巨大クアドリガとの戦闘を終え、一同極東支部へと帰投中。アリサはふと、ユウに目をやった。
強烈なダメージと疲れからか、ユウは一人静かに寝息を立てながら休んでいる。他の者も、疲れからか特に喋ることなく、ただヘリの音だけが耳に響いていた。
「・・・あの、」
「ん?」
静けさを破るように、アリサが口を開き、リンドウがそれに返事を返した。
「今日は、勝手な行動をとって、すみませんでした」
「おぉ、やけに素直だな〜」
「それは!・・・その」
後ろめたさか口を噤んだアリサに、「ふふっ」とサクヤが小さく笑いながら、隣に座った。
「褒められた事じゃないけど、皆無事。今日は初任務にしては、上出来じゃないかしら?」
「いえ、でも!・・・私が、勝手に飛び出したせいで、ユウが・・・」
その言葉に、目を丸くしたサクヤは、ズイッと顔を近づけた。
「へぇー、『ユウ』ねー。急に仲良くなったじゃない?」
「そ、それは、ユウが・・・、そう呼べって言う・・・から」
「ふぅ〜ん♪」
「な、なんですか!!」
サクヤが面白がってつついた事に、アリサは顔を真っ赤にして反応したから、周りからも笑いが漏れだした。そんな状況を、面白くないようにソッポを向くアリサを他所に、コウタはリンドウに質問した。
「そういえば、リンドウさん。例の勝負、どうなったんですか?」
「んなっ!!」
「あぁー、あれな。あれは・・・」
「私の負けです!!」
リンドウが言う前に、アリサは言葉を被せて自ら負けを認めた。そして、ただでさえ色々落ち込んでいた自分を更に追い込む発言をした、コウタを睨みつけた。
「いや、なんで俺睨まれてるんっすかねー?」
「・・・最悪です」
「いきなり酷くないですかー!あんたー!」
コウタの叫びを、素知らぬフリして流し、アリサは改めてユウに顔を向けた。
「まぁ、クアドリガのコアを回収したのはユウだからって事なんだろうが、あいつがいなくてもアリサの負けだな」
「?どういう意味ですか?」
これ以上晒し者はゴメンだと、今度はリンドウに抗議の目を投げたら、リンドウは寝ているユウに視線を落として、話し始めた。
「今日の任務で回収されたシユウのコアは18。空木が3つ、ソーマが3つ、アリサが4つ、俺が1つ。さーて、算数の時間だ。残りの数はいくつだろうな〜?」
そんなリンドウの質問に、皆それぞれ計算をし出した。
「えーっと、3と3で、6だろ?それから、」
「コウタ、お前・・・」
「何で可哀想な子見るような目で見られなきゃいけないかな?」
「ふふふっ、榊博士に別の講義も入れてもらいましょうか?」
「マジで勘弁して下さい!!」
そんなやり取りの中、話が進まないのに苛立ったのか、アリサが答えをいった。
「7ですよ。こんな計算もまともに、・・・⁉︎」
答えた後に気付いたアリサは、勢いよくユウの方を見た。
「正解だ。この中でコアを回収できる捕食形態を持つのは、後一人だな」
「嘘・・」
それだけの数一人で狩っていながら、ユウはあの巨大クアドリガと善戦していたのだと気付き、新人達は改めてユウに対して驚いてしまった。
その反応を見て、リンドウは再び口を開いた。
「まっ、そういう事だ。それでは、おじさんとゲームに興じてくれた、アリサ君?改まって聞くのもーなんだが、この勝負、俺の勝ちで良いよな?」
「・・・はい、完敗です」
リンドウは頭をかきながら、「いやー、良かったー」と煙草に火をつけた。
「でだ、俺が勝った時の条件、覚えてるか?」
「は、はい」
「では、今回の勝利者であり、第一部隊の隊長として命ずる!皆と、仲良くな」
「・・・努力、します」
その言葉に、コウタは拍手して喜び、レンカもサクヤもフッと笑みを浮かべた。
「ソーマ、良いだろこれで」
「好きにしろ」
反応を見せないソーマから言質をとり、リンドウはアリサに視線を戻す。
「それじゃあ今から早速仲良くして貰おうかな?」
「な、なんですか?」
「そうだなー・・・。おぉ!そうだそうだ!勝負が終わる前に、さっさと仲良くなってる奴がいたな〜?」
そう言われた瞬間、アリサはバッと顔を逸らす。その有り様を、ニヤリッと笑ってからリンドウは口を開いた。
「まずは、全員をちゃんと名前で呼べるようにしようか?」
「へ、えぇ!何でですか!」
「まぁまぁ、仲良くなるには名前を呼ぶのが一番だぞー?」
「くっ!」
少し悔しそうに俯いたが、ゆっくりリンドウに顔を上げる。
「・・リンドウ、さん」
「おう!それで?」
視線を動かしたリンドウの目の先には、サクヤがニコニコしながら立っていた。
「サクヤ、・・さん」
「うん♪あの子は?」
リンドウのやり口を悟ったのか、サクヤも同じように次の標的を指差す。
「・・ソー、マ・・さん」
「ちっ、ソーマでいい」
それからソーマが顎でレンカへと促す。
「空木、さん・・・」
「あぁ・・」
そして、レンカが指定する前に、コウタが飛び出してくる。
