『多数のオラクル反応確認!防衛班は装甲壁前にて迎えうって下さい!』
「了解!こいつら殲滅したら、ヒバリちゃん!俺と今夜ディナーでも・・」
『タツミさん!ふざけないでください!』
ブツッ!
「うわっ!」
ヒバリが勢いよく無線を切った為、タツミは思わずインカムを耳から外す。そんな様子を呆れたように、防衛班の面子は見ている。
「もう!タツミさんは!お仕事中なのにヒバリさんをからかって!」
「いやいや!どこがからかってんのよ!俺のヒバリちゃんへの想いは、何時でも本気なんだぜ!」
カノンの文句に心底胸を張って応えるタツミに、ジーナ・ディキンソンはクスクス笑いながら目を細める。
「タツミにとっての『真面目』って、どういう構造してるのかしら?いつか脳味噌撃ち抜いて見てみたいわね」
「それ、脳味噌こじ開けてとかってやつだろ?笑えねぇな」
特に興味なさげにもきちんと答える金の亡者、カレル・シュナイダー。眠たげな彼の目には、迫り来る標的しか入っていない。
「もう諦めちまえば?お前、マジで芽がねぇよ!」
「シュン!テメェなー!」
「落ち着け、お前達」
舌を出してタツミをからかう小川シュンに食ってかかろうとするタツミを、ブレンダンが諌める。
防衛班もまた、こんな感じで平常運転である。
「ねぇ、タツミ。最近やたらとヒバリちゃんに媚びるじゃない?何かあったの?明日死ぬの?」
「なんでだよ!・・・別に、いつも通りだろ?」
タツミは鼻の頭をかきながら、言葉を濁す。そんな表情を、ジーナは探るように眺める。しかし探るまでもなく、タツミは喋り出す。
「例の・・・ディアウス・ピターだっけか?そいつと第一部隊が遭遇して、レンカとアリサが行方不明になったやつ。結果的には、レンカ達の救出は成功。うちから死人は出てないんだけどさ・・」
「・・・そうね。第一部隊が手も足も出ないなんて、ちょっと厄介よね」
「へっ!俺がちょっとばかし本気出せば、そんなやつイチコロだぜ!」
シュンの軽口が気に食わなかったのか、ジーナはキッと睨みつける。
「黙ってなさい、このお馬鹿」
「な!なんだよ馬鹿ってー⁉︎」
「お前だろ?」
「あーーん!!カレル!てめぇ、あーーん!!」
「あぁ、うるせぇうるせぇ!ちょっと話をさせろよ!」
第三部隊が揉め出したのを、声をあげて遮るタツミは、静かになったのを期に話を再開する。
「つまりな、その事件で全滅しかかったのは自分の対応不足だって、ヒバリちゃん落ち込んでてさ、俺なりに元気付けようと思って、なんかー、・・・いつも以上に、な」
「成る程〜!タツミさんなりの優しさだったんですね〜!」
カノンが手を合わせて褒めてくるので、照れくさくなったのか、タツミはそっぽを向いて誤魔化す。
「・・・笑うなよ」
「誰も笑ったりはしないさ」
「俺は笑う!!ははははっ!」
ブレンダンの受け答えに間髪いれず、シュンが言った通りに笑い出すものだから、タツミは照れた時より更に顔を赤くして怒り出す。
「シュン!!てめぇ、いい加減にしろよ!!」
「はいはい、楽しいお話はここまで」
掴みかかろうとするタツミの前に、ジーナは手を叩きながら出てきて、外の世界に指を指す。
「ほら、お仕事の時間よ。タツミ、よろしく」
「わかったよ!」
捲し立てていたタツミも、咳払いをしてから、標的に集中する。
「防衛班!荒神を倒せ!!」
《了解!!》
「はぁ」
回線ボタンを叩き押してから、ヒバリは溜息を吐く。そこへツバキが、やってくる。
「どうした?またタツミか?」
「あ、いえ。・・・はい」
少し落ち込むヒバリに、ツバキはフッと笑って肩に手を置く。
「あいつはお前が心配なだけだ。ここ最近、お前は溜息が多いしな。あいつも馬鹿なりに気を使っているのだろう。お前も・・わかっているのだろう?」
その言葉にヒバリは、大きな目に涙をためる。
