New Styles ~桜井夏穂と聖森学園の物語~   作:Samical

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対恋恋の続きです。話を忘れたという方はどうぞ読み返したりしてください。間空いてしまってるので…


40 人知を尽くして

「ここから続く左2人。頼むぜ百合亜」

「はい、杉浦さんの頑張りを無駄にはしません」

「相手の特徴は頭に入ってるな?」

「でもリードするのは松浪さんですよ」

「リードの意図は汲んでもらわねーとな」

「なるほど。それなら問題ありません」

「オーケー。じゃ、行こーぜ」

「はい!」

2点リードとはいえ、7回裏の1アウト満塁のピンチでリリーフした百合亜。バッターは代打の左打者、石原。逆方向への打球を得意としている。

「(左打者を打ち取ることを期待されて送られた以上、絶対にその役割をはたしてみせる!)」

初球、出所の見えにくいフォームからボールを投じる。低めのボールに対して石原は初球から振っていく。

投じたのはガゲロウストレート…、改め'カゲロウボール'。「こんなに曲がるならストレートを名乗るのはおこがましいですよね」とは、百合亜自身の弁だ。本人いわく、まだ発展途上のボール。県大会から甲子園の間にさらに改良を加えた結果…、

「! 落ちた!?」

石原も驚きの声を上げる。そして松浪も体を張ってボールを止めた。カゲロウボールとなった百合亜のムービングはさらに切れ味を増した。ただし…、

「(曲がる向きは制御不能になっちゃったけどね…)」

相変わらず自分は不器用だな、と百合亜は自分自身に苦笑する。とにかく1ストライク。そして、

「っ!」

「うわっ!」

低めへと落ちるスライダーで空振りを奪う。もう一度アウトコースへのスライダーは外れ、インコースへのスライダーはカットされる。

「(3球もスライダーが来た…! そろそろ…)」

「ったあ!」

「まずい!?」

またしてもスライダー。石原のバットは空を切り、三振。聖森側のスタンドがワッと盛り上がる。

「ツーアウトだ! まだ集中切らすなよ!」

「はいっ!」

ここで恋恋屈指の好打者、相見。

「ワタシ、別にサウスポー苦手じゃないヨ!」

「(確かに苦手にはしてないが、初見の百合亜、対右に比べれば多少は悪い対左打率を考えれば、スギよりは打ち取りやすい!)」

その初球、カゲロウボールから入る。が、

キン!「ファール!」

「ワオ! 曲がったネー!」

「カゲロウボールを、初見で…!」

身体能力に加え、反射神経や動体視力もかなりのものだ。そこに高いミート力。厄介な打者である。

カゲロウボールを見逃され、これで1-1。

「さあ、そろそろ打つヨー!」

「このっ!」

百合亜が投じたのは、

「おっト!?」

サークルチェンジ。完全にタイミングを外し、追い込んだ。ここまでは百合亜のペースだ。

カキン!「ファール!」

「(今のを当てるの!?)」

4球目に投じたアウトコースいっぱいのスライダーはカットされる。

「(今のはこれ以上無いコースだったけど…、こいつ。マジで厄介だぜ!)」

「(ぐっ…)」

徐々に打つ手が減っていく。低めのカゲロウボールは今度はファールラインギリギリの3塁側へのファール。さらにサークルチェンジは見逃されカウントは2-2。

「(もうチェンジも対応し始めた! やべーな…!)」

「何を投げても、合わせられる…!」

真綿で首を絞められるように、じわじわと追い詰められていく。

「…タイム」

松浪は一度タイムを取って、マウンドに向かう。内野手も集まろうとするが松浪はそれを止める。

「(百合亜と2人で話をさせてくれ)」

「(りょーかいっ!)」

「(任せたぜ!)」

 

