GOD EATER 〜神無き世界〜   作:死姫

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30話 悲しい結末

 

 

夜が明けた頃に、メテオライト作戦は終了した。

しかし、極東に戻って来た誰もが、たった1つの悲しい報告に打ち拉がれていた。

雨宮リンドウの死を・・・。

 

 

「よう、タツミ」

「・・・ハル」

エントランスに集められたゴッドイーター達は、各班ごとの報告をする為、ここで待機している。

でも、ほとんどの者が報告を終えても、部屋に帰る気にはなれないで、一人になりたくなくて留まっていた。

「取り敢えず〜、お疲れさんだな」

「あぁ。・・・なんか、あんま嬉しくないけどな」

タツミの返事に、さしもの『ハル』こと、グラスゴー支部の真壁ハルオミは、いつもの軽口を叩けないでいた。

「俺もな、リンドウさんには出張中に何度も世話になった。あの人がいなかったら、俺は4回は死んでたかもな・・・」

「そっか。ハルもリンドウさんとは面識あったな」

「あぁ。気持ちの良い人だった。今回も、こっちに出向くことになった時から、あの人と飲もうって決めてたんだけどな」

「・・・そっか」

二人にとっても兄貴的な存在だったリンドウ。怠け癖が抜けない、子供のようなところも含め、リンドウは魅力的だったと言えよう。

 

しばらくの沈黙の後、タツミが不意に口を開く。

「・・・リンドウさんってさ、絶対死なないってイメージないか?」

「ん?あぁ、確かに〜、あの人は逃げるのが得意だったからな。ヤバい任務の時にあの人について逃げると、何でか逃げ切れちゃうんだよな〜」

「だろ?だからそんな勝手なイメージからかな。今回も、実はまだ生きてるんじゃないかとか、勝手に想像しちまって・・・、実感わかねぇよ」

「タツミ・・・」

顔を歪めるタツミの肩に、ハルオミは手を置く。

「でもな、ハル。もっと辛いのは第一部隊の奴らだ。あいつらは・・・目の前でリンドウさんを失ったようなもんだ。まだ若い奴ばっかりなのに・・・、くそっ!」

「そうだな・・・、親を失った、感じかもな」

そう言ってハルオミは立ち上がり、タツミに向かってクイッと親指で廊下の方を指す。

「・・・なんだよ?」

「連れション、付き合わね〜か?」

いつもなら『なんでだよ!』と突っ込みそうなタツミだったが、黙って立ち上がりハルオミと並んで歩き出した。タツミにとっては、ハルオミのその行為が、リンドウっぽく感じられたのだった。

 

 

医療棟の緊急治療室の前で、アリサは息を飲んで待っていた。中ではレンカの治療が行われている。大まかな報告を済ませてから、コウタは部屋に戻り、サクヤは細かい報告の為に残り、ソーマとユウはそれぞれ何処かに行ってしまったので、アリサだけが見舞いに来ている。

思わず呼び捨てにして泣きじゃくってしまい、誤解をさせてしまったのではと勝手に妄想を膨らます中、治療中のランプが消える。

「・・・ふぅ」

「っ!!榊博士!あの・・・レンカは?」

治療を終えた榊博士にアリサは詰め寄る。当の博士は優しく笑みを浮かべ、眼鏡をクイッと上げる。

「問題ないよ。上手く傷も塞がったし、しばらくは休養が必要だけど、すぐ元気になる」

「あ、ありがとうございます!!」

深々と頭を下げ治療室に向かうアリサに、『本当の事』を告げれない榊博士は、切なげに見送りその場を離れる。

 