「わかっているんです。・・・・タツミさんが気を使ってくれていることも。でも、やっぱり私は、あの時の事が忘れられなくて!怖くて!」
「いいんだ。それで、良い」
そんなヒバリを仕事中にも関わらず、ツバキは優しく抱き締める。その行為に、優しさに、ヒバリは我慢していた涙を一気に解放する。
「ツバキさん!私は!っっ・・わた、しは・・!!」
「いいんだ。泣いても良いんだ。それを糧に、また笑ってくれれば。お前なら次は上手くやれる。だから、その涙は、良いんだ」
「う、うう、うぁぁぁっ!!!」
ヒバリを優しく抱きながら、ツバキは願う。こんな世界に、平和な日々を・・・、優しいこの子達に、幸せを・・・と。
暗い部屋で、サクヤはベッドに身を投げ目を閉じる。
あの日、不確定要素が出た時点で無理矢理にでも撤退すべきだった。そもそもに、あの任務を了承しなければ。
私が上手く立ち回れれば。
色んな想いが、頭の中を埋め尽くす。体を捻りうつ伏せになってから、サクヤは嫌な事を忘れようと枕に顔を埋める。
「よう、起きてるか?」
「・・・・リンドウ?」
「おう。今日は非番だ」
そう言ってリンドウは部屋の明かりを付け、我が部屋のごとく冷蔵庫の前にいき、配給ビールを取り出し開ける。
「ちょっと、一言断りなさいよ」
「ん?あぁ、すまんすまん。2本目からは断るようにするわ」
「・・・もう」
そう文句を言ってからサクヤも冷蔵庫を開け、配給ビールを取り出し、一気に流し込む。
「良い飲みっぷりだな。っと、ツマミあるか?」
「あなた!私の部屋を居酒屋かなんかと勘違いしてない?」
「あぁ、昔はあったみたいだな〜。あったら毎日入り浸りだな〜、俺は」
「あのねー!」
叱言を続けようとしたサクヤを、リンドウは急に手を取って見つめた。その行為に、サクヤは驚きそして目を逸らす。
「・・・辛いか?」
「えっ?」
その言葉にもう一度、リンドウに目を向けたサクヤは、涙が頬を伝うのを感じた。
「・・・・辛いんなら、言ってくれて、良いぞ?」
「あ・・・っっ!!うぅっ!!!」
サクヤは持っていたビールを床に落とし、リンドウの胸に飛び込み、声を殺して泣いた。
リンドウはただ、優しく背中をさすり、抱き締めた。
落ち着いたサクヤをソファーに座らせ、リンドウは2本目のビールを飲む。暫くして、いじけたように指遊びをしていたサクヤが、何の気なしに口を開く。
「私・・・、隊長の任から、降りようかな」
「部下が死にかけたからか?」
その言葉に、サクヤは目を伏せる。
「部下の死、仲間の死、家族の死。こんな世界じゃ誰もが経験してる事だと思うがな」
「私だってわかってる!経験もした。この極東の、私の同期なんて、今じゃ私しかいない!逃げちゃ駄目なのはわかってる!でも、私の判断一つで!あの子達が死ぬのは嫌なの!」
「・・・・」
想いを叫ぶサクヤの言葉を、リンドウは黙って聞き耳をたてる。
「・・失いたくないの。嫌なの・・・あの子達も、・・・あなたも、失いたくないの」
「・・・・仲間を頼れ」
「・・・・えっ?」
リンドウの返しに顔を上げたサクヤは、微笑むリンドウに魅入ってしまった。
「隊長だからって、全部背負う事はない。ちょっとずつ、背負って貰えば良いじゃねぇか。何しろ今の第一部隊は大所帯!え〜っと、何人だ?確かー、七人だよな?あいつらがお前の負担を肩代わりするのを、嫌がると思うか?」
「それは、・・・でも」
またも俯くサクヤの隣に移動し、リンドウは肩をそっと抱き寄せる。
「大丈夫だ。お前には、あいつらがいる。姉上がいる。極東のみんながいる。それに、・・・一応、俺もな」
「・・・そこは、一応を付けないで欲しいんだけど」
サクヤの抗議に、いつも通り頭をかくリンドウ。そんな仕草に、サクヤはやっと笑顔になる。それを満足気に眺めてから、リンドウはポケットの煙草を取り出すが、それをサクヤに没収される。
「今日は、吸わないで!」
「んぁ?いや、いつもは・・」
「今日は、煙草の臭いは、いや」
