GOD EATER 〜神無き世界〜   作:死姫

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20話 雨上がりの空

 

 

もう〜いい〜かい?

 

ま〜だだよ!

 

もう〜いい〜かい?

 

もう〜いい〜よ!

 

『アリサ!どこなの⁉︎アリサ!』

『アリサー!何処にいるんだー!アリサ・・うわぁ!!』

『きゃあぁぁぁ!!』

 

「パパ・・、ママ・・・」

 

「いや、・・・いやいや・・・・ごめんなさい!いやーー!!!」

 

 

 

 

「いやっ!!!」

起き上がったそこは、何処かの部屋の様だった。アリサは自分が寝かされていたベッドを撫で、辺りを見回した。

「起きた、のか?」

「えっ?あ、空木・・・さん」

「あぁ」

部屋の隅の方でレンカは壁にもたれて座っていた。その傍らには、刃が折れた神機が立て掛けてある。

「・・・私、気絶してたんですか?」

「あぁ、あの場所から流されてこんな所にな。無線も水でやられて、連絡が取れない。今のところ、手詰まりだ」

レンカの言葉に、アリサは気落ちする。頭に血が上ってピターに食ってかかったせいで、レンカを巻き込みこんな結果に。

(あの時と、初任務の時と同じ。あの時ちゃんと学んだ筈なのに!)

悔やんでいる中、はっ、となり、アリサは自分の周りを見回し、ある事に気付く。

「私の神機は⁉︎」

「すまない、流れ着いた場所には、落ちて・・・なか、った」

その言葉終わりに、レンカはその場に倒れた。

「え?空木さん?」

アリサは慌てて駆け寄ると、レンカの座っていた場所に血溜まりが出来ているのを、近寄って初めて気付いた。

「そんな!こんな体なのに、私を抱えて・・!」

アリサは焦りながらもレンカを抱き起こし、ベッドに寝かせ血が流れたであろう腹の傷を見る。

体内の偏食因子のおかげか、傷は塞がってはいる。しかし血を流し過ぎたのか、今は静かに寝息を立て休んでいるようだ。

「良かった。生きてる」

アリサはホッと胸を撫で下ろし、再び傷口が開かぬよう、隣のベッドのシーツを割き、寝ているレンカの腹に少しキツめに巻き付けた。

それから衣服を直し、自分は近くの椅子を持ってきて、レンカの眠る横に座る。

(恐らく救援は出ている筈。それまで私達は生き残れば良い。けど・・神機は空木さんの折れた1本のみ、か)

これからの事を考えていたアリサは、ふとレンカの寝顔に目がいった。穏やかに寝息を立てるそれは、何故か妙に幼く見えた。

(こうして見てみると、まるで子供みたい)

そして、失礼にも無防備な寝顔をまじまじと眺めてた自分に気付き、無心に首を振る。

(ないないない!私はこういう熱血漢な人苦手だし、ちょっと顔が可愛いなと思っただけ・・、だから違うし!)

そんな自分と奮闘していた時、

「・・んっ」

「きゃあぁぁぁ!!」

レンカが目を覚ましたので両手を上げて叫んでしまった。

「はっ!すまん!寝ていたのか!荒神か⁉︎」

「ち、ちち、ちちち違います!何でも、何でもないです!!」

「そ、そうか」

アリサの異常な挙動に、レンカは返事を返した後、自分の腹に違和感を感じ、シャツを開く。

「いやぁぁぁ!!!」

「えっ?あ、す、すまない!そんな、つもりじゃ」

「いえ、いえ・・・・いえ」

後ろを向いたレンカは改めて違和感の正体を見ると、フッと笑みを浮かべてからシャツの前を閉じる。

「アリサ」

「ひゃい!!」

「ありがとう」

「は、え?」

改めて向き直り、レンカはアリサにもわかるように、自分の腹のあたりを指差す。それでアリサも察したのか、少し俯きながら喋り出す。

「あの、一応傷が開かないようにと思って、簡単ですけどそこにあったシーツで・・・」

「あぁ、助かる。ありがとう」

お礼を言われて悪い気はしないが、今はレンカを見るたびに可愛い寝顔や、引き締まった体を思い出すので、アリサは直視出来ないでいた。

 

「いない、か」

リンドウは河川にそって歩きながら捜していた。時間は刻々と流れ、少しずつ焦りが見えてくる。

(あいつらは賢く真面目だ。必ずセオリーに動くはず。後は例の黒いヴァジュラが出なけりゃ・・・)

そう思い煙草を出そうとした時に、ある変化に気付き空を見上げる。

「ようやくか」

雨の勢いが、ここにきてようやく弱まってきた。

 

