New Styles ~桜井夏穂と聖森学園の物語~   作:Samical

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またまた大幅に遅くなってしまいました。8月中更新のつもりだったんですが…

いよいよ甲子園決勝、決着のときです!


50 遠くに見える頂

「ふっ!」

「このっ…!」

夏穂が投じた初球のインハイへのストレートに十三村もフルスイングで応じた。打球は後ろに飛んでいきファールになった。

先制を許し、追い付き、またリードされても再び同点にするという展開でやって来た8回表。先頭の詰井をストレートで三振に取って1アウトランナー無し。

打席には十三村。1打席目はセカンドライナーだったが当たりは完璧に捉えていた。しかし、

「(詰井の言ってた通り、初回の時とは別人だ。ここから打ち崩すとなるとなかなか骨が折れそうだ…)」

2球目は外へと逃げる高速スライダー。ストレートと思いスイングするもバットは空を切った。

「(変化もキレてるな。追い込まれたか…)」

3球目、ボールはインハイへ。

「(舐めるなよ…! 打つ!)」

インハイのストレートを引っ張りに行くが、ボールは鋭いスピンを伴って急激に手元で沈んだ。

「っ!!」

「ストライクッ! バッターアウト!!」

『三振ーーッ!! ここで決まりました!! 伝家の宝刀フルブルーム! これだけストレートが走っていると、効果的でしょう! 素晴らしいピッチングだァ!』

続く下山も高速スライダーとチェンジアップを見せられ、ストレートを警戒する中でのフルブルームの前にピッチャーゴロに倒れスリーアウト。

 

「夏穂! ナイスピッチッ!」

「最初からやっとっけってんだ!」

「夏穂さん、ドリンクです」

「タオルもあります…」

三者凡退に打ち取り、駆け足でベンチに戻ってきた夏穂をベンチは暖かく迎えた。

「(やっぱり夏穂が抑えると、ベンチの雰囲気が変わる。なんというか、コイツの持つ何らかの力なんだろうな)」

「よっしゃ、このまま一気に勝ち越すぜ!」

「そうでやんす! 行くでやんすよ!」

「塁出ろよ! 初芝…」

ズドンッッ!!!

 

「ストライクッ!! バッターアウト!!」

先頭打者は初芝だったが、スライダー、フォークの後にインコースへのストレートで空振り三振。

十三村もまたここでギアを上げた。

「盛り上がってるみたいだけどよ…、まだこっちが負けてる訳じゃないぜ?」

 

「…ま、簡単に打たせてくれるような奴じゃないよな」

闘志全開になった十三村を見て松浪もまた笑う。

「よしっ、みんな! ここからは意地と気合いの戦いだ! 折れた方が負けだ…、絶対に勝つぞ!!」

「「「おおおっっ!!」」」

 

ズバン!

「っ…!」

初芝が三振の後、打席には姫華が入ったが威力を増したストレートの前に手が出ない。そしてカウント1-2と追い込まれた。

「(ここは…、一か八かッ…!)」

ナックルカーブをファールしたのを挟んでからの5球目、インコースへのストレートに対してバットを横に寝かせた。

「後は、全力で一塁に走る!」

「ここでセーフティか! 面白ぇ!」

姫華はボールを一塁側に転がした。一般的に一塁から遠い三塁側の方が決まりやすいと思われがちだが、一塁側に転がし、ファーストに捕らせることで内野連携の隙やミスを狙うのも意外と成功率が高いのだ。

狙い通り、ボールはチャージをかけた御影に渡る。

「御影! ロングトスでいい!」

「絶対生き残って見せるっ!」

十三村の要求通り、なるべく捕りやすい位置に御影はトスを放った。そして姫華も果敢に頭から滑り込んだ。

 

「アウトーー!!!」

早かったのは御影と十三村の連携だった。これでツーアウトとなる。

だか中々起き上がらない姫華にベンチでスコアブックを付ける彩香は小さく息を呑んだ。

 

彩香が姫華に施した`トレーナー失格の施術`。それは彩香が祖父から学んだ、特殊なテーピング技術だった。

――「…よし、これで大丈夫。多分痛みはしないか、かなり和らいだはずだよ」

「すごいっ! 全然痛くないっ!」

「テーピングの巻き方を工夫して、上手く痛覚を抑えてるの。ただトレーナーとしては最悪の施術だけどね」

「頼んだのは私だよ。そんなワガママに付き合ってくれたのは…、本当に悪いと思ってる…」

姫華は少し申し訳なさそうな顔をしたが、すぐに笑顔になって言った。

「絶対に、最高のプレーをしてみせるからっ!」

「…無茶しない範囲でね? その時は監督に頼んで止めてもらうから…」――

 

