New Styles ~桜井夏穂と聖森学園の物語~   作:Samical

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物凄く遅くなりすみません!
その分少し長くなりましたが…、ペースは守らないといけませんね…


38 ここにいる意味

守田堅の守備の上手さは中学のときから群を抜いていた。そして彼自身も守備は大好きだった。だが度が過ぎたのか、バッティングを疎かにしてまで全ての守備位置の守備の練習に取り組み始めた。端から見れば勝手な行動。だがそれを見た赤井は理解していた。

「(アイツは自分が何が苦手で何が得意か。そういう引き際を理解してるし、何より自分の得意分野は絶対に負けないという根性。その全てが俺の求めていた選手だ…)」

守田には確かに打撃センスは無い。だがずっと磨き上げてきた、'コース、球種、バッターのスイングの特徴、金属音…、それらの要素から打球の飛び位置を予測する力'。それを磨くなら中途半端な打撃練習は必要ない。彼の打撃が取る点よりも彼の守備で防ぐ点の方が多いはずだ。だから赤井は守田の打撃練習だけには指示は出さなかった。とはいえ打ちたい気持ちは守田にもある。ボールが見えなくなった夜には素振りは欠かさなかった…。

 

カキーン!!

「(間に合うべ!)」

緩井の速球を捉えた竹原の打球は二遊間を破るセンター前ヒット…、になるはずだった。それを守田はグラブの先で横っ飛びで掴んだ。そこからは無駄の無い動きで立ち上がって1塁へ正確に送球。

「アウトー! ショートの守田、熱いプレーを見せます! 熱盛、こういうの大好きです!」

「(今のもアウトにしちゃうのか~)」

ここから緩井に対しての2巡目。5番の恵が打席に立つ。

「(さっきは…、スローボール、チェンジアップ、ストレート。今度はしっかり…)」

待って打とう、と思った恵だが首を振ってその考えを振り払う。

「(ダメダメ! 私の信条だけは絶対に破らない!)」

恵を見据えて白色は思考を巡らせる。

「(先程は打ち気を読んで手玉に取りました。今度は様子を見てくるはずです)」

白色のサインに頷き緩井が投じたのはアウトローへの速球。

「せいやーー!!」カキン!!

「なんと!?」

恵は迷わず踏み込んでフルスイング、快音を鳴らした。

「くっ!?」

打球は鋭く緩井の横を抜けていった。

誰もがセンター前ヒットだと思った。しかしその時風薙はすでに動いていた。

「(これは間に合わない…。…いや、いける!!)」

「風薙のやつ、飛び付きやがった!?」

美留田だけでなく一芸大付属の面々の誰もが驚いた。風薙は普段は無理をしたり果敢に挑んだりはしない。必ず無理の無いプレーをしていたからだ。

風薙は飛び込んで打球を掴むとすぐさま起き上がって一塁へ転送しアウトにして見せた。

「風薙、やるやないか!」

「あはは、なんとなくの気まぐれですよ」

続いて白石が打席に入るが緩井の緩急に苦しめられていた。

その頃ベンチでは…、

「うーん? 捉えたと思ったんだけどなあ~?」

「…空川。お前もか?」

「ん~。大くんも?」

「ああ…。捉えたつもりだったが少し上を叩いたか…?」

「ストレートが少し沈んだのかな~?」

「確かに俺もストレートと思って打ちに行ったんですけど、上手く捉えられなかったですね」

その会話に満も加わった。それを聞いた松浪は疑問を感じた。

「(沈むようなストレートの質だったか…? むしろ手元でノビてくる、夏穂と似た質のストレート。でなけりゃ120~130キロで手が出ないわけが無い…)」

 

