New Styles ~桜井夏穂と聖森学園の物語~   作:Samical

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 プロ野球界は福原に番長、サブローに武田勝などの名選手が引退・・・。寂しくなりますね・・・。
 それはさておいて、誰が話しているかの判断基準ですが、分かりやすい人で言えば姫華は”っ!”がつくことが多い。恵は~が最後に来ます。


9 Accident ~緊急事態~

 2回の表、聖森学園の攻撃・・・

「4番、サード、岩井君。背番号5」

 マウンドに立つ激闘第一のエース鶴屋とマスクをかぶる捕手の中岡は思わず息を呑んだ。

「「(なんていう気迫・・・!)」」

 打席に立つ岩井からは恐ろしいまでの闘志が覗える。並の投手なら簡単に飲まれそうだが・・・。中岡は鶴屋にサインを出す。

「(・・・恐ろしい打者だがその分きっちりと研究させてもらっている。まずは外のスライダーで様子見だ・・・)」

「(・・・了解・・・!)」

 鶴屋は頷いてサイン通りのスライダーを投じる。岩井はピクリと動いたが手は出してこなかった。審判の手は上がりストライク。

「(ボールオッケーでストライクが取れたのは大きいな・・・。動いたということはやはり狙いは真っ直ぐか。・・・よし、次は・・・)」

「(オッケー。真っ直ぐを外に外す・・・!)」

 鶴屋のボールは要求通りにやや外へと外れボール。これも岩井は若干反応した。

 さらにインコース、低めのワンバウンドとボール球のストレートを続け、カウントは3-1となった。

「(・・・よし、布石は打った! あとは鶴屋お前の力量次第だ・・・)」

 続くサインに鶴屋は頷き足を上げた。

 

 一方、スタンドでは・・・

「もしかして鶴屋も岩井さんにビビってるでやんすかね?」

「初球以降入ってないね、確かに」

「そりゃあ、いくら名門様が相手でもここまで打ちまくってる岩井さんは怖えだろうよ!」

 矢部川、田村たちが盛り上がる中、夏穂は一人、冷静に戦況を見ていた。

「(2年からエースナンバー背負った鶴屋ほどの投手がそうすぐにビビるようなメンタルを持ってるとは思えない・・・。もしかすると何か策が・・・?)」

 夏穂の不安は的中した。

 

 鶴屋が投じたのは低めへの速球、岩井は待ってましたとばかりにフルスイングした。

「「(かかった!!)」」

 その速球は、わずかに下方向へと変化した。しかし岩井のスイングはもう止められない。

「(鶴屋に投げさせたのは得意球のスプリット・・・、打ち気を利用させてもらった!)」

 スプリット―正式名称、スプリット・フィンガー・ファストボール(通称、SFF)とは変化球の一種。フォークよりもやや指で挟むことで落差を犠牲にし、速度はより直球に近づけたボールだ。空振りを取るのではなく、ストレートと思って打ちに来たバッターから引っ掛けさせて凡打を打たせるが狙いだ。最近になって投げる投手は増えてきたが“20世紀最後の魔球”とも言われ、海の向こうでも魔球と呼ばれるボールだ。

 策略通りに岩井を打ち取ろうとしているが、一つだけ鶴屋、中岡バッテリーが間違えていたことがる。それは、岩井が只者でない、規格外の選手だということだ。

「ぐっ!? こんにゃろーがっ!!!」

 岩井は強引にバットをアッパーに振りぬいた。

「「(はーーーっ!?)」」

 弾き返された打球は力なくレフトの方へ上がったが運よく内野と外野の間にポトリと落ちた。沸き立つ聖森学園ベンチに対し、鶴屋と中岡は驚きを通り越して呆れていた。

「(意味分かんねーぞ、おい。どーやったらあれが打てるんだよ・・・)」

 続く打者は5番の小道。そこで中岡はやや慌ててしまった。

「(・・・向こうの頭にはSFFがあるはずだ・・・。低めに真っすぐでカウント取るぞ!)」

 鶴屋が頷き、投げ込んだが小道はそれを待っていた。

「(打たれた球種は投げにくいよな!)」

 待ってましたとばかりに小道は振り抜く! 金属音と共に引っ張られた痛烈な打球は三塁線を破る・・・。誰もがそう思ったが・・・。

 バシィィ!! と打球は横っ飛びを試みた羽生のグラブにワンバウンドで収まった。すぐさま起き上がった羽生は二塁へ転送、セカンドの村上も素早い送球で併殺を完成させた。

 

