New Styles ~桜井夏穂と聖森学園の物語~   作:Samical

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今回は懐かしい人たちが出てきます!


45 栄冠を目指して

「さてさて、およそ3週間! 高校球児たちの甲子園での熱い戦いをお届けしてきたこの'激アツ甲子園'もいよいよ明日が最後ッ! 全国4000超の出場校の中で残ったのはたった2校!」

「エース十三村くんを中心に団結し勝ち上がってきた開拓高校! 新時代を切り拓く、新たな野球を見せる聖森学園! 果たしてどちらが頂点を取るのでしょうか! では、明日も心に響く、熱い戦いをお送りします!」

「「では、アディオーース!!」」

夏の甲子園大会の間の人気番組、'激アツ甲子園'。パワテレの名物アナウンサー熱盛宗厚と期待の若手アナウンサー、響乃こころがMCを勤めており、高校野球専門で開催期間中は毎日放送される。

それぞれ歩んできた道のりが特異な開拓高校と聖森学園は初出場ということもあり、初戦から注目されていた。そしてそれぞれに、いわゆる'大衆受け'する要素があった。

一度は強豪野球部にいたが追い出され、その後に当時まだ分校だった開拓高校に転校し、この夏に見事リベンジを果たした十三村を擁する開拓高校。

創部わずか4年、苦い経験を糧に成長し、並みいる強敵を破って勝ち上がってきた聖森学園。

どちらも苦難を乗り越えて強豪相手に勝ち上がってきたという、いわゆる'英雄'的な存在。

そしてより俗っぽいことを言えば、両チームのエースが容姿に恵まれているということも、メディアがこぞって報じ、野球ファン以外からも注目を集めている要因である。

開拓の十三村はメディアの言葉を借りれば'イケメンエース'とのこと。実際、彼がかつて在籍した混黒高校を去った際には残念がった生徒もいたうえに、当時の開拓分校に移った際にも彼に興味を持ったため野球部の様子を覗いていた生徒もいたという逸話があるほどであった。

一方、聖森学園の方で容姿の話をすればまず挙がるのが夏穂であった。学校内でもその容姿と男女分け隔てなく接する明るく快活な性格が相まって男女通じての人気者である。噂では非公式のファンクラブが存在するという。

そして往年の野球ファンはこうした話題に「試合内容で盛り上がれよ」とツッコむが、どういう形であれ夏の甲子園の決勝戦に注目が集まる以上は仕方ないか、と受け入れている。

 

そして、そんな愚痴を溢す野球ファンはこんなところにもいた。

「まったく。イケメンだー、とか、かわいいー、とか! 今は関係無いッス! 決勝戦ッスよ! 甲子園の!」

「はいはい、ほむほむ。分かったから落ち着きなさい」

「落ち着いてられるかッス! 試合前に解説者さんがしてくれる貴重な解説の時間をしょうもない特集で潰されるのが納得いかないッス!」

「うふふ、今日のほむほむ、キレッキレですね~」

甲子園へと向かうバスで'前日入り'しようとしている女子高生のグループ。それは聖森学園が県大会決勝戦で死闘を繰り広げた聖ジャスミン高校の元・野球部員たちである。ここには主要メンバーの中で予定を確保出来ていた、小鷹、川星、東出、太刀川、浪風、大空、矢部田、小山。前日入りなのは川星のゴリ押しに皆が負けて決まった。ちなみに美藤、泊方は夏休みの補習に捕まっているため置いてこられた。

スマホで様々なスポーツニュースを梯子して見た内容に文句を付け荒ぶるほむらを横目にため息をついているのは東出だった。

「ほむらちゃん、元気だね…」

「ずっと楽しみにしてたしね。『実際戦って、負けて、自信が確信に変わったッス! ほむらたちに勝った聖森学園はきっと優勝するッス!』…って」

「あはは、似てる似てる。無理やり、某選手の名言使おうとしておかしなセリフになってたしね」

「それに…、私も楽しみなんだ」

東出と会話を交わすのは、その決勝戦で夏穂と投げ合った太刀川。決勝戦で負った左肩の負傷は最悪の事態は免れた。しかし太刀川は高校で野球から手を引き、大学では自分のような悲劇を繰り返さないためにトレーナーを志すと決めていた。

「夏穂が最高の舞台でどんなピッチングを見せてくれるのか…、それが楽しみ!」

「そうだな。頑張ってほしいもんだ」

「あ、東出君! 同じ速球投手としての立場からの十三村君の話を聞きたいッス!」

「え、ええ? 僕はショート…」

「中学まで大エースで、高校でも153キロ投げた人が何言ってるんスか! ヒロぴー、席代わるッス!」

「え? うわっ、ちょっと!? 危ないよ!?」

「み、みんな、小型バス貸しきってるとは言えもう少し静かにするだべよ…」

 

 

