GOD EATER 〜神無き世界〜   作:死姫

32 / 64
32話 戦場を癒す白

 

 

時間は少しずつ流れ、極東は冬を迎える。

肌を刺す冷たい風に、コウタはガタガタ震えながら指示を待つ。構えた神機のスコープが、吐く息によって曇ったのを拭ってから、隣に控えるアリサに声をかける。

「な、なぁ、アリサ。・・さ、むくない?」

「そうですか?この程度なら私は平気ですけど」

「えぇ?なに?サイボーグ?」

「なんですかそれ。ドン引きです」

監視を続けながらアリサは、コウタの発言にそっぽを向く。

今追っているのは、コンゴウの寒冷種。最近錆びれた寺院近くに頻繁に出没するので、第一部隊と第二部隊が交代で監視と排除を担当している。交代の時間も近い中、ユウが標的を発見したので、射的範囲に入るのを待っているところだ。

「・・・そういやーさー」

「はい?」

「アリサって、クリスマスって知ってる?」

突然の質問に、アリサは溜息を吐く。

「馬鹿にしてるんですか?そのぐらい知ってます」

「じゃあさ、やっぱプレゼントとか渡すの?レンカに」

「は、へ⁉︎」

コウタの不意打ちに、アリサは派手に仰け反る。その反応を望んでいてか、コウタは赤くなった鼻を向けニヤリと笑う。

「やっぱり〜♪」

「なな、な、何を言ってるんですか⁉︎任務中ですよ!!」

「照れない照れない♪昔は恋人達の一大イベントだったらしいじゃん?この期を逃すと、堅物のレンカへのアッタクチャンスはそう訪れないぜ〜」

何を妄想したのか、アリサは顔を真っ赤にしながら神機のスコープに目を戻す。

「あ、あなたには関係ないです!というか、何でレンカなんですか⁉︎」

過剰な態度を示すアリサを低く笑いながら、コウタもスコープに目を向け話し始める。

「俺はさ、レンカにもアリサにも、幸せになって欲しいと思ってるんだ。もちろん、ソーマさんやサクヤさん・・・、ユウさんにもさ」

「・・・コウタ?」

変わって真面目な事を言い出すコウタに、アリサは目だけを其方に向ける。

「俺にとってさ、みんなが大事なんだ。・・・だからさ、幸せになって欲しい」

「・・・・」

噛みしめるように喋るコウタの言葉に、一瞬の沈黙が訪れる。それを割るように、ユウからの無線が入る。

『コウタ、アリサ。10秒後に標的通過予定。後はよろしくね!』

「了解っす!」

「りょ、了解です!」

それから間も無く、コンゴウをスコープに捉え・・・。

 

ドォンッ!!

 

 

 

「お疲れ〜!交代だ!」

一度集合していたコウタ、アリサ、ユウのところへ、タツミ達第二部隊が交代にやってくる。

「どうだ、ユウ。まだいそうか?」

「そうですね。ついさっき1体討伐しましたので、暫くは大丈夫だと思いますよ。明日あたりには警戒を解かれるんじゃないですか?」

「そうか!そいつぁ、良かったよ!」

タツミの反応に、他の者は首を傾げる。それに応えるように、タツミは胸を張る。

「なんだなんだ!明日はクリスマスだぞ?恋人達の聖なる夜・・・ヒバリちゃんとの、ロマンチックな時間が俺を待ってる」

《・・・・・・》

そんな姿を黙ってやり過ごしてから、ユウはブレンダンと携帯端末の通信で情報交換する。

「じゃあこれ。後はお願いします!」

「あぁ、任せてくれ」

引き継ぎがすんでから、ユウはコウタとアリサに頷きながら歩き出す。

「え?・・おいお〜い!なんか俺に言うことは・・・」

「・・頑張ってください♪」

とても良い笑顔を浮かべて去っていくユウの背中を見つめるタツミ。その肩に手を置き、ブレンダンが真剣な顔で言う。

「・・頑張れよ」

「あ、あはは〜。頑張って、下さい〜、ね♪」

カノンも苦笑しながら応援し、二人はタツミをおいて監視のためにと歩き出す。

残されたタツミはしばらくの沈黙後に、肩を落として任務へと足を動かした。

 

帰りの車を運転しながら、ユウは暮れゆく世界を眺めながら呟く。

「・・・クリスマス、か」

 

 

 