*      *      *      *      *

 

「むむむ、ついてないでやんす・・・」

「やっぱり羽生、鶴屋の実力は抜きん出てるね」

 私のの呟きに矢部川くんも同調する。実際、当たりは悪くなく打った小道さんを責めることはできない。一つ恨むべきは羽生の所へ打ってしまったことだろう。

「そうだね~。あの当たりを取られたらヒットにならないし~」

「それに岩井さんも実質打ち取られていたもんね・・・」

 恵や姫華もそれぞれの意見を口にする。とはいえ、他のメンバーも今までの相手より高いレベルにあることは間違い無い。でもウチのチームも負けてないはず!

 しかし、続く木寄さんも鶴屋の前にセカンドゴロに倒れてチェンジとなった。

 

*      *      *      *      *

 

 2回裏、右打席には羽生が立った。激闘第一の4番打者であるが、長打はあまり多くない。どちらかというと技術で打つタイプの好打者である。

 丁寧に主審に礼をした羽生だが、いざ御林に向き合うとじっと冷めた目で睨み付けた。

 はっきり言って羽生にとってここまでの試合展開は面白くないものだった。

「(試合の滑り出しが互角・・・? それもウチのような強豪と聖森とかいう女子部員が試合に出るような高校が? 馬鹿馬鹿しい。)」

 投じられた初球の内角高めのストレートを捉える。

「(どいつもこいつも、役立たずだ!)」

 羽生はボールを思いっきり引っ張った。御林、木寄のバッテリーは積極的にカウントをストレートで取りに来る。初球が最も甘いのなら、カウントを取りに来るなら遠慮なく行かせてもらえばいい。

 しかし、羽生の打球が入ったのはスタンドではなく、レフトの花川のグラブだった。

「! 馬鹿な!? いや、まさか、吊られたのか!」

 羽生は不可解な打ち取られ方に気付いた。

 悔し気な顔を浮かべる羽生を見て木寄は笑みを浮かべる。

「(作戦通りね・・・。後はこれがどれくらい持つか・・・。それ次第でこの試合の勝者は決まるかもね)」

 今の状況を楽しむように木寄りは次の配球を組み立てる。そんな風に楽し気な顔(とは言っても長年の付き合いだから分かる程度の変化ではあるが)を見て、マウンドに立つ御林も苦笑する。

「(綱渡りみたいな作戦、楽しんでるなあ・・・。付き合わされる方の身にもなってよね)」

 そうは思いつつも岩井や木寄の無茶ぶりに黙って付き合って楽しむ自分がいるのも事実なので、黙ってプレーに戻って再びマウンドでサインのやり取りを行う御林であった。

 

*      *       *       *      

 

 結局2回の裏は5番の少豪月は三振、6番の三船もショートライナーに倒れた。

 そこから投手戦が始まった。鶴屋は右打者にはSFFを意識させつつストレートで詰まらせていき、左打者には強気な内角攻めで打ち取っていく。

 一方の御林さんは初球から直球狙いで積極的に手を出してくる相手を手玉に取っていった。

 

 聖森学園 000000      0

 激闘第一 00000       0

 

 といった感じで気づけば両チーム無得点のまま、5回の表が終了してしまった。

「接戦になったらな・・・って思ってたけどこれは流石に予想外だよね」

「強豪相手にこの接戦か・・・」

「もしかしてウチってかなり強いでやんすか?」

「いや、ぶっちゃけ岩井さんと御林さんと木寄さんのおかげって感じじゃないっ!?」

「たしかにね~」

 スタンドのメンバーが口々に感想を漏らす。接戦とはいっても私の予想は2,3点のビハインドくらいなんだけどね。

 ただまあ、激闘第一がこのまま黙ってくれてたらいいんだけどね・・・。

「でもさ~、ここから見た感じさ~、木寄さんたち、楽しそうじゃない~?」

「えっ、そうかなっ?」

「岩井さんはいつもあんな感じな気がするでやんすけどね・・・」

 この状況を楽しめるのか・・・、私もあの場所に立ったら、楽しむことができるのかな?