「じゃあさ、俺は?俺、俺!・・・好きに、呼んでくれて・・」
「コウタ」
迷わず呼び捨てにされ、一瞬固まったコウタは、表情を崩さずアリサを見る。
「何で俺だけ、呼び捨てに?しかもトゲが、」
「あなたを敬う道理がありません」
「なんでぇーーー⁉︎」
コウタが騒ぎ立てる中、ヘリは極東支部へと降り立とうとしていた。
「中々無茶をしてくれるね、ユウ君」
「す、すいません」
極東に戻ったユウは、真っ先に榊博士の元に送られ、医療施設にて治療を受けていた。
「いやいや、私は怒ってはいないのだよ。ただ、君のその無茶なところも、好感を覚え、私としては興味に尽きないよ」
「は、はぁ。そう、なんですか?」
「そうとも!」
「あっ、顔近いです」
「おっと、これは失敬」
治療を受けれるのはいいが、榊博士とはあまり関わりたくないと言うのがユウの本音で、正直二人きりにはなりたくない。
散々喋り倒した榊博士が、静かになって暫くして、急にまた口を動かした。
「少し真面目な話だが、ユウ君」
「?・・・はい」
「君達ゴッドイーターは偏食因子の投与によって、絶大なる身体能力と、回復力を有している。が、しかしだ、あくまでも君達は人間だ。荒神と同じ細胞を取り込んでいるからといって、体を硬化させたり、帯電したり火をはいたりは出来ない。そう、人間なんだ」
「・・・・」
「今回の様に、普通の人間なら命の危険があるような外傷でさえ、致命傷にはなりえない。正直病気や毒なんかで殺すことも、恐らくは不可能と言っていいだろう。だがね、頭を吹き飛ばされたり、心臓をえぐられれば、ゴッドイーターでも例外なく死ぬ。そこからの復活はあり得ないのだよ」
「・・・はい」
ユウは自然と自分の心臓部分に手を当て、その鼓動を確かめる。榊博士の言いたいことはわかる。そう記憶に埋め込むように、優しく撫でる。
「なんか、・・・・本当にすいません」
「いや、ただわかって欲しいだけだよ。決して、君のその命を無駄にしないで欲しい。観測者である私から言えるのは、それだけだよ」
「はい、ありがとうございます」
ユウにお礼を言われ、少しくすぐったくなった榊博士は、早々と治療を仕上げた。
「さっ!これで、大丈夫。ユウ君の回復力なら、明日、明後日には動けるようになるよ。でも完治までは1週間はかかるだろうから、そのつもりで、お大事にね」
「はい、安静にしときます」
「あぁ、そうしてくれたまえ。ん?・・・ふふっ、ユウ君」
「はい?」
出ていくかと思った榊博士が、扉の前で振り返ってきたので、ユウは負担を与えないよう上半身を起こし、博士を見る。
「やはり、君は命を大切にしたほうがいい」
「え?」
「なーに、君はこんなに愛されている」
そう言ってから、榊博士は扉の開錠ボタンを押す。すると、
《わっっ!!!》
コウタ、レンカ、アリサ、タツミ、カノン、リッカが転がり入ってきた。その後ろにリンドウとサクヤが「やれやれ」といった感じに苦笑しながら入ってくる。扉の前の壁にはソーマが背中を預けて立っていた。
「いってー、だからやめろっていったのに!!」
「なっ!タツミさんが覗けるからって言うから!」
「痛いです〜、早くのいてくださいよ〜」
「アリサが前にって、押すからだろう?」
「なっ!何言ってるんですか空木さん!ど、ドン引きです!!」
「何どもってんの?もー、ユウ君のお見舞いなんて言わなきゃ良かったよ」
「おーっす、もう大丈夫かー?」
「リンドウ、今日した怪我が今日治るわけないでしょ?」
「ちっ、どいつもこいつも・・・」
「あのー、皆さん?ちょっと?お見舞いは嬉しいけど・・・」
そんな様子に満足したのか、榊博士はひとり医務室を去っていく。満ち足りた気分とは、こう言ったものだろうかと、優しい気持ちに笑みを浮かべた。
そんな彼の目の前に、一人の男が歩いてくる。すれ違い様に、お互い足を止める。
「ペイラー、彼の様子は?」
「流石、というべきかね。完治までは1週間かからないかもしれないね」
「結構」
背中越しに会話する男は、再び歩み始める。医務室に向かって・・・。
「ヨハン!」
思わず呼び止め、彼が歩を止めたのを確認しながら、榊博士は喋り出す。
「彼も、君の実験体かい?」
「異な事を・・。彼は君の実験体だろ?ペイラー」
「そうだね、否定はしないよ。ならば釘を刺させて貰うよ」
「ほう?どんな、釘かな?」
そうして二人はお互い向き合う。ペイラー・榊、ヨハネス・フォン・シックザール。かつて、同じ到達点を目指した二人。
「彼を、私の断りなしに、壊してくれるなよ。ヨハン」
「・・・ふっ、釘を刺されるまでもなく、そんなことはあり得ないよ。・・・・・あり得ないが、」
榊に背を向け、歩みを再開しながらヨハネスは言った。
「肝に、銘じておくよ」
「そう、願うよ。・・・ヨハン」
答えてから、榊もまた、歩き始めた。
ちょっとだけ、シリアス。
これで第一章が終了って感じですかね?
次から、少しばかりエグくなる、かな。