クリスマス当日。

いつも殺伐としている極東支部内も、今日ばかりはどこか色めき立っている。

装飾はされずとも、榊博士の計らいで、エントランスには大きなツリーが飾られている。若い身で戦地へ赴くゴッドイーター達への、細やかなプレゼントということだ。

大きなツリーを眺めながら、ツバキはフッと笑みを浮かべる。そこへ任務を早々に終わらせたサクヤ達が戻ってくる。

「雨宮三佐?」

「ん?・・・あぁ。任務、ご苦労だったな」

「いえ。あの、・・・どうかされました?」

サクヤの質問に、ツバキは目を閉じながら首を横に振る。

「なんでもない。・・・少しだけ、懐かしくなってな」

「そう・・、ですか」

ツバキの優しい笑みに、自然とサクヤも頬を緩める。そしてツバキは、軽く咳払いをしてから目を開ける。

「今日は、もう良い。皆、ゆっくり休め」

「えっ!!良いんですか!!ヤッホーーい!!」

コウタが跳ね回るのを横目に、レンカがツバキに問いかける。

「良いんですか?まだ、今日の報告書の提出が・・」

「明日でかまわん。今日はクリスマスだ。私からお前達に、小さな贈り物だ。素直に受け取っておけ」

「は、はい」

少しだけ納得いかぬよう顔をしかめるレンカを押しのけ、コウタはツバキに顔を近付ける。

「雨宮三佐〜!じゃあ俺、実家に行きますんで!」

「あぁ、行ってこい。家族と過ごしてやれ」

「よぉっし!!じゃあ、俺はこれで失礼します!!」

そう言い残してから、コウタは走り去って行く。それを笑顔で見送ってから、サクヤもツバキに目を向ける。

「では、私達も。失礼します」

「あぁ。良い、クリスマスをな」

そう伝えてから、サクヤ達もエレベーターへと歩き出す。そこで、ふと気になったのか、サクヤは足を止めツバキに振り返る。

「そういえば、ツバキさん。今日ユウを見てないんですけど、何か任務ですか?」

そう聞かれたツバキは、ツリーを見上げながら、背を向けたまま答える。

「あいつは、今日は休暇申請してきた」

「休暇を?珍しいですね。何か、用事でも?」

振り返る素振りも見せず、ツバキは口を開く。

「あいつは・・・・、里帰りだ」

 

 

 

榊博士の研究室。

ソーマは真剣な眼差しで、ノートPCの画面に目を走らせる。

どれ程の時間が経ったのか、大きく息を吸ってから、ソーマはソファーに背を投げ出してから吐き出す。

(・・・・・そうか)

読み上げていたものに納得したのか、黙ってそれを閉じる。

そこへ、席を外していた榊博士がコーヒーを2つ持って現れる。ソーマの様子を確かめてから、黙って向かいに座り、コーヒーを1つソーマの前に置く。

「・・・読み終わった、様だね」

「・・・・・・・あぁ」

短い返事の後、ソーマはコーヒーカップを手に取り、ゆっくり口に運ぶ。榊博士も、小さく笑みを浮かべてから、カップに口をつける。

「・・・あいつ、今日はいないのか」

「あぁ。彼は・・・里帰りと、聞いているよ」

「そうか・・・」

そんなやり取りを交わしてから、二人は静かにコーヒーを飲み続ける。

壁に掛けられた時計の秒針の音、それに耳を休めながら、ソーマは話しかける。

「・・・あいつは、どんな気持ちで・・・神機を手にしたんだろうな?」

「さてね・・・。私にも、全ては分かりかねる。だがね、」

「あ?」

榊博士は持っていたカップをテーブルに置き、真剣な眼差しでソーマを見つめる。

「彼は・・・私に、『この世界に負けたくない』と。・・『大切なものを守る為に、明日を切り開く』と、言っていたよ」

「・・・・・」

そして、窓の外の崩壊した世界に目を向け続ける。

「それは・・・・、彼の、・・・・祈りの様なものなのかも、しれないね」

「・・・・・・そう、かもな」

この世界には、祈るべき神はいない。破壊を続ける神との、戦いしかない。そんな世界に、彼は何を見たのだろう?と、ソーマは目を閉じる。

カップの中身を飲み干してから、ソーマは立ち上がる。その背中に、榊博士は言葉を投げる。

「ソーマ君。この事は、他言無用で頼むよ?」

扉の前まで来たソーマは、視線だけを向けてから、

「言えるか。・・・こんなこと」

そう言って部屋を後にした。

一人になった榊博士は、大きく溜息をついてから、もう1度窓の外に目をやり、虚空へと呟く。

「・・・・神無き、世界・・・か」

そして、閉じられたノートPCを開き、カーソルをウィンドウ終了ボタンへと運び、クリックする。その文面の冒頭には、『神薙ユウの過去』と、書かれていた。

 

