New Styles ~桜井夏穂と聖森学園の物語~   作:Samical

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前回から1ヶ月空きましたが、今回は百合亜がリリーフしたところからです。


47 マウンドに立つ覚悟

3回途中、3点ビハインド、1アウトランナー1、2塁でリリーフ。バッターは左打者の澄原。女性選手ではあるが開拓高校の中でも高い野球センスを持った選手、打撃にも非凡なものがある。

「(しんどい場面だけど…、嫌いでもないね。こういうパターン)」

ピンチでのリリーフ、それを喜んで引き受けるピッチャーも多くはないと百合亜は思っているが、当の百合亜自身は大好きとまでは言わないが悪くは思っていない。

「(それだけ信頼されている…、これ以上点差を開かせない、もしくは試合を壊さないように送り込まれる。そう考えると、悪い気分じゃないよね)」

松浪のサインに頷き、初球をリリースの出所の見辛いフォームから投じる。

『初球はストライク! リリーフした久米、レフトからの緊急登板ですが初球からキレッキレのスライダー! ストレートを狙っていたのか、打席の澄原は豪快に空振り! さあ、ワンストライク!』

試合開始から未だにテンションマックスの熱盛もさらにテンションを上げた。その様子に辟易しながらも解説で名監督として知られる八木が答えた。

『外野からのリリーフ、しかもピンチと厳しい状況だったが、この初球をしっかりとコースに、しかも変化球を決めたのは素晴らしい。いつでもマウンドに行ける…、リリーフ投手の鑑じゃのう』

続く2球目は一瞬真ん中へと来るように見えた。が、ボールは打ちに来た澄原のバットの下を潜ってミットに収まった。

『ムービングファストでしょうか!? 空振りするほど大きな曲がりを見せた速球で追い込みましたァ! さあ、熱盛としてはここで決め球でビシッと決めて欲しいところッ!』

松浪のサインはアウトコースへのストレート。しかし百合亜は首を振り、別のボールを要求した。その様子を見た松浪もニヤリと笑いサインを変える。それには百合亜も頷き、3球目を投じる。

「!」

澄原は投じられたボールがスライダーだと気付いた。初球に空振りしたのとほぼ同じコース。今度こそレフトへと弾き返すべくスイングを敢行した。しかしバットがそのボールを捉えることは無かった。

「ストライク! バッターアウト!」

『三振ーーッッ!! マウンドに上がったばかりの久米! 絶妙なコースにスライダーを投じて三球三振を奪いましたァ!』

『追い込まれた以上、あのコースは手を出さざるを得ん。追い込んだ時点で勝負はあったのう…』

 

「(よくもまあ、俺の構えたコースにここまで投げてくれるもんだよ)」

今の打席で澄原が空振りしたのはボールゾーンへと逃げるスライダー。初球に空振りしたスライダーよりボール1個から1.5個分だけ外に外してあった。サインを出したのは松浪だが、とはいえそれ通りに投げきった百合亜は立派なものである。

「やっぱり、持ってるヤツにはチャンスで回ってくるんだぜ! 俺みたいにな!」

打席には6番の広畑。巡ってきたチャンスに気合いを入れて打席に入ってきた。

松浪の出すサインに頷き、百合亜は初球を投じる。打ち気を出す広畑だったが投じられたサークルチェンジにタイミングを外され大きく空振った。2球目も外角へと逃げるサークルチェンジを投じるがこちらは広畑がすんでの所でバットを止めボール。3球目に選択したのはフォーシームのストレート。これが広畑の胸元を抉るように向かってきた。

「うおっ!?」

広畑は思わずのけ反った。遅い球を見せられた後ということもあり、いくら130キロ前後とは言え、胸元スレスレに投じられた分だけ広畑の目にはこのストレートが焼き付いた。

 

「ふっ!」

「…くそっ、追い込まれた…!」

4球目は百合亜が右打者相手に得意とする外のボールゾーンから入ってくるスライダーでカウントを稼ぐ。これで2-2の平行カウント。

「ここで決める!」

追い込んでからの5球目、決め球としてカゲロウボールを投じる。大きく曲がるムービングファストであるカゲロウボールを捉えるのは容易では無かったが広畑はなんとかバットに当てた。しかし打球は力無く転がり、百合亜自らが捕球し、一塁へ転送。難なくアウトとし、スリーアウト。夏穂の残したランナーを一人も返さぬ好リリーフを見せた。

