ガランッ!!
アリサの手から神機が転がった瞬間、皆は現実に戻された。
ユウの隣に立っていたソーマが真っ先に叫ぶ。
「おい!しっかりし・・ぐぅっ!!」
駆け寄ろうとしたソーマと一緒に、倒れたユウもピターの尻尾で崖下に吹き飛ばされる。ソーマは何とか着地したが、ユウはそのまま林の中に見えなくなった。その時、リンドウはハッとなり、全員に叫ぶ。
「気を抜くな!!戦闘中だ!!」
その声にサクヤとレンカとコウタは意識をピターに戻した。吹き飛ばされたソーマも、神機を杖に立ち上がる。しかし、アリサは立てないでいた。
「わた、わた、しが、ユウを、ユウ、ユウを」
そんな様子のアリサを見て、サクヤは走り寄りアリサの肩を揺する。
「しっかりしなさい!何があったの!何が!・・・えっ?」
強く揺さぶった為、アリサの耳からインカムが落ちる。そこから聞こえてきたのは、
『アリサ〜、良かったね〜。仇敵をうてたよ。神薙ユウという、荒神を〜』
いやらしく喜ぶ大車の声だった。
「っ!!!このっ!!!」
怒りに任せて、サクヤはインカムを踏み潰す。それからサクヤはアリサを力一杯抱きしめた。
「・・サクヤさん・・・・、私、違うんです」
「・・・そういうことか」
近くで無線の声を聞いていたソーマが、恐ろしい形相で壊れたインカムを睨む。
「ソーマ、あのね・・!」
「わかってる。・・・今の声、例のあの野郎じゃないのか?」
サクヤもハッとして、リンドウに顔を向ける。
「リンドウ!やられたわ!ここまでがあいつのシナリオだったの!」
「あぁ⁉︎どういう・・、くっそ!!レンカ!!」
「わかった!!コウタ!」
「おう!!」
レンカとコウタに一時ピターを任せて、リンドウはサクヤの隣に降り立つ。崖の上で交戦中のレンカとコウタに気を配りながら、リンドウはサクヤに話を続けさせる。
「どういうことだ〜。手短に話せ」
「大車の暴挙の終着点は、ユウを殺すことよ!」
「・・根拠はあるのか?」
「今、アリサのインカムから大車らしき人物の声が聞こえたわ。おそらくアリサを催眠療法とか偽って洗脳みたいな事を・・。アリサの事を利用したんだわ!」
「・・・アリサ、声は大車って奴か?」
「・・・・はい」
サクヤに抱かれ、少しだけ落ち着いたアリサからの返事を聞いて、リンドウは頭をかいてから喋り出す。
「だとしたらだ、こいつをロシアから引っ張てきたのも疑いたくなるな。というか、かなりふざけた事をしてくれたな〜、おい」
口調はいつも通りでも、リンドウの目は笑っていない。そしてユウの落ちた辺りに目をやり、再びピターに戻す。
「戦闘は終わっちゃいない。あの野郎をとっとと片付けて、ユウを手当てしてやんねぇと、流石のあいつも危ない」
「わかってるわ。アリサ行ける?」
サクヤに呼びかけられ、アリサは俯く。無理かもしれないとサクヤが頭を撫でていると、ソーマがアリサの前に立った。
「戦えないなら、ユウを探してこい。そのぐらいは出来るだろ」
「待ってソーマ、もう少し・・」
「そんな時間はねぇ」
そのソーマの言葉に、アリサはゆっくり顔を上げる。神機を担ぎ、ピターを正面に見据えて、ソーマは話を続ける。
「あいつにも、俺たちにも、もう時間も余裕もねぇ。とっとと片をつける為に、早く連れてこい」
「あ、・・・・・その、・・・・・・・・・はい」
長い思慮の末、アリサは頷き神機を持って立ち上がる。サクヤはスカートについた埃を軽く払ってあげてから、肩に手を置く。
「お説教は帰ってから受けてもらうわ。とにかく気をつけて」
「はい!」
「ふん」
強く返事をしたアリサに、リンドウがもう一言かける。
「取り敢えず止血だけはしてくれ。後このあたりの木、絶対触るな。以上だ」
アリサが走り出してから数秒後、サクヤは見送っていた視線を倒すべき悪魔に向ける。
「さて、そろそろあいつら二人じゃキツイか?」
「そうね。加勢に入りましょう」
「・・・ふん」
三人は計ったようなタイミングで同時に走り出し、ピターとの第2ラウンドが始まる。
木々の隙間をぬって、アリサは走り抜ける。林の中に飛ばされた、ユウを探して・・。
(そこまで遠くには、飛ばされてないはず!)