 

*      *      *      *      *

 

 ・・・激闘第一サイドのベンチでは・・・。

「・・・ここまで不甲斐ないな。我々、激闘第一ともあろう者がこの様ではな。手筈通りにするのは1巡してから相手がこちらの手に気付いている察した時点でやめろと言ったはずだが・・・」

 激闘第一の監督は部員たちを一瞥する。

「・・・未だに相手を・・・、聖森学園を格下だと思っている者がいるのなら今すぐ名乗り出ろ。今すぐにでもベンチから追い出してやる」

 部員たちの雰囲気に変化が表れてきた。その様子を見て監督は告げた。

「いいか、激闘第一の名に恥じぬ試合をして来い!!」

「「「はいっ!!」」」

 ここから激闘第一はまるで別のチームのような雰囲気をまとい始めたのだった。

 

 6回の裏、激闘第一の攻撃は1番の鶴屋から。鶴屋は痛烈ながらもショートライナーに打ち取ったのだが・・・。

カッ!! 「・・・ファールッ!!」

「・・・くっ、しぶといなあ・・・」

 2番の垣内は先ほどまでの早打ちが嘘のようにしぶとくバットに当ててきた。カウントはまだ2-2であるが、すでにこの打席だけで御林は既に12球も投げさせられている。

 木寄は軽く舌打ちをした。

「(いよいよこちらの手の内がばれたかな・・・、まずいわね)」

 木寄のその予感は的中し、結局17球投げさせられた上に垣内に対しフォアボールを出してしまった。

 続く中岡には甘く入った初球を簡単にライト前に運ばれてしまった。そして打席には・・・、

「4番、サード、羽生君」

 前の打席でヒットを放った羽生に回ってしまった。羽生は礼儀正しく主審に礼をすると打席に入り、御林を見据え、ニヤリと笑った。

「(俺としたことが、こんな策に嵌っていたとはな)」

 羽生は内野手にサインを出す木寄を横目で見た。

「(このバッテリーはストレートでカウントを取りに来る・・・。そのデータを俺たちが仕入れたのは聖森と大京近の試合だ。つまり、そこでの配球は分かっても、今までがどうだったかは分からない。おそらく、俺たちとの戦いを既に前提において戦っていたのだろうな)」

 この推理は当たっていた。木寄もまた、こう考えていた。その考えは大京近工業との試合前のミーティングで話していた。

 

―――「激闘第一はデータを集め、初回からそこを突いて一気に試合の主導権を奪う。それがあの高校の特徴ね」

「なあ久美? 大京近工業の話じゃ・・・?」

「辰巳、分かってるわよそれぐらい」

「じゃあ、なんで?」

「正直、生半可な準備じゃ大京近工業を抑えるのは難しい。けど、打ち勝つことくらいはできると思う。だから、いっそのことその次で当たるであろう激闘第一に対して、布石を打っておこうと思ってね」

「布石、ですか?」

「そ。わざと特徴づけた・・・、癖のある配球をするの」

「癖のあるってのはどうするんだい?」

「例えば初球はほぼストレート・・・、とかね」

「僕が大京近に打たれ始めたら?」

「それ以上に打って勝つに決まってるじゃない♪」

「ええ・・・、マジで・・・」――――

 

 と、いった感じだ。

 その策に今更気づけたことに腹も立ったが羽生は楽しみも見つけた。

「(勝てる・・・、そう思った時に現実を見せてやったらお前たちはどんな絶望を見せてくれるだろうなあ? それに・・・)」

 そして出された監督のサインに羽生はニヤリと笑う。

「(こっちを誑(たぶら)かせたんだ。それ相応の苦しみを味合わってもらうぞ・・・)」

 羽生がチームに伝えた内容は“相手は御林、岩井、木寄がチームの柱であること”、そして・・・

“木寄久美は弱点だらけの捕手である”、ということである。

 しかし、それは羽生の行う行為への口実でしか無かった。

「(木寄久美・・・、君にはここで潰されてもらおう・・・)」

 

 バシイイイン! 

