「大車先生が⁉︎」
現場に走りながら、ツバキから聞いた情報をサクヤは話していた。その中で今回の主謀者の名前を切り出すと、アリサは驚きの表情を浮かべる。
「そうよ。今回の作戦、外からの介入があったそうなの。それでどうして、その大車大吾を主謀者としたかまでは聞いてないけど、ツバキさんの言葉が真実なら、まず間違いは無いわ」
「そんな・・・、あんなに、良くしてくれたのに・・どうして」
世話になっていた身である故に、信じられないといった感じのアリサ。それを気にせず、「ふん」と言いながらソーマはサクヤに話しかける。
「それで?その大車とかいう野郎の目的は?俺達の作戦の邪魔するのに、そいつにメリットでもあるのか?」
その質問に、サクヤは首を振る。
「・・・わからないわ。こんな事して、誰が得をするのかまでは。その大車って人も・・・」
「何かー、難しいっすね。で、要するに、今から向かった先で誘導装置を破壊すれば、荒神が退散していって、おれらは帰れるんっすよね?」
「・・・そういう事だな」
コウタが要点だけをまとめて喋ったので、サクヤもこれ以上話す事は無いと思い口を閉じようとしたが、落ち込んだアリサを見て、閉じかけた口を開く。
「アリサ、思うところはあると思うけど、今は任務に集中して。みんな無事に生きて帰る事だけを考えて」
「・・サクヤさん」
「余計な事を考えれば死ぬわよ!それは、絶対に許さないわ!」
「・・・はい、・・・はい!そうですね!」
覇気の戻ったアリサの顔を見て、サクヤは優しく微笑む。
「私達第一部隊は家族の様なものよ。支え合って生きましょう?誰一人欠ける事なくね」
「はい!」
そう言ったアリサの顔に、もう迷いはなかった。それを確認してから、サクヤは気持ちを前に向けた。
ユウは神機を1度強く振り下ろし、ピターに意識を集中する。そのまま、ピターへと突撃しようとした時、
グアォォォォッ!!!
1度叫んでから、ピターは山の中に飛び込んで行った。
拍子抜けしたユウは、リンドウに振り返る。
「なんか、逃げちゃいましたけど?」
「お前の顔が、おっかなかったんじゃねぇか?」
「失礼な」とリンドウを引っ張り起こすと、そこへレンカが駆けてくる。
「ユウさん、助かりました」
「そうかな?じゃあ、貸しにしとこうか?」
「いや、それは・・・。それより、リンドウ!」
「あぁ、わかってる。あの野郎、まさかとは思うが・・・」
二人の話についていけないユウは、首を傾げる。それに気付いたリンドウが、神機を担いでから口を開く。
「走りながら話す。こいつらも、しばらくは動けない様だし、面倒になる前にあいつを追うぞ!」
「わかった!」
「わかりました!」
閃光弾に倒れたヴァジュラの群れを放置し、三人はピターを追って山道を走る。
「そういう事ですか。ここに街が・・」
「だから、街って程じゃないんだが・・・、まぁ、いいか」
追跡中、リンドウに事情を聞いて、ユウは一人納得する。
「だがさっきも言ったが、こんな所じゃ荒神にすぐ壊滅させられるんじゃ・・」
「あぁ、それはな・・・止まれ」
リンドウが両手を広げ行き道を塞いだので、ユウとレンカは足をとめる。そしてリンドウは手頃な石を拾い、木に向かって投げ付ける。すると、
ズガガッ!!
