朝方、司令室に呼ばれた第一部隊は、ツバキの到着を待っていた。
ここ暫くは大きな任務も無かったので、司令室なんて大仰な所に無縁だったので、ユウやリンドウは妙に落ち着かないでいた。
「もう、二人共。そんなウロウロしないで、少しは落ち着いたら?」
「いやー、久々な感じがして、こうかしこまった場所は苦手でして」
「ユウ君、わかるよ。俺もこういった、なに?お偉いさんの匂いがするような場所、苦手なんだよな〜」
いつもの様に頭を掻きながら、「面倒」を隠す気もなく大欠伸をするリンドウ。そんな姿に呆れたのか、言っても無駄と思ったのか、溜息を吐いた後、サクヤも口出ししなくなった。
「それで、今日はなんで呼ばれた」
ソーマの質問に、リンドウはニヤリと笑う。
「喜べ〜、皆の衆。仕事量に見合わない第一部隊に、ありがたくもお偉いさん方が重い腰を上げなさったそうだ」
その言葉に、皆目を丸くする。今の面子になってから早半年。忙しさに追いまわされていても、見ないフリを決め込んできたフェンリル上層部が、増員を、しかも第一部隊に斡旋したのだ。驚きは隠せない。
「それは嬉しいですけど、何人?」
「なーんと、三人もだそうだ!」
「えっ?三人も?それ誰の権限?やっぱり支部長なの?」
サクヤの質問は的をえているが、リンドウはあえてトボけた反応見せた。
分かっていても、あえて口にはしない。大人の世界なんて、そういった化かしあいの場でもある。雄弁は銀だが、沈黙は金である。
「皆、待たせたな」
声の主をツバキと確認し、皆は整列を始める。列が整った所で、リンドウが目で合図をする。
「今日はお前達に紹介する者達がいる。入れ!」
幾つかの足音が後ろから前に回り、第一部隊同様、横一列に並ぶ。その顔を確認し、
「ほぅ〜」
「あら♪」
「あ、あ〜」
「ふん」
それぞれ違った反応を見せた。
「これからお前達の配属される、第一部隊だ。これからは訓練とは違う、本当の戦場だ。三人共、気を引き締めて任務に当たる様に」
「「「はい!」」」
「ではまず、お前達から挨拶しろ。新人」
「お前からだ」と促され、当の本人は一歩前にでる。
「本日より、第一部隊に配属となった、藤木コウタです!よろしくお願いします!」
一礼し、退がったコウタと入れ替わりに次の少年が、一歩前にでる。彼にとっては、願ってもない部隊。
「本日より、第一部隊に配属となりました、空木レンカです!よろしくお願いします!」
そして、また入れ替わりに一人、一歩前にでる。
「本日より、フェンリル ロシア支部より転属となりました、アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。よろしくお願いします」
三人の自己紹介が済むと、再びツバキが口を開く。
「以上三名を、本日9:00分より、第一部隊に配属となる!まだ右も左もわからぬヒヨッコ揃いだが、希少な新型を二人も預かるのだ。明日からの任務より、しっかりと面倒見る様に。良いな!」
「「「「了解」」」」
そのままツバキはリンドウに視線を移し、「わかっているな?」と目で訴える。
「では、後は隊長の雨宮リンドウに任せる。以上だ!」
「「「「「「「はい!!」」」」」」」
ツバキが去った後に、軽い自己紹介をと皆を止まらせ、リンドウは軽く咳をし喋り始める。
「あー、簡単な紹介は受けてると思うが、・・・まぁ形式上、な!」
そう言ってから三人の新人を見回し、大きく頷き再度話し出す。
「俺の名前は雨宮リンドウ。この第一部隊の隊長ってのをやってる。まぁ、お互い死なない程度に頑張ろうや」
軽く笑いながら、手を上げる。その軽い様子に、アリサは目を細めて不快を示す。
その様子を見ないフリをしたのか、リンドウはそのまま下がりサクヤに次を促す。
「私は橘サクヤ。この部隊で副隊長をやってるわ。新人さん達、期待しているわね♪」
軽くウィンクをして手をふるその仕草に、コウタは目を奪われる。サクヤと交代に、動こうとしないソーマに軽く息を吐き、ユウが前に出る。
「神薙ユウです。僕もこの部隊ではまだまだ新参者だから、余り大したことは教えられないかもだけど、これから・・」
「あなたが、世界初の新型ゴッドイーターですか」
ユウの自己紹介に被せて、急にアリサが口を開いた。しかもその目は、まるで仇敵を見つけた様に、真っ直ぐ睨みつけている。
「あー、うん。そうなるのかな?そう聞いてるし」
「あなたが、どれ程の実力を買われてるのか知りませんが、同じ新型として、一言言わせていただきます。今日までのあなたへの賞賛、全て忘れて下さい」
「!!おまえ・・!!」