 

「そろそろ移動しよう。雨脚が弱まってきた」

「そうですね。それで何ですけど、空木さん、私の・・・」

その反応にレンカは頷き、自分の神機を手にする。

「アリサの神機、探さないとな」

「っ!!良いんですか?」

「俺の折れた神機だけじゃ、相手に見つかった時に対抗しきれないだろう。せめてお互い武器を持った状態でじゃないと、あいつからは逃げ切れない・・」

「あいつ、・・・ディアウス・ピター!」

忌々しげにアリサはその名を口にし、拳を握り締めながら部屋の外に出る。レンカも1度部屋を見回してから、アリサの後を追う。

「アリサ、あいつを知ってるんだな」

「・・・・・両親の、仇敵ですから」

その言葉を聞いて、レンカは驚愕する。

「っ!!じゃあ、あいつはロシアから⁉︎」

「・・・おそらくは。他に事例が無い以上、あいつに間違いないです」

厳しい表情のまま、アリサは続ける。

「・・・馬鹿だったんです」

「えっ?」

「忙しい両親を、少し困らせようと・・・、かまって欲しくて、私は隠れん坊をしようとしたんです。瓦礫の中の箪笥に隠れて、もう〜いい〜よ〜って。・・・そしたら」

「アリサ・・」

苦悶を浮かべたアリサを、レンカは悲しげに見つめる。

「・・荒神が出たぞって!その叫びに怖くなって、動けないでいたら、扉の隙間の向こうに、パパと、ママが!でも!」

「もういい!」

レンカの声に、アリサはハッとして顔を向ける。その時に気付いたのだ。レンカが自分と同じく、今にも泣き出しそうな顔をしている事に。それが意味するものは・・・、

(この人も、荒神に・・・家族を・・・)

 

静寂の中、二人の足音だけが響く。外の雨は、しんしんと、世界に溶け込むように。

「・・・私は、強くなりたい」

「・・あぁ」

それは、傷付いた少女にとってはとても深く、誰にも癒す事の出来ない呪いのようなモノ、だった。が、その時・・。

 

キィィィィン!!

 

「え?」

「なっ⁉︎」

二人の手が触れた瞬間、お互いがお互いの記憶の海に放り出されたような・・。

浸透してくる負の記憶に耐えられなくなり、二人同時に飛び退いた。

「・・・今のっ、て」

「アリサ、の・・記憶、なのか?」

二人は触れていた手を眺める。ただ、レンカは似たような現象を知っていた。

「・・・あの時に、似ている」

「え?」

「いや、・・・・アリサ」

レンカは、ゆっくりと立ち上がり、アリサの前まで行き、羽織っていた上着をアリサにかける。

「こ、これは、駄目です!これはあなたの・・」

「寒いだろ?体も、心も」

「・・・へ?」

そう言って顔を上げたレンカの頬に、涙が伝っていた。アリサは震えながら口を手で覆う。突然起きた現象によって、二人は記憶を共有したのだ。お互いがお互いに色々な思いを抱き、お互いの大切なもの、守りたいものが、心の中に重なっていく。

「姉さんは、怒ったりしない」

「・・でも、・・・でも!」

「お前の両親だって、怒ってなんか、ない」

「う、・・くぅ、・・・・ぅああぁぁぁ!!」

子供の様に泣きじゃくるアリサを、レンカは強く抱き締め、泣いた。

雨は優しく、降り続く。

 

 

「・・・おい」

「なに?」

現場から100メートル程下った先で、ユウとソーマは捜索を続けていた。流された血のせいか、近辺の荒神が群がって来ているので、それらを狩りながらの捜索となるので、中々効率が上がらない。

そんな中、ソーマが川の一点を指差す。

「・・・あれは!」

川岸に降りて、ソレを近くで確認する。

「アリサの、・・・神機」

「この辺りまで流されたのは、間違いなさそうだな」

「こちら神薙!ツバキさん!」

ソーマが周りに気を向けている間、ユウは本部のツバキへと連絡を取る。

『ユウか?どうした?』

「川の中でアリサの神機を発見!現場から約100メートル下った位置です!周辺に二人の姿は無し!もっと流された可能性もありますが、この近辺を中心に捜してみます!」

『了解だ!アリサの性格上、生きているなら必ず神機を探して動くはずだ!お前達はその周辺を!その先はリンドウに向かわせる!オラクル反応がまた近付いてる!気を抜くなよ!』