「どうするか、ですか?」

「ま、それもあるけど…」

「何を投げても少しずつ合わされて、カゲロウも、スライダーも、チェンジも…」

「えらく弱気だな…。まだあるだろ? 投げてないボール」

「え?」

「あるじゃねーか。もう1つ。それは…」

「あ…。でもそれは…」

「大丈夫だ。俺がリードするんだぜ? 打たれたら、全部の責任背負ってやる。…もう負けるときのマウンドには立ちたくないんだろ? そんな弱気で、どうすんだよ!」

「…!」

少し陰っていた百合亜の目に再び闘志が戻ってくる。そしてグラブを外し、両手で自分の頬をバシッ、と叩き、

「ありがとうございます。お陰で目が覚めました。…絶対に抑えます!」

「おう。ここで食い止めるぜ?」

「はいっ!」

 

プレー再開。2アウトランナー満塁、カウント2-2。

「なんかさっきと目が違うネ」

「ああ。勝つのは…、俺達だ!」

「ワタシたちも、負けないヨ!」

再開後の初球は、低めへのカゲロウボール。しかし先ほどとはキレが段違いだ。

「おっト!?」

なんとか相見はバットに当てた。さっきまではアジャストしてたがここまでキレているとそれは難しくなる。

「(…これだ)」

「(了解です!)」

百合亜は全力で腕を振り、ボールを投じる。そのボールは…、

「! インコース!?」

突然のインコースへの、'フォーシーム'。確かにノビや速度ではベンチ入りした4人の中でも他の3人には及ばない。だが百合亜のフォーシームストレートは、厳しいところを狙えるコントロールがある。

インローいっぱいのストレートに、相見は手が出ない。

「ボールッ!」

しかし判定はボール。渾身の1球に見逃し三振だと思っていた聖森側の面々は、ため息をもらす。これで3-2。しかし、この1球は相見に迷いを生じさせた。

「(危なかったヨ…! そんなに速くない、って話だったのニ…! )」

今の球は思ったよりもノビてきた。

そして運命の9球目。ランナーはオートスタート。フォアボールでもデッドボールでも点が入る。

「行けえ!!」

百合亜が投じたボールは真ん中へ。甘めのコースに来たボールに相見は打ちに行く。しかし頭にはキレの増したカゲロウボールとインコースへのストレートがちらつく。

「うっ! スライダー!?」

左打者のアウトローへのスライダー。奇しくも追い込んだ時に最初に投じて、対応されたボールで相見から空振りを奪い、三振に切って取った。

一気に沸き立つ聖森側のスタンド。

そしていつもはクールな百合亜も控えめにガッツポーズして見せた。

「ナイスピー! 百合亜!」

「サンキューな、久米!」

「よく投げきってくれたな!」

「はいっ! …松浪さんのお陰ですよ」

「ちげーよ。投げきったお前の手柄だ」

「でも…」

「俺がリードする以上、打たれたら俺の責任。抑えたのはピッチャーの手柄だ。成し遂げたのはお前自信なんだからな。…それにまだ終わってねえぜ」

「はい。この試合、必ず勝ちましょう…!」

 

「先程代打で出ました、石原さんに代わりまして、夢城優花さんが入りピッチャー。9番、ピッチャー、夢城優花さん。背番号10」

8回表のマウンドには鋭い目付きのサウスポー、夢城優花が上がる。投球練習を見た限りはサイドハンド。

「遅いな…」

「ハエでも止まるんでやんすかね?」

スピードガンの表示は110キロが出るか出ないか。そのレベルである。

「(でも恋恋の背番号を背負ってるんだから、何か理由があるはず…!)」

夏穂は自身の準備を始めつつ考えていた。

先頭は風太。左打者の風太にとっては厄介な相手かもしれない。その初球…、

ズバッ!「ストライク!」

「(緩井よりさらに遅い…。だけど今のコースは厳しい)」

アウトローいっぱいに107キロのストレートが決まる。そして2球目はインローにボールゾーンから入るスライダー。これもギリギリのコースにストライク。さらにチェンジアップを投じられこれはカットする。

