贖罪の街。
かつてここには、約一万五千人の人々が暮らしていたという。多くのテナントを持つビルの集合体。テーマパークを連想しそうな、中心にそびえ立つ城のような総合デパート。
大人はその忙しさに必死に働き、子供達の笑顔が溢れていたのであろう、・・・・・・・・・荒神が現れるまでは。
かつての賑わいを忘れた街。
見降ろしながら煙草に火をつけるリンドウ。少しだけ目を閉じ、何か悼むように胸に手を当て、しばらくしてから目を開け、自分の仲間達に振り返る。
「さて!今日も楽しいお仕事の、始まりだ!」
「とりあえず、今日の任務を説明する。この近辺を根城にしているシユウの討伐だ。確認されただけでも、11体」
「11体っ!!そんなにいるんですか?」
リンドウの言葉に、初任務で緊張を隠せないコウタが思わず声を上げる。それに対し、リンドウは首を振りながら答える。
「いやー、おそらくもっといる。下手したら20・・30はいるかもしれん。だから全員、最新の注意を払って動くように」
「は、はい!!」
「了解!!」
「了解しました」
「オッケー♪」
「わかりました!」
「・・・了解」
皆の返事を聞き、満足気に頷いてから煙を吐く。
「それでー、昨日の話だが、二人共良いな?」
呼びかけられた二人は、それぞれ対照的な反応を示す。
「構いません。それで、勝負の内容は?」
「聞いた通り、ここはシユウの大量生産工場みたいな場所だ。単純に数で、競うってのは?」
リンドウが煙草を投げ捨て、踏み消しながらユウの方に顔を向ける。その悪戯小僧のような悪い笑いに、ユウは溜息を吐き手を挙げる。
「不本意ですが、了解です」
「私も、構いません」
二人の返事を、「うんうん」と頷くリンドウの無線に、ヒバリからの抗議も飛ぶ。
『リンドウさん!私は反対しましたからね!こんなこと許しちゃうとか、フェンリルの上層部に知られでもしたら・・』
「わーってる、わーってる!お互い、貝になろうや♪」
『はぁー。聞くんじゃなかった』
頭を抱えるヒバリを容易に想像出来たのか、リンドウは口を押さえて静かに笑う。その様子にサクヤも「気の毒に・・」と、額に手を当てる。
「あー、それじゃあそろそろ時間だから、今日の編成を言い渡す。ツーマンセルで行く。空木、お前はサクヤと組め。ユウに優秀と聞いてるから、期待してるぜ〜」
「ユウさんが、俺を⁈ありがとうございます!頑張ります!」
深く頭を下げるレンカに、ユウが肩を軽く叩く。
「大丈夫。訓練通りに、いつも通りにね!」
「はい!荒神を、今度こそ!」
「うん、無理はせずにね」
かなり素直になったレンカの様子に、少し不安に思っていたサクヤはフッと笑い、レンカの隣に立つ。
「指示は私が出すわ。落ち着いて行きましょう」
「はい!お願いします、サクヤさん!」
「うん♪素直でよろしい♪」
サクヤに軽く小突かれ、照れるレンカをコウタは羨ましそうに見る。
「良いな〜、レンカ〜。俺もサクヤさんと組みたかったな〜」
「あっ、何か悪いな」
軽く拳でレンカの肩を小突くコウタに、微笑みながらリンドウは次のコンビを口にする。
「藤木、お前はソーマと組んでもらう。落ち着いて行け〜。ソーマも構わないな?」
「うえっ!ソーマさん・・・、です、か?」
「・・・・・悪かったな、俺で」
相変わらずの無表情で、ソーマが答えたものだから、コウタは爪先から頭に抜ける寒気を感じ、顔を若干青くする。
「い、いいいいいいいいいえいえいえ、滅相もございません!スゲー頑張ります!」
