一面、白く埋もれた寺院跡。降り積もった雪を掻き分けて、ユウは表へ這い出てくる。標的のシユウが飛んでいるところに上から刺し貫いたら、そのまま壁に激突し、落ちてきた雪に埋まっていたのだ。
「ふぅ。えっと・・・ソーマは・・、あ」
辺りを見回し、コンビであるソーマを探していたところ、彼は仕留めたシユウを蹴飛ばし、刺さった神機を引き抜いているところだった。
「ちっ。面倒かけやがって・・」
「ははっ、お疲れ」
近付いてきたユウを確認すると、ソーマはシユウに捕食を仕掛けながら口を開く。
「こんな事に、意味なんてあるのか?」
「さぁね。榊博士の考えることは突飛すぎて、僕もよくわからないよ」
「・・・ふん」
コアを回収したのを確認し、ソーマは神機を担ぎユウの側へと移動する。ユウも携帯端末で簡易レーダーを立ち上げる。
「・・・うん。この辺りはもう良いみたいだね」
「だったらとっとと帰投するぞ」
「ヤケに急ぐね、ソーマ。実は寒いのが苦手とか?」
「・・・・・」
「・・・・・嘘」
ソーマは何も言わずに踵を返すと、そのまま移動用に乗ってきた車を停めてある方向へ歩き出す。そんな反応が面白いのか、ユウは少し悪い笑みを浮かべて後に続く。
「へぇ〜〜。かの地上最強も、寒いのが苦手なんだ〜」
「・・・うるせぇ。・・・・・別に、苦手じゃねぇ」
「そう?じゃあ・・・、そいや!」
「ぬぁっ!!!」
足下の雪を拾い上げ、ユウが背中に雪を突っ込んできたものだから、ソーマは珍しい声を上げて飛び退く。それを満足気に、ユウは笑いながら足を進める。
「ユウ!!てめぇは!!」
「やっぱり苦手なんじゃない。ソーマの苦手を発見〜♪」
「・・・・・ふんっ!!」
「あだっ!!」
ご立腹なソーマは、仕返しにと雪を丸めてユウにぶつける。ユウが仰け反ったのを見て、ソーマも少し笑いながら歩き出す。
「ソーマ!!雪玉は良いけど、あんな硬く握る事ないんじゃない?なにあれ?もう氷じゃないか⁉︎」
「自業自得だ」
「このっ!!・・・じゃあ、仕返し!!」
「なっ⁉︎やめろ!バカ!」
そのまま二人はちょっとした雪合戦に興じながら、極東への帰路を辿る。その様子を、寺院の柱の影から見つめる瞳があった。
司令室に集められた第一部隊は、ツバキから緊急の任務のため呼び出されている。と言っても、ユウとソーマは別の任務に出ている。
「本日は東に位置する旧寺院跡にて、クアドリガの討伐となる。榊博士から直々の指名だ。皆不備なく遂行するように!」
「「「了解!!」」」
「・・・あの〜」
皆が返事を返す中で一人、コウタはおずおずと手を挙げる。
「どうした、コウタ?」
「クアドリガって、あの超デカい奴ですよね?四人で平気かな〜って・・・」
それを聞いたツバキとサクヤは、口を押さえて笑い出す。
「安心しろ。以前相手したのは異例だ。あんなバカデカい奴など、そういてたまるか」
「そ、そうですか。良かった〜」
「常識です。勉強が足りないんじゃないんですか?」
皮肉を言いながらほくそ笑むアリサに、コウタはバタバタと抗議する。
「なんだよーー!勉強してるよー!・・・たまに!!」
「コウタ・・・」
「・・・・・ドン引きです」
「うふふふっ」
場が和んだところで、ツバキは咳払いをしてから、改めて第一部隊に命を言い渡す。
「では第一部隊!早々に現場に向かい、標的を排除せよ!」
《了解!!!》
「レンカ!そっちに行ったわ!」
「了解!」
サクヤから受けたバレットに怯んだクアドリガは、逃げ出すように走り出す。しかしそちらに回っていたレンカが、神機をプレデターフォームにし、待ち構える。
「はぁっ!!」
ガブュッ!!
正面の装甲を噛み千切り、すれ違いざまにに足を斬りつける。そこに後方で狙っていたコウタが拡散弾を撃ち込み目を眩ませる。
「アリサ!」
「はあぁぁっ!!!」
コウタの合図に合わせて壁の上から飛び上がり、アリサはプレデターフォームで背中に食い込ませる。そして・・。
ガシュゥッ!!!
