを取り付けたのだった。小鷹は小鷹なりに東出に感謝していた。東出やほむらと共に野球を再開した太刀川には以前のような笑顔が戻ったから。だが同時に恐れてもいた。
…再び肩が悲鳴を上げるのではないかと。だからなるべく太刀川の肩に負担をかけないように泊方を投手として見出だしたり、ソフトボールで投手経験のある美藤にも練習してもらったり。
当然、中学時代に豪腕投手として知られていた東出にも。ただ、東出とは1つだけ約束をした。
そうやって、今日まで乗り越えてきたのだが。
そして、今。遂に太刀川の肩は限界を迎えた。
「ヒロ! あんた…」
「はは…、…タカ。ごめん。もう、ダメみたい」
「…いいや。まだ終わってない。だからヒロ。ベンチに帰りなさい」
「…うん」
ジャスミンの監督がマウンドにやってくる。
「太刀川。しっかり休んでいてくれ」
「はい。でも…」
「ヒロ。安心しなさい。甲子園にはヒロも連れていくわよ。置いてったりしないわ」
「…え?」
「そうッスよ! みんなで行くッスよ! 甲子園!」
「ボクも…、行きたいな。みんなで…」
「きっとあそこでどでかいの打ったら~、気持ち良さそうですね~」
「太刀川、だから君はまだ終わってない。甲子園のために休んでてもらうだけだ」
「東出、みんな…!」
「ねえ、東出。約束。覚えてるわね?」
「…ああ。僕も覚悟を決めたよ」
「「「約束?」」」
「太刀川が本当にピンチになったら…。俺が投げる。そう小鷹と約束したんだ」
「アンタが投げたがってなかったのは知ってる。そこにどんな事情があったかも知ってる。その上で頼んだの」
「いいの? 東出…」
「太刀川にも話したことあったね。僕はピッチャーをやるのが嫌になった。仲間の頑張りを全て無為にしてしまうことが怖くて仕方なかった。ここまで頑張ってきたみんなの努力を全て台無しにするのが…。だけど、もう迷わない。どこまでやれるかわからないけど、やれるだけやってやるさ!」
「…うん。あとは託すよ。みんな、頑張って!」
「ま、ちーちゃんは多分こんな状況で登板できるメンタル持ってないし、明日音は昨日かなり投げてるし。東出くんしかいないッス」
「頑張ってね!東出くん!」
「お願いしますね~」
「期待しないでいてやるから、せめてストライク投げなさいよ!」
「うん、わかってるよ」
太刀川は駆け足でベンチへ戻る。そして、監督が選手交代を告げた。
「聖ジャスミン高校、選手の交代をお知らせします。ピッチャーの太刀川さんに代わりまして桜井さんが入り、セカンド。セカンドの小山さんがショート。ショートの東出くんがピッチャーに入ります。1番ピッチャー…」
「お、驚きました! なんとショートの東出くんがピッチャーに回りました! 太刀川さん、何かアクシデントでもあったんでしょうか…!」
「ふむ、しかし。この東出は中学時代はかなりの投手だったと聞く。なぜ表舞台から姿を消していたかは分からんが…。あの強肩もそれ由来だろう」
実況解説と同様にシート変更のアナウンスに球場がどよめく。それは聖森学園側にとってもそうだった。
「小春が出てきた上に、ピッチャーが東出くん…。それにヒロ、どうしたんだろ…」
「何かアクシデントがあったか切り札切ったか…。とにかく、ここは打たねーとな」
そう言って打席に向かった松浪は東出と対峙する。
「さあ、来い!」
「よし…、うおおお!!」
綺麗な投球フォームから繰り出されたのはストレート。しかし、松浪は反応できず、ストライク。
「ちっ…、やっぱり速い!」
「(久々だけど、なんとかいけるか?)」
ガン表示を見ると148キロと出ていた。確かに速い。続く2球目を投じようとしたとき、ランナーの姫華が動いた。
「! 逃げたッス!」
松浪は今度はストレートにバットを出すも空振り。しかし、それがアシストとなって小鷹の送球を遅らせ、盗塁成功。1アウトランナー2塁となった。
「(しまった。無警戒過ぎたか…。だけど追い込んだ…!)」
「(問題はここからね…1塁が空いたから際どいとこで勝負したいけど、東出の球種はカーブとスライダー。決め球になりそうなのはスライダー。カウントは0-2だから余裕があるのはこっち…。強気に行くわよ!)」
3球目は外に逃げるカーブを見逃し、カウント1-2。
「(緩急付けてきたか。次はまたストレートか、何かしらの決め球で打ち取りに来るか…)」
松浪は少し間を置いてから打席へ。一見駆け引きのように見せたが正直まだ迷っていた。
「(…いや、迷ってる場合じゃねーな)」
東出がセットポジションから足を上げ、4球目を投じようとする。
夏穂は自己最長クラスのイニングを投げ、粘りの投球を続けている。大や恵も自分のスイングを貫いて結果を出した。ここで打たなきゃ、何がキャプテンだ。何が知将だ。投じられたボールを瞬時に見極め、決断する。
「(これは、見逃す!)」
ギュルル! ググッ! バシッ!