しかししばらくすると姫華は起き上がり、土を払ってから戻ってきた。

「いやー、狙いは悪くなかったと思うんだけどなー! あともうちょっとっ!」

「狙いは良かったでやんすよ!」

「ああ、相手も慌ててたしな!」

その後風太もセカンドゴロに打ち取られスリーアウト。姫華はグラブを持って守備に就こうとした。

「椿」

その時、榊原が姫華を呼び止めた。

「はい?」

「この回も、行けるか?」

「っ!」

この一言で、姫華は全てを察した。榊原も伊達に監督を務めていない。自分の教え子の異変ぐらいはすぐに気づいていた。

「行けますっ! 私は、この試合で出しきってきます!」

「…そうか、なら、行ってこい」

「…ありがとう、ございます…っ!」

姫華はセカンドへとダッシュで向かう。

「監督、気づいていらしたんですね…」

「ああ、昨日の原因のプレーの時点でな」

「なら、なぜ…?」

「アイツがこの先も野球をやるというなら俺は全力で止めた。だがアイツは高校までで野球は止めると、大会が始まる前に俺に伝えてきた。椿がこの試合、この最後の夏にどれだけの意気込みで臨んでいるかも知っている。それにこんなところで止まれ、といって止まるやつではない。…俺もつくづく、指導者として、ダメな奴だな」

 

ズバッ!!

『ここも空振り三振ーー!!! 広畑、フルブルームに全くタイミングが合いません!』

「くそっ…!」

続く沖田は高速スライダーを上手く打ち返して出塁。そしてここで開拓が仕掛けた。

「走ったぞ!」

杉田の打席の初球で沖田がスタートを切る。

「させるかよっ!」

しかしここで松浪の鉄砲肩が炸裂。沖田の二盗を阻止して見せた。そして杉田もセカンドゴロに打ち取り、あっさりと9回表が終わった。そしてサヨナラの可能性がある9回裏に突入する。

「バッター、矢部川君に代わりまして田村君。バッター田村君。背番号15」

 

「っしゃあす!」

田村は気合い十分で打席に向かう。

「(この大会、ほとんど打席には立ってないし、データが少ない。どう攻めるかな)」

「(泣いても笑っても最後の試合…、そして巡ってきた打席。絶対に打ってやる!)」

相手投手は大会屈指の好投手、打つのは簡単ではない。おそらく控えに過ぎない自分にとっては10回立って1度打てれば良い方だろう。

「(だがそんなことは関係ない! この日のため、このたった1度あるかないかの打席に俺は懸けてやってきた! その全てを、ここで出す!!)」

去年、憧れであり越えるべき目標だった岩井に聞いたアドバイス。それをただ愚直に実行する。

 

――大抵のピッチャーは初球が甘い。それを逃さないのが良いバッターって奴なんだよ――

 

カキーーーン!!!!

「なにっ!?」

インコースに151キロのストレートを投じた十三村は驚きの声を上げる。初球で自分のストレートを引っ張られた。

「行けっ…!」

誰もがその打球の行方を固唾を飲んで見守った。

田村の思いを乗せた打球は高く舞い上がり、ぐんぐんとスタンドへ伸びていく。

 

 

しかしライトの沖田が必死に追いかけて、ジャンピングキャッチでフェンス前で掴み取った。

 

 

『あーーーっと!! これは惜しい! あともう一伸びしていれば劇的なサヨナラホームランでしたが、惜しくも届かず! 十三村、これは命拾いしましたァ!!』

『今はたまたま風が逆でしたな。ついさっきまではライトポールへと巻く形の風だったのだが…。こればっかりは十三村にツキがありましたな。だが代打の田村も素晴らしいバッティングだった』

あわやサヨナラだった当たりに実況の熱盛と解説の元・海東学院高校監督の平野もやや興奮を隠せない。

 

十三村はボールを受け取り、汗を拭いながら一つ大きく息をついた。

「(下手したら、今ので終わってた。)」

これまで積み上げてきた練習も、勝利も、そして敗れていった者達の思いも、ひょっとしたら今のワンプレーで全て崩されていたかもしれない。

「(だけど、この緊張感こそ、この全てを懸けたやり取りこそ、俺が野球に惹かれた理由だ!)」

 

田村が悔しそうにベンチへと引き返し、打席には松浪が向かった。

「(決して甘い球じゃなかったけど、田村のやつ惜しかったな。負けてられないぜ…!)」

より気合いをいれて松浪も打席に入った。

「もうこっから打たれる訳にはいかないからな、お前は120%の力でねじ伏せる!」

こちらも気合いを入れ直した十三村。投じた初球はアウトローへと決まる150キロのストレート。これは見逃してストライク。続く2球目で打ちに行った松浪だったがここでバッテリーが選択したのはナックルカーブ。