そして当日、甲子園には大量のファンが押し寄せた。開門後数十分で満員通知が出た。なんとか入ることに成功した一団の中にも聖森学園と深い関わりを持つものたちがいた。

「ふう。なんとか入れたね」

「ふっ。私の計算通りでしたね。開門8時間前から並べば入れました」

「バカ野郎! 行きつけのジムの知り合いのオヤジが親切でワゴンに乗せてくれたからこの時間に来れたんだろーが! 電車じゃ来れなかったぞ!」

「そもそも、早すぎだったじゃん…。着いた時点でなぜかマイクロバスで来てた女子集団しかいなかったし…」

「こまけーことはいーじゃねーの! それよか、俺たちに勝ったあいつらの勇姿、しかとこの目で見届けてやろーぜ!」

「守田の言うとおり、見届けようよ。日本一を決める戦い、できれば…、僕らに勝った聖森に勝って欲しいけど…」

一芸大附属の面々も甲子園を訪れていた。引退しても喧嘩をするのはいつも通り、だが高校から遠く離れた甲子園までわざわざ一緒に来るのだから結局は仲が良いんだよな、というのが緩井の見解である。

 

聖ジャスミンや一芸大附属のメンバーのように甲子園まで来るのはごく一部だが…、甲子園の頂点を目指した多くの選手たちもそれぞれの形で見守っていた。

 

「…お、そろそろだ。西城さん! 始まりますよ! もうすぐ!」

「…ん? ああ、そういや今日が決勝か」

「にしても、まさか俺らの初戦の相手が決勝行くチームだったとは意外でしたねえ」

「そう、だな…」

ここは米田実業グランド。西城は既に引退しているが、プロ入り又は名門として知られている米田大学野球部、どちらかに進むことを見据えて自主トレ中であった。

「(くだらない慢心が招いた結果…、それもあったかもれないが、こいつらは、強い。それは実際に戦った俺たちだから分かる。たがらこそ、簡単に負けるんじゃねーぞ…!)」

 

 

「で、どうしてあなが私の部屋にいるのかしら?」

「別に良いじゃない。一緒にエースの座争った仲でしょ?」

恋恋高校の元・野球部員、夢城優花の自宅の部屋に押し掛けてきたのは同じく恋恋の元・野球部員の譲原だった。

「どうせあなたのことだから、この決勝を見届けるつもりでしょ?」

「入試勉強があるからそこまでしっかり見るつもりはないわ」

「ながら勉強なんて捗らないわよ。下手な嘘ついちゃって…」

「…仕方ないわね。終わったらさっさと帰りなさいよ」

「はいはい。あ、クッキー作ってきたから。食べて良いわよ」

「…そう。なら、紅茶を淹れてくるわ」

「あれ、意外。もてなしてくれるんだ?」

「貰うものには対価を差し出す。貰いっぱなしは気に入らないの」

こんな何気ないやり取りが出来るくらいには関係はマシになったものだ、と譲原は考えていた。そして紅茶を淹れて戻ってきた優花に譲原は尋ねた。

「ところでどっちに勝って欲しい? やっぱり聖森?」

「どっちでもいいわ」

「むー。素っ気ない答えね」

「ただ…、私たちに勝ったんだから、私たちが負けたことが恥ずかしくなるような不甲斐ない試合だけはしてほしくないわね」

「! …ふふっ、そうね」

 

――試合前…、聖森学園側ベンチでは榊原監督による最後の試合前ミーティングが行われていた。

「いいか、この試合がこのチームで戦うラストゲームだ。三年生、この試合でお前たちの高校野球生活は終わりとなる。…後悔だけは、必ずするな。ミスしても構わん。後悔しない挑戦を、しっかりやってこい!」

「「「「「はいっ!!」」」」」

「そして、二年生。三年生の背中を目に焼き付けてこい。偉大な先輩たちの背中をな…。そして、逆に三年生の記憶に刻み込んでやれ。共に戦ってきた自分たちの存在を!」

「「「はいっ!!」」」

「よし、松浪。締めは頼んだ」

「うっす! …みんな。この夏の甲子園の決勝の舞台、立てる奴ってのはな、毎年2チーム、18人ずつしかいないんだ。たったの36人だ。日本中の高校球児たちが夢見て、挑んで、届かなかった場所だ。その舞台に、俺たちは立てる! そして全国の、この舞台を目指した奴らに見せてやろうぜ…!」

松浪は改めて自分のことを指差し、みんなを見渡して言った。

「俺たちは、'最高のチーム'だってことをな!」

「「「「おおおおっっ!!」」」」

 

 