突然の言動と態度に痺れをきらせ、レンカがアリサに突っかかろうとしたが、それをユウが制する。
「よく、分からないんだけど、どうして忘れなきゃいけないのかな?」
その言葉に、まるで躾けられていない犬を見る様に冷たい目を向け、アリサは溜息をつく。
「・・・ドン引きです。わからないんですか?」
「・・・・・教えてくれる?」
再度溜息をつき、アリサは不敵に笑いながら答える。
「今日から、私が最強の新型ゴッドイーターとして、君臨するからです。あなたの居場所なんて、もうありません」
「・・・・」
完全に頭に血が上ったレンカを、コウタが必死に抑える。サクヤは「あらー」といった感じで苦笑し、リンドウは面倒くさそうに頭をかく。当のユウも頬を掻きなが、「えーっと、」と困った感じで対応を考えている。
そんな中、傍観に徹していたと思ったソーマが、低く笑い出す。そんな、レアな光景に皆驚き、知らぬアリサは眉間にシワを寄せて声をかける。
「何が可笑しいんですか?」
「くくくっ、コレが笑わずにいろと?現場もろくに知らない新人が、くくっ・・・!」
笑いを止めないソーマに、遂には苛立ちを露わに、アリサは食って掛かった。
「何なんですか!さっきから!誰なんですか、あなたは!」
その瞬間、今まで笑っていたのが嘘の様に冷酷な眼を向け、ソーマはゆっくり前に歩き出した。
「・・・ソーマ・シックザール」
「!!!・・・・・あなたが、地上最強の、・・・ゴッドイーター」
その答えにはさして興味がないのか、ゆっくりとした歩みをユウの横に止める。
「そんな称号に興味はないが、物知らずなお前に教えといてやる」
そう言ったソーマは、トンッとユウの肩に手を置く。
「今お前が喧嘩を売ったこいつが、第一部隊最強だ」
「へ?」
ソーマの突然の啖呵に、ユウが間抜けな声を出してしまう。その様子を、意外そうな目でレンカとコウタは見つめる。
「まさか、・・・」
目を大きく開き驚くアリサを他所に、リンドウとサクヤは吹き出しながら、ユウの周りに集まる。
「くくくっ!そうだな、ソーマ。確かに、今の内のエースは、間違いなくこの神薙ユウ大先生だ!」
「そうね、ふふふっ!」
「ちょ、ちょっとー、サクヤさんやリンドウさんまで。勘弁して下さいよ」
その仲間の友情ごっこのような様を、気に食わなかったのか、アリサが再び声を荒げる。
「ふざけてるんですか!!こんな緩い、なよなよした人なんかを庇って!ゴッドイーターとしての自覚が足りないんじゃないんじゃないですか!!」
力一杯の怒号に、少し後ずさったが、リンドウは「やれやれ」と子供を窘める親の様に、優しく答えた。
「アリサー、だっけか?こいつの実力、信じられないか?」
「えぇ。絶対にありえません。そのぐらい、見れば判ります。馬鹿にしないで下さい」
「そかそかー。んー・・・、じゃあ、」
そう言ったリンドウは、今度は面白い悪戯を思いついた子供の様に、アリサに言った。
「俺と賭けようか?」
「はっ?」
「もし俺達の言う通り、ユウの実力が内のエースに遜色ないのなら、俺の勝ち。逆に〜、アリサの言う通り、ユウがやっぱり見た目通りなら、お前の勝ち。どうだ?」
「ちょっと!リンドウさん!何もそんな事しなくても・・・、て言うか、リンドウさんも見た目はなよなよしてるとおもってたんですか?僕の事!」
「良いから、黙ってろ〜。で?どうだ、アリサ?」
少し伏目に考えてから、アリサはリンドウに目を向ける。
「私が勝ったら、どうするんですか?」
乗って来たのを確信し、リンドウは楽しくなってきた。
「そうだな!じゃあ〜〜、第一部隊をお前にやるよ」
「・・・はい?」
「だから、隊長の座をくれてやるって言ってるんだよ」
「・・・・・・・ふざけて、無いんですね?」
「あぁ。申請は隊長の俺直々の推薦で後押ししてやる。乗るんだろ?」
その言葉に挑発を感じ取ったのか、フンッとアリサは踵を返し出て行こうとする。そして扉の前で足を止める。
「ちなみに、そちらが勝った場合は?」
「あぁ、簡単だ。皆んなと仲良くやるように!以上だ」
「・・・わかりました。明日、真実を教えて差し上げます。お疲れ様でした」
賭けの成立を最後に、アリサは一人司令室を後にした。
「はぁ〜〜」
「・・・もう、なんなの急に。久しぶりに顔を出したと思ったら、溜息ばかりついてさ。何かあったの?」
「いや〜〜〜〜、・・・はぁ」
解散した後、ユウはリッカの所に顔を出していた。今リンドウ達と顔を合わせると、小言を言いそうだからだ。リッカのいる開発局には、ゴッドイーターも滅多にこないから、隠れるために逃げ込んだのだった。