石が幹に当たる前に刺し砕かれた。木から伸びた触手の様なものに。
「なんだ・・、今の・・」
「これは・・・」
思わず手を伸ばして触ろうとするレンカの手を、リンドウが掴む。
「こいつに触るな。火傷じゃすまねぇぞ〜」
「あ、あぁ。だが、こいつは・・」
「荒神・・ですか?」
ユウの言葉に、レンカは驚きの表情を見せ、リンドウはフッと笑みを浮かべる。
「流石理解が早いな、ユウは」
そう言ってリンドウは煙草に火をつけ、ひと吹きしてから答えを明かす。
「こいつはな、オラクル細胞と結合した植物。簡単に言えば、木の荒神だな」
「なっ!木の荒神って、・・そんなモノをなんで!」
「それはな、こいつがお前さんの言ってた疑問の答えだからだ」
「どういうことだ」
荒神という名に過剰に反応するレンカと違い、ユウは木を物珍しそうに観察する。そして、リンドウに話しかける。
「リンドウさん、これもしかして、偏食因子投与してます?」
「なっ!何言ってるんですかユウさん!偏食因子って・・」
「だってレンカの疑問の答えなんでしょ?つまり、これが街を荒神から護ってるんじゃないかなーって、考えて」
「・・・そう、なのか?」
ユウの推測に満足したのか、手を叩きながらリンドウが答える。
「ご明察♪ユウ、お前さん賢すぎだ。おじさんが自慢気に答え合わせしたかったのを」
「あ、何かすいません」
言葉とは反対に、特に不満な顔をせずリンドウは話し出す。
「そうだ。ちょっとした任務の帰りにこいつを見つけたから、俺はここに暮らせる施設を作ろうと思った。こいつはな、自分を傷付けようとする者には容赦なく牙を剥く。それは要するに俺達の捕食と似た様なもんじゃないかって考えてな。上手く利用すりゃ荒神を捕食する〜何だ?まぁ、良いか。とにかく、こいつを利用しようと思い、榊博士に相談して、裏で色々ちょこちょこやって、出来上がったのがこいつって訳だ!」
「・・・途中から、よくわからなくなったんだが」
レンカが呆れると、リンドウは苦い顔をして片手を上げて横に振る。
「良いんだよ〜、出来上がってんだから。まぁ、そんな訳でこいつのおかげだから、こいつに触るな。簡単だろ?」
そんな発言にレンカは溜息を吐き、ユウは吹き出す。
「だが、偏食因子はどうやって・・」
「それは、榊博士に裏から・・・お話は終わりだ」
「・・・やっとですか」
リンドウに合わせて、ユウとレンカもその視線の先を睨む。小高い崖の上で、ディアウス・ピターが笑みを浮かべる。
「あいつ、笑ってんのか?」
「そうですね」
「・・・くそっ!」
神機を構え、リンドウは指示を出す。
「レンカの大砲は強力だが、当たらなきゃ意味がない。なんで、バックアップはユウに任せる。足を止めてくれるだけで良い。後は俺とレンカでぶった斬る」
「了解」
「了解!」
リンドウが煙草を投げ捨ててから、合図を出す。
「いくぞ!」
リンドウとレンカがピターに突進かけると、向こうも崖を器用に降りてくる。その飛んでるタイミングを逃さずに、ユウが銃形態で足を狙う。それを交わそうと飛び上がったところに、リンドウが斬りかかる。
「今度は、外さねぇ!!」
ザシュッ!
確実に肩に斬りつけ、距離をとる。負けじと突っ込むピターの足下にすかさずユウが撃ち込む。今度は足に着弾し、動きを止めるピターをレンカが後ろ足を斬りつける。
ちょっと苦しいと感じたのか、1度距離を取るピターと三人は睨み合う。
「あいつ、賢いですね!」
「だろ?ちゃんと情報に入れとかないとな!」
「ちゃんと攻撃が届く!いける!」
三人が同じ戦法で攻めこもうとした時、ピターの体が発光しだす。それを見たレンカが二人に叫ぶ。
「やばい!稲妻を!」
「ちっ!退がれ!」
「ふっ!!」
そんな三人をせせら笑い、ピターは体中の雷を一気に解放する。
チュドドドドドドーーーンッ!!
砂埃が立ち込める中に、リンドウは痺れた体を引きずる。
「くそっ!少し触れた!」
「うっ!俺、もだ!」
それに答えるレンカも、ピターとの距離をとろうと這いずる。それに満足したのか、ピターはその場から去ろうとするが・・・。
「待ちなよ」
声に反応してか、殺気でも感じたか、振り返るとそこには、己を斬り裂く刃があった。
ビシュッ!!