その時白石は緩井の2球目のチェンジアップをファール、速球も真後ろに飛ぶファールを打ってカウント1-2。

「(ストレートに合わせて、遅いのにはしっかり溜めて打つ…!)」

基本的な事だが白石はこれを愚直に守って今の3年が抜ければクリーンナップを任されるであろうレベルの打撃を身に付けている。

そんな白石に緩井が投じた4球目。真ん中高めへの速球だった。

「(これは…、もらった!)」

白石はフルスイングで応じる。しかし先ほどタイミングバッチリだった速球にやや降り遅れた。打球はライトへ飛んだが、伊賀井が落下地点に入って捕球しスリーアウト。

この打ち取られ方に松浪は緩井の'速球'の秘密に1つの仮定を立てた。

「おそらくだが…、緩井の速球はただの速球じゃない…! これが当たってたら、俺たちがここまで苦しめられたのも納得だ…!」

 

8回の表。続投の白石は先頭の佐部にオールストレートで三振を奪う。

「えぐい球投げるなー、あいつ」

「…ドンマイ。仇はとる」

「おう、頼むぜ」

佐部は伊賀井と同じく2年生。伊賀井のマイペースな性格に付いていける数少ない人材だ。伊賀井はここまでノーヒットなのにどこにそんな自信があるのかは分からないが…、

「(ま、あいつがやる、っていうならできるでしょ)」

白石、松浪バッテリーはここまでヒットの無い伊賀井への組み立てを考えていた。

「(ここまでノーヒットとはいえ、前の試合でも終盤に力を発揮してる。特に接戦だといい結果を残しがちだ。ストレートで強気にインコース攻めるぞ!)」

「(コクッ)」

白石が投じたのはインハイへのストレート。しかし伊賀井は打ちに行った。そして…、

「ていっ!!」キイイイン!

「! さっきとは別人みてーなスイング!?」

コンパクトに腕を折り畳んで、最短距離でグリップを持ってきた鋭いスイング。スイングスピードはさほどだったが真芯でボールを捉えた。

打球はレフト線へと飛び、その間に伊賀井は一気に2塁を陥れた。そして赤井監督はここで動く。

「一芸大付属高校、選手の交代をお知らせします。セカンドランナーの伊賀井さんに代わりまして、福地くん。背番号16。バッター、手方くんに代わりまして八木くん。背番号13。」

「よっしゃあ!」

「いくぜっ!」

代打の切り札八木。県大会では代打成功率5割を誇る。

そして代走のスペシャリスト、福地。終盤に猛威を振るうとっておきだ。

「(初球ストレート。高めはダメだ。コースアバウトでいいから低く来い!)」

松浪のサインに頷き白石は渾身のストレートを投げ込んだ。コースは文句なしのアウトロー。

「そりゃあ!」カッ!

「うおっ!?」

「ファール!」

打球はバックネットに突き刺さった。

「(148キロのストレートを初球で代打でバッチリ合わせてきやがった! 大した集中力だぜ!)」

松浪は白石にフォークを要求する。これで迷わせて仕留めるつもりだったが、白石は首を振った。ストレートで勝負したい、というところだろう。

「(お前がそこまで言うのは珍しいな。…分かった、ストレートで行こう!)」

白石が投じたのはインハイへのストレート。変化球も頭に入っていた八木はストレートに手を出すが打球は後ろに飛んでファール。

「またストレート…!」

「(流石にフォーク。頼むぜ?)」

「(これで仕留めて見せます…!)」

白石が投じたフォークボールはやや外寄りの真ん中から低めへと落ちる。八木はタイミングは外されていたが意地で食らいついた。

「うおお!」カキン!