「ナイスリリーフ百合亜!」

「いえ…、松浪さんのリードのお陰です」

「とにかく逆転しましょう!」

「まあ、まずは追い付くことからだな!」

 

3回裏、先頭は8番打者の初芝。初球のボールとなるフォークは見送って、続く高速スライダーを捉えるも打球はショートの杉田のミットに収まりワンアウト。9番の姫華はストレートに力負けしサードフライに倒れる。

 

「っし!」

風太はストレートを上手く流し打ち、レフト前へと運んだ。しかし続く百合亜はレフトライナーに倒れ、この回も無得点に終わった。

 

4回の表の開拓高校の攻撃。ここからは右打者が続くが百合亜は外のボールゾーンから入ってくるスライダーを有効に使ってカウントを稼ぎ、内外のストレート、カゲロウボールを駆使して沖田、杉田、そして3巡目に入った軽井を打ち取った。

4回裏、表でテンポ良く守り、作ったリズムを掴みたい聖森学園だったが先頭の松浪がショートゴロに倒れ、先ほどホームランを放った竹原も三振に倒れてあっさりツーアウトに。

打席には5番の恵を迎えた。

カッキーーン!!

「「!!」」

初球、強気にインコースを突いたストレートを恵が豪快に振り抜いた。しかし打球は1塁側アルプスに飛び込むファール。この当たりを見た詰井は守備陣を既に取っていた引っ張り警戒の形をさらに強める。データ的にも恵の打球はライト方向に飛ぶ。典型的なプルヒッターだからだ。

「(どんなシフトが引かれようと、私は自分のスイング、変えないよ~!)」

その次の低めへのフォークは空振り、外へ外れるスライダー、続くフォークは見逃してカウントは2-2。詰井はアウトローへのストレートを要求した。澄原もそれに従ってボールを投じ、恵はフルスイングで応えた。

ガッッ!! と打球は鈍い音を響かせピッチャーのやや3塁側へと飛んだ。しかしバットの先で擦った打球は特殊なスピンがかかり、マウンドの打者から見て左側で跳ねると3塁側へと向きを変えた。この不規則な打球にサードの広畑が突進、グラブで掬い上げすぐさま1塁へと送る。打った恵は全力で1塁へと向かい頭から飛び込んだ。

「セーフ! セーフ!」

『空川! 鈍い当たりでしたが全力疾走が功を奏しましたァ! 記録は内野安打! これでツーアウトランナー1塁!』

「ふーっ、なんとかヒット! カッコ悪いけど~」

「大丈夫でやんすよ、一生懸命走ってカッコ悪いヤツなんていないでやんす!」

1塁ランナーコーチを務める矢部川からの賛辞に礼を言いつつ、リードを取る。打席には6番の夏穂。

 

――「盗塁のコツ?」

昨夜、相手投手の研究を居残りでしていた村井と矢部川の元に向かった恵が村井たちに頼んだのは盗塁等の次の塁を狙う動きで何を考えているか。細かい技術的な助言を求めるのは感覚派の恵にしては珍しい事だった。

「明日の試合~、1つの進塁が、きっと大事になる。少しでも、二人の極意を教えて欲しいんだ~」

もちろん簡単では無いことは恵も百も承知だ。だがそれでも聞きたかった。ここ一番の終盤の代走を成功させてきた足のスペシャリストの話を…。

「…正直、今からここで話す内容だけじゃ、理解できないと思う」

「綾ちゃんに同意でやんす。…簡単に真似されてもそれはそれで悔しいでやんすし…」

「うん~、分かってる。でも明日は、絶対勝ちたい。お願い! 何か、ほんの少しでもいいから! 虫の良い話かも知れないけど…!」

「…顔上げてよ、恵ちゃん。…分かった、教えられることなら、私たちで良ければ教えるよ。恵ちゃんが、あんなに迷った顔して頼みに来てくれたんだもの…」

「そうでやんすね! オイラたちが師匠として教えてあげるでやんす! でもやるからには厳しく行くでやんすよ!」

「二人とも…! ありがとう~!」

 

それから恵は時間の許す限り、矢部川と村井に教えを請うた。クセを叩き込み、スタートのタイミング、リードの幅…、可能な限りアドバイスを受けた。――

 

「(とは言え、一回も実践は出来てないし~、出来るか分かんない。けど…)」

自分のことを、自分が信じてやらなくて誰が信じるのか。恵の信念はそこにあった。

「(覚悟を決めるよ~、空川恵! 行くぞ~!)」

澄原が何度かこちらを目で牽制し、足を上げた。左投手の澄原は足を上げてからも一塁側に踏み出せば牽制できる。だが何度も研究した甲斐があって恵は見抜いた。

 

ほんの少し、体がホーム側に傾いていることを。

 

ダッ!!