「(上手くタイミング合わせられねーし、変化も遅い割りにキレが良い! 打ちにくいぜ、これ!)」

しかし4球目は真ん中へと入ってくる。あまりに甘いボールに面食らうが迷わず打ちに行く風太。

「なっ!?」

「ストライク! バッターアウト!」

ボールはバットの下を潜り抜けるように沈んで行った。まさしくこれが夢城優花の得意球、スクリュー。

「どうだったっ!?」

「遅い。けど、その遅さを絶妙な緩急とコントロール、変化球で逆に活用してる。緩井とおんなじくらい、面倒な相手だぜ」

「りょーかいっ。ありがとっ!」

2番の姫華が打席に立つが、姫華は思い切りバッターボックス内の前に立った。

「あら。思いきったことするのね」

「こっちも点が欲しいからっ。打たせてもらうよっ!」

「そう…。でも生憎、こっちも点を取られたくないの。だから…」

優花はキャッチャーのサインに頷き、投じる。

「ここは大人しくしててもらうわ!」

投じられたのはスクリュー。初見では対応できず、姫華は空振り。続いてアウトローへのスライダー。しかしこれはやや外れボール。

そして3球目、

「わわっ!?」

突然ストレートが姫華の顔の近くを掠めていった。失投のように見えるがコントロールの良い優花にしては珍しいボールだが…、

「(今の、絶対わざとだっ!)」

慌てた素振りも見せない優花を見て姫華は確信する。となると次はアウトコースへのスライダーか、ストレートだろうか。

「ふっ!」ズバッ!

「うっ…!?」

踏み込もうとした姫華の胸元にストレートが掠めていく。思わず身を引いてしまったがストライク。

「(この期に及んでそんな安直な配球はしないわよ)」

「(うー、逆手に取られたっ!)」

これでカウントは2-2。そしてまたしてもブラッシュボールが飛んでくる。

「っ!」

「ボール!」

今度は姫華は大きなリアクションは取らず少し頭をよけただけ。これでカウント3-2。

「(内を3球も続けた…。そろそろ外…。いや、また内に来る…!?)」

クレバーな投手相手に駆け引きをするのは得策ではないが、姫華は的を絞る。

「(なにも考えず、インコース待ち! 外は見逃す! 三振オッケー、運が良ければフォアボール!)」

優花が投じた6球目は姫華の読み通り、インコース。

「(もらった!)」

ここぞとばかりにバットを振り抜いたが感触は無い。ボールはミットに収まっていた。

「(ボールゾーンに落ちるスクリュー…! フルカウントからボール球投げてくるなんてっ!)」

見逃されればフォアボールだったが、バッターがそれはないだろうと思って手を出してくるギリギリのコースに投げてきた優花の度胸とコントロールを誉めるしかない。

そして打席には松浪。優花も一度セットを外し、ロージンに手を伸ばす。

間を取り直した優花の初球。

カキーン!!「ファール!」

「…流石ね」

「ちょっと早かったか?」

初球右打者の松浪のインコースから入ってくるスクリュー。初見でなかなか打てるものでは無いはずだが苦もなく対応してきた松浪。打球こそ三塁線の外へと切れていったが打球は鋭かった。2球目は外へのストレートが外れ、次いでインコースへのストレートもボール。

「(こいつ、やるなあ。内外を目一杯使って様子を見てくる。どれも手を出そうか迷うぐらいのとこだぜ)」

そして4球目。

「っ!」

「! 高い!」

優花のチェンジアップが高く浮いてきた。失投の少ない優花の数少ない失投は捉えたい。

カキーン!!

松浪の鋭いスイングがボールを捉え、弾き返した。高々と上がった打球にスタンドは沸き立つ。しかし打球は徐々に失速し、追いかけていた相見のグラブに収まった。

「しまった…! やられた!」

失速する打球、感触から松浪は自分の過ちに気づいた。あのチェンジアップ。失投などではない。優花が相手が失投だと力んで打つことを想定した上での狙って投げたコース。それに松浪はまんまとかかってしまった。

「(だけど俺の仕事は打つだけじゃねえ。しっかりと守らねえと!)」

松浪は失敗を忘れはしないが引きずらない。その失敗を糧に次なる躍進への踏み台にしていく。それを成すのは強靭なメンタルだろう。

「さあ、あと2イニング! しっかり守ろうぜ!」

「「「おおっ!!」」」

 