「っ!」

打球は強く跳ねて、白石の横を通過。センターへと抜けそうになったがそれを姫華が阻んだ。全力で走り込み、小さな体を伸ばして掴み取る。

「椿! 投げろ!」

竹原が呼ぶが元々姫華は送球に難がある。不安定なこの体勢からでは恐らく間に合わない。

「(ここからじゃ、私のスローイングじゃ無理…っ!)」

送球難を自分で認めた上で、下級生の頃からずっと守備練習は誰よりも受けた来た。セカンドに限れば一芸大付属の守田にも引けば取らないつもりだ。だが男女の力の差は大きい。小柄な姫華にはセカンドからの送球がいっぱいいっぱいだ。

 

姫華はこのボールを掴む直前の一瞬に、あることを思い出した。

――甲子園に行く前のグラウンドにて姫華はある人物にアドバイスを求めていた。それはケガした直後の冷泉だった。

「送球のコツ、ですか?」

「うんっ。悔しいけど、私の送球はこの野球部でもかなり低いレベル。そのことは十分理解してる。でもみんなの代表としてグラウンドに立つ以上はそんな言い訳できないっ」

「どうして俺なんすか?」

「冷泉の守備は私の見たセカンドで一番上手いと思ったし、中学での経験が違う。そう思ったからっ」

冷泉はしばらく考え込んで、松葉杖をつきながらできる範囲で説明を始めた。

「簡単な対策としてはワンバン送球っすね」

「ワンバン送球…」

「確かにセカンドからワンバンで投げるのは見栄えは良くないかもしれないっすけど、無理にノーバンで投げるよりは送球ミスは減ります。…まあ、足場が悪いとファーストの腕前にかかってきますけど…」

「そうかその手が…」

「でももうひとつ、先輩達だからこそ出来るやり方。あるじゃないっすか」

「えっ?」

「俺もここに来てから初めて考えられるようになりました。でもこれが出来るのは…」

「出来るのはっ?」

「…'相手を信頼する'こと。それが必要っすね」――

「! これだっ…!」

姫華は閃く。そして自分が閃くことなら…、

「風太っ!」

1年間共に戦ってきた相棒…、風太も閃くはずだ!

姫華は崩れた体勢は直さずにすぐさまグラブトスをセカンドベース付近に上げた。見ていた誰もが驚く行動。だがそれを風太は理解して走り込む。

「よっしゃ! 待ってたぜ!」

風太はそれを掴み捕って流れるように1塁へと送球した。東出には肩の強さでは及ばないが、正確さと捕ってからの速さでは負けていないと自負している。風太の送球は八木の1塁到達よりも早く竹原のミットへと届いた。

「アウトーーー!!!」

スタンドから巻き起こる歓声。姫華と風太はハイタッチを交わした。

「素晴らしい連携! 呼吸ぴったりのこのプレーは熱盛を熱くさせてくれましたぁ! これで2アウトランナー3塁!」

ここで打席には六上。当然内野は前進。内野安打は許さないシフトだ。

そして148キロのストレートに思い切り空振り。このボールを打つことは六上にとってかなりの重労働だ。

「(俺じゃこのボールは打てねえ…。だったら、やることはただひとつ…!)」

磨き続けた技術を、身につけた力を。ここで見せなければどうするというのか。

「勝負だ、このやろー!!!」

「! セーフティー!?」

0-2と追い込まれた3球目のフォークを強引にバントで捉えた。打球は転々とサード前へと転がった。

「駆け抜ける!!」

「くっ!」

白石は慌てて駆け寄りボールを拾い上げ、すぐさま送球体勢に入り、全力で腕を振った。

「今だっ!」

それを見てすぐさま3塁の福地は俊足を生かして、ホームを狙いスタートしようとした。しかし、

「!? 福地、戻れ!」

「えっ!?」

1塁に送球したはずの白石はこちらに向かい送球していた。

「しまっ…!?」

慌てて戻るが間に合わない。

「アウトー!」

福地、そして一芸大付属の作戦は悪くなかった。次がバッティングに難のある守田で、打席には走るだけで相手の注意を引ける六上。通常なら六上の2アウトからのスリーバントという奇策に驚くはずだ。アウト1つで終わることが六上を1塁でアウトにするという考えに固執させやすい。それを踏まえた赤井の奇策だった。

「…こいつは…、誤算だったな」

大胆かつ狡猾な、勝負どころの博打に赤井は敗れた。それは白石の不気味なまでの冷静さ。

「(とても1年半前までは素人だったとは思えないくらいに落ち着いてプレーしてやがる。アウトに出来ないと思ったら迷わず引いて次のプレーを考える。簡単なことじゃねえけど…。成長したな、白石。)」

ベンチに戻ってチームメートに讃えられる白石を見て松浪は感じた。百合亜や満のように目立つようなところばかりではない。すぐには分からないようなところの成長が分かるのは先輩として喜ばしいことだ。

 

そして8回の裏。満の一打か松浪に大きなヒントを与えた。

カキーン!!