「あの、れ・・・空木さん?」

「・・・アリサか?」

ベッドの上からドアの方に目を向けるレンカに、アリサは静かに入ってきて椅子に座る。

「調子、どうですか?」

「・・悪くないな。ただ、毎回博士の治療は言っていることが大袈裟で、怖くなるときがある」

「それはもう、あの人の性格だと思います」

「そうだな」

少し笑顔になるアリサに、レンカはホッとした顔を浮かべる。

「?・・何ですか?」

「いや、最近のアリサは、よく笑うようになったと思って」

「な、わ、私だって、笑いますよ!」

「そうか?初対面の時には、ユウさんの事で軽く揉めたしな」

その言葉に顔を赤くしたアリサは、すぐさま顔を手で覆う。

「忘れて下さいよ!あれは〜!」

「ははっ、悪いな」

うーうー唸るアリサとは対照に、レンカは少しずつ真剣な顔つきになっていく。それに気付いたアリサは、レンカに疑問を投げる。

「・・どうしたんですか?」

「いや・・・・、ユウさんの事を、少しな」

それにハッとなってアリサも真剣な表情を浮かべる。

「コウタとの、事ですか」

天井を見上げたまま、レンカはゆっくり頷く。

「ユウさんも、苦しんでるんだ。・・・リンドウの事を。みんなが苦しんでいるのに、ああいうことは・・・辛いな」

「・・・・そうですね」

二人が神妙な空気を醸し出していると、

「おーっす!レンカ!!もう元気に・・って、ぬあぁ!!アリサ⁉︎」

「きゃあ!!こ、コウタ⁉︎」

噂をすればなんとやら、コウタが勢いよく入ってきた。

「コウタ、来てくれたのか?」

「あたぼぅよ、親友!それよか、二人でなに?逢いびき?」

「な、ななな、何を言って!ど、ドン引きです!!」

アリサが狼狽える様子をケタケタ笑いながら、コウタも椅子を持ってきて座る。

「まぁまぁ、同じ同期だし〜、仲良くしようよ〜」

「嫌です!あなたとは仲良くしません!」

「なんでぇーーー⁉︎」

病室にも関わらず騒ぎたてるコウタに、そっぽを向くアリサ。いつもの光景なのに違和感を感じたレンカは、コウタに話しかける。

「なぁ、コウタ」

「なに〜?」

「・・・何か、あったか?」

「あ・・・・・、えっと〜・・」

突然の問いに目を泳がせながら口籠るコウタに、アリサが口を開く。

「ユウの、事ですか?」

「うぇ⁉︎いやぁ、・・・いや、・・・・はい」

言い当てられて観念したのか、コウタは胸の内を喋り始めた。

「・・・俺さ、すぐ感情任せに動く癖があってさ、」

「知ってます」

「ちょっとーー!!僕今、割と真剣なんですけどーー!!」

「アリサ」

「・・・すいません」

レンカがアリサをたしなめ促すと、コウタは再び話し始める。

「とにかくさ、あの時・・・ユウさんが生きててくれて、本当はすげぇ嬉しかったんだよ。なのにリンドウさんは?って思ったら、なんか訳わかんないうちに、当たり散らしてさ」

「・・・コウタ」

「苛立ちをぶつける場所がなくってさ、だから勝手なこじつけでユウさん、ぶん殴っちゃって・・・。俺あの人に肝心な時にいっぱい助けてもらってんのに、あの人が辛い時に、さらに辛い事いっちゃって・・・」

「・・・・・」

黙って聞くアリサとレンカ。本当は責められるかもと覚悟をして来たのに、黙って聞いてくれる事が嬉しくて、コウタは頭を抱えて涙を零す。

「俺さ、レンカ、アリサ。ユウさんと、仲直りしたいんだ!ちゃんと、謝りたいんだ!だからさ、・・・頼むよ」

そこまで聞いてから、レンカはまだ痛む体を無理矢理起き上がらせる。それに、アリサは即座に肩をかす。

「レンカ!」

「大丈夫だ、アリサ。コウタ、一緒に行こう」

「・・・・レンカ?」

涙で濡れた顔のコウタに、レンカは笑いかける。

「こういうのは早い方が良い。ユウさんなら、きっとわかってくれる」

「レンカ・・・」

「ありがとう、レンカ!」

まだ涙ぐむコウタの背中を押すために、レンカは立ち上がる。それを支えようとアリサは肩をかす。そうして三人は、ユウを探しに病室を出る。

 

「そういやアリサは、いつからレンカを名前で呼んでんの?」

「・・・・・・気のせいです」

 

 