8回裏、恋恋は2番から始まる好打順。百合亜は先頭の左打者佐々木をスライダーでサードゴロに打ち取る。しかしここで右の打席には好打者、夢城和花。

「あと2点。何がなんでも…、出塁します」

「(闘志は感じられるけど、こいつのプレースタイルは至って冷静…。厄介な相手だな…)」

松浪は百合亜に初球は外から入るスライダーを要求。しかし要求よりも真ん中に入り、松浪は慌てたが和花は見逃してストライク。

「(ちょっとヒヤッとしたけど…、次は…)」

百合亜の2球目はカゲロウボール。

「っ!」

和花は外角低めへと変化したカゲロウボールに食らいつく。打球はやや高く跳ねて一二塁間へ。打ち取った当たりだが飛んだ位置が微妙なところ。竹原が手を伸ばして捕ろうとするも、打球はミットの先に当たった。

「しまった…!?」

その打球を慌てて姫華が拾うが当然間に合わない。記録はファーストのエラーとなった。

「すまん…」

「大丈夫です。絶対点は取られませんから!」

「(大が少し出過ぎたな…。とは言えあのコースだと姫華でもギリギリだろうし、仕方ねえな…)」

だが松浪と百合亜はしっかりと切り替えていた。1アウトランナー1塁。

「えいっ!」

「くっ…!」

制御の難しくなったカゲロウボールを低く集めて新垣はファーストゴロに打ち取った。しかしその間にランナーの和花は2塁へ。迎えるのは5番の米倉。先ほども杉浦のカーブを捉えたチャンスに強い右打者。この打者に対しても百合亜は強気に攻めていく。

初球からインローへクロスファイヤーのフォーシームを投げ込む。さらにインコースへボールとなるスライダーを投じて米倉に内を意識させた。そこからアウトローにカゲロウボールを投じ、空振りを奪って追い込んだ。

そして5球目に投じたのはサークルチェンジ。

「! チェンジアップ!」カッ!

タイミングは外されたが、それでも米倉はなんとかバットに当て、打球はやや高く跳ねて百合亜の頭上へ。百合亜は咄嗟にジャンプして捕り、1塁へ送球。ピンチにはなったが冷静に抑えて見せた。

 

カキン!

「流石にやるわね…」

先頭の竹原にスライダーを上手く拾われレフト前ヒットを浴び、さらに恵にはしっかり送りバントを決められる。

ここで榊原監督が動く。

「聖森学園高校、選手の交代をお知らせします。バッター、久米さんに代わりまして、雪瀬さん。背番号、12」

「聖森学園、ここで代打策! 打撃にも定評のある久米に代えて、この夏初出場となる雪瀬を送り出しましたァ! さあ、どんなバッティングを見せてくれるのでしょうかァ!」

 

「(き、緊張する…!)」

打席に向かう前、ベンチから出た氷花の内心は穏やかでは無かった。自分の実力は分かっている。正捕手がチームの要である松浪である以上、出番は多くない。そして氷花の一番の悩みは…、

「(私は、完全に伸び悩んでいる…)」

入部した時はその捕球技術などを認められ、その世代の正捕手とも目されていたが、氷花の今の評価は守備面は認められているものの、肩と打撃の弱さが足を引っ張り、同期で内野手から捕手の練習も始めている池野は肩が強く、打撃も良い。他の部員からは氷花のリードや敵チームの研究に対する姿勢は大きな信頼を寄せられている。しかし、それだけでは正捕手になれるわけではないだろう。

「雪瀬」

その氷花に榊原監督は声をかけた。

「気負う必要はない。やれることをやってこい」

「え…」

「そうよ、氷花」

交代するため戻ってきた百合亜も助言する。

「あの投手に対して、私よりもあなたの方が打つ可能性が高い。そう監督が考えた代打なんだから、自信もって行っておいでよ」

「う、うん!」

そして氷花は打席に向かう。

「久米。悔しくはないのか?」

「悔しくないかと言われれば、否定はしません」

榊原の問いに百合亜は飄々と答える。

「でも私は、彼女の方が打つと思います」

 