そう思って1度止まり、来た方向とを見比べてから、周りに目を走らせる。後一歩でピターを討ち取ることが出来る。アリサにとっての親の仇敵。それには彼の、ユウの力が必要だ。
(・・・違う。そんなんじゃない!)
そんな打算的な考えを、首を振りながら消そうとするアリサ。そう、そんなのはこじつけだ。
アリサはただ、会って謝りたかったのだ。ユウの優しい笑みで、何時ものように『いいよ』と、言われたかったのだ。
「ユウ!いないんですか?ユウ!!」
必死になってその名を呼んでいた時、木の陰に光る物を見つける。
「あ・・、ユウの神機。じゃあ!!」
近くにいると思い顔を持ち上げたその時、アリサの希望は簡単に打ち砕かれる。
「う、嘘です・・・そんな、」
探していたユウは、見つかった。そびえ立つ木から飛び出した突起に、腹を刺し貫かれて。
「やだ・・・やだやだ、・・ユウ!そんなの!」
『後このあたりの木、絶対触るな』
リンドウの言葉を思い出し、アリサは膝をついて納得する。触ると木が攻撃してくるからだ。
グォォオンッ
「っ!!!」
静けさを破るような唸りに、項垂れた顔をバッと上げたアリサは、奥の山道から登ってくるヴァジュラの群れを見つける。
「何で、このタイミングで・・・っ!誘導装置!」
そう。アリサは思い出す。ここへ来た当初の目的は、誘導装置の破壊と離脱。ピターにばかりかまけていた所為で、肝心な事を忘れていたのだ。
(今ヴァジュラに介入されたら、生き残れない!)
アリサは流れていた涙を拭い、神機を持ち直すと強く踏ん張り立ち上がる。そして、ユウに顔を向けて、薄く微笑み別れを言う。
「ごめんなさい、私行かないと・・。急がないと、みんな死んでしまいます。だから、許して、・・くれますよね?ユウ」
そう言葉にしてしまうと、また彼女の頬を、一筋の涙が伝う。
目を閉じて惜しみ、再び開いたアリサの瞳に、確かな光が宿る。
「後で、必ずみんなで迎えに来ます」
そしてアリサは、来た道を辿るように走り出す。
「リンドウさん!!」
戻って来たアリサは、即座にリンドウに自分の見て来たものを報告する。辛い、現実も・・・。
「どうした〜、迷子のユウは・・」
「ユウは・・、神薙ユウ特務兵は、殉職されました!」
「なっ!!!」
「・・・・うそ」
「ユウさんが・・」
「そんな、・・・ありえねぇよ」
「・・・・・ちっ!」
それぞれの反応に構わず、アリサはさらに報告を続ける。
「皆さん落ち着いて下さい!今、大量のヴァジュラの群れを向こう山道にて確認しました!おそらく誘導装置に惹かれた為と見られます!このままじゃいずれ囲まれ、誰も生き残れません!リンドウさん!!」
心からの叫びに、リンドウは顔を歪める。本当はユウを看取ってしまった、意思に反し撃ってしまった、アリサが1番泣き叫びたいはずなのにと。
(ユウ、・・・前に進むぜ)
そうリンドウは意思を固め、皆に指示を始める。
「サクヤ!皆を連れて誘導装置に迎え!」
「なっ!リンドウ、何言ってるの!」
「時間が無い、急げ!」
「だから、時間って!」
「・・サクヤさん」
リンドウの言いたい事を察したのか、レンカが側によってきて話し出す。
「おそらくあの先には、人が住んでるんだ」
「えっ?」
「リンドウが、フェンリルに入れなかった人達を助けて、それで・・」
「リンドウが・・、どうして」
『言ってくれなかった』という言葉を、サクヤは飲み込んだ。巻き込みたくなかったからだ。
「くっ!」
「わかったらとっとと行け。誘導装置は多分そこにある。住人に俺の名前を出して協力を仰げば、すぐ見つかるはずだ。こいつは、俺が叩く!」
事情を把握しても、リンドウ一人を置いていくのに躊躇う。少しは弱らせたとは言え、ディアウス・ピターは七人掛かりでやっとという相手だ。危険な賭けすぎて、サクヤには選択出来ない。しかし、リンドウは追い込みをかけてくる。
「サクヤ!信じろ!俺の逃げ足の速さは知ってるだろ?ヤバくなったら逃げる!」
「わかってるけど!!」
「サクヤ」
その穏やかなリンドウの顔に、サクヤは目を奪われる。そして、
「守ってくれ・・・頼む」
そうリンドウは言った。
全てを納得した訳では無くとも、リンドウの願いに、サクヤも覚悟を決める。