「溜息、止めてくんないかな。私がユウ君を落ち込ませてるみたいで、何か妙な罪悪感がわいてくるんだけど・・」
「あ、ごめんね。リッカが悪いとかじゃないから」
「はいはい、信じますよ」
軽口を叩きながらも気になったのか、リッカはゴーグルを外して作業をやめ、ユウの隣に座る。
「で、どうしたの?」
「えっと、・・・うん」
「話しにくい事?」
「うーーん、人が絡んでるから。リッカに変な心象与えないかなって」
苦笑いを浮かべ、頬を掻きながらユウは気まずそうに下を向く。
「別に。私は基本自分の見たものしか信じないから。ほら、一応科学者の端くれだしね!」
「うん、そっか」
「・・・私が、一番話しても当たり障りないから来たんでしょ?」
そう言われて、ユウは慌てて首を振る。
「いや、そういうんじゃないって!一番話しやすい相手ではあるけど、ここに来たのは、ちょっと、・・・あまりリンドウさん達と顔を合わせたくなくて」
「喧嘩でもした?」
「そうじゃないよ。ただ、・・・・・・」
「・・・・」
「・・・リッカ、話すね」
「うん」
返事を聞いてから、ゆっくり頭の中を整理し、ユウは言葉を選びながら話した。
「今日、第一部隊に新人が入ってきて」
「あぁ、今日だっけ?コウタ君とレンカ君でしょ?後はー、ロシア支部から転属してきた・・・」
「うん、アリサって言うんだけど、」
「ちょ、ちょっと待って?ロシア支部の転属者って、女の子?」
「えっ?そうだけど、リッカは知らなかったの?」
「いや、私は送られて来た神機の調整ぐらいしか・・・、ごめん、続けて」
「あ、うん。そのアリサとね、・・・ちょっと揉めたというか、うーん、明日勝負する事になっちゃって」
「勝負⁈何を?じゃないか。何で?」
何故かあたふたするリッカに首を傾げながら、ユウは続ける。
「うん。何かどっちが、最強のゴッドイーターかー、って」
「・・・・なーーーんだーー!!」
「えっ、何が?」
「いえ、何でも。それで?大方リンドウさん辺りが賭けようとか何とか言ったんじゃない?」
「え、よく分かったね。リッカ凄いね!」
「まぁ、さっきリンドウさんの名前が出たから、なんとなくね。でも、それなら別に気にする事ないんじゃない?適当に勝負つけたらさ」
その受け答えが、当たり前だ。単なる勝負なら、ユウも簡単に受けたかもしれないが、なにしろリンドウが賭けたのは、
「リンドウさん、自分の隊長の座を賭けたんだよ。僕に」
「・・・・・はぁ、リンドウさんらしいというか、何というか。ユウ君の性格的には、少し重いかもね」
「はぁー、負けたらどうしよう」
そんな、ユウに少しばかり可愛いらしさを感じて、リッカは軽く頬を染めたが、真剣なユウにちゃんと答えようと、軽く頬を叩き立ち上がる。
それに驚いたユウの目の前に立ち、ずいっと右手の人差し指を伸ばす。
「ユウ君!『負けたら・・』なんて、考えちゃダメだよ!『勝つ』でしょ?」
「えっ、・・・あっ」
少し戸惑ったユウに、笑顔を向け、リッカは左手を腰に、右手でドンと胸を叩く。
「大丈夫!だって、ユウ君は・・・、私達の明日を切り開いてくれるんでしょ?」
「あっ・・・」
「・・・・・ねっ!」
その言葉は、彼の覚悟。彼の願い。そして、皆んなの希望。
「うん、そうだね。今僕達の部隊をバラバラには、出来ないよ。僕には、まだまだやらなきゃいけない事があるから。そしてそれには、皆んなが必要なんだ!きっと、アリサも。・・・リッカ、ありがとう!」
「うん!やっぱり、ユウ君は落ち込んでるより、笑ってる方が似合ってるよ!」
「うん!本当にありがとう、リッカ!」
そう言って立ち上がったユウは、また自然とリッカの頭を優しく撫でていた。
「うっ、・・・おぉ・・おぅ・・・・・ふぅ」
抵抗しようか迷いながら、やっぱり気持ちいいので思い止まったせいか、リッカの口から変な声が漏れた。
「でも、まだリンドウさんに会ったら小言いいそうだから、もう少しここにいていい?」
「・・・お好きに。・・・・作業、戻るね」
「うん!」
スッとユウから離れ、作業台に向かったリッカは、この時間をもう少し楽しめる事に、喜びを隠せず顔が綻んでいた。
「ところでさ、彼女は何を賭けたの?」
「あぁ、大したものじゃないよ。何か、仲良くなろうってやつ、だっけ?」
パキンッ!
「ん?リッカ、変な音したけど、大丈夫?」
「ん、うんー。大丈夫、大丈夫。はははっ、仲良く、ね」
「??うん」
「・・・・・・・・最悪だ〜〜」
「???」
アリサ さん、極東にいらっしゃいませ!
と、いう訳で次はユウVSアリサの対決!