「これが、・・・新型、なのか」
訓練所の監視室から様子を伺っていたツバキは、思わず口元に手を当て驚愕した。
従来のゴッドイーターは、剣型と銃型、それぞれの特性を持って戦ってきた。
しかし、新型は違った。
剣型と銃型の変型移行、更に剣型にのみ許された捕食形態《プレデターフォーム》も可能!捕食する事でのバースト状態やコア回収に加え、銃型でのバレット枯渇を軽減、そして特殊バレット。
(新型とはこれ程の性能を・・・)
ツバキは一息ついてから思慮にふける。
(一人部隊に投入するだけで、多様な役割を果たす事ができる。確かにフェンリル本部がやたら持ち上げ、支部長が全権力を元に引っ張りこむ訳だ。だが、、、)
もう一度、訓練に励む神薙ユウに目を向ける。
(この反応速度、隙の無い判断力、これも新型の特性とでもいうのか?今まで訓練の一つも受けていなかった人間の動きじゃないぞ)
ツバキの言う通り、ユウの動きは常軌を逸している。まるで荒神の動きがわかっているがごとく攻撃をかわし、斬りつけ、距離を取りながら変型、撃つ。必要に応じ盾で受け流し、そして斬り、倒れたものから捕食する。
執念のようなものに衝き動かされてるが如く、シミュレーションとはいえ荒神を狩り尽くす。その動きはベテランの域の雨宮リンドウ、同じく第一部隊のソーマ・シックザールと肩を並べる程だ。
(とても一週間前に神機を握った新人とは思えない)
冷静に動きを観察している間に、訓練シミュレートは終了した。
ユウが一息つき、ツバキのいる部屋へ目を向ける。
「雨宮三佐、今日は以上ですか?」
「あ、あぁ。本日の訓練を、終了する。2時間後に榊博士の定期検査を受けろ。それが終われば本日の予定は全て終了となる。後はゆっくり休め。以上だ」
「はい、ありがとうございました」
一礼し去っていくユウを見送り、緊張していたのか溜息がもれる。ユウの凄さは元ゴッドイーターであったツバキには良く理解できる。
(もう訓練などで時間を費やすのは惜しい)
そう思い、ツバキは支部長室へと足を向けた。
「君は、実に興味深いね」
「は、はぁ。あの、顔近いです」
「失敬」と言いながら、悪びれもなく笑いながら榊博士は淡々と検査を進める。
ペイラー・榊博士の研究所。研究所と言うにはあまりにも事務的な部屋を見回して、ユウは緊張をほぐすようにゆっくり深呼吸する。
(嫌い、ではないんだけど、、苦手だなー。この人)
「私の事が苦手かい?」
「え?」
突然の問いに目を見開き驚く。声に出ていたのかと、口を覆う姿を見て、榊博士はまた笑い出す。
「君は素直だね〜。大丈夫。口には出していないよ。ユウ君は実に正直者だから、顔に出ていたよ」
指で顔をなぞるように丸を描き、榊博士は指摘する。
「す、すいません!」
「いやいや、構わないよ。この極東支部では大抵の人間にその様に思われてると自負しているからね。その上での推察と言えば、君の素直な心は救われるかな?」
「あ、あー、のー、・・・・・本当に、すいません」
凝縮したユウを見て何を満足したのか、榊博士は「うんうん」と頷き作業に戻る。
会話のない静かな部屋で、カタカタと榊博士のタイプの音だけが響く。
「・・・ユウ君。一つ聞いてもいいかな?」
「?・・はい、なんですか?」
キーボードを打つ手を止めずに、榊博士は話を続ける。
「君は、・・・失礼。立場上君の過去は把握しているんだが、それを踏まえて聞きたい。君は、あの時どんな思いで『覚悟』を口にしたのかね?」
「・・・・」
それは1分にも満たないか、はたまた十数分過ぎていたかで、榊博士が口を開く。
「すまない。ちょっとした私の好奇心でね。上からの命ではないから口にしたくなければ、」
「いえ、大丈夫です」
ユウが言葉を切る様にかぶせて答え、榊博士は手を止め、ユウに目を向ける。
「僕は、何も知らない内に全て失いました。何も出来ずに、全てが終わっていました。そんな、こんな思いを、誰にもさせたくない」
「ユウ君」
「わかっています。・・・僕は神じゃない。全ての人なんて驕りを言うつもりはありません。今こうやって僕が生きてる間にも死んでいく人達が沢山いるのもわかっています。こんな世界に、夢を見ることなんて、出来ない事もわかってます。それでも、」
そういって、ユウはゆっくり榊博士に顔を向ける。
「こんな世界に負けたくないです。抗う力を手に入れたのなら尚更です。僕が神じゃなかったとしても、外に蔓延る人間の敵を、神なんて認めたくない。だから、僕は、・・・・・・明日を切り開く」
「・・そうか」
暫くの沈黙の後、榊博士かフッと笑顔になる。
「?・・・あのー。?」
「ありがとう、ユウ君」
「えっ?」
突然の礼に戸惑うユウに、再び優しい笑顔向ける榊博士。
「君に出会えた事で、僕も色々と『覚悟』が決まったよ」
「そう、なんですか?」
「あぁ。君こそが・・・・、いや。これは言わないでおこう。だがユウ君、これだけは覚えておいてくれるかい?私も、君と共に抗ってみようと思う」
よくわからないという顔で、首を傾げているユウに頷きかけ、榊博士は手際よくユウの体に繋いでいたプラグなどを外す。
「さぁ、検査は終了だよ。お疲れ様。今日はもう非番だったね、ゆっくり休むと良いよ」
「あ、はい。ありがとうございました」
「はい、お疲れ様」
ゆっくりソファーに腰を深く落とし、壁の向こうの世界に思いを巡らす。
榊博士の観測者としての、癖のようなものである。
そうして、気持ちだけは負けずと研究を続け、それでも世界は荒れていく。無駄に思える行動に、何時しか諦めを感じはじめていた中で、彼と出会えた事が、それこそが希望だと確信めいていた。
「君は、本当に、・・・・・・興味深いよ。ユウ君」
そう呟き、穏やかに微笑んだ自分に、久方ぶりの好感を覚えた。
長いー。
読み手の方いたらお疲れっす!
次、いよいよ戦わせてみる!