榊博士の研究室の前で、サクヤは3回ノックをする。

「博士、サクヤです」

『あぁ、入ってくれたまえ』

「失礼します」と中に入ってから、榊博士が座るデスクの前に立つ。博士は、相変わらず忙しそうにキーボードをカタカタ打っている。

「すまない、・・もう少し待っててくれないかい?」

「・・・はい」

「ありがとう」

そう言ってから1分も経たない内に作業を終えたのか、立ち上がり背伸びする。

「やぁ、待たせたね。さっきはノックなんかしてくるから、誰かと思ったよ」

「いえ・・・」

まだ色々な事が整理できないでいる様子のサクヤに、榊博士は来客用のソファーへと促し、自分もその対面に腰掛ける。

「さて・・・、まずは任務、・・・いや、前置きはよそう。君にも色々と時間が必要だからね」

「え?・・・」

榊博士の口振りに、首を傾げるサクヤに、博士は背筋を伸ばし改める。

「君へ、リンドウ君からの言伝を伝えなければならない」

「っ!!!」

「それが、君を呼び立てた要件だ」

「リンドウ、からの・・・」

驚くサクヤに、榊博士は続ける。

「詳しい成り行き何かは、後日としよう。今の君に、そんなものは必要ないだろうからね。だから、リンドウ君から君へのメッセージだけを伝える」

「・・・・はい」

その返事を待ってから、榊博士は思いを巡らせ、忠実に話す。

「『俺が死んだ時は、博士に聞くなり何なりして、山岳地帯にある集落を守って欲しい』」

「っ!それって・・!」

「・・・続けても?」

「あ、・・・す、すいません!お願いします」

サクヤの返事に応えるように、榊博士は続きを伝える。

「『そして、第一部隊を守ってほしい。腕はあっても、まだまだガキには変わりないからな。そして、姉上を助けてやってほしい』」

「・・・・」

サクヤは、その言葉1つ1つを噛み締めるように、聴き入る。

「『最後に、・・・・・』うん」

「あの、博士?」

「すまない・・・・」

「・・・・あ」

『楽』以外の感情を、人前では見せないと言われている榊博士が、涙を流していた。それ程の言葉なのかと、サクヤは覚悟をする。そして、いまだ止まらぬ涙そのままに、榊博士はサクヤを正面から見つめて伝えた。

「『最後に、サクヤ。・・・・愛している』」

「・・・・・・リンドウ」

震えるサクヤから目を逸らし、榊博士は立ち上がりデスクの上に手をつく。

「・・・すまない、サクヤ君。外してくれないか。そして、今日見たことは、忘れてくれ」

「・・博士」

「私は涙を捨てた男だ。だから・・・すまない」

最後は何に謝ったのか・・・。

サクヤは自分の流す涙も忘れ、こちらに目を向けない榊博士に一礼し、部屋を後にした。

残された榊博士は、デスクの上に置いた手を握り、声を殺して泣き続けた。

 

 

 

誰もいない神機保管庫。そこに、リンドウの神機が帰って来た。傷だらけで、刃は少し欠けている。でもその佇まいは、主の帰還を待つように、誇らしく掲げられている様に見えた。

回収班によって戻って来てから、ユウはずっと眺めている。もう3時間もの間、まるでリンドウと会話をしている様に、そこから動くことはなく、そして通り掛かる人も、誰も声をかけない。本当はかけれなかったのかもしれないが・・・。

そんな折、一人の少女が薄暗い照明の中やってくる。

「・・・ユウ君」

「・・リッカ・・・」

リッカは話しかけてからユウの立つ、リンドウの神機の前までやってくる。

「・・・どうしたの・・それ?」

「へへ〜、似合う?」

そう言ったリッカは、いつものタンクトップにドカパンの作業員スタイルではなく、白いワンピースを着ていた。

「私も女の子だからさ、こういうのも・・どうかな?って思って」

「・・うん。似合ってる」

「そっか!」

少し照れた様子のリッカを見て、ユウは少しだけ微笑んだ。

 

暫く二人でリンドウの神機を見るだけの静かな時間。その沈黙を破るように、ユウが呟く。

「・・・・守れなかった」

「え?・・・」

「また、・・・守れなかったよ」

「・・・ユウ君」

どんな任務もあっけらかんとこなすユウの事を、少し神聖視していた部分もあったのだろう。そんなリッカから見た今のユウは、どこにでもいる普通の男の子に見えた。

「・・僕は、大切なものを守る為に、ゴッドイーターになったんだ」

「・・・うん」

「この力があれば、今度こそ失わずに済むと、思っていたんだ」

「・・うん」

「なのに、なんで守れないの?こんな身近な人、こんなにも手の届く人を・・・なんで、守ることができないんだよ」

そんなユウに、リッカは慰めようとする。

「ユウ君、あのね・・」

「わかってるよ!僕は、神じゃない!」

その叫びに、リッカは少したじろいでしまう。そして、こんな服を着て、機嫌をとって、傷付いた心を癒そうと軽々しく考えていた自分が恥ずかしくなってきた。そして、ユウの抱える闇が、とても深いことにも気付く。