「了解!」

無線を切ってから、ユウは改めてソーマに顔を向けるが、ソーマはゆっくり首を横に振る。

「なかなか見つからないね。生存自体は確認できるのに、位置特定が出来ないのは面倒だね」

「近辺の荒神が寄って来ているせいだろう。オラクル反応が頼りのあたり、俺達も荒神とかわらないな」

ソーマが皮肉を吐きながら、下ろしていた神機を担ぐ。

「ユウ、どうせこの近辺の捜索に切り替わったんだろ?『眼』になって、上から確認しろ」

「了解。また荒神が群がって来てるみたいだから、ソーマも気を付けて」

「誰に言ってやがる」

「愚問だったね。じゃあ!」

ユウが走り去った後、ソーマは反対側へと歩き出し、溜息をつく。

「・・・迷子のガキは、嫌いだ」

 

 

泣き疲れたのか、二人は壁にもたれ天井をボーッと眺める。外には荒神が蔓延っているのに、この静けさを永遠に感じていたいと、強く願っていた。

「・・・・・荒神」

「え?」

レンカが急に口を開いたので、アリサは隣に顔を向ける。そのレンカは何かに気付いたように、口を半開きにし、その目に希望を持って宿す。

「空木、さん?」

「荒神だ!アリサ!」

「え?えぇ?」

レンカが興奮して自分を見返してきたので、アリサは驚いて少し仰け反る。

「なんなんですか!急に!」

「荒神だよ!ここに来てから1体も遭遇してない!大分時間が経ったのに・・・くそっ!もっと早く気付けば!」

「だから、なんなんですか!荒神と会わないのがなんだって言うんですか!」

一人話を進めるレンカに、アリサは少し剥れて疑問を投げ付ける。そんな、アリサにレンカは希望を口にする。

「こんなに長時間、荒神に遭遇しないということは、捜索に来てるんだよ!仲間が!」

「あ!」

ようやく気付いたのか、アリサの顔にも希望が灯る。

「でも、誰が?」

「この近辺にどれだけの荒神がいるかはわからないが、1体も遭遇しない程殲滅出来るゴッドイーターは・・・」

「・・・そうか、リンドウさん?」

「あぁ!それかユウさんにソーマさん!とにかく仲間がすぐ近くまで来てるんだ!俺達からも動こう!」

そう言って立ち上がったレンカにアリサも続き、二人は勢いよく外へ飛び出した。そこへ・・。

 

ギャオォォ!!

 

「なっ!くそっ!」

「オウガテイル!囲まれてたなんて!」

十数体のオウガテイルが、レンカ達のいた建物を取り囲んでいたのだ。神機を持つレンカはソレを構えるが、アリサは神機を持ってない自分の手とオウガテイルを交互に見て、急に足が竦んでその場に座り込む。

「アリサ!どうした!アリサ!」

「・・・ご、めん、なさい。ごめんな、さい!パパ!ママ!やだーー!!」

「そんな・・・、くそっ!」

叱られた子供の様に肩を抱いて震えるアリサを、レンカは護るように背中に隠す。このままでは二人共やられる。

「はあぁ!!」

飛び込んできた1体を横一閃に薙いだレンカだったが・・・。

 

ガァンッ!!

 

「な、なんで!!」

いつもなら爽快に斬り裂いていたのに、何故か神機の手応えが全く無い。折れた時の異常かと思い、今度はこちらから斬りかかるが、

 

ゴゥンッ!!

 

またも弾かれてしまう。

「そんな、・・・俺の、神機が・・」

絶望に意識を持って行かれそうなレンカの目に、震えるアリサが飛び込んでくる。

(そうだ・・・諦めるな!ここで諦めたら、アリサはどうなる⁉︎)

折れそうな心を持ち直し、神機を構え直す。アリサを護る為に、自分が自分である為に、

「俺は、俺はゴッドイーターだーー!!」

叫び威嚇し、レンカが突っ込もうとした時だった。

「退がれ!空木!」

 

ギャアァーーン!!!

 

物凄い音に、思わず目と耳を塞いでいたレンカが、ゆっくり目を開けると、

「ふん・・・、生きてたか」

地上最強のゴッドイーターが立っていた。

「ソーマさん!!」

「うるせぇ」

ソーマはレンカの前に立ち塞がり、オウガテイルの群れをまとめて横薙ぎで払い斬った。

だが、その程度ではまだまだ数は減らせない。そんなもどかしさに、「ちっ」と舌打ちをする。

「ありがとうございます!ソーマさん!」

「礼ならお前らの先輩に言うんだな。あいつがお前らを見つけられなきゃ、ゲームオーバーだったからな」

「先輩・・、ユウさん!」

川を挟んで向こう岸で荒神を食い止めるユウを見て、レンカは喜びを顔に浮かべる。だが、まだ状況はよろしくない。

「お前の神機、使えないのか?」

「・・はい。反応が、なくて」

「そうか」

飛びかかってくるオウガテイルに対応しながら、ソーマは少し考えてから、再びレンカに声をかける。

「なら、そいつを連れて川に降りろ」

「えっ?」

「正面にな。そいつの神機が転がってる」

「っ!!本当ですか?」

「あぁ」

覆す手段を得たと思ったレンカだが、アリサの様子を見て顔を歪める。今のアリサに、神機を握ることが出来るだろうか?