 

 

静かな部屋の中で、設置された機械の電子音が響く。そして画面は何度目かの、「Error」を表示する。それを確かめてから、サクヤは溜息を吐いてから、記録ディスクを取り出す。

「駄目・・、か」

そのまま体をベッドへと投げ出す。手の中でクルクルディスクを回転させながら眺め、再び溜息を吐いてから体を起こす。そしてテーブルの上にそれを置いてから、冷蔵庫を開けて配給ビールを手にする。

「・・・色気のない、クリスマスね・・・」

そう言って1本余分にビールを取り出し、窓辺に飾られたサボテンの前にプルタブを開けてから置き、椅子に腰掛け手元のビールも開ける。

「今日は、付き合ってね」

そう言って、軽く缶を鳴らす。

喉に流し込み、「ふぅ」と息を吐く。頬杖をついて缶を揺らしながら、外を眺めていると、

『メリークリスマスってやつか、サクヤ』

昨年のクリスマスに、リンドウがくれた笑顔を思い出し、フッと優しく微笑む。

「メリークリスマス・・・・リンドウ」

そう口から洩らしてから、サクヤはもう1度缶を重ねた。

 

 

戦闘訓練所。

そこでレンカは、ひたすら素振りに明け暮れていた。

(もっと・・・もっとだ。・・強くならないと、・・・俺には、時間が・・・!)

気持ちを力に変え、汗を飛ばしながら振り下ろす。そうした中、右手の手袋がずれ、怪しい痣が姿を見せる。それに気付いたレンカは1度手を止め、その痣を撫でる。

「・・・・・時間が、無いんだ」

そう呟き、顔を歪める。レンカの命のリミットは、刻一刻と迫っている。それが悔しくて、レンカは目を閉じて右手を握る。

「・・・・レンカ?」

「っ!!」

突然声をかけられ、レンカは慌てて手袋を引っ張り上げ振り返る。

「あ、アリサ⁉︎」

「・・・・」

いつから居たのか、アリサが手を後ろに組んで立っていた。少し気まずそうな様子のアリサに、レンカは笑顔で応える。

「・・どうした、アリサ?お前も訓練か?」

「い、いえ。・・・あの、・・・」

口籠るアリサに、レンカは首を傾げる。

(もう!昨日コウタが変な事言うから、意識しちゃうじゃないですか!)