「ご、ごめん!ユウ君・・・本当に。・・私、行くね!」

そう言って逃げ出す様に駆け出したリッカを、ユウは手をとって引き止めた。

「・・・ごめん」

「何が?・・・ユウ君が、謝ること・・無いと思うけど」

「うぅん。怒鳴って、ごめん」

「そんな事・・・」

そう言って俯いてるリッカに、ユウは膝をついて体を預ける。

「ふぇ⁉︎あ、あの、ユウ君?私ね、え?ま、まだ・・」

「少しだけ・・・」

「へ?」

「少しだけ、このまま、いい?」

「えぇ?・・・まぁ、うん」

「ありがと・・・」

何だか良くわからないまま急接近出来たのかと思い、リッカは溜息混じりに、腕をまわそうかどうしようか悩んでいた。

その時・・・。

「・・・っ・・っ・・ぅ!」

「・・・・・・あ・・」

肩を震わせ、ユウが声を殺し泣くのを我慢していた。

リッカは優しくユウを腕の中におさめて、囁いた。

「・・・いいよ、泣いて」

「っ!!!」

それをきっかけに、ユウの押し留めていた悲しみが一気に溢れ、涙となって零れ落ちた。

 

 

ソーマは神機保管庫に向かって足を進めていた。少しユウの事が気掛かりで探し歩いていたのだ。今回のリンドウの件で、コウタが余計な事を言った為に、自分を必要以上に責めているかもしれないと考えたからだ。

(元々、過去に一癖ありそうだしな・・・)

いつもの如く話を聞いて、悪態をつく。そんな感じでいこうと思っていると、丁度保管庫の入口につく。

小さく深呼吸をし、開錠ボタンを押す。

「・・・あ?」

押してもなんの反応もなく、当然扉も開かない。

「ちっ。榊のおっさん、整備させてんのか?」

この場にいない榊博士に文句をたれながら、力任せに開けようと扉の淵に手を忍び込ませる。少しかかったところで思い切り引くと体が通るぐらいには開く。そして顔を上げたソーマは、目を見開く。

「うっく、うぅ・・リンドウ、さん・・・ごめ、ごめん・・なさいっ!・・うぅっ!」

リッカにしがみつき、泣きじゃくるユウがいたのだ。目が離せずにいた時に、リッカと目が合う。すると涙で顔を歪めたリッカが、声を出さずに懸命に首を横に振った。

「っ!!くそっ!」

その態度に、ソーマは気付いてしまった。ユウは、誰にも、特に第一部隊の人間に知られない様に、泣いているのだと。

理解してしまうと、それが辛く、そしてソーマ自身も何かを我慢していたように、フードを深くかぶり壁にもたれかかる。

そこへサクヤがやってくる。後ろには途中出会ったレンカ、コウタ、アリサもいる。サクヤもユウは保管庫にいると踏んで、コウタの仲直りに一役買おうと思ったのだ。

「ソーマ?」

相変わらず無視を決め込むソーマから、扉の隙間の奥に目を向ける。

「っっ!!」

そこで見たものに、サクヤは声をあげそうな口を押さえ、その場にへたり込む。何故か決して見てはいけなかった気がして。

「どうしたんっすか?サクヤさん、奥になに・・・・え、」

コウタの反応にレンカとアリサも覗き込み、驚きの表情を浮かべる。

これ以上は持たないと思ってか、サクヤが駆け出すのに合わせて、ソーマがコウタを掴んで歩き出す。アリサも耐えられなくなり、レンカとそれに続く。

暫くいった曲がり角で、サクヤが壁に手をつき座り込んでいる。そこまで辿り着いた瞬間、掴んでいたコウタを離し、ソーマは壁を思い切り殴る。

「・・・くそがっ!」

それを、きっかけに皆から声が洩れだす。

「・・・うぅ、リンドウ・・・」

「うぅっ!うぁあぁっ!」

「くそっ!・・・くそっ!・・リンドウ」

そんな中、ソーマに放り投げられたコウタが、溢れる涙に任せて、大声で叫んだ。

「うああぁぁぁっ!ご、ごめんなさい!ごめんなさいー!ユウさん、・・うっうっ、くぅっ・・リンドウさーーん!!!」

 

誰もいない廊下の端で、第一部隊は泣き叫んだ。

 

 

保管庫から出て程近い休憩室。

ツバキは、リンドウの部屋にあった煙草の封を切り、1本加えて火をつける。深く吸い込み、そして吐き出す。

何度か繰り返した後、軽く咳き込み、また咥える。

「リンドウ・・・やはり、少しキツいな」

そう言って、設置された小窓から外を見る。いつの間にか降り出した雨をただ、黙って見つめる。

『姉上、体に悪いですぜ?』

どこかでリンドウが笑った気がして、ツバキは口の端を上げる。

「・・・馬鹿者が」

そう言ったツバキの頬に、涙が筋となって流れ落ちた。

 

 

 





そういう、お話でした!

次回から少しペースを落として、続けていきます!
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