「初出場の代打。しかも2年生…。よく分からないわね」

しかし少なくとも代打で出てきたのだから何かしらの策があるのだろうと優花は察していた。

「(これでいこう)」

「(わかったわ)」

広瀬のサインに優花は頷き、インローへのスライダーを投じる。氷花はスイングし、空振り。

「(ストレート狙い…?)」

「(大丈夫、体は動いてる…!)」

初球から振ってきた姿勢に色々と勘ぐる広瀬、一方でそれよりも自分のパフォーマンスに問題がないことにホッとした氷花。

「(思い出すんだ…、このキャッチャーのリードを、相手投手の特徴を…)」

氷花は松浪のように奇抜なリードは得意とはしていない。彼女のリードは初対面の人とは力を発揮しないもの。組む投手の性格や投げたがるボールの傾向を理解した上で…、

'その投手にあった最適のリードを当てはめる'。

中学生の頃からずっと続けてきた配球の研究は彼女の知識に莫大な配球パターンを刻み込んだ。だがその知識を活かすのにはもうひとつ必要なものがある。

それは'自信'。この打席はそれを、百合亜が与えてくれた。

「(ストレートを狙ってたバッター、強気な投手、軟投派…!) ここだ!」

カキーン!

「なっ!?」

「っ!?」

ストレート狙いの打者が変化球を空振りした後は広瀬はかなりの確率で高めに釣り球がくる。氷花は敢えてそれに乗った。打球はサード後方にポトリと落ちるヒットとなりこれでランナー1、3塁。

「やった…!」

「ナイスバッチ氷花!」

すぐさま代走に矢部川が送られ、打席には満。その初球…、

「! スクイズ!」

「よしっ、転がせた!」

スライダーをきっちりと転がしスクイズ成功。1点を追加する。しかし続く初芝はサードライナーに倒れ、スリーアウト。

 

そして最終回のマウンドには夏穂が上がる。榊原は夏穂が万全でないことはわかってはいるが本人のみならず他の部員からも「最後には夏穂を」との声が上がっていたことを尊重し、マウンドに送り込んだ。

するとスタンドからは大きな歓声が上がる。

「まるでアイドルみてーだな、こりゃ…」

球場の雰囲気に松浪も苦笑する。だが夏穂の雰囲気はいつも通り、マウンドの外の朗らかな夏穂とは別人、それでいてそのマウンドを楽しむような雰囲気。これなら心配いらないだろう。

ズバーーン!!

「ううっ!?」

先頭の土屋は手も足も出ない。ストレート、ストレート、スライダーで簡単に打ち取られる。続く有村もチェンジアップを引っかけてセカンドゴロに倒れる。

そして…、

カキン!

「ああっ…!」

2アウトで打席に立った広瀬もストレートを打ち上げてしまい、ショートフライに倒れ、呆気ない幕切れとなった。

 

「…」

「行くわよ、譲原。試合終了よ」

「…あんたは、悔しくないの?」

打順が回っても代打が出るためベンチにいた優花はベンチから動かなかった譲原に声をかけ、そう問われた。

「これで、終わりなのよ。私たちの、高校野球は…」

「何事もいつか終わるわ。永遠に続くものなんて無いもの」

「…」

「終わりがあるから、そこまで全力で頑張るの。私は少なくともベストは尽くしたわ。まあ、結果は見ての通りだけどね。だけど私は後悔はしてないわ」

「そう…。さすが、あんたらしいわ…」

「…まあ、でも…」

優花は涙を拭ったりしながら整列に向かうチームメイトを見つめて、ふと言葉をこぼした。

「今日で終わると思うと、少し寂しいわね」

「!」

譲原は、優花のその言葉に少なからず驚いた。優花にも、そういう感情があり、今見せたような寂しそうな顔もするのだと。

「そろそろ叱られるわよ。急ぎましょう」

「…そうね。行きましょうか」

 