ピターの顔に傷を付け、ユウは刃についた体液を払う。
「何を勝った気になってるの?舐めてるの?僕達を」
そう言ったユウの顔は、仲間を傷付けられた怒りからか、笑っていなかった。
「リンドウ!」
倒れているリンドウとレンカの元に、サクヤ達がようやく追いつく。サクヤの手を借りて立ち上がったリンドウは、奮戦するユウとピターを見る。そして痺れの残る震える手で煙草を加え、火をつけ一服する。
「サクヤ、あいつは本当にすげぇな」
「・・えぇ。ユウには初めて会った時から、驚かされてばっかりね」
そんな話をしていた二人の横を素通りし、ソーマは戦いの場へと足を運ぶ。
「手ぇ貸すのか〜、ソーマ」
リンドウの呼びかけに、ソーマは黙って指を指す。
「善戦してるように見えるのか?時間かけたら死ぬぞ」
「ダチは大事だよな?」
「ふん・・・、生きて帰れが命令だ。命令違反は・・・好きじゃねぇ」
そう言ってソーマはユウの元へ走り出す。その言葉の真意を悟っているのか、リンドウはサクヤと笑い合う。そして、レンカもアリサに助け起こされたのを確認してから、全員に聞こえるよう叫ぶ。
「よーし、お前らー!いつもので行くぞ!」
そして煙草を踏み消して、手を前に出し3本指をたてる。
「命令は3つだ!死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ、隙を見つけて・・・、そいつを喰らえーー!!」
《了解!!》
ユウが盾で腕を受けたところを、ソーマが潜り込んで切り上げる。仰け反ったピターに追い打ちでユウも腹を斬りつける。
「・・・浅いか」
「下手くそが」
ユウの隣で背中を合わせてきたソーマが、悪態をつく。それにユウはフッと笑みを浮かべ言葉を交わす。
「待ってたよ、地上最強」
「待たせたな、新型最強」
それから二人同時に地を蹴る。それに合わせて、サクヤが足下に撃ち込み、跳ねたところをコウタが横腹に拡散弾を撃ち込む。体を捻って着地した上に飛んでいたレンカが斬りつけ、地面に叩きつける。そのタイミングにユウとソーマが両側面に神機を斬り抜き、下に潜り込んでいたアリサとリンドウが顎を斬り上げる。
そこまでやられても怯まないピターは体の回りに雷の玉を展開し、そのまま撃ち込んでくる。
全員避けながら距離を取り、攻め込むタイミングを伺う。
ピターも一旦収めていた黒い翼を広げ、相手の出方を見ている。
そこで遠距離から陽動しようと、アリサが銃形態に切り替えた時に、
『・・ザザ・・・ザ・・ザ・・』
無線に雑音が入る。
(何?・・・故障?)
そう思って外そうとした時、声が聞こえた。
『・・アリサ・・・』
「え?・・」
聞き覚えのある声に、アリサは耳に集中する。
『・・・アリサ、聞こえるかい?』
「大車、先生?」
『アリサ・・、おまじない、しようか』
「っ!!」
その瞬間、アリサは何かに囚われたように、目が虚ろになる。
それから銃口をゆっくり持ち上げ、標的に定める。そして・・・。
今回の主謀者と見られる大車大吾を捕らえようと突入したツバキは一足遅く、部屋は既にもぬけの空だった。
しかし、PCは残されていたので、何か証拠となるものはないかと調べさせていた。
(慌てて逃げたのか・・・。情報端末をそのまま残して。それとも、情報を与えても逃げ切る自信でも・・、いや。目的がわからない以上、愉快犯の可能性も・・)
ツバキが相手の心理を模索していると、
「雨宮三佐!これを!」
少し慌てた感じで、警備兵が呼んでくる。
「何かわかったか?」
「とにかく、こちらを!」
言われてPCの画面に目をやると、ビデオ映像にアリサと大車が映っていた。治療時の様子を映しているようで、大車はアリサの耳元で話しかけながら、スライド写真を見せている。
『これが人類の敵、荒神だ』
『・・・荒神』
『お父さんと、お母さんを殺しちゃった、悪い奴だ』
『・・・パパと、ママの、敵』
「催眠療法か。にしても、雑だな。『殺す』などという言葉を軽々しく使うなど」
「とにかく続きを!」
『怖いよね〜。とっても怖い。だから、いつものおまじないを言ってみよう』
『・・・おまじない』
『そう!それを唱えれば、引鉄をひける。荒神を倒せる』
『・・・はい』
「だから、何だと・・!」
「ここからです!」
離れようとするのを押さえ止める警備兵に、溜息を吐きながら画面に目を戻す。
『・・アジン・・・』
『・・・ドゥヴァ・・』
そして最後の言葉を言う前に見せていたスライド写真によく知った顔が映し出される。それを認識した瞬間ツバキは踵を返し走り出す。
その写真は、弟のリンドウだった。
「リンドウ!!」
「違います!!」
その言葉に踏みとどまり、振り返ったツバキの目に入ったのは、
『『トゥリー』』
支部長は椅子に背を預け、飾られた絵を眺める。
『カルネアデスの船板』
二人の人、2つの命に対して、助かる為の船板は1枚。死に直面した時の人間の究極の選択。その絵に込められた意味を考えながら、支部長は呟く。
「君の性格は・・・理解しているつもりだよ。リンドウ君」
『・・・アジン・・』
「・・ドゥヴァ・・・」
アリサの指が引鉄にかかる。そして、
『「トゥリー」』
ドドドンッ!!
「・・ごふっ・・・え?」
ツバキの目に最後に入った写真は、
アリサのバレットが着弾したのは、
神薙ユウ、だった。
ドサッ!
力無く倒れた者を皆驚愕の目で見る。ソーマも、リンドウも、サクヤも、レンカも、コウタも。そして撃ってしまった、アリサも・・・。
少しだけ、あれーの展開です!