「くっ!?」

これにはバットは空を切る。一番の武器の変化をここで使ってきたが、この配球は3つの変化球を高いレベルで投げ分ける十三村であるから輝くもの。フォーク、スライダー、そしてストレートも決め球になるし、カウントが0-2な以上ボール球で釣られるかもしれない。

「(さあ…、何で来る?)」

十三村が選択したのはストレート、それもインコース。松浪は体を引いて避ける。ボールとなったがこれは次以降の配球への布石となるリードだ。そのことはキャッチャーをしている松浪からすればよく分かる。

「(とはいえインコースに140後半のストレート見せられると分かってても体は引けちまうけどな)」

そして4球目、ボールは低めに来た。松浪は打ちに行くが途中で気づいた。

「ちっ、フォークか!」

気づいてもバットを止めることは出来なかった。ボールはホームベース手前でストンと落ち、詰井も逸らすこと無く捕球し空振り三振となった。

「(内外の揺さぶりを意識させた上での低めへのフォークボール、やられたぜ)」

 

松浪が空振りの三振に倒れ、打席には4番の竹原が向かう。

『ツーアウトとなりましたが、打席には一発のある4番の竹原! マウンドの十三村にとっては一瞬たりとも気は抜けません! さー、両者ともここで熱く燃え上がれ!!』

先ほどの十三村と松浪の対決はキャプテン同士の対決、今度のこの対戦はエースの意地と主砲の意地のぶつかり合いとなる。

初球、アウトローへと148キロのストレートが決まる。これは竹原も手が出せず見逃してストライク。続くフォークボールは見逃してボール。カウント1-1となって3球目、

「うおらっ!!」

「ぐっ…!!」

149キロのストレートが竹原のインハイを襲う。これに竹原はフルスイングで応じてファールとし、これでカウントは1-2に。

「(コントロールミスして打たれればその時点で負け!

…いいぜ、最高に気分が乗ってきた!)」

詰井のサインに頷き、十三村は4球目を投じる。選んだのは決め球、ナックルカーブ。

「(さぁ、回れ!!)」

自慢の決め球はやや外角寄りの真ん中から鋭く落ちる、理想の軌道だ。並みの打者ならば掠りもせずに三振となるだろう。だが竹原はこれに食らいついた。限界まで腕を伸ばして膝を着きながらもこのボールをカットして見せた。

「ファール!」

「へぇ…、今のを当てるのか。やるなぁ…!」

「…なんとか、首の皮一枚繋がったな…」

詰井がサインを出し、投じられた十三村の5球目。サインは外へのストレート、ボールで構わない、という位置に構えられたコース。しかし十三村の投じたストレートはやや内に入りストライクゾーンへと入ってきた。

「やべっ!?」

「逃さん!!」カキン!!

変化球を張っていた竹原だったがアウトコースのストレートに咄嗟に反応し、逆らわずに流し打った。打球は一二塁間を破るヒットとなる。

「よっしゃー! 大、ナイスバッチ!」

「さすが4番!!」

聖森ベンチも3人で終わらぬ攻撃になっとことで盛り上がる。

「十三村、大丈夫か?」

「ああ、まだまだいけるぞ。詰井、しっかりリード頼むぜ?」

「おう、任せとけ!」

 

「お願いしま~す!!」

打席には恵が立つ。ここまで4打数1安打。とはいえ内野安打の一本。

「(どのコースでも強引に引っ張ってくる。躊躇わず踏み込んで来るし、スイングも迷いが無い。ここは敢えて…)」

詰井のサインはインコースへのストレート。十三村も頷きボールを投じる。

「むっ!」

思わず恵は体を引いたが判定はストライク。内角いっぱいのコースだった。

「(次はこれで…!!)」

十三村が詰井のサインに応じて投じた2球目、インローへと沈むナックルカーブ。

「絶対に、打つ!!」

体勢は崩しながらも信条のフルスイングは貫いた。

カキーン!!

「なにっ!?」

先ほどの竹原のときとは違う。今度は失投ではないボールを捉えられた。打球は一二塁間を破ってライト前へ。

「しゃーー!!!」

恵はベンチに向かって拳を突き上げる。

「ナイバッチ恵ーー!!」

「いける、いけるでやんすよー!!」

 

2アウトながらランナー1、2塁とサヨナラのチャンス。この場面に球場は大きな盛り上がりを見せる。そしてその中で打席に向かうのは…、

「6番、ピッチャー、桜井夏穂さん」

ここまでに2本のタイムリーを放った夏穂。そしてピッチングも再登板して以降は絶好調。スタンドからもここで決めるのではと期待がかかる。

「夏穂って良いところで回るんだよな」

「ここで決めたらいわゆるスターってやつでやんすね」

「美味しいところ持っていっちまえ、夏穂!」

 