「第一部隊隊長として、命じます。雨宮リンドウを残し、全員誘導装置へ!ヴァジュラの数が不特定故に、ピター1体に人数は避けません!」
「サクヤさん。・・・でも、リンドウさんを一人には・・俺が残って!」
「駄目よ!」
コウタの言葉に、サクヤは間髪入れずに切り返す。
「一般人がいるとわかっている以上、その命を最優先する。それが兵士よ!私達ゴッドイーターよ!」
「あ・・」
サクヤの言葉に、皆己が人類を守る為のゴッドイーターだと再認識する。そんなサクヤの姿に、リンドウは笑みを浮かべる。
「早期解決すれば、こちらに応援に来れるわ。時間が無いから急ぎましょう!」
「あっ、は、はい!」
サクヤは走り出し、コウタはすぐ後に続く。苦悶の表情を浮かべるレンカを、アリサが促し二人もついて走り出す。しかし、リンドウと一緒にピターに構えを解かないソーマは、動こうとしない。そんな彼に、リンドウは溜息を吐く。
「行けよ、ソーマ」
「断る」
「そう言うなって。サクヤ隊長の指示に従えって」
「何度もいわせるな」
苦笑しながらリンドウは、ソーマの肩に手を置く。
「じゃあ俺からの"命令"だ。あいつらを守ってやってくれ」
「・・・・」
「ソーマ」
「・・・・・・ちっ、勝手なことを」
そう言ってソーマは、神機を肩に担ぎ踵を返す。そして背中越しにリンドウを見ながら、自分の想いも伝える。
「俺に命令を守らせるんだ。お前も守れよ、リンドウ」
「あぁ、任せろ」
そして二人は同時に、お互いの願いを口にした。
「「死ぬなよ」」
全員が走り去ったところで、リンドウは神機を1度振ってから、ピターに向かって話しかける。
「俺達が相談してる間に何もしてこないなんて、随分気前が良いんだな〜。俺に対してサービスのつもりか?」
ただ喉を鳴らしながらこちらを見続けるピターに、リンドウは更に続ける。
「別にソーマを残らせて俺が行っても良かったんだ。お前が殺ってくれたうちのユウはな、あいつにとっての『マブダチ』だからな。正直か〜な〜りキレてて、お前の事を殺したいって内心思ってたんじゃねぇかな〜」
呑気に話しかけて来る相手に、ピターはまだ動かず、ジッとリンドウを見る。攻撃の意思がまだないと判断したリンドウは、煙草に火をつけひと吹きする。
「でもな、俺も俺で、正直ムカついてる。というか、キレてる。いや・・・」
感情が高ぶったのか、持っていた煙草を握り潰す。
「どタマにきてんだよ!おっさん顔!」
そして、リンドウは手に持つ神機を強く握り、ピターへと再び構える。
「俺にとって弟のようなやつだった!家族殺られて、黙ってる人間なんざいねぇんだよ!!」
そう叫んだリンドウの殺気に反応したのか、ピターも吠えながら飛びかかった。
山林を抜けると、急に開けた場所にでる。そこにあったのは・・。
「ダム・・、こんな所に」
人口の巨大貯水池。そのすぐ近くに、収容施設のような建物がいくつも並んでいる。周りには畑もあり、人の生活臭が確かに存在している。
「こんな所に、人が住んでいたなんて・・」
アリサは信じられないといった感じで、辺りを見回す。
そこへ、山道を抜けてきたのか、1体のヴァジュラを確認する。見つけてしまえば後ろから2体3体と、どんどん増えていく。状況を確認した、サクヤは皆に指示を出す。
「ヴァジュラの足止めは私とアリサとレンカで!ソーマとコウタは住民に説明するなりして、誘導装置のありかを探って!」
《了解!!》
それぞれの行動に移ろうとする中、サクヤは思い付いたようにソーマを呼び止める。
「そうだ。・・ソーマ!」
「あぁ?」
相変わらずの無表情のソーマに、サクヤは親指を立てて右手を突き出す。
「遠慮はいらないわ!思いっきりぶっ壊しなさい!」
「・・・いわれるまでもない」
それを満足したのか、サクヤもレンカとアリサに続く。
「リンドウさんの?あんた達がかい?」
住民代表という年配の方に、コウタは身振り手振り一生懸命説明をする。正直、突然きた人間を怪しまない方がおかしい。
「そ〜なんっすよ〜。今荒神が攻めてきてるんで、それを食い止める為に・・・」
「ふざけるな!!」
突然コウタの言葉を遮って、険しい顔をした青年が掴みかかってくる。
「わ、ちょっ!暴力は・・」