「ふん・・・」
それからアリサの方に顔を向け、リンドウは少し息を吐き告げる。
「アリサは俺とだ。勝負があるからな、ヤバイと思ったら手を貸すので、問題ないか?」
「構いません。一人でも問題ありませんので」
その答えに、苦笑いを隠せず、リンドウは頭をかく。
「まぁ、新型さんの足を引っ張らないよう、気をつけるわ」
「旧型は・・・・、旧型なりの仕事をすれば、いいと思います」
その言葉に、場が凍る。
なんとも空気の読めない言動に、コンビの人選を誤ったかと、リンドウはまたも頭をかく。
「あー、じゃあ、・・・ユウ!」
「あ、はい」
「お前は何時も通りに遊撃で。勝負であっても任務だからな。全体を常に把握できるよう、『眼』を使ってくれ。後は任せる!編成は以上・・」
「ちょっ、待って下さい!」
リンドウが喋り終わる前に、アリサがツカツカとユウとリンドウの前にやってくる。
「どうしてこの人だけ、一人なんですか?納得行きません!」
「あー、それはな・・」
「いくら新参者の私に負けて欲しいからって、彼に優位な方法とらなくたって!!」
その言葉に、リンドウは急に真面目な顔になり、アリサに一歩踏みよる。そんな行為に気圧されたのか、アリサは逆に一歩たじろいでしまう。
「アリサ、お前、なんの為にこの編成にしたか、わかるか?」
「えぇ?」
「なんの為に、ユウを、こんな死の臭いしかないような場所で、一人遊撃に走らせるか、わかるか?」
「そ、それは・・!」
口籠るアリサに、フゥと小さく息を吐き、リンドウは真剣な目で続けた。
「お前らを、誰一人として死なせない為だ」
「・・・え」
それから周りを見回し、リンドウは一人一人に伝えるように話し出す。
「遊撃ってのは確かに好きに動ける。危ないと思えば退けばいいし、刺せる時にはガンガン攻めれる。そんなイメージだよな?でもユウに俺からいつも伝えてる、遊撃としての指示は違う。全体を把握し、必要な場所に行き、必要に応じて武器を振るう。用が終わればさがり、また全体を観察、危うい仲間がいれは最優先でそこに参戦、終わればさがり、また観察、誰の目にも止まらない敵を見つければ排除、また観察・・・、ただ目の前の敵を倒せばいいだけのお前と、どっちが有利だ?それと、・・・・・おまえに、それが出来るのか?」
「う・・・、出来、ない・・・です」
思わず「出来る!」と豪語しそうになったアリサだが、寸でのところで、考え直した。
「冷静だな。理由は色々あるが、まぁ〜、今はおまえさんの実力が不透明だからとでも思ってくれて良い。この編成に、問題ないな?」
「・・・ありません」
渋々といった感じで、アリサはそっぽを向くが、言葉での了承を得ると、リンドウは全員に目を向ける。
「よし!それじゃあ、第一部隊はいつも通りのもっとうで行くぞ〜。新入り共も、覚えとけ〜」
「はい!」
「あっ、は、はい!!」
「・・・・」
そしてリンドウはいつものスローガン(?)を口にした。
「死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ、隙を見つけてぶっ殺せ!いいな!」
そうして大量シユウとの、長い1日が始まる。
「レンカ!!一度後退!」
「はい!」
瓦礫の山を一飛びで後退したレンカ、それに合わせてサクヤの貫通弾がシユウの腹を射抜く。
「レンカ!捕食!」
「はい!」
レンカはプレデタースタイルに切り替え、その暗黒の口を膝をつくシユウに喰いつかせる。
「はぁっ!!」
ガリュッ!!