「さて、もう打たれる訳にはいかないな」

「ここで、一気に決める!」

再び迎えたエース同士の対決。その初球で球場がどよめいた。

 

『初球、打席の桜井夏穂は豪快な空振り!! 驚きました、ここでマークしたのは十三村の自己最速タイの152キロ!! これは、ひっじょーに熱い対決です!』

 

「…化け物め」

「その点に関しては俺も同意するよ」

ふと溢した夏穂の軽口に詰井も笑いながら同意する。詰井も十三村のことは只者ではないと中学で対戦したときから感じていた。不思議な縁でチームメイトとなり、ケガをして力が落ちたときは少しガッカリしていたものだったが、それでも十三村は這い上がってくると信じていたし、実際に這い上がってきた。そして自分を切り捨てた混黒高校に逆襲を果たし、日本一の座に届くところまでやって来た。

 

いや、自分達もまとめてここまで連れてきたのだ。

「(俺は子供が生まれたら自慢してやるぜ、こんなスゲーやつとバッテリー組んでたんだぜ! ってな!)」

 

フォークを見逃してカウント1-1、十三村が3球目を投じる。しかし外角低めに構えたミットを狙ったストレートが浮いた。

「(やべっ!?)」

カッキーーン!

外角のストレートを流し打った打球はライト線を襲った。打球は右打者の流し打ち特有の軌道で切れてファールになる。

「くーっ! 切れちゃったか!」

「(今のも危なかったな…、だが追い込んだ!)」

4球目、低めに投じられたフォークもなんとかバットに当ててファール。5球目のインハイへのストレートもフルスイングでファールに。

「(さあ、どこでナックルカーブが来る…?)」

夏穂にフルブルームがあるなら十三村にはナックルカーブがある。独特の軌道と変化量を併せ持つそれは反応ではヒットは打てない。しかし十三村にはハイレベルなフォーク、スライダーもある。

「(ここは、山張るしかない!)」

6球目、十三村が投じたのは全力のストレート。そして夏穂が山を張ったのもストレート。

「(もらった!!―)」

夏穂渾身のフルスイングは、惜しくも空を切った。

ズバッ!!

「ストライク!! バッターアウト!!」

スタンドからは溜め息と歓声の両方が木霊する。読みは当たっていた。ここぞの場面でストレート勝負をかけてくることまでは。

ただ夏穂の予想を上回る、152キロのストレートが高めに決まった。

「(分かってても打てないとはね…)」

相手からすれば夏穂のストレートもその部類なのだが、夏穂自身にとっては中々しない経験だった。夏穂はベンチに引き返しながらも味方を鼓舞した。

「ごめんみんな! 次絶対抑えるから! それから1点取りに行こう!」

「当然でやんす! さあ、守備に着く人ゴーゴーでやんす!」

「行ってきます!」

「お、露見! 緊張するなよ!」

「しませんよ! 元木さんと一緒にしないでくださいよー!」

「俺だってしねーし!」

「まあ元木の場合は緊張しなくてもポカやらかすもんな」

「な!? 田村、てめーっ!」

「と、とにかくしっかり守ってきてくれでやんす!」

ベンチメンバーも出場メンバーをしっかりと盛り上げていく。

 

そして遂に夏の頂点を懸けた決勝戦は延長戦に突入する…!

 

* * * * *

 

延長10回表、開拓高校は1番の軽井からの攻撃。だが立ち塞がるのは十三村のボールを見てさらに闘志漲る夏穂。大きくはない体を目一杯使ったフォームから繰り出すストレートがアウトローに決まる。

「おいおい、ここに来てこれかよ…!」

このボールを見た軽井も苦笑してしまう。夏穂はストレートを続けてカウント1-2と追い込むとインコースへのチェンジアップを投じて軽井から三振を奪う。続く宇佐美にはインコースを強気に責めてセンターフライに打ち取る。

ズバッッ!!

「ストライク! バッターアウト!!」

「そりゃ打てねーぜ…」

高速スライダー、チェンジアップのコンビネーションで追い込まれてからアウトローいっぱいにストレートを決められ見逃し三振に倒れた御影は思わず呟く。

「よっしゃ!」

「ナイスピー夏穂!」

3人で相手の攻撃を終わらせサヨナラ勝ちを目指す攻撃に繋げる。

 

しかし10回裏の先頭の満がナックルカーブで三振に打ち取られると、初芝もキャッチャーフライに倒れ簡単にツーアウト。ラストバッターの姫華もストレート4球で空振りの三振に打ち取られる。

「むーっ! 掠りもしなかったっ!」

「あの化け物ピッチャー早く何とかしねぇとな!」

 