「っ!! このっ!!」

 木寄は捕球するや否や大きく離塁しているランナーへ牽制を投げる。際どいタイミングだったがセーフだ。この回、というかこの試合は明らかに相手ランナーの二次リード(ピッチャーが投げてからランナーがさらに大きく取るリード。キャッチャーが捕るとすぐに戻るのが一般的である)が大きい。女子選手であるが故に肩の弱さが目立つ木寄に対しては足で攻めるのは確かに妥当な策である。

 しかし、流星高校のように走ってくるのではなくただ二次リードを大きく取りあわやアウトのタイミングで帰塁する・・・。見てるものからすれば奇妙な攻撃である。

 ・・・この攻撃、木寄にとって最悪の攻撃であった。

「(・・・ぐっ!? くそっ!! こんな時に・・・)」

 そう木寄には部員の誰にも、岩井や御林どころか監督、コーチにさえも話していない秘密を抱えていた。

 “肩の爆弾”。小学校の頃から幾度となく繰り返してきた送球のツケ。中学、高校でも男子に負けまいとクイックスローを身に着けるために投げすぎた結果、木寄の肩はボロボロになってしまった。試合後には“キャッチャーはピッチャーとおんなじくらい投げてんのよ”という理由を使い、アイシングをしたりして誤魔化してきた。

 だがそんな誤魔化しももう通じなくなる程に悪化してしまった。

「(こんな、こんなところでリタイアしたくなんかない!!)」

 だが、羽生の打席。遂に限界が訪れた。

「この、なめんな・・・! って、ああ!?」

「ちょ、うわっ!?」

 大きく飛び出した2塁ランナー目がけ送球を試みた木寄だがその送球はカバーに入った梅田を超えていってしまった。

 1アウトランナー2,3塁。そして明らかに木寄の顔に苦痛の色が浮かんだが、ばれるわけにはいかない。謝ってからすぐさまマスクをかぶったが、羽生はそれを見逃さない。

「(ククッ、もう限界のようだな・・・。心優しい俺が引導を渡してやるさ・・・)」

 ピンチとなりカウントは2-2。肩の痛みを堪えながらもリードを組み立て木寄はサインを出す。追い込んだ羽生に対して要求はサークルチェンジを1球外す。これでカウントは3-2、羽生の反応を考慮して木寄はインコースへのストレートを要求した。

「(遅い球を見た後の辰巳のインコースの真っすぐ! 簡単にヒットにはできない!)」

「・・・ふっ!!」

 御林も要求通りに投げ込んだが羽生はそのボールを・・・

「(いいボールだが・・・、前に飛ばす必要はない・・・)」

 コンパクトにバットを振り抜き、“捉えずに掠めさせた”。

 そして、その打球は・・・、

 ドスッ!! 

「ぐあっ!?」

 木寄の右肩へと直撃した。木寄の我慢の限界を超えた痛みが襲い掛かり、その場にうずくまる。

「「久美!?」」「「木寄!?」」「「木寄さん!!」」

 岩井、御林が慌てて駆け寄った。しかし、その痛がり方は只ならぬもので主審はすぐに担架を呼んだ。

 騒然とするスタンド、そんな中打席にいた羽生は誰にも気づかれないように笑った。ファールチップを打ったのは羽生が故意にやったことであった。通常、ファールチップを狙って打つなどまともに打つよりも難しいことだ。だがそれさえも可能にしてしまう、羽生の打撃の努力の方向性を間違えた賜物である。

「(クハハッ! こいつらはこれで終わりだ・・・!)」

 聖森学園野球部にとって、最大の危機が訪れようとしていた・・・。

 




 この羽生ってキャラは蛇島より救いようがない奴だとは言っておきます(あくまでも自分の感想ですが)。
 今回のキャラ紹介は残念ながら無しです。
 というわけで次回にご期待ください! 感想、評価などもよろしくお願いします。

 

この作品の中で好きな登場人物は?(パワプロキャラでもオッケー)

  • 桜井夏穂
  • 松浪将知
  • 空川恵
  • 久米百合亜
  • ここに上がってる以外!(コメントでもオッケー)
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