そのまま横に薙ぐと、シユウの頭を千切り、レンカの神機の中に戻ってくる。レンカは神機のコアシステムに目を落とし、コア回収を確認する。
「サクヤさん!回収完了です!」
「うん!お疲れ様、レンカ」
高台に陣取っていたサクヤが、レンカの元に降りてくる。
「これで、3体目か。レンカの動きが思った以上に良いから、楽できるわ♪」
「そんな⁈サクヤさんのバックアップあってこそです!」
「謙遜するのね。以前の尖った感じが、抜けてきてる?」
「そ、それは・・・!!」
少し慌てるレンカを見て、微笑ましく思ったサクヤは、路地裏であった場所を改めて見回す。
「ここも随分荒れてきたわね。脚元悪いのに、良い動き出来るのは、コツでもあるの?」
そんな質問にレンカは少しだけ笑みを浮かべ、しゃがんで瓦礫の欠片を拾う。
「俺は、外で生活してましたから。こういう場所で立ち回るのには、慣れてますから」
「そう」
ここ2、3年のゴッドイーターへの士官者は、9割が外で生き抜いて来た者である。フェンリル各支部の居住区の大半の人間は、パッチテストを済ませており、フェンリル職員、現役ゴッドイーターの庇護下の元、居住権利を得ている一般人でしかないのだ。その為、フェンリルは定期的に外で暮らす人達に有志を募って、パッチテストを合格した者からゴッドイーターを選出し、その家族を出来るだけ受け入れる体制はとってはいる。
しかし、様々な理由、事情から、その身一つでやってくるゴッドイーターは多い。ユウも、一人。
そして、レンカも。
「あ、気にしないで下さいサクヤさん。俺は大丈夫ですから!」
「ごめんなさいね。少し無神経だったみたい」
「いえ、本当に!俺はちゃんと前を向いて走るって、向かう方向は見えていますから」
そう言って、レンカはポケットから使い込まれたコンパスを出して、穏やかな気持ちで眺める。
「・・・・・それ」
「えっ?どうしたんですか?」
少し驚いた顔をしたサクヤだったが、すぐにいつもの優しい顔へと戻る。
「ううん、何でもないの。良いコンパスね」
「俺の・・・大切な家族の形見なんです」
「そう・・・大事にすると良いわ。あなた、良い顔してるわよ」
そう言われて、照れ臭そうにコンパスをしまい立ち上がるレンカに、昔のリンドウを重ねたサクヤは、少しだけ懐かしい気持ちになった。
「よっし!休憩終わり!この辺りには反応ないのかしら?ユウ!聞こえる?」
『はい、サクヤさん!』
「この辺りに荒神を目視で確認出来る?」
しばらく間があり、再び無線が繋がる。
『大丈夫そうですね、そのエリアから離れてソーマ達と合流して下さい。コウタが色々と困ってるみたいなんで・・』
それを聞いて、サクヤは「あ〜」と納得したようだ。レンカも無線の回線を繋げていたが、二人の会話に要領得ない顔をしている。
「わかったわ。可哀想な新人君を助けに行ってきます。そっちも気を付けてね」
『了解です!なにかありましたら、こちらからも連絡します!』
無線が切れた後、今度は違うボタンで回線を繋ぎ、再びサクヤは喋り始める。
「第一部隊、サクヤより本部へ。ヒバリちゃん、聞こえる?」
『はい、サクヤさん聞こえてます。先程ユウさんからも連絡入りました。そのエリアのオラクル反応無し、移動して結構ですよ』
「流石ユウは仕事が早いわね。じゃあ、緊急時に備え回線をこのまま、ソーマ達と合流するわ」
『了解しました。お気を付けて』
会話を終わらせ、神機を持ち直すと、「いつでも」という顔をしたレンカに頷き、
「じゃあ、移動しましょ」
と声をかけた。
「了解!」
レンカの返事と同時に、二人はソーマ達と合流すべく走り出した。
移動中、ふと気になったレンカは先頭を行くサクヤに声をかけた。
「あの、サクヤさん」
「んー、なにー?」
「さっき、ユウさんに俺達のエリアの確認して貰ってましたけど、ユウさんは何処に?それに、リンドウの行っていた『眼』って?」
リンドウは呼び捨てなところに、思わず笑いが出たサクヤは、片手を上げて上を指差す。
「・・・?上、ですか?」
「そう。あの子がどうして内のエースなのか、あなたにも直ぐにわかるわ♪」
「・・はぁ」
楽しそうに笑うサクヤに頷き、レンカはもう一度上を見上げる。
(ユウさんが、エースの訳・・・)
ちょっとどころじゃない長さになりそうなので、この舞台の話は分断します!