一方の開拓高校ベンチ…、

「えーっと、…よし、十三村! 後は任せたぜっ!」

「ム、ムラッチ? ここまで来てそれ?」

「仕方ねーだろ! まわりのスゲーやつに引っ張られて甲子園優勝しただけの俺にゃお前らみてーに、自分の力でここまで来れたスゲー奴らにかける言葉なんてねーんだよ!」

「!」

「お前ら、ここまで来ちゃったんだぜ? 自信持ってやりゃあ、なんとかなるぜ。俺でも甲子園優勝メンバーの一員になれたんだからさ」

「…」

「あーあ、ムラッチのせいで緊張感が台無しだぜ!」

「軽井の言うとおり、やっぱ俺らにこういう堅苦しい雰囲気は似合わねーな!」

「ちょっと詰井くんまで…」

「大丈夫だぜ、マネージャー! お前のことも、日本一のマネージャーにしてみせるからよ!」

「!」

「みんな、好き勝手言っちゃって…。俺からもひとつ。…みんな、俺のワガママに付き合ってもらって、すまなかった! 本当に、感謝してる!」

「おいおい、感謝してるのはこっちの方だぜ、キャプテン! 俺は中学の時一回も勝てなかったお前とこうやって一緒に野球ができるなんて思ってもなかったしな!」

「そうそう。キャプテン来てくれなかったら、今みたいに野球を全力で楽しめてなかったし」

「俺も。キャプテンのおかげで、野球とちゃんと向き合えたし、何より上手くなれた!」

「みんな…」

「だから、ここにいるのは、お前のためなんかじゃないぜ。みんな、やりたいから集まったんだ。感謝される謂れはないぜ」

「詰井…、…よし。じゃあ、この試合、最高の試合にしよう!」

「「「「しゃぁ!!」」」」

 

試合開始30分前、満員となった甲子園に両校のスターティングオーダーが発表された。

 

先攻、開拓高校

1番 センター 軽井 紀矢

2番 セカンド 宇佐美 保

3番 ファースト 御影 京一

4番 キャッチャー 詰井 理人

5番 レフト 十三村 賢人

6番 ピッチャー 澄原 広海

7番 サード 広畑 完治

8番 ライト 沖田 淳

9番 ショート 杉田 祐樹

 

後攻、聖森学園高校

1番 ショート 梅田 風太

2番 レフト 久米 百合亜

3番 キャッチャー 松浪 将知

4番 ファースト 竹原 大

5番 ライト 空川 恵

6番 ピッチャー 桜井 夏穂

7番 サード 桜井 満

8番 センター 初芝 友也

9番 セカンド 椿 姫華

 

両校共に打線やポジションを準決勝から組み替えてきた。

開拓高校は先発投手もエースの十三村ではなく、背番号10を背負った女性左腕、澄原が務める。また、打順も詰井、十三村という開拓高校屈指の好打者をクリーンナップに並べてきた。

一方の聖森学園は、ポジションはそのままに打線を大きく組み替えてきた。どこからでも点を取りに行ける、と榊原が考えた攻撃的オーダー。左腕の澄原の先発が予想外だったこともあり、いきなり左打者二人を左腕に挑ませることになったが二人とも対応力の高さは折り紙付き、問題ないという判断だ。

 

そして両校の選手たちがベンチの前に整列し、主審の合図を今か今かと待っている。

互いの才能、努力、チームワーク、経験、覚悟。その全てをぶつけ合う戦いの火蓋は切って落とされようとしていた。

「集合ッ!!」

主審の掛け声で両校の選手は飛び出し、主審の元、ホームベース付近で整列する。

「「「「「お願いします!!!」」」」」

挨拶をし、守備へと向かう聖森学園と先攻のためベンチへと引き返す開拓高校。球場は試合開始を待ちわびていたスタンドを埋め尽くす観客の拍手に包まれた。

大観衆の中、マウンドに上がったのは聖森学園のエース、夏穂。

投球練習を終え、松浪が野手に呼び掛ける。

「さあ、初回っ! 締まっていこう!」

「「「おおっ!」」」

打席には開拓高校の先頭打者、軽井が右打席に入り、主審が試合開始を告げる。

「プレイボール!!」

球場が再び歓声に包まれる。そんな中、夏穂は小さく振りかぶり足を少し捻り気味に上げ、まっすぐホームに向かって飛び出すような勢いで踏み出す。体重を乗せきって腕を思い切り振るう。指先で最後までボールを押し込み、投じられたボールが松浪のミットに突き刺さる。

「ストライクッ!!」

たった1球のストライクに驚くほどスタンドが沸く。そんな不思議な雰囲気の中、夏穂はさらに気持ちを高める。

「(これだけの大舞台、注目を浴びて投げられる機会はそうそう無いと思う。だからこそ!)」

緊張が無いかと言われれば嘘になる。だがここに立つ以上、エースとして、三年生として、堂々としていないといけない。

「(行くよ…! この試合、最後を飾る試合は負けたくない!)」

 




過去登場組の会話でほぼ終わってしまいました…。本格的に試合に突入するのは次以降となります。
今回はおまけは無しとなります。次回もよろしくお願いします!

この作品の中で好きな登場人物は?(パワプロキャラでもオッケー)

  • 桜井夏穂
  • 松浪将知
  • 空川恵
  • 久米百合亜
  • ここに上がってる以外!(コメントでもオッケー)
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