沈黙したクアドリガに、全員息を吐く。
「お疲れ様!それじゃあアリサ、コアの回収を・・」
「それは待って貰っていいかな?」
サクヤの話に割って入ってきたのは、意外にも榊博士だった。その後ろには、ユウとソーマが控えている。
「榊博士⁉︎どうしてこんなところに・・・」
驚きの表情を浮かべるサクヤを制してから、榊博士は話を進める。
「申し訳ないが質問は後で受け付けよう。まずはみんな、ここから離れてくれるかな?こいつはこのままでね」
「は、はぁ。それは・・・」
戸惑うサクヤは、ユウとソーマに視線を移す。ユウは苦笑しながら肩を竦め、ソーマはそっぽを向いて黙っている。つまり、二人もよくわかっていないのだ。
「さぁ、みんな早く。ここを監視できる位置に隠れよう。今日あたり、食い付いてくれる筈だ」
「わ、かりました・・」
自分と同じく、理解できない様子の三人をサクヤは促し、皆影に潜む為に移動する。
数分後に、1番前で見ていた榊博士が、急に目を輝かせる。その先に見えたのは、
「え?・・・人・・?」
捨てられたクアドリガの死骸に一人の女の子が近付いてくる。
ボロボロの布を上からかぶっただけの服に、肌は雪と遜色ない程真っ白だ。
女の子がクアドリガに顔を寄せて匂いを嗅ぎだしたところで、榊博士は皆に合図し、第一部隊はそれを取り囲む。
取り囲まれた女の子は特に逃げる素振りを見せずに、顔を上げる。その顔には、クアドリガの体液がべっとりと付着している。
「ひぃっ!!」
それに驚いたコウタが、反射的に神機をその子に向ける。その瞬間、女の子が少し光った様に思った時、全員が異変に気付く。
「あ、あれっ?」
「・・神機が・・・」
急に神機の反応が無くなっのだ。持ち主に応えてくれなくなった神機に慌てる皆の後ろから、榊博士がゆっくり近付いてくる。
「対話・・・したのか?それとも、制御できるのか?・・どちらにしても、素晴らしい」
「あの・・、博士?」
一人感激している榊博士に、サクヤが自分の疑問に答えてくれるよう訴える。そこでやっと、意識をこちらに戻した榊博士が口を開く。
「いや、これはすまない。この中じゃ、ユウ君とソーマ君以外は、これが何か、今何が起こったのか、わからないことだらけだよね?」
「は、はい。ユウさん達は、把握、してるんですか?」
レンカの質問に、唯一驚いてなかったユウとソーマは顔を向ける。
「そうだね。全部・・・は、わからないけど。粗方、ね」
「・・・あぁ」
その返しに皆は更に驚くが、榊博士は気にせず話を続ける。
「まぁとにかく、ここではなんだから私の部屋で話すことにしよう。・・・君も、来てくれるかな?」
そう聞かれた女の子は、首を何度か傾げた後、大きく首を縦に振る。
「よかった!それじゃあみんな、早速極東に戻ろうか?」
「は、はい・・・・・」
驚き過ぎて榊博士の行動に口出しも出来ず、一同極東支部へと帰投した。
「「「「えええぇぇぇっ!!!」」」」
「はははっ・・」
「・・・・ふん」
驚く者、その反応に苦笑する者、特に興味を示さない者。そんな中、榊博士は改めて同じ台詞を口にする。
「そう。この子は、荒神だ」
次には沈黙が部屋に張り詰める。その状況を作り出した当人は、皆に囲まれる形で足を伸ばして座り込み、一人一人の表情に興味深に顔を動かす。
「あの、・・・博士?・・・この子が・・、あの、荒神ですか?」
やっと口を開いたサクヤに笑顔を浮かべ、榊博士は話し始める。
「そう。この子はある進化の終着点、と言うべきかな?」
「・・・進化の、終着点・・」
レンカが口にした言葉に、榊博士はズイッと顔を近付ける。
「そうだよ、レンカ君!進化を重ねたオラクル細胞が導き出した1つの答え!それによって産まれたのが、この子なんだ!」
「そ、そうなんですか」
「博士、顔近いです」
それの対応に慣れているユウが、榊博士を諌めると、榊博士は「失敬」と顔を引く。そして再び人型の荒神の女の子に、視線を移す。
「あの〜、博士?・・・質問が、あるんですけど?」
「ん?なんだい、コウタ君?」
恐る恐る手を挙げたコウタに、榊博士は質問を返す。
「こいつ・・・いや、この子なんですけど、・・・荒神ってことは、もしかして・・・俺達、喰われたり、しないですかね?」
「ン〜・・・ゴハン!」
「ちょっと洒落にならない事叫びましたけど⁉︎」
暫く辺りを見渡していた荒神の女の子の言葉に、コウタは驚き飛び退く。