その台詞に、リンドウは苦笑しながら頭をかく。そんなリンドウにクスッと笑み、サクヤはリンドウの肩に頭を預ける。
「今夜は、一緒にいて」
「・・・・了解」
二人はそのまま朝まで共に過ごした。
「・・・あの、今、なんて・・」
驚きの表情を隠せず立ち尽くすレンカ。彼のそんな状況を作り出してしまった榊博士は、その無情な言葉をもう一度口にする。
「君は・・・死ぬ」
聞き違いではなかったその言葉に、レンカはゆっくりと視線を下に移し、偏食因子によって侵食が進んだ、右腕を見る。
「・・・博士、どういう、事ですか」
その質問に、さしもの榊博士も顔を歪め、覚悟を決めて話始める。
「昨日の検査結果でわかったのだが、君の適合率は・・他のゴッドイーターとは比較にならない程の数値を叩き出してる。そうだね。例を挙げるならソーマ君にユウ君、彼等の数値も異例だったが、君のはその更に上を行く」
「えっ?」
喜ぶ時ではなくとも、最強を謳われる二人よりも適合率が上。だが、そこで疑問なのは、何故自分はということだ。
その答えを、榊博士は眼鏡をクイッと上げて伝える。
「まず彼等の話だが、少しだけ特別でね。ユウ君の場合は仮設の域を出ないが、ソーマ君なら説明出来る。彼は、産まれながらにして、オラクル細胞を持っていたからだよ」
「っ!!ソーマさんが、オラクル細胞を・・」
「彼は妊娠した母胎の子宮の中で、オラクル細胞との結合を図られた。故ば荒神と人間のハーフに近いと言ってもいい。そんな彼だからこその適合率の維持と言える」
「そん、な、・・・事が」
レンカの悲しそうな顔に、博士は笑顔で応える。
「心配はいらないよ。昔の彼は・・・まぁ出生の事があって色々と嫌なおもいをして来て捻くれていたが、ユウ君が来てからの彼はかなり丸くなったよ。昔は笑うことなんてまず無かったような子だったからね。君も、彼の過去に捉われず、仲良くしてくれると、私としても嬉しいね」
「あ、はい」
その答えに満足の意を示してから、榊博士は話を再開する。
「話を戻そう。今までにも、君程では無くとも適合率が高いゴッドイーターは何人か生まれた。がしかし、過剰な適合率がその肉体を侵食し、耐えられなくなったその身は崩壊の一途を辿る」
「それは、俺も荒神に、なるってことですか?」
「それはわからない。ある者は荒神化し、ゴッドイーターによって排除され、ある者は肉体そのものが崩壊し血溜まりとなった。どちらにしても、人間としてそれは『死』だ」
「・・・・・・」
彼にとっての現実は、あまりにも理不尽で、悲しく定められた未来だった。そんな現実に溺れるレンカに、榊博士は喋りかける。
「君にとって酷な明日である事はわかる。でも、ゴッドイーターとして神機を握らなければ、後3年は生きられる。出来れば私は、そちらをお勧めしたいのだが・・」
「・・・・俺の神機は、直るんですか?」
その質問には答えを返したくない博士は、目を逸らそうとするが、さっきまで絶望していた彼の目に、再び強い光が宿っているのを確かめると、真っ直ぐレンカを見据え答える。
「結論から言おう。君の異常なまでに高い適合率に合わせるだけなので、直せる。君の適合神機も、かろうじて反応を確認してるしね。だが・・」
「直して下さい」
「・・・レンカ君」
レンカの決意は固く、後には退かぬ強さを身体中から発した。
「俺の、長らえた命、使い切るなら今です。家族が繋ぎ、生かしてくれたこの体、命を・・・、今度は俺が繋げたい!」
「・・・・・」
榊博士は黙って天井を仰ぎ、相手に敬意を込めて答えた。
「わかった。修復しよう。ただし、これだけは覚えておいてくれたまえ。決して命を無駄にはしないでほしい。これが、私からの条件と思ってくれても良い。約束してくれるね?」
「はい!!」
レンカは自分の右腕の痣を、左手で撫でながら、自分の命を繋ぐべき希望を思った。
(・・・・アリサ)