「・・・それが無理なら、リンドウが来るまで粘るしかない。・・・粘れればの話だがな」

「でも、あんた達なら!」

「俺もユウも、偏食因子が切れそうだ。下手をすれば俺達が荒神化して、全員死亡だ」

「そんな・・・」

「どうする?」

だか、そんな絶望的な状況なのに、ソーマの目は一片の諦めも感じられない。その目に応えるように、レンカはグッと腹に力を込めて、アリサを抱き起こす。その行動に満足したのか、ソーマは神機を振りかぶり、オーラを刃へと溜めだした。

「道を拓いてやる。抜かるなよ」

「はい!!」

その返事を待ってから、ソーマは神機を思い切り地面へ叩きつける。

 

ドーーーンッ!!

 

激しい爆音が空へ吸い込まれた後、レンカはアリサを抱えて川へと飛び込む。着地と同時にあたりを見回し、目的のモノを見つけそこへと駆け寄る。

アリサの紅の神機は、綺麗そのまま主の帰りを待っていたようだ。

レンカはアリサを神機の側へと座らせ、軽く頬を叩いて呼び起こす。

「アリサ!アリサ!!お前の神機だ!アリサ!!」

「・・・わたし、の、・・・神機?」

「そうだ!ソーマさんとユウさんが危ない!俺の神機も今は使い物にならない!頼む!力を貸してくれ!お前が必要なんだ!」

「わた、し・・・が?」

虚ろな様子でアリサは神機を手に取り、ソレをゆっくり持ち上げる。

「そうだ!荒神を、倒すんだ!」

「・・荒神を、・・・倒す」

「頼む!」

「空木さん、・・・私・・」

アリサの瞳に、光が戻って来たその時、

 

ギャオォ!!!

 

「ひっ!!」

「くそっ!」

もう少しで立ち上がりそうだったアリサを、オウガテイルが目の前で威嚇した。そのせいで、アリサは再びへたり込んで神機をガタガタと震わせる。

「だ、だだ、駄目で、す!空木さん!わた、わたわ、私ー!」

「アリサ!!しっかりしろ!!」

「見れないの!怖くて目を開けられない!!」

「くぅ!!」

そんなアリサに苦悶の表情を浮かべたレンカは、目を閉じ、大きく深呼吸をする。そして目の前のオウガテイルを見据え、神機を握るアリサの手に、そっと自分の手を重ねる。

「え?」

「目を閉じたままで良い、アリサ。引鉄だけを引いてくれ。後は俺が目になる」

「でも!!」

「大丈夫だ!」

レンカの叱咤に、アリサは恐る恐る目を向ける。自分に答えを求めているようなアリサに、レンカは力強く応える。

「お前は、強い!!」

「っ!!!・・・・・・・・・・はい!!」

そしてアリサは顔を前に向け、目を閉じる。暗い世界で音だけが情報を伝える。雨の音、遠くの建物が崩れる音、神機が斬り裂く音、荒神の叫び声、そして、・・・背中に感じるレンカの心臓の音。

その無限にも感じられる長い硬直時間を、レンカの声が全てを動かす。

「撃てーー!!!」

「っっ!!!!!」

 

ドォーンッ!!!

 

「がっ!!」

「きゃっ!!」

発砲時の反動を忘れていた二人は、すぐ後ろにある岩へと激突した。

それから、頭を振りながら確認すると、オウガテイルは沈黙していた。

「ふぅ。・・・やった」

「あ、・・・あぁ」

目の前の脅威を排除した二人は、戦闘中にも関わらずへたり込んでしまう。そんな二人の前に、近付く三つの影。

「ようー。生きてるかー、お二人さん」

真ん中に立つリンドウが、いつもの調子で声をかける。左に控えるユウは片手を挙げ笑いかけ、右に控えるソーマは相変わらず無愛想に目を閉じる。

「助かった・・・のか」

レンカの問いに、リンドウは加えていた煙草を口から離し、ひと吹きしてから答える。

「あぁ、良くやった」

 

長かった雨は、ようやく終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 




こんな感じで、無事生還!

レンカの神機、どうしてくれよ〜!
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