『なんという熱いエース同士の投げ合いッ!! 均衡を破り、栄冠を掴み取るのはどちらのチームなのか!?』

実況の熱盛もヒートアップする中、試合は11回に突入する。この回の夏穂は先頭で詰井を迎えた。

「もう打たせないから…!」

「アイツにはテッペン取って欲しいんだよ…、だからここで打つ!」

夏穂が投じた初球はいきなりのフルブルーム。詰井は膝元へと鋭く沈み込んで来たこのボールに空振り。そして松浪は2球目にもフルブルームを要求し、これは外れてボールとなる。

「(えらく警戒してきたな…、ここまでされると逆に球種が絞り辛いな)」

決め球であるフルブルームを続けてきたリードの意図を推し量りながら詰井は打席に入り直す。カウント1-1からインハイへとストレートが投じられ、詰井はこれをファールとする。そして4球目、

「! チェンジアップか!」

アウトコースへと投じられたチェンジアップを強引に引っ張ってしまい詰井はライトフライに倒れる。

 

「こうなりゃ自分で決めてやるか!」

ここで打席には十三村を迎える。ランナーはいないが一発のある打者。細心の注意が必要だ。その初球、十三村はストレート一本に絞ったフルスイング。しかし投じられたチェンジアップに全くタイミングが合わずに空振り。しかしこの豪快なフルスイングは観客をどよめかせた。ここで十三村がホームランでも打とうものなら一躍この夏の甲子園の主人公となるだろう。バッテリーは一度インハイにストレートを見せた上でアウトコースに高速スライダーを決める。セオリー通りでありながら最も効果的な配球。これで追い込むことに成功する。しかし十三村もさっきはああは言っていたがスタンドプレーに走る選手ではない。繋ぐべき場面では繋いでくるのでここではそっちの注意も必要だ。バッテリーが選択したのはアウトコースへのフルブルーム。十三村も真ん中付近に来た球に反応しスイングしにかかった、しかしその真ん中付近から必殺の魔球がアウトローへと沈む。

「っ!!」

「ボール!」

「…くそ、止めたか!」

松浪も思わず口に出してしまったが十三村のバットはギリギリ止まってノースイング。松浪としてはこれで決めたかったが…、

「(スピード、コース、高さ。空振り三振取りに行くなら文句無しだったんだけど、これ以上となると難しいな)」

並行カウント、まだ1球ボールが使えることをポジティブに捉えたいがフォアボールは流れ的によろしくない。できればここで決めたいのだが、先ほどのボールが良すぎた分、決めあぐねる松浪。手探りでサインを出す内にあるサインで夏穂が強く頷いた。

「(なるほどな、お前が投げたいってなら賛成だ!)」

サインの交換を終え、夏穂がモーションに入る。

「さあ、来いよっ!!」

十三村も気合い十分で迎え撃つ。

 

 

投じられたのは、

インハイへのストレート。

「くっ!? こんにゃろー!!」

十三村はフルスイングで迎撃、

 

しかしバットは空を切った。

『三振ーー!! マウンドの桜井夏穂! 先ほどのお返しと言わんばかりにストレートで三振を奪いましたァ!! エース同士の意地のぶつかり合い、非常に! 熱いものを感じます!!!』

 

続いて打席に立つ広畑。初球のストレートは何とかファールにし、その打撃センスの高さを見せる。

「このままここで、終わってたまるかよぉ…! 俺はあの日、野球に懸けるって決めたんだ…!」

広畑は一度中学までやっていた野球を高校ではやっていなかった。

`もっとカッコいいことがしたい`

そう考えていたが、十三村にハッパをかけられ目が覚めた。張っていた虚勢も、嘘をついてまで守ったちっぽけなプライドも捨てたからこそ広畑はここに立っている。

「(口が裂けてもアイツらには言わねえが、アイツらには感謝してる! それをここで見せてやる!!)」

夏穂のアウトコースへの高速スライダー。それを持ち前の引っ張りの技術で強引に引っ張り快音を響かせた。

キィィィン!!

「っ!!」

「行っけーー!!」

打球は痛烈なライナーとなってレフト線を襲う。

 

しかし予めレフト線に寄っていた守備から入った露見が無駄のない動きで打球に追い付きランニングキャッチ、レフトライナーで打ち取った。

「さすが露見! 良いところいたなぁ!」

「引っ張りがちのバッターだし、詰めといて正解でした。」

「にしても難なく捕ってたでやんす! スゲーでやんす!」

「そうでしょうそうでしょう、本当に上手い外野手はしれっとやってのけるんです!」

「そういうの自分で言うな!」

こうして11回表も0に終わった。迎える11回の裏、聖森学園は1番の風太からの攻撃。

 

