もう〜いい〜かい?
ま〜だだよ!
もう〜いい〜かい?
もう〜いい〜よ!
『アリサ!どこなの⁉︎アリサ!』
『アリサー!何処にいるんだー!アリサ・・うわぁ!!』
『きゃあぁぁぁ!!』
「パパ・・、ママ・・・」
「いや、・・・いやいや・・・・ごめんなさい!いやーー!!!」
「いやっ!!!」
起き上がったそこは、何処かの部屋の様だった。アリサは自分が寝かされていたベッドを撫で、辺りを見回した。
「起きた、のか?」
「えっ?あ、空木・・・さん」
「あぁ」
部屋の隅の方でレンカは壁にもたれて座っていた。その傍らには、刃が折れた神機が立て掛けてある。
「・・・私、気絶してたんですか?」
「あぁ、あの場所から流されてこんな所にな。無線も水でやられて、連絡が取れない。今のところ、手詰まりだ」
レンカの言葉に、アリサは気落ちする。頭に血が上ってピターに食ってかかったせいで、レンカを巻き込みこんな結果に。
(あの時と、初任務の時と同じ。あの時ちゃんと学んだ筈なのに!)
悔やんでいる中、はっ、となり、アリサは自分の周りを見回し、ある事に気付く。
「私の神機は⁉︎」
「すまない、流れ着いた場所には、落ちて・・・なか、った」
その言葉終わりに、レンカはその場に倒れた。
「え?空木さん?」
アリサは慌てて駆け寄ると、レンカの座っていた場所に血溜まりが出来ているのを、近寄って初めて気付いた。
「そんな!こんな体なのに、私を抱えて・・!」
アリサは焦りながらもレンカを抱き起こし、ベッドに寝かせ血が流れたであろう腹の傷を見る。
体内の偏食因子のおかげか、傷は塞がってはいる。しかし血を流し過ぎたのか、今は静かに寝息を立て休んでいるようだ。
「良かった。生きてる」
アリサはホッと胸を撫で下ろし、再び傷口が開かぬよう、隣のベッドのシーツを割き、寝ているレンカの腹に少しキツめに巻き付けた。
それから衣服を直し、自分は近くの椅子を持ってきて、レンカの眠る横に座る。
(恐らく救援は出ている筈。それまで私達は生き残れば良い。けど・・神機は空木さんの折れた1本のみ、か)
これからの事を考えていたアリサは、ふとレンカの寝顔に目がいった。穏やかに寝息を立てるそれは、何故か妙に幼く見えた。
(こうして見てみると、まるで子供みたい)
そして、失礼にも無防備な寝顔をまじまじと眺めてた自分に気付き、無心に首を振る。
(ないないない!私はこういう熱血漢な人苦手だし、ちょっと顔が可愛いなと思っただけ・・、だから違うし!)
そんな自分と奮闘していた時、
「・・んっ」
「きゃあぁぁぁ!!」
レンカが目を覚ましたので両手を上げて叫んでしまった。
「はっ!すまん!寝ていたのか!荒神か⁉︎」
「ち、ちち、ちちち違います!何でも、何でもないです!!」
「そ、そうか」
アリサの異常な挙動に、レンカは返事を返した後、自分の腹に違和感を感じ、シャツを開く。
「いやぁぁぁ!!!」
「えっ?あ、す、すまない!そんな、つもりじゃ」
「いえ、いえ・・・・いえ」
後ろを向いたレンカは改めて違和感の正体を見ると、フッと笑みを浮かべてからシャツの前を閉じる。
「アリサ」
「ひゃい!!」
「ありがとう」
「は、え?」
改めて向き直り、レンカはアリサにもわかるように、自分の腹のあたりを指差す。それでアリサも察したのか、少し俯きながら喋り出す。
「あの、一応傷が開かないようにと思って、簡単ですけどそこにあったシーツで・・・」
「あぁ、助かる。ありがとう」
お礼を言われて悪い気はしないが、今はレンカを見るたびに可愛い寝顔や、引き締まった体を思い出すので、アリサは直視出来ないでいた。
「いない、か」
リンドウは河川にそって歩きながら捜していた。時間は刻々と流れ、少しずつ焦りが見えてくる。
(あいつらは賢く真面目だ。必ずセオリーに動くはず。後は例の黒いヴァジュラが出なけりゃ・・・)
そう思い煙草を出そうとした時に、ある変化に気付き空を見上げる。
「ようやくか」
雨の勢いが、ここにきてようやく弱まってきた。
「そろそろ移動しよう。雨脚が弱まってきた」
「そうですね。それで何ですけど、空木さん、私の・・・」
その反応にレンカは頷き、自分の神機を手にする。
「アリサの神機、探さないとな」
「っ!!良いんですか?」