「何が暴力だ!俺達を受け入れてくれなかったお前達のやってる事は、暴力じゃないってのか!」
「えっ・・」
青年の言葉に、コウタは驚きの表情を見せる。涙声で青年は、さらに捲したてる。
「長い道のりを、荒神から隠れながら、何とか、生き延びて、、やっと、フェンリルに着いた、のに。追い返されて!」
「・・・・」
「お前達に、俺たちの気持ちが分かるのかよ!!くそー!!」
「・・あの、・・・俺」
「じゃあ、死んでいいんだな?」
「・・・・え?」
ただ黙って聞いていたソーマが、逆に青年に掴みかかった。
「俺達は何もしないで、攻め込んでくる荒神を放って逃げても構わないんだな?」
「なっ、あんた、何言って・・。ひっ!」
胸倉を掴んだまま引きずって行き、ソーマはダムの手前から対岸を指差す。
「わかるか?荒神だ。戦ってるのは俺達の仲間だ。とっとと誘導装置を破壊しないと、俺達も含めて全員死ぬ」
「えっ、・・ちょっ、えっ?」
打って変わっておどおどしだす青年をソーマは離して、今度は出てきている住民全員に向けて話す。
「全員死なない為には、誘導装置を破壊する必要がある。知ってる事はさっさと教えろ。俺達にも時間がねぇんだ」
その言葉に、住民はこうべを垂れて口を閉じてしまう。そんな住民に、「ちっ」と舌打ちをしてから、ソーマは去ろうとする。そんなソーマの目に入ったのは、頭を地面に擦り付けるコウタだった。
「お願いします!なんでもいいから、教えてください!」
「・・・おい」
ソーマが声をかけても頭をあげず、コウタはひたすら懇願する。
「俺、馬鹿だから、今話を聞くまで、なんにも知らなくて。でも、これからはみんなの為に何ができるか考えるよ!俺のできる事はなんだってする!だからお願いします!誘導装置に心当たりあること、教えてください!仲間を、助けたいんだ!」
「・・・・・」
《・・・・・・》
コウタが地面に顔を埋めようかと言うところで、ポンッと肩に手を置かれる。顔をゆっくりと上げると、女の子が座っていた。そして、
「私、多分知ってる」
と答えてくれた。
「どっ、どこに?」
思いが通じたのが嬉しくて、コウタは飛び上がって聞き返す。すると女の子は真っ直ぐ後ろを指差す。
「あの池の中」
それに反応したかのように、ソーマはダムに向かって飛び込む。
「うぇ⁉︎そ、ソーマさん⁉︎」
駆け寄って見下ろすと、波紋が大きく揺れているだけで、ソーマの姿は既に水の中だった。
溜息を吐いて振り返ると、掴みかかって来た青年が、コウタの前にやってくる。少しだけ申し訳なさそうな顔をしてから、手を差し出す。
「・・・さっきは、悪かっ、た」
「・・・あぁ!」
そう固い握手を交わした時、
ボォォォーーーーンッ!!!!
物凄い音と共に、水柱が10メートル近く上がる。それを見て皆黙った中、コウタが振り返る。
「あの人・・・・・・怒らせないで、下さいね?」
《・・・・はい》
水柱が上がるのを確認したのと同時に、目の前のヴァジュラ達は、急に興味を無くしたように山林に戻っていく。
それでようやく任務を達成したとサクヤは、肩の力を少し抜いた。
「これで、後は帰るだけですね」
「そうね。リンドウと・・・ユウと」
「そう、ですね。ユウさんも、一緒に」
少しだけ切ない気持ちになっているところに、
「おーーい!!」
「・・・・・」
ソーマとコウタも合流を果たす。
これで後は、リンドウを迎えに行くだけと、疲れた体に鞭を打ち、サクヤは大きく背伸びをする。
「さぁ、リンドウを迎えに・・」
ドゥォーーンッ!!!
「・・え?」
ヴァジュラが去って行ったであろう山林から黒い物体が飛び出してくる。それを見た誰もが、絶望に背中を撫でられた。
「・・・ディアウス・・、ピター」
「な、なんでここにいんだよ」
アリサとコウタの言葉に答えるように、ピターの肩に赤黒く染まる一本の武器。
「リンドウの・・・神機」
レンカの呟きに似た声に、サクヤは足を震わせて懸命に立ち続ける。
(ない!・・ありえない!・・・リンドウは絶対に・・!)
そう強く心に言い聞かせていると、ピターは口からサクヤに向かって何かを吐き出した。
カランッ
「・・・・・・・へ?」
それは、血に塗れた、
リンドウの腕輪だった。
「いやーーーーーーーっ!!!!」