「なっ!?」

緩井の速球を狙い、確実にミートしに行った満の打球は痛烈なゴロになった。しかし…、

「おっと!」

サードの佐部がしっかり押さえてサードゴロに打ち取った。佐部は派手では無いがエラーは少ない守備に加えて進塁打もきっちり打てる優秀な選手だ。この打球にも安定した守備を見せた。

初芝も速球を捉えるもセカンドライナー。

そしてラストバッターの姫華。初球のスローカーブは見逃しボール。次のストレートは見逃してストライク。そしてまたも速い球が来る。

「(今度は捉えるっ!)」

先ほどのストレートのタイミングを利用してボールを上から叩く。しかしボールは後ろに飛んだ。

「ファール!」

「? あれ?」

姫華は首をひねる。今のは捉えたつもりだったのだが。若干ずれていた。当てることに関しては自信があるだけに姫華は疑問を持った。

そして次のチェンジアップでタイミングを外されて三振に倒れる。しかし松浪はその姫華の反応、そしてその時に姫華が感じた違和感を聞き、自分の仮説に確信を持った。

「(間違いない。緩井の速球攻略はこれだ!)」

 

いよいよ9回表。白石は守田を三振に打ち取り、打席に風薙を迎えた。

「(出塁してチャンスを作る。それが俺の仕事…!)」

単なる速球派ならば風薙の得意な相手だ。コースに逆らわず、低く打ち返せばいい。

「ふっ!」カキン!!

アウトローに決まったストレートを迷わず振り抜く。打球は三遊間を抜ける、はずだったが。

「くっ!」バシッ!

「なにっ!?」

本来なら三遊間の位置に守っていたのはサードの満。

そのまま転送されてサードゴロ。

「(しまった…誘導された…!)」

どうしても出塁したいが故に厳しいコースは逆らわずに、一番ヒットになりやすい、打ちやすいコースに打った。しかしそれは読まれていた。'風薙ならばこのコースはこう打てる'と相手に信頼された抑えられ方。

そして美留田はフォークに手を出した後に高めのストレートに空振り三振に倒れる。白石のストレートが走っているからこそ出来る配球だった。

「くそっ、すまねえ!」

「気にするな。しっかり守っていこう!」

 

9回裏、先頭は風太。ベンチを出る前に松浪から助言をもらっていた。

「(もしそれが本当なら…、それを見つけた将知に回るこの回で決めねえと!)」

初球のチェンジアップはカットし、迎えた2球目に速球。

「(来たっ!)」

風太は松浪の助言通りバットの芯の少し根っこ側で捉える意識でバットを振り抜いた。

カキン!!

快音とまでは行かないが、打球は中々の速度で三遊間へと飛んだ。

「させんぞ!」

抜けそうな打球に守田がなんとか追い付き、一塁へと送球。しかし流石にこれは風太の足が勝り内野安打。さらに続く元木も同様に打ち返してレフト前ヒット。

「どうやら…、カラクリがばれたかな?」

「かもしれませんね…。露骨に速球狙いのようです」

松浪はマウンドに集まった緩井と白色を見据えて、考えを整理した。

「(緩井のボールは緩急を生かして速い球をより速く、遅い球をより遅く見せて戦ってる。1球目でさえ、自分の持ち球を意識させることでタイミングを合わせ辛くしている。だけど一番の罠は…、速球がストレートのみじゃないことだ。)」