「このっ…!」

先頭で打席に入った風太だったが未だに衰えぬストレートに圧され、カウント1-2と追い込まれたところで外角のゾーンにフォークを落とされた。必死に腕を伸ばして何とかバットに当てることには成功したが当たりはボテボテの内野ゴロとなる。

「ちっ、やべぇ…!!」

しかしこのボテボテの当たりが功を奏したのか、打球は緩やかに十三村と広畑の間に転がった。そして十三村が素手で拾って一塁へ送るも風太の足が勝りセーフ。ノーアウトでサヨナラのランナーが出た。

『梅田! ここは足でもぎ取った内野安打! さあ、このランナーが帰るとたちまちサヨナラ! さあ、気迫と気迫のぶつかり合い、制するのはどちらのチームなのかァ!?』

打席には守備から入った露見が立つ。榊原監督から出たサインは送りバント。露見は始めからバントの構えを取る。当然、開拓高校の守備陣も絶対にやらせないとばかりにバントシフトを敷いた。

そしてその初球、投じられたのはインハイへのストレート。

「くっ…!!」

左打席に入っている露見は胸元に投じられたボールをなんとか転がした。しかし打球は殺しきれず、サードと共にチャージをかけてきたファーストの御影が捕球した。

「行かせるかよっ!」

そして御影は強肩を活かしセカンドへ送球、風太のスタートも悪いわけではなかったが、露見のバントはあまり勢いを殺しきれなかったこともあり、アウトの判定が下された。

「よっしゃ! サンキュー御影!」

「おう。十三村、ワンアウトだぜ」

2塁封殺の際にカバーに入った杉田が送球出来なかったため露見はセーフとなり、 1アウトランナー1塁で打席には3番の松浪を迎えた。

「(コイツに得点圏で回すかどうか、それだけで聖森の得点率は大きく変わってくる。あとはここでどう抑えるかだ)」

詰井としてはもし今のバントが決まっていれば敬遠する心積もりだったのだが、バントは失敗となりランナーが入れ替わっただけ。ゲッツーなら最高だが、一つずつアウトを重ねていくことが最も重要だ。幸い、露見の足はさほど速くはない。

初球に十三村が投じたのはアウトローへのスライダー、松浪も打ちに行ったがこれはファールとなり1ストライク。続く2球目はナックルカーブが外角低めに外れてボールとなる。

「(アイツ、まだまだボールはキレてるな…)」

松浪も感心すると同時に十三村もまた聖森学園の打線に舌を巻いていた。

「(飛び抜けた打者はいない、ただ各選手が出来ることを自他共に理解している。だからこそどこからでもチャンスを作ろうとありとあらゆる策を打ってくる。)」

ただその中で数少ないずば抜けた打力を誇る松浪、ここは最大の注意を払わねばわならない。

だがこんな相手と戦えること、この舞台に立てたことは幸せに思わないといけない。

「(2年前は、ここまで来れるとは予想してなかったからな…)」

 

2年前、混黒高校野球部期待の新入生として、親友の雨崎と餅田と共に入部した十三村は早々に実力を見せつけ夏にはレギュラーではないかと部内でも噂されていた。しかしそんなある日、事件は起きた。

先輩から道具の片付けを指示されていた十三村はその最中に崩れてきた器材の下敷きになってしまい大怪我を負う。それでも懸命のリハビリの末、順調に回復していた十三村だったが復帰がいつになるか分からない上に元の実力を取り戻せる保証が無いと考えた混黒高校校長から分校行きを指示され、開拓分校へと転校した。

本校とは全く異なる環境に嫌気が差し、一度は野球から離れようとしたがそれでも野球を好きな気持ちには嘘をつけず、気長な治療とリハビリによりケガは完治、混黒に戻る選択肢もあった。それでも十三村は共に励んできた開拓のメンバーと分校からの脱却と甲子園を目指す道を選んだ。

 

今思えば、あの経験全てが今の自分を作ったのだろう。当たり前に感じていたもの、今の自分の下にあった犠牲、そして再び選手として戻ってこられた有り難さ…、

「(選手に戻れなかったアイツの分まで、俺は選手を全うする!!)」

自分と同じようにケガにより開拓へと移ってきて、共に励まし合ってきた大切な存在との約束も胸に秘め、セットポジションから投じたのは渾身のストレート。未だに球威の衰えぬボールが唸りをあげる。

 

 

次に響いた音はミットの音ではなく、

 

甲高い金属音だった。

 

 

 

真ん中低めのストレートを振り抜いて捉えた打球は、高々と舞い上がる。

 

十三村はゆっくりと振り返った。

 

長くピッチャーとしてやって来た十三村にはすぐに分かった。

 

 

「――終わった、か」

 

 