 

全国高校野球選手権大会 準々決勝

聖森学園 000004001 5

恋  恋 000000200 2

 

 

* * * * *

 

「…」

「夏穂、なんだよ。そんなにボーッとして」

「…ん? ああ、トモか」

宿舎の外で夜風に当たっていた夏穂の元にやって来たのは松浪だった。

「いやー、今部屋ではね、百合亜が語りまくってるの」

「へー、あの百合亜が?」

「うん。なんでもお気に入りの、というか憧れてるプロ野球選手がいて、今日のスポーツニュースでその選手の特集組まれてて、その良さを今は氷花と環に話してるの」

「あいつの憧れって誰だよ?」

「夢ヶ咲の菱本、って言ってたよ」

「ああ、確か'球界最弱のクローザー'と揶揄されてた…」

「でも、すごいピッチャーだけどね?」

「最初はそうは見えなかったからな~」

その菱本とは夢ヶ咲タイガースのクローザー。クローザーとしては珍しくサウスポーでかつ軟投派。百合亜と同じくムービングの使い手であるため、百合亜は憧れてるのだとか。本人が熱弁していたという。

「おっと、話が逸れたな。で、夏穂はここで何してたんだ?」

「んー。百合亜から逃げてきて、ついでにここで考え事してたんだよね」

「何を?」

「あと2つ。なんだよね」

「…そうだな」

「ここまで来れたら、行かないとね。優勝まで」

「当たり前だ。先輩たちに、俺たちの勇姿、見せてやろうぜ!」

「うん!」

 

* * * * * *

 

「さて! いずれの試合もひっじょーっに! 熱い戦いでしたァ! ではでは、響乃ちゃん。締めの方、よろしく!」

「さて、明日は休養日。そして明後日からは残すところあと4校となった準決勝! 私たちもこの熱さに負けないリポートをしていきたいと思います! それでは、熱盛さん! シューゾさん! せーのっ!」

「「「アディオース!!」」」

 

残ったのは僅か4校。最後まで勝ち残れるのは1校のみ。栄冠は誰の手に掴まれるのだろうか…。

 

 




恋恋編終了です。百合亜は向上心の塊が故に大会期間中に変化球の改良を試みてしまうという、困ったちゃんみたいになってしまいましたね…。あと久しぶりに氷花の出番来ました! どうしてもキャッチャーの控えは出しづらい…。
あと夢城姉妹はパワプロアプリで突然出て来てビックリした記憶が。姉の優花の能力はリアルで良いと思います(110キロ、左のサイド、制球タイプ)。アンダーで138キロ投げるあおいよりリアルだと思います。
今回のおまけは氷花です。

○雪瀬氷花 (2年) 右/右
聖森学園の2番手捕手。高い捕球技術と投手に気分良く投げさせるリードがウリ。攻撃面は非力な上に足が遅い。徹底した読み打ちで打つときは打つが打たないときはとことん打たない。非常に研究熱心で相手のクセを見つけるのはだいたい氷花である。配球パターンを覚える記憶力も凄まじく、その記憶力はテストの暗記科目などにも活きており、野球部内の神経衰弱では最強の座に君臨する。
好きな食べ物はスープやシチューなどの体が暖まるもので、ミントが苦手。趣味はかわいい動物の動画を見ることとチェスや将棋などのボードゲーム(オセロのように勝ち筋が決まっているものでは同じ趣味の松浪よりも強い)

 弾 ミ パ 走 肩 守 捕  守備位置
 1 D E E E B A   捕B 一E
 キャッチャー○ 固め打ち 送球△ 意外性 ケガしにくさ○ 慎重打法 ミート多用

実に28パートぶりの紹介となったので長めの紹介にしました!
では、次回もよろしくお願いいたします!

この作品の中で好きな登場人物は?(パワプロキャラでもオッケー)

  • 桜井夏穂
  • 松浪将知
  • 空川恵
  • 久米百合亜
  • ここに上がってる以外!(コメントでもオッケー)
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