「ボール!」
「(嘘! 見送った! コースもキレも完璧だったのに!)」
「(はは、やっぱり君は一筋縄じゃ行かないね…)」
「(どうしてこれだけのボール投げれるのに…、お前はピッチャーをやらない…?)」
「「(だが今はとにかく目の前の相手を倒すだけ!)」」
松浪も余計な疑問を払って、東出もまた、開き直って腕を振るった。
唸るような豪速球だったがなんとか松浪はバットに当ててファール。
「(もう私にはお手上げ。あとはアンタと松浪の勝負よ。思い切って投げなさいよ! 全部死んでも止めてやるから!)」
「(そんなこと言われなくても君のことは信頼してるから思い切って投げてるよ)」
東出は腕を振るい、松浪が迎え撃つ。
「うおおおおおお!!」
豪速球に松浪はフルスイングで応じた。
カキイイイイン!!
という快音が響く。東出は振り返らなかった。
スピードガン表示は153キロを示していた。
その打球の行方を見守る観客や選手は静寂に包まれる。
打球を追っていた柳生は途中で追うのを止めて、見送った。そして打球がレフトスタンドで弾むと一気に球場は歓声に包まれた。
「は、入った! 入っちゃいました! ホームランです! 遂に8回! 試合が動きました! 打ったのは聖森学園キャプテンの松浪くん! なんと153キロを計測したストレートを完璧に捉えてレフトスタンドに叩き込みました!」
「うむ! 打った松浪も素晴らしいが急遽マウンドに上がった東出も素晴らしいボールを投げた。だがそれを打った松浪を誉めるしかあるまい」
「これで1-3! 甲子園に大きく近づくホームランとなりました!」
歓声に包まれた球場だがジャスミンの選手たちに落胆の色は見えない。
「みんな! ツーアウトよ! ここで切りましょう!」
「サクッとアウトとって反撃ッス!」
「ど、どんと来い!」
「来た球全部捕るよ!」
「ここで締めましょ~!」
東出は頼りになるバックを見て安心する。
「(みんな、内心は不安だろうに元気出して…。負けてなれない、な!)」
打席には一発のある大が立つが、強気に攻めた。初球は内角へのストレート。ガン表示はなんと151キロ。
「(速い…! 松浪はこんな球を打ったのか…!)」
続く2球目には打ち気を読まれカーブで気を逸らされた。3球目の釣り球に反応しなかったが…。
「ぐっ!?」
低めのスライダーには着いていけず、三振を喫した。
「すまん…」
「あのストレートにスライダーまで投げられて、初見で打った松浪くんがおかしいんでやんすよ! それよりしっかり守ってくれでやんす!」
「ああ…! ありがとう…!」
2点リードした聖森が守備に就く。聖森は守備固めとしてサードに田中、センターに露見を起用した。百合亜は万が一のときのリリーフとして守備は残った。
「さあ、最終回! しまってこーぜ!」
「「「おおおっ!!」」」
9回表が始まる。先頭の美藤は気合い十分に打席に入ったが、
「くっ…」
ストレートに未だに振り遅れる。夏穂のストレートがそれだけ終盤にノビて来ている証拠だった。結局フルブルームにバットを合わせられず三振。ワンアウト。
「(いける! あと少し・・・!)」
「(厄介な奴は抑えた! あと少しだ・・・!)」
打席には4番の大空。ここまで全くいいところがない。しかし夏穂は油断せずにボールを投げ込んだ。
「(あ!? まずい・・・!)」
「(こ、これは・・・!)」
「はあああああああ!!!!」カッキーーーン!!
大空の豪快なフルスイングがボールを捉えた。打球は打った瞬間それとわかる当たり。センターバックスクリーンへと叩き込まれた。
「入りましたーーー!! ホームラン! 大空さんの起死回生の一発で聖ジャスミン、1点差へと詰め寄りました!」
「しまった・・・!」
夏穂は決して気を抜いたわけでは無い。しかしここまで100球以上全力で投げ込んだ未知の領域。疲労で指が掛かり切らず、浮いてしまった。
カキン!!