打球はバックスクリーンへと飛び込み、それを見届けた松浪が1塁を回ったところで拳を突き上げると、球場は爆発したような歓声に包まれた。

 

『なんと、なんとなんとなんとォォ!! サヨナラ、サヨナラです!! 聖森学園主将の松浪!! 試合を決める、バックスクリーンへの、豪快なサヨナラホームラーーーーンッッ!!! こんなことがあって良いんでしょうかアア!! 最高に熱い試合、劇的な幕切れとなりましたァァ!!』

ダイヤモンドを1周して帰って来た松浪を聖森学園の面々は手荒く祝福した。

「てめー、またおいしいところ持ってきやがって!」

「風太くんと同じ意見でやんす!」

「俺も今回ばかりは見過ごせん…!」

「そうだそうだっ! ずるいぞキャプテンッ!」

「ずるーい!!」

「痛っ!? 痛い、痛い! お前ら! なんでヒーローがどつかれてんだ!」

 

「それはトモがいつもそんなだからだよ!」

「な、夏穂まで…」

「…まあでも、ナイスバッティング!」

「…おう! 当たり前だ…ってうわっ!?」

夏穂の言葉で再びチームメイトから手荒い祝福を受ける松浪。一部は嬉しさのあまり泣いてるが皆が笑顔だった。

 

一方の開拓ナイン、こちらは誰にも涙は無く、むしろ晴れやかだった。ただ一人、十三村だけは打球が消えていったバックスクリーンを見つめた後、歓喜の輪を作っている聖森の面々を見つめていた。

 

「(ごめんな、麻美。日本一になる、その約束は守れなかった)」

麻美とは混黒高校以来からの知り合いで、彼女もまたケガで開拓へとやって来た。十三村とは違い、ケガは治ることはなく、何度か衝突もしたがそれでも互いに過去を乗り越えると誓い、甲子園出場、そして日本一になると約束したのだが…、

 

「十三村」

その十三村の元に詰井を始めとしたメンバーが集まってきた。

「みんな…、ごめんな。打たれちまった」

「何言ってんだよ十三村、お前がいなきゃ俺たちはこんなところ来れなかったぜ?」

「そうそう、キャプテンが助言してくれたから今俺は自分に自信を持ってプレーできてるんだ」

「詰井、杉田…」

「俺も十三村ちゃんが来なきゃ、こんなに真剣に野球に取り組めなかった」

「軽井…」

「お前に野球部に誘われてなかったら俺のカッコいい姿を見せることも出来なかったしな!」

「広畑…、お前はいつも通りだな」

「だろ? 少なくとも俺は悔しく無い訳じゃないが、楽しかったのは事実だぜ」

「広畑がそこまで言うとはな。…とにかく、十三村。目標の無かった俺たちに、道を示してくれたのはお前だぜ? お前が全力で挑んで負けたなら謝る必要なんてないだろ?」

「そうか…ありがとう、みんな。…さてと、とにかく相手も待ってくれてるし、整列しようか」

 

「ああ、そんでわざわざあんな田舎から応援に来てくれた人たちに挨拶しねーとな」

「最後まで自信持って、胸張って去ろう!」

 

死闘を演じた2校が整列し、挨拶すると再び甲子園は拍手と歓声に包まれた。

 

聖森学園は創部4年目にして甲子園初出場初優勝という快挙を成し遂げ、この夏の甲子園大会は幕を閉じた。

 

そして夏穂とその最高の仲間たちはそれぞれの道を歩むことになるのだった。

 

 

全国高校野球選手権大会 決勝戦

 

開  拓 022 001 000 00 |5 

聖森学園 010 120 100 02X|7

 

 




長きに渡った松浪、夏穂世代の戦いも無事終わりました。メインとしてはここまでになるんですが、次回以降、後日談的エピソードがあるのでもう少しだけ続きます。もう少しだけお付き合いください!

今回のおまけは3年生たちの最終的な能力とかのまとめです! 何人かが超強化されてますけどね。

◯桜井夏穂(3年) 右/右
甲子園優勝投手となった聖森学園の(元)エース。憧れの早川あおいに続く史上2人目の女性選手の優勝投手と言われるようになるが本人はいつかこの区切りが無くなることを望んでいる。周りを不安にさせることを嫌い、明るく振る舞う。誰よりも責任感、使命感が強く、それが甲子園決勝での集中を乱す原因となった。
改めて選手としての特徴は体のしなりを活かしたフォームからきれいなスピンを効かせた球速以上に見えるストレートを武器とする一方、制球と緩急、オリジナル変化球のフルブルームを用いた技巧派の投球スタイルが持ち味。打撃でも三振は多いがチャンスでの集中力と初球から狙う積極性には定評がある。以前は気迫全開の投球だったが少し落ち着いて投げるようになった。