「俺の折れた神機だけじゃ、相手に見つかった時に対抗しきれないだろう。せめてお互い武器を持った状態でじゃないと、あいつからは逃げ切れない・・」
「あいつ、・・・ディアウス・ピター!」
忌々しげにアリサはその名を口にし、拳を握り締めながら部屋の外に出る。レンカも1度部屋を見回してから、アリサの後を追う。
「アリサ、あいつを知ってるんだな」
「・・・・・両親の、仇敵ですから」
その言葉を聞いて、レンカは驚愕する。
「っ!!じゃあ、あいつはロシアから⁉︎」
「・・・おそらくは。他に事例が無い以上、あいつに間違いないです」
厳しい表情のまま、アリサは続ける。
「・・・馬鹿だったんです」
「えっ?」
「忙しい両親を、少し困らせようと・・・、かまって欲しくて、私は隠れん坊をしようとしたんです。瓦礫の中の箪笥に隠れて、もう〜いい〜よ〜って。・・・そしたら」
「アリサ・・」
苦悶を浮かべたアリサを、レンカは悲しげに見つめる。
「・・荒神が出たぞって!その叫びに怖くなって、動けないでいたら、扉の隙間の向こうに、パパと、ママが!でも!」
「もういい!」
レンカの声に、アリサはハッとして顔を向ける。その時に気付いたのだ。レンカが自分と同じく、今にも泣き出しそうな顔をしている事に。それが意味するものは・・・、
(この人も、荒神に・・・家族を・・・)
静寂の中、二人の足音だけが響く。外の雨は、しんしんと、世界に溶け込むように。
「・・・私は、強くなりたい」
「・・あぁ」
それは、傷付いた少女にとってはとても深く、誰にも癒す事の出来ない呪いのようなモノ、だった。が、その時・・。
キィィィィン!!
「え?」
「なっ⁉︎」
二人の手が触れた瞬間、お互いがお互いの記憶の海に放り出されたような・・。
浸透してくる負の記憶に耐えられなくなり、二人同時に飛び退いた。
「・・・今のっ、て」
「アリサ、の・・記憶、なのか?」
二人は触れていた手を眺める。ただ、レンカは似たような現象を知っていた。
「・・・あの時に、似ている」
「え?」
「いや、・・・・アリサ」
レンカは、ゆっくりと立ち上がり、アリサの前まで行き、羽織っていた上着をアリサにかける。
「こ、これは、駄目です!これはあなたの・・」
「寒いだろ?体も、心も」
「・・・へ?」
そう言って顔を上げたレンカの頬に、涙が伝っていた。アリサは震えながら口を手で覆う。突然起きた現象によって、二人は記憶を共有したのだ。お互いがお互いに色々な思いを抱き、お互いの大切なもの、守りたいものが、心の中に重なっていく。
「姉さんは、怒ったりしない」
「・・でも、・・・でも!」
「お前の両親だって、怒ってなんか、ない」
「う、・・くぅ、・・・・ぅああぁぁぁ!!」
子供の様に泣きじゃくるアリサを、レンカは強く抱き締め、泣いた。
雨は優しく、降り続く。
「・・・おい」
「なに?」
現場から100メートル程下った先で、ユウとソーマは捜索を続けていた。流された血のせいか、近辺の荒神が群がって来ているので、それらを狩りながらの捜索となるので、中々効率が上がらない。
そんな中、ソーマが川の一点を指差す。
「・・・あれは!」
川岸に降りて、ソレを近くで確認する。
「アリサの、・・・神機」
「この辺りまで流されたのは、間違いなさそうだな」
「こちら神薙!ツバキさん!」
ソーマが周りに気を向けている間、ユウは本部のツバキへと連絡を取る。
『ユウか?どうした?』
「川の中でアリサの神機を発見!現場から約100メートル下った位置です!周辺に二人の姿は無し!もっと流された可能性もありますが、この近辺を中心に捜してみます!」
『了解だ!アリサの性格上、生きているなら必ず神機を探して動くはずだ!お前達はその周辺を!その先はリンドウに向かわせる!オラクル反応がまた近付いてる!気を抜くなよ!』
「了解!」
無線を切ってから、ユウは改めてソーマに顔を向けるが、ソーマはゆっくり首を横に振る。
「なかなか見つからないね。生存自体は確認できるのに、位置特定が出来ないのは面倒だね」
「近辺の荒神が寄って来ているせいだろう。オラクル反応が頼りのあたり、俺達も荒神とかわらないな」
ソーマが皮肉を吐きながら、下ろしていた神機を担ぐ。
「ユウ、どうせこの近辺の捜索に切り替わったんだろ?『眼』になって、上から確認しろ」