「うわっ!?」
続く柳生に対してもボールは上ずって捉えられた。しかし何とかこれはセンターの露見の守備範囲。2アウトまでこぎつけた。
「(あと一人・・・!)」
「(集中切るな・・・! こいつも危険なバッターだぜ・・・)」
松浪はボールが浮き始めたことを考慮して変化球から入った。だがまだ高い。
カキーン!!
「ああっ!」
「やべっ!」
高めのスライダーが曲がらず、レフトへ弾き返された。
「や、やばいでやんす!」
「桜井のやつ、だいぶ来てるな・・・」
「次は夏穂ちゃんの妹の小春ちゃんか・・・」
「でも去年の練習を見に来たときはそれほど打撃は得意そうではなかったでやんす! 守備は上手かったでやんすが・・・」
「・・・小春の最大の武器はそこじゃないんです」
「「「・・・え?」」」
カッ! 「ファール!」
「よし! 追い込んだ!」
「あと1球でやんす!」
カッ! 「ファール!」
カッ! 「ファール!」
・・・
「な、何球投げさせられたでやんすか・・・?」
「かれこれ10球以上・・・、だな」
「小春の最大の武器はあの’カット’です。打てないボールはカットする。それを例えゲッツーがある場面でも、こんな風にアウトになったら終わる場面でも。できてしまう器用さを持つのが小春という選手です」
「今の桜井にこんなカットされたら・・・」
「ボール! フォア!」
「よっし! やった!」
「くっ・・・、小春・・・。腕を上げたね・・・」
「さあ! 聖ジャスミン! 逆転のランナーが出ました! 桜井小春さんが姉の夏穂投手との根競べに勝ちました! 聖ジャスミンはここで代打の切り札、浪風さんが送られました! チャンスと代打の場面に滅法強い選手です!」
「さあ! いくわよ!」
「おっとここで背番号20を付けた村井さんがマウンドに向かうようです! 伝令が送り込まれました!」
「・・・みんな。監督からはね、今のメンツを代えるつもりは無い、って」
「俺たちでやり抜け、ってことか…」
「当然、なんとかする!」
「そ、それとね。ベンチのみんなが言ってたよ。…飛び出す準備はしておくからって。あと夏穂ちゃん」
「わ、私?」
「ピッチャーのみんながね、頼んだエース! って」
「! …そっか。みんなの代わりにここに立ってるんだもんね…」
「よっしゃ。ここ、耐えきろうぜ!」
「「「「おおおっ!!」」」」
「さあ、円陣が散らばってプレー再開! 2アウトながらランナー1、2塁! 長打で逆転のチャンス! 桜井さんは凌げるのか! それとも浪風さんがチャンスをモノにするのか!」
響乃アナのテンションも観客の緊張も最高に高まるなか、その注目はマウンドの夏穂と右打席に入った浪風に集まる。
「(…私は一人じゃない。あの時とは違う。ベンチのみんなも、監督も。私を信じて、任せてくれた!)」
夏穂は松浪のサインに頷き、足を上げ、踏み出し、腕を振るった。会心のストレートがアウトローに決まる。
「ストライッ!」
「…まだこんな力残ってたのね…!」
「全て、ここで出し切る!」
2球目は外に逃げていく高速スライダー。浪風も食らいつき、後ろに飛んでファール。
「くーっ! 捉え損ねたわ!」
「(コイツ、かなりのセンス持ってやがる。…長引くのは良くない。決めに行くぞ!)」
「(うん…!)」
サインはフルブルーム。夏穂は頷いて、3球目を投じる。しかし、
「っ! しまった!?」
「やべっ!」
ボールは手からすっぽ抜けて、バックネットに当たった。運良く跳ね返ってきてくれたが、ランナーは1つずつ進塁し、2、3塁になってしまった。
「おっと! 思わぬ形で聖ジャスミン、チャンスが広がり、一打逆転のチャンス!」
「桜井はここまでかなりの球数を投げておる。むしろ、良くぞここまで投げられているものだ」
「(…フルブルームはもう使えない、か)」
フルブルームは指先で強力なトップスピンをかけることで投げられる。元々指先が器用かつ強い指の力があってこそのボール。だが今の夏穂は万全の状態とは程遠く、指が言うことを聞いてくれなかった。
松浪はしばらく考え、結論を出す。
「(…もう、これしか無いよな?)」
松浪のサインに夏穂は心の中で笑った。いや、もしかすると実際の表情もそうなっているかもしれない。
「(打たれても怒んないでよ?)」
「(むしろこれ以外打たれたら悔やむだろ?)」
「(ま、そうだよね)」