「それは、大丈夫。彼女は君達を捕食対象にはしないよ」
「どうして、そう言い切れるんですか?」
アリサが女の子に近付きながら榊博士に問うと、榊博士はデスクに戻りながらそれに答える。
「荒神には特殊な傾向があってね、『同族種の捕食はしない』というものがあるんだよ。勿論、以前君達が倒したディアウス・ピターのような変食なモノも存在はするが・・・」
1度息継ぎしてから、榊博士は続ける。
「だが、基本は同じだ。現にここに来た彼女は、興味は持っても襲いかかってはこない。人間も人間は食べたりしないだろう?それと一緒さ。勿論それにも過去に異例は存在したがね」
「な、な〜んだ。じゃあ、危険はないんじゃん」
ホッとしたコウタも女の子に近付く。それを見計らい、榊博士は面白がって冗談を言う。
「でもよっぽどお腹が空いたら、コウタ君もご馳走に見えるかも、しれないね〜♪」
「うえぇ⁉︎マジっすか⁉︎」
「イタダキマス!!」
「なんでこのタイミングで言うかなー!!あんたー!」
慌てて更に後ろに退がってきたコウタを、自分にぶつかると思ってかソーマが前に蹴り飛ばす。そのせいでコウタは前につんのめり、持ち上げた顔の前に荒神の女の子の笑顔を認めると、すごい速さでユウの後ろに隠れる。
その様子に満足なのか、榊博士は声を殺して笑ってから話に戻る。
「まぁ、当面の心配はいらないよ。とにかく、この子の事は他言無用で頼むよ」
「えっ?もしかして、この子のこと、ここに住まわせるんですか?」
「そうだよ。彼女には、ここにいて貰う」
サクヤの問いに悪びれもなく言ったものだから、ユウとソーマ以外の皆は、再度驚きに声を上げる。
それが治まるのを待ってから、榊博士は女の子に視線を落とす。
「私はね、この子に1つの可能性を見てるのだよ。私の研究・・・、私の理想とする答えには、この子が必要不可欠なんだよ」
「この子が・・・、博士の理想の・・」
レンカの視線の先の女の子は、相変わらず珍しそうに周りを見回している。
「そういう訳で、晴れて共犯者になって貰った君達に、私からのお願いを聞いて欲しい」
「共犯者って・・・。それで、博士はこれ以上僕達にどうして欲しいんですか?」
ユウの質問に榊博士はデスクから女の子の側でしゃがみ込み、皆に視線を巡らせてから口を開く。
「君達には、この子と仲良くして欲しい」
「はぁ⁉︎仲良くって・・・ええぇぇ⁉︎」
「この・・荒神、と」
コウタとレンカが声を発する中、榊博士は女の子の手を取り子供をあやすように縦に振る。
「見ての通り、この子は産まれたばかり子供に等しい。誰かが面倒を見てくれるのが望ましい。私も勿論彼女の知識欲を満たす手伝いをしようと思うが、豊かな感情を育てるには歳の近い子と仲良くするのが1番だ。まぁ、産まれてからの年月で比べるなら、君達とも随分離れている事になるが」
榊博士がかまってくれるのに喜ぶ女の子から、優しく手を離して立ち上がり、改めて皆を見回す。
「どうだろう?協力してくれないかい?」
その言葉に、どうしたものかと顔を見合わす面々の間を通り抜け、ユウは女の子に微笑んで見る。それが嬉しいのか、女の子は頭をかきながら照れ笑いする。その反応に答えを決めたのか、ユウは榊博士に視線を向けて喋り出す。
「わかりました。この子の面倒を見ます」
「ええぇっ⁉︎マジですか?ユウさん!!」
「うん」
躊躇いもなくコウタに返事を返してから、ユウは膝を屈めてから、女の子の頭を撫でる。
「元々ソーマと僕は関わってた事だからね。だから、最後まで博士に付き合っても良いと思ってるよ」
「・・・ユウ。あなた・・」
「良いよね?ソーマ?」
「・・・・・勝手にしろ。俺は仲良くなれるかは、知らないがな」
ソーマの答えに笑顔で応えてから、ユウは他の第一部隊に目を向ける。
「みんなはどうする?黙っててくれるなら、無理に付き合わなくて良いよ。でも、出来るなら・・・。どうですか、サクヤさん?」
サクヤは暫く黙って考えてから、フッと苦笑し顔を上げる。
「わかったわ。隊員にやらせといて、隊長が逃げる訳にもいかないでしょう」
「ありがとうございます」
そのサクヤの言葉に、迷っていた他の者も後に続く。
「・・俺も、手伝います。まだ、全部納得した訳じゃないですけど、ユウさん達がのるなら、この話にのります!」
「お、俺も!レンカがやるなら!・・・