「了解。また荒神が群がって来てるみたいだから、ソーマも気を付けて」
「誰に言ってやがる」
「愚問だったね。じゃあ!」
ユウが走り去った後、ソーマは反対側へと歩き出し、溜息をつく。
「・・・迷子のガキは、嫌いだ」
泣き疲れたのか、二人は壁にもたれ天井をボーッと眺める。外には荒神が蔓延っているのに、この静けさを永遠に感じていたいと、強く願っていた。
「・・・・・荒神」
「え?」
レンカが急に口を開いたので、アリサは隣に顔を向ける。そのレンカは何かに気付いたように、口を半開きにし、その目に希望を持って宿す。
「空木、さん?」
「荒神だ!アリサ!」
「え?えぇ?」
レンカが興奮して自分を見返してきたので、アリサは驚いて少し仰け反る。
「なんなんですか!急に!」
「荒神だよ!ここに来てから1体も遭遇してない!大分時間が経ったのに・・・くそっ!もっと早く気付けば!」
「だから、なんなんですか!荒神と会わないのがなんだって言うんですか!」
一人話を進めるレンカに、アリサは少し剥れて疑問を投げ付ける。そんな、アリサにレンカは希望を口にする。
「こんなに長時間、荒神に遭遇しないということは、捜索に来てるんだよ!仲間が!」
「あ!」
ようやく気付いたのか、アリサの顔にも希望が灯る。
「でも、誰が?」
「この近辺にどれだけの荒神がいるかはわからないが、1体も遭遇しない程殲滅出来るゴッドイーターは・・・」
「・・・そうか、リンドウさん?」
「あぁ!それかユウさんにソーマさん!とにかく仲間がすぐ近くまで来てるんだ!俺達からも動こう!」
そう言って立ち上がったレンカにアリサも続き、二人は勢いよく外へ飛び出した。そこへ・・。
ギャオォォ!!
「なっ!くそっ!」
「オウガテイル!囲まれてたなんて!」
十数体のオウガテイルが、レンカ達のいた建物を取り囲んでいたのだ。神機を持つレンカはソレを構えるが、アリサは神機を持ってない自分の手とオウガテイルを交互に見て、急に足が竦んでその場に座り込む。
「アリサ!どうした!アリサ!」
「・・・ご、めん、なさい。ごめんな、さい!パパ!ママ!やだーー!!」
「そんな・・・、くそっ!」
叱られた子供の様に肩を抱いて震えるアリサを、レンカは護るように背中に隠す。このままでは二人共やられる。
「はあぁ!!」
飛び込んできた1体を横一閃に薙いだレンカだったが・・・。
ガァンッ!!
「な、なんで!!」
いつもなら爽快に斬り裂いていたのに、何故か神機の手応えが全く無い。折れた時の異常かと思い、今度はこちらから斬りかかるが、
ゴゥンッ!!
またも弾かれてしまう。
「そんな、・・・俺の、神機が・・」
絶望に意識を持って行かれそうなレンカの目に、震えるアリサが飛び込んでくる。
(そうだ・・・諦めるな!ここで諦めたら、アリサはどうなる⁉︎)
折れそうな心を持ち直し、神機を構え直す。アリサを護る為に、自分が自分である為に、
「俺は、俺はゴッドイーターだーー!!」
叫び威嚇し、レンカが突っ込もうとした時だった。
「退がれ!空木!」
ギャアァーーン!!!
物凄い音に、思わず目と耳を塞いでいたレンカが、ゆっくり目を開けると、
「ふん・・・、生きてたか」
地上最強のゴッドイーターが立っていた。
「ソーマさん!!」
「うるせぇ」
ソーマはレンカの前に立ち塞がり、オウガテイルの群れをまとめて横薙ぎで払い斬った。
だが、その程度ではまだまだ数は減らせない。そんなもどかしさに、「ちっ」と舌打ちをする。
「ありがとうございます!ソーマさん!」
「礼ならお前らの先輩に言うんだな。あいつがお前らを見つけられなきゃ、ゲームオーバーだったからな」
「先輩・・、ユウさん!」
川を挟んで向こう岸で荒神を食い止めるユウを見て、レンカは喜びを顔に浮かべる。だが、まだ状況はよろしくない。
「お前の神機、使えないのか?」
「・・はい。反応が、なくて」
「そうか」
飛びかかってくるオウガテイルに対応しながら、ソーマは少し考えてから、再びレンカに声をかける。
「なら、そいつを連れて川に降りろ」
「えっ?」
「正面にな。そいつの神機が転がってる」
「っ!!本当ですか?」
「あぁ」
覆す手段を得たと思ったレンカだが、アリサの様子を見て顔を歪める。今のアリサに、神機を握ることが出来るだろうか?