何人かの選手が感じた'ずれる'感覚。タイミングのせいかと思っていたが姫華の証言で確信した。

「ストレートとカットボール。この2種類を投げ分けてたな。しかもかなり高速のカットボールだ」

緩井の持ち球はストレート、チェンジアップ、スローカーブに超スローボール。そしてカットボールも持っていたのだ。姫華が同じ速球でタイミングがずれていたのはノビてくるストレートに対し、さほどノビないカットボールの感覚のズレだった。

「さて、そろそろ決めさせてもらうぜ」

 

一方で緩井はマウンドに集まった仲間たちに決意を告げていた。

「みんな、すまない。今まではあらゆる方法で相手をかわしてきたけど、もうネタ切れだ。お手上げだよ」

「へっ、逆に今までよく誤魔化してこれたなあ!」

「まったくですよ」

「そうッスね!」

諦めの言葉を口にしたというのに随分と元気な仲間に緩井が面食らってると風薙が口を出した。

「緩井さん。まだ終わってません。それに…、やるなら後悔しない方法を選びましょうよ。自分が一番納得できる方法で、向こうのキャプテンに挑んでください」

「そうだぜ。おめーの100%。見せてやれよ!」

「飛んできたら俺たちが守りますから」

「せやぞ! しかと守ったるから、ドンと打たしてこい!」

「…みんな。…分かった。やろう。守備、頼むよ!」

「「「「しゃあ!!」」」」

 

緩井はまっすぐと松浪を見据える。おそらく聖森で一番の打者であるだろう。だが逆に抑えれば、流れは来る。

「行くぞっ…、松浪!」

「来いよ、緩井」

緩井はセットポジションから全力でボールを投げる。初球はインコースへのストレート。

「くっ!」

スピンのかかった素晴らしいストレートがインローに決まり、松浪は手が出ない。

「(もしコイツが…、150。いや、140中盤投げられたら。世代ナンバーワンになっててもおかしくない!)」

130キロのストレートさえも速く見せる投球術、ほとんど投げ間違いの無いコントロール、未だに衰えぬスタミナ。いや、球速が無いからこそ磨いてきたのだろうか。

「っりゃ!」

「くそっ!」ズドン!

インハイのストレートに今度は空振り。追い込まれた。

「(やっぱりコイツ、手強い!)」

「まだだ…。ここからが勝負…!」

 

――初めて野球を見たのはテレビだった。小学生の頃、いつも見ていたアニメの時間帯にやっていた中継をたまたま見たのだ。その時にピッチャーが豪速球で次々と三振を奪っていく姿は野球に詳しくなかった緩井少年の目にもかっこよく映った。

「僕も、あんな風になりたい!」

いつかテレビで見たピッチャー見たいになりたい。そう願って野球を続けた。

だが非情な現実が突きつけられたのは中学の時。

「緩井。お前はピッチャーに向いてないよ。打撃も良いし、足も速い。外野かファーストにでもコンバートしないか?」

監督から伝えられた言葉。だが緩井にとってはピッチャーこそが野球をやる生き甲斐だった。それを受け入れられるほど緩井はまだ精神的に強くなかった。

「嫌です! 僕は、ピッチャーがやりたいんです!」

練習は続けたが緩井が中学で投手をやることはなかった。

引退してからもその未練は晴らせず、大人の草野球に混じって投手をやっていた。どの相手チームも、打ち頃だ、遅すぎて相手にならない、と笑いながら試合に臨み、次々と負けていった。その活躍を耳にして声をかけてきたのが赤井だった。

「やあ、君。中学生なんだって?」

「…ええ。クラブチームでは投手はやらせてもらえなかったので」

「確かに球速は無い」

「はっきり言うんですね」

「だがそれ以外は中学生離れしている。緩急の使い方なんか最高だ」

「…初めてです。そんな誉められたの」

「抑えられるならどんな形でも良いんだ。俺はそういう奴を探してるんだ」

「え?」

「1つの欠点だけで他の個性を見られない。お前みたいな奴をね。俺は赤井九郎。次の春から一芸大付属高校ってとこで監督をやることになってる。俺と革命を起こしてみないか?」