そのサインに頷き、足を上げる。
これが自分の今日の最後のボールかもしれない。少なくとも出し切るつもりだ。というか、多分無理。
「いっけええええええ!!!」
夏穂と松浪が最後に選んだのは、
ど真ん中への全力のストレート。
「ま、真ん中!?」
打席の浪風はやや面食らったがとにかくフルスイングで迎え撃った。
みんなが息を呑んで見守り、一瞬の静寂に包まれた球場に響いた音は、
ミットにボールが収まる音。そして、
「ストライクッ!! バッターアウト!! ゲームセット!!」
主審のコールが長く、し烈な戦いの、終わりを告げた。
「空振り三振! 試合終了!! 互いに甲子園初出場をかけた一戦は、最後まで行き詰まる戦い、そして意地のぶつかり合い、その決着は2-3! 聖森学園が勝利しました!」
「見事! これほどまでに素晴らしい試合を見たのは久しぶりだ! 両チームの健闘に是非とも拍手をしてやって欲しいものだ!」
響乃アナ、平野の両名が賛辞を送り、その頃マウンドには聖森のメンバーが駆け寄っていた。
「やった…! 遂に私たち、やったんだ!」
「あははっ! 最高っ! こんなに嬉しいの初めてっ!」
「う、嬉しいのに、涙が出てくるでやんすう!」
「へへっ、成し遂げましたよ! 岩井さん! 御林さん! 木寄さん!」
「最高の気分だよ~!」
「頑張ってきてよかったね! みんな…!」
笑っている者、泣いている者。色々いるが誰もが思うことは1つ。遂に自分達は、夢の舞台に立てる! ということだった。
「うう…、ごめん。みんな…」
「芽衣香泣かないで! ボクたちは十分がんばったよ!」
「そうッス! 高校球児は最後まで堂々としてるッス!」
「さ、整列に行くわよ。相手を待たせないように」
「で、でも…」
引き下がる芽衣香に小鷹はボソリと呟いた。
「悔しいのは…、アンタだけじゃないわ…。みんな、悔しいわよ…」
「…!」
「みんな、行こう。整列して、挨拶して、応援団にお礼を言うまで、僕たちは胸を張って行かないと」
やがて両チームが整列し、審判が改めて試合終了を告げる。
短くも、激しい戦いはこうして幕を閉じた。
少し長くなりましたが、これで県大会編が終了!
いよいよ夏穂達が甲子園に乗り込みます!
少しずつですが更新していくのでよろしくお願いします。( `・ω・´)ノ
今回のおまけはちょっと登場した桜井小春と原作と能力の異なる太刀川です!
桜井小春 右/両 (1年)
夏穂と満の妹。その2人と同様に抜群のセンスの持ち主。本職はソフトボールだが部長の小鷹が野球部へ参加している関係でその実力を見込まれ野球部を兼部。
本人は自覚が無いが、彼女の笑顔には相手を虜にする魔性がある、らしい。また非常にお洒落さんで趣味は服選び。夏穂と満のことは大好きでよく甘えたり、からかったりして遊んでいる。
弾 ミ パ 走 肩 守 捕 守備位置
2 C F E E D D 捕F 一E 二D 三E 遊D 外E
粘り打ち 流し打ち 走塁○ 守備職人 慎重打法 積極守備 積極盗塁 選球眼
太刀川広巳 左/右 (3年)
聖ジャスミンのエース。普段は引っ込み思案だがマウンドに上がればハイテンションになる。聖ジャスミンで野球が出来ていることを東出を始めとした部員達に感謝しているが、肩の状態から自分の野球人生がもう長くないことを悟っている。
投手としては非常に重いストレートを武器としており、意外とパワータイプ。実は打撃も得意で特にバントは聖ジャスミンで小山と1、2を争う腕前。実はサードをやったことがあるが内野にユーティリティープレーヤーが多いため、投手に専念している。
球速 スタ コン
140km/h B C
↘️カーブ 3
↙️スクリュー 3
⬅️シュート 3
弾 ミ パ 走 肩 守 捕 守備位置
2 D C D C D D 投D
怪物球威 ノビ○ 尻上がり ピンチ○ 打たれ強さ○
バント職人 速球中心
なんとか次はもう少し早く出来るよう努力します…。
では、次回もよろしくお願いします!
この作品の中で好きな登場人物は?(パワプロキャラでもオッケー)
-
桜井夏穂
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松浪将知
-
空川恵
-
久米百合亜
-
ここに上がってる以外!(コメントでもオッケー)