「・・・それが無理なら、リンドウが来るまで粘るしかない。・・・粘れればの話だがな」
「でも、あんた達なら!」
「俺もユウも、偏食因子が切れそうだ。下手をすれば俺達が荒神化して、全員死亡だ」
「そんな・・・」
「どうする?」
だか、そんな絶望的な状況なのに、ソーマの目は一片の諦めも感じられない。その目に応えるように、レンカはグッと腹に力を込めて、アリサを抱き起こす。その行動に満足したのか、ソーマは神機を振りかぶり、オーラを刃へと溜めだした。
「道を拓いてやる。抜かるなよ」
「はい!!」
その返事を待ってから、ソーマは神機を思い切り地面へ叩きつける。
ドーーーンッ!!
激しい爆音が空へ吸い込まれた後、レンカはアリサを抱えて川へと飛び込む。着地と同時にあたりを見回し、目的のモノを見つけそこへと駆け寄る。
アリサの紅の神機は、綺麗そのまま主の帰りを待っていたようだ。
レンカはアリサを神機の側へと座らせ、軽く頬を叩いて呼び起こす。
「アリサ!アリサ!!お前の神機だ!アリサ!!」
「・・・わたし、の、・・・神機?」
「そうだ!ソーマさんとユウさんが危ない!俺の神機も今は使い物にならない!頼む!力を貸してくれ!お前が必要なんだ!」
「わた、し・・・が?」
虚ろな様子でアリサは神機を手に取り、ソレをゆっくり持ち上げる。
「そうだ!荒神を、倒すんだ!」
「・・荒神を、・・・倒す」
「頼む!」
「空木さん、・・・私・・」
アリサの瞳に、光が戻って来たその時、
ギャオォ!!!
「ひっ!!」
「くそっ!」
もう少しで立ち上がりそうだったアリサを、オウガテイルが目の前で威嚇した。そのせいで、アリサは再びへたり込んで神機をガタガタと震わせる。
「だ、だだ、駄目で、す!空木さん!わた、わたわ、私ー!」
「アリサ!!しっかりしろ!!」
「見れないの!怖くて目を開けられない!!」
「くぅ!!」
そんなアリサに苦悶の表情を浮かべたレンカは、目を閉じ、大きく深呼吸をする。そして目の前のオウガテイルを見据え、神機を握るアリサの手に、そっと自分の手を重ねる。
「え?」
「目を閉じたままで良い、アリサ。引鉄だけを引いてくれ。後は俺が目になる」
「でも!!」
「大丈夫だ!」
レンカの叱咤に、アリサは恐る恐る目を向ける。自分に答えを求めているようなアリサに、レンカは力強く応える。
「お前は、強い!!」
「っ!!!・・・・・・・・・・はい!!」
そしてアリサは顔を前に向け、目を閉じる。暗い世界で音だけが情報を伝える。雨の音、遠くの建物が崩れる音、神機が斬り裂く音、荒神の叫び声、そして、・・・背中に感じるレンカの心臓の音。
その無限にも感じられる長い硬直時間を、レンカの声が全てを動かす。
「撃てーー!!!」
「っっ!!!!!」
ドォーンッ!!!
「がっ!!」
「きゃっ!!」
発砲時の反動を忘れていた二人は、すぐ後ろにある岩へと激突した。
それから、頭を振りながら確認すると、オウガテイルは沈黙していた。
「ふぅ。・・・やった」
「あ、・・・あぁ」
目の前の脅威を排除した二人は、戦闘中にも関わらずへたり込んでしまう。そんな二人の前に、近付く三つの影。
「ようー。生きてるかー、お二人さん」
真ん中に立つリンドウが、いつもの調子で声をかける。左に控えるユウは片手を挙げ笑いかけ、右に控えるソーマは相変わらず無愛想に目を閉じる。
「助かった・・・のか」
レンカの問いに、リンドウは加えていた煙草を口から離し、ひと吹きしてから答える。
「あぁ、良くやった」
長かった雨は、ようやく終わりを告げた。
こんな感じで、無事生還!
レンカの神機、どうしてくれよ〜!