茶色いコートと羽根つき帽子をかぶった髭面の男の言葉は、緩井の心を動かすのには十分な魅力だった。

「…やります。あなたの野望に、協力させてもらえませんか?」

そして集まった個性的な面々。まとめるのは大変だったが、秘めたる思いは同じ。

――いつか見返して見せる。

尖った個性の雑草軍団は、数多の強敵を倒し、甲子園までやって来た。ゴールは見えてきた。ここで負けるわけにはいかない…!――

 

「ふっ!」

「うおっ!」

ストレートと同じ腕の振りからのチェンジアップ。松浪はなんとかカット。さらにスローカーブは低く、見極められる。外から入るカットボールはカットされた。そして外へのチェンジアップは見逃しボール。

「(体重移動の仕方が独特だ! さっきスローカーブを見せた以上、打てる手は限られてる!)」

緩井は白色とサインの交換。白色のサインに緩井は驚く。

「(いいのかい? それで)」

「(私にはお手上げですよ。あとはあなたと彼の勝負です)」

緩井は足を上げて勝負球を投げる。勝負球はストレート。松浪は全力で迎え撃った。

「うおお!」キィン!

やや差し込まれぎみながらバットは振り抜いた。打球はセカンド後方。

「捕って見せる!」

風薙は全力でバック。無駄の無い走りからジャンプ。しかし、届かない。

「ぐっ!?」

「落ちる!」

セカンドランナーの風太は風薙が捕れなかったのを見るや否やスタートを切る。

「バックホーム!」

白色が呼んだときには風太は三塁を回ろうとしていた。六上が落ちたボールを拾い、ホームまで直接返す。

「(間に合え!)」

「(帰らせる訳にはいきません!)」

際どいクロスプレーとなり、主審のコールまでに生じた一瞬の時間が選手たちにとっては時が止まったように感じていた。それを破ったのは主審の、

 

腕を広げるジェスチャーだった。

「セーフ!!」

この瞬間、聖森学園のメンバーは喜びを爆発させた。風太と松浪の元に集まり褒め称えた。

そして一芸大付属のメンバーはしばらく立ち尽くし、呆然としていたが緩井は声を出し、仲間を引っ張った。

「…行こう。試合は終わった。…整列だよ」

 

挨拶が終わり、緩井の元に松浪が歩み寄ってきた。

「今日はありがとうな。…お前みたいな投手。見たこと無かった。…すげえやつだったよ、お前」

「…負ければ意味無いさ。君たちが勝ったんだよ。胸を張ってくれ。…そして願わくば僕らの分まで勝ち抜いて欲しい」

「当たり前だ」

「あのピッチャーの女の子にはお大事に、と伝えといてくれ。…あと最高のストレートだった、と。」

「あいよ。あいつも喜ぶよ」

「じゃあ、僕らはこれで」

緩井は飄々とした様子でグラウンドを去ろうとする。

「(僕らの革命は、終わった。敗者は去るのみ。こんなすごい球場で野球ができただけでも良かったかな…)」

するとスタンドから様々な声が聞こえた。

「面白い野球を見せてくれて、ありがとなー!」

「ハラハラする試合、ありがとー!」

 