「! ランナー、逃げたぞ!」

ファーストの御影が叫ぶ。夏穂はストレートを見逃し、詰井は2塁へと送球するが間に合わない。澄原のフォームが`完全に盗まれた`スタート。

「(アドバイス通り!)」

「(まさかぶっつけ本番で決めるとは、さすが恵ちゃんでやんす!)」

「(恵ちゃんの思いっきりの良さが、盗塁のアドバイスを受けたことでさらに自信を着けて、完璧なスタートを生んだんだね…、私には真似できないかな…)」

師匠二人の想像を越えた恵の盗塁でツーアウトながらランナー2塁のチャンスを迎えた。打席に立つ夏穂の手にも力が入る。

「(不甲斐ない投球をした。でも私はまだ引っ込んで無い。つまり、まだエースとして役割を果たさなきゃいけない! そのためにも…、)」

澄原の投じた高速スライダーとストレートになんとか食らいつきファールにする。続く4球目は外れてカウント1-2からの5球目、夏穂は勝負に出た。

「(エースは、戦う姿勢を見せる! そして狙うのは…!)」

相手投手の決め球、澄原のフォークボールだ。

カキーン!

「!」

『打ちましたー! 打球はレフト前へと落ちる! それを見てセカンドランナーの空川、一気にホームイーン!! 桜井夏穂、バッターとしてまず意地を見せましたァ!』

「(ピッチャーがここぞって時に投げる決め球、打たれて一番悔しいのも決め球! あのピッチャーなら…、澄原なら必ず投げてくるって思ってた!)」

同じピッチャーとして、その気持ちはよく分かる。決め球は自分の力の象徴であり、ここぞの場面で投げる切り札であり、投手としての心の柱であるのだ。

 

打席には満が向かう。ここでもう1点取れればこの試合はますます分からなくなるだろう。

「…っ!」

澄原はしばらく手の中のボールを見つめていたがツバのようなものを吐き捨てると再び気合いの入ったボールを投じ、

ズバーーン!!

「ぐっ…!?」

「ストライク! バッターアウト!」

『三振ーー!! 2点と差を縮めた聖森でしたが、後続続かずッ! しかし、試合は面白くなって参りました!』

満は澄原の気合いの入ったボールの前に空振り三振に打ち取られた。

 

5回表、マウンドに向かった百合亜はマウンドにあるものを見つけた。

「…これは?」

「どうしたの、百合亜?」

その様子を見てレフトへ向かおうとしていた夏穂が声をかけた。

「何かマウンド付近に落ちてたんです。これは…、白い石?」

見るとそこには白い石のようなものが落ちていた。普通こんなものはグランドに落ちていることはない。そこで夏穂は先ほどの澄原の行動を思い出す。

「…これは、石じゃない。歯だよ、あの澄原の」

「歯…!? どういうことですか!?」

「きっと…、折れたんだ。悔しさで歯を食いしばりすぎて…」

「…あの人、女性なんですよね?」

「うん。…でもそうである前に、澄原は一人の女性である前に、ここのマウンドに立つ以上は一人の投手なんだ…! 私たちだって、そうだ…!」

「それが、あの人なりの覚悟、ってことでしょうか」

「おそらく、ね」

「夏穂! 早く守備に行け! 始まっちまうだろ!」

「ああっ! ごめん!」

松浪にどやされ、慌てて夏穂はレフトへと走っていく。だが夏穂の心中でも、百合亜の心中でも、二人は同じことを考えていた。

「「(相手の覚悟がとれほどか分かった以上、こっちも負けてられない!)」」

 

全国高校野球選手権大会 決勝戦

 

開  拓 0220 |4

 

聖森学園 0101 |2

 

(4回裏終了)




心情描写が多くなった分、試合が進みませんでした…。できるだけ早く次をお届けできればなあ、と思ってます。
今回はおまけは無しです。次回もよろしくお願いします!

この作品の中で好きな登場人物は?(パワプロキャラでもオッケー)

  • 桜井夏穂
  • 松浪将知
  • 空川恵
  • 久米百合亜
  • ここに上がってる以外!(コメントでもオッケー)
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