球速    スタ コン 
143km/h  C  A  
 ⇒Hスライダー 3
 ⇘フルブルーム 5
 ⇓チェンジアップ 3
  弾 ミ パ 走 肩 守 捕  守備位置 
  3 D D D D C C  投C 外E
 怪童(ノビ◎の上位互換) ピンチ○ 球持ち○ ケガしにくさ◎ 奪三振 緩急◯ 軽い球 速球中心  
 初球○ ムード○ 三振 積極打法 積極守備 人気者

◯松浪将知(3年) 右/右
聖森学園全国制覇の立役者と言われる扇の要。打者の嫌がる配球と投手の武器を最大限生かすリードは他校から最大の警戒を受けていた。
普段は相手を茶化したり、ふざけたりすることが多いが、ここぞという時には頼りになるため、チームメイトからはキチンと信頼されている。
選手としては前述した巧みなリード、強肩、堅守を兼ね備え、長打力と得点圏打率もある超高校級キャッチャー。強く引っ張る打撃と巧みに流し打つスタイルを分けられるようになった。

 弾 ミ パ 走 肩 守 捕  守備位置
 3 C B D B B A  捕B 一E 三E 外E
チャンス○ 送球◎ プルヒッター 芸術的流し打ち キャッチャー◎ サヨナラ男 盗塁△ 選球眼 強振多用 調子安定 人気者 積極盗塁

◯梅田風太(3年) 右/左
聖森学園の(元)リードオフマン。見た目は少しチャラめだが野球への熱意は本物。走攻守のいずれも高いレベルでこなす。セカンドの姫華との息の合った連係プレーは血の滲むような練習の賜物。

弾 ミ パ 走 肩 守 捕  守備位置
2 B C B C B B 遊B 一D ニC 三C
盗塁◯ 走塁◯ 逆境◯ 守備職人 エース◯ ダメ押し ミート多用 慎重打法 積極走塁 積極守備

◯竹原大(3年) 右/右
不振の時期の方が長かったが最後までチームの主砲としての役割を全うした。基本的に物静かで不満を周りに漏らすことも少ないため一人で悩みがち。
選手としては典型的なホームランバッター、思い切りの良さが出たときのスイングの方が率も高いという傾向があった。意外と守備が上手い。
弾 ミ パ 走 肩 守 捕  守備位置
4 D A D B C B 一C 三E 外E
パワーヒッター アウトコースヒッター 三振 強振多用 慎重打法 慎重盗塁 チームプレイ◯

◯椿姫華(3年) 右/左
小さな体でフィールドを駆け回り続けた守備職人。自分の悩みをチームメイトの協力も得て、解決とは行かずとも克服してきた。恵や矢部川と共にチームを鼓舞し続けた。
選手としては広い守備範囲と巧みな小技を武器としており、縁の下の力持ち的な役割を果たした。

弾 ミ パ 走 肩 守 捕  守備位置
2 C E C E A A ニA 一C 遊C
チャンス△ ケガしにくさ◯ 走塁◯ 送球△ 気迫ヘッド 守備職人 バント職人 ムード◯ 粘り打ち 慎重打法 積極走塁 積極守備 積極盗塁

◯空川恵(3年) 左/左
聖森学園の(元)副キャプテン。ムードメーカー的でのんびりした性格とは裏腹に内心では結果を出せなかったときには焦りを感じたりもしていたがそれでも自分を貫き通せる強さを持つ。
選手としては全力プレーがモットーで、いつでもフルスイングできることが強み。高い走塁意識や果敢な守備も見せる。決勝戦目前で矢部川たちから伝授された盗塁の極意を実践して完璧にモノにするセンスの高さも光る。

弾 ミ パ 走 肩 守 捕  守備位置
4 C C C D D D  外D 一E
 プルヒッター チャンス○ 電光石火(盗塁◎の上位互換) 三振 ハイボールヒッター 初球◯ 内野安打◯ 悪球打ち 積極打法 強振多用 ムード○ 人気者

以上です! みんな強くなりました。夏穂、松浪、姫華、恵に関しては金特まで持って…。

そしてこの聖森学園、パワプロで再現しました!
選手そのものはサクスペやパワプロ2018(2019年版じゃない方)で作ったのでアップできませんが、チームはアップロードしました。良ければ使ってみてください。おまけで冷泉も収録しております。あとプロ入り年数等がちょっと変になってますが作ったモードがバラバラなためです。
チームのパワナンバー:23900 40040 00663
では次回もよろしくおねがいします!

この作品の中で好きな登場人物は?(パワプロキャラでもオッケー)

  • 桜井夏穂
  • 松浪将知
  • 空川恵
  • 久米百合亜
  • ここに上がってる以外!(コメントでもオッケー)
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