一芸大付属を褒め称える声。試合前や途中はヤジもあったのだが…。

「(まったく。見てる人たちは…、勝手だよなあ…)」

ベンチ裏に引っ込んだ緩井だがその時に悔しさが込み上げてきた。

「僕が、もっと良いピッチャーだったら…!」

「ソイツはちげーぜ、緩井」

声の主は美留田だった。 それに守田、六上、白色も続く。

「俺らみたいなカブキ者どもがこの野球の聖地に来れたのは、緩井がみんなをまとめてくれたからじゃ」

「そうだよ。それに他のやつより遅い球で同等以上に戦えるんだから、緩井はすげーピッチャーさ!」

「まあリードは大変でしたがね」

「…」

「だからよ、緩井。そう僻むなよ。オメーは俺たちの誇りなんだぜ」

「…そうか。ありがとう、みんな」

「それより緩井! 風薙たちが大変なんだよ!」

「そうです。2年生のメンバーがらしくないほどに落ち込んで大変なんですよ」

「ええ…。また難儀な…」

「よっしゃ、励ましに行ってやっか!」

「おー、行こーぜ!」

そう言って緩井と白色を美留田と六上が引っ張っていく。

「(そういうみんなにも、僕は助けられたんだ。…本当に、ありがとう)」

緩井は心の中で感謝の思いを述べる。そして初めて力不足を感じたという風薙やまた泣き出してしまった伊賀井を励ましに行くのだった。

 

* * * * *

 

「みんな、お見舞いありがとね。もう大丈夫!」

「まったく心配かけさせやがって!」

「でも無事でよかったねっ!」

「そ~だよね~。良かった良かった~」

試合から数日して、退院してある程度軽い運動をした夏穂は次の試合のベンチ入りは認められた。

「監督は先発は大事を取って控えるようにってさ」

「でも確か次の相手って…」

姫華の言葉でそれを思い出した夏穂はハッとする。そして松浪はそれに応じた。

「ああ。次の相手は、恋恋高校だ」




長かった一芸大付属編が終了し、次は夏穂が因縁のある恋恋高校です!
今回のおまけは守田と、遂に緩井が登場です。緩井はパワナンバーも置いておきます。また一芸大付属はパワプロ2018でアップロードします。よかったら使ってみてください。

○緩井幸治(ゆるいゆきはる) (3年) 左/左
一芸大付属高校キャプテンかつエース。弱小だった野球部を監督の赤井と共に甲子園に導いた。性格は至って温厚。だが内に秘めたる思いは非常に強く、意外と頑固。中学時代は身体能力の高さを買われ、外野をやっていた。球速だけには恵まれず、血の滲むような努力の末コントロールとスタミナ、相手打者に違和感を植え付けたり、スタミナを節約したりする投球術を身に付けた。趣味は釣り。好きな食べ物は米系の料理全般。

球速 スタ コン
130km/h A A
⬆️ 超スローボール
⬅️ カットボール 4
↙️ スローカーブ 4
⬇️ チェンジアップ 4
 弾 ミ パ 走 肩 守 捕  守備位置
 3 D D A D E E  投E 一F 外F
ピンチ○ 打たれ強さ○ ノビ◎ 変幻自在 リリース○ 威圧感 回またぎ○ 力配分
チャンス○ 大番狂わせ 積極盗塁 積極走塁

○守田堅(もりたけん) (3年) 右/右
一芸大付属の守備の要。言葉に変な訛りがあるがよく分からない。どこでもかなり上手く守れるがキャッチャーのリードは苦手。ここぞというときは打つこともあるが大体三振かゲッツーなのであまり期待されていない。
地味に風薙とはよく話している。

弾 ミ パ 走 肩 守 捕  守備位置
2 F D D B S B 全てS
チャンス○ キャッチャー△ 盗塁△ 送球◎ 逆境○ ローボールヒッター 守備職人 三振 併殺 選球眼

ペースを守りたい、とは言いましたがこれからしばらく忙しくなるのでまた遅くなるかもしれませんが必ず更新するつもりなので、その時はまたよろしくお願いします!

緩井のパワナンバーと一芸大付属高校のパワナンバーです。
良かったら使ってみてください!
緩井幸治→13900 90218 67832
一芸大付属→23300 20070 32696
※ちょっと修正しました

この作品の中で好きな登場人物は?(パワプロキャラでもオッケー)

  • 桜井夏穂
  • 松浪将知
  • 空川恵
  • 久米百合亜
  • ここに上がってる以外!(コメントでもオッケー)
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