心の中でコウタに抗議しているアリサに、レンカは少し心配になり近付いてくる。

「どうしたんだアリサ。もしかして、何処か悪いのか?」

「え⁉︎いえ!あの、・・それは、ですね・・・!」

距離を詰めるレンカから後退るアリサ。尚心配したレンカは、更に足を速める。

「本当に大丈夫か?あれだったら、医務室に・・」

「だから!そんなんじゃな・・あ」

いつの間にか壁にぶつかったアリサは、顔を真っ赤にして目を泳がせる。それを病気か何かと勘違いしたレンカは、手をアリサの額に当てる。

「顔が真っ赤だ。やはり体調が悪いんじゃないのか?」

「っ!!!!!!」

その行為を押しのけるように、アリサは後ろ手に隠していた物をレンカの胸に突き出す。

「こ、これ!!渡しに来た!だ、だだだ、だけです!!」

「え?・・・これは・・」

唐突に押し付けられた物を手に取り、レンカはゆっくり目をアリサに向ける。アリサは恥ずかしいのか、俯いている。

「アリサ、これ・・は、いったい・・・」

「く、くく、クリスマス、ぷれ、プレゼント!・・・です」

語尾を小さくしながらアリサが言い切ると、レンカは再び手の中の物に目を落とし、優しく微笑む。そして不器用に包装されたそれを開け、中を見る。

「・・・あ」

「・・・・・・」

それは、薄い緑色のマフラー・・・の様なものだった。

「これ、俺に・・・くれるのか?」

「べべ、別にいらないなら、す、捨ててもらっても!・・かまいません!」

手編みなのか、幾つかほつれた箇所が見られるそれを、レンカは黙って首に巻きつける。それを見てから、アリサは少しだけホッとした笑顔を見せる。

「ありがとう。・・・大事にする」

「そ、そうですか?」

そっぽを向くアリサに、レンカは鼻の下を軽く指でなぞった後、ふと思い立ちポケットを探る。

「・・どうしたんですか?」

「いや、・・・ちょっと・・、あった!」

それからポケットから手を出したレンカの手には、小さな赤いガラスに革紐がついた物がのっている。

「・・・これ・・」

「あぁ。昔、母さんがくれた御守りだ。女性がつける様なものだから、良かったらアリサが貰ってくれ」

アリサは目を大きく開き、それからその手を押し返す。

「駄目です!そんな大事なもの、貰えません!」

「良いんだ!・・これは、アリサにきっと似合う」

そう言われて、アリサが緊張に硬直しているところで、レンカは首に紐をかける。

「あ・・・、でも、」

「よく、似合ってる」

そう笑ってくれたのが嬉しくて、アリサは手の中でそれを転がす。

「・・・・ありがとう、レンカ」

「俺も、・・・ありがとう。アリサ」

二人はお互い受け取ったものを撫でながら、笑い合った。

 

 

 

かつて、小さな行商人の一団があった。幾つかの家族が身を寄せ合い、各地で生き残った人達に、食料や衣料を取り引きしながら、荒れ果てた世界に希望を届ける為に生きてきた者達。

そんな彼等が最期を迎えた居留地跡に、ユウは小さな花束を持って立っていた。

「・・・久し振り。・・・・みんな」

ユウはそっと花束を置いて、手を合わせてから目を閉じる。

かつてすごした、故郷に向けて・・・。

 

しばらくそうしてから、ユウは目を開けて周りを見渡す。

ゆっくり歩みを進めながら、ある場所で足を止める。そこには、小さな花が咲いていた。

「・・・・ナズナ・・、・・・カケル・・・」

そう言ってしゃがみ込み、その花を優しく撫でる。

「僕は・・・・・、生きてるよ。・・ちゃんと、・・ね」

優しく語りかけるユウは、何処か悲しそうな笑顔を浮かべる。

そこは、かつての兄弟が最後を迎えた場所だったのだ。

 

更に奥に進むと、かつて出張診療所だった建物があった。その中にユウは入って行き、とある部屋の前で止まる。ゆっくりとした手つきでドアを開けて、中へと入る。2つのベッドが並ぶ片方に近付き、ユウはシーツを指でなぞり手をつく。

「・・・・ミコ」

その名を口にし、ユウは天井を仰ぐ。流れ落ちそうな涙をこぼさぬ為に・・。

「・・・・・・・うん。・・・・大丈夫」

誰に伝える訳でもない言葉は、静かに消えていった。

 

 

極東に戻ってきたユウは車を倉庫に入れ、そのまま開発局から中に入ろうとした時、入り口前に立っている人を見つける。

「リッカ?」

「あ・・・」

厚手のコートを羽織ったリッカがゆっくり立ち上がり、ユウに走り寄る。

「おかえり・・・、ユウ君」

「・・うん。ただいま」

そう言葉を交わした二人は、並んで歩き出す。

数歩歩みを進めた後に、リッカがユウに声をかける。

「ユウ君、寒くない?」

「え?ん〜、そうだね。今日は・・・少し冷えるね」

「だと思った!それじゃあ〜・・・はい!」

そう言ってリッカは、懐から出したマフラーをユウの首に巻きつける。それに驚いて、ユウはマフラーに目を落とす。

「リッカ・・、これは?」

「今日はクリスマスだからさ!私からの、プレゼント!」

「プレゼント・・・」

「そっ!気に入った?」

わざとらしく聞き返してくるリッカに、ユウは一瞬戸惑ったが笑顔を向ける。

「うん・・・。うん、ありがとう。リッカ」

「へへへっ」

照れながら鼻の頭をかくリッカの目に、小さなモノが降ってくる。

「あ・・・・雪・・」

「寒いわけだね」

空から無数の光が降りて来るように、雪は徐々に世界を埋め尽くす。

その神秘的な光景を、ユウはその身に受け止めるように空を見上げ、目を閉じる。そんなユウに微笑み、リッカは同じ体勢を取り、この日に相応しい言葉をユウに贈る。

「メリークリスマス・・・・・ユウ君」

「メリークリスマス・・・リッカ」

 

 

世界に優しく降り積もる雪を、

ツバキも、

榊博士も、

シックザール支部長も、

コウタとその家族も、

レンカとアリサも、

ソーマも、

サクヤも、

そして極東で暮らす全ての人達も、

傷んだ心を癒しに導くような景色を、それぞれの想いのまま、見つめ続けた。

 

 

 





暑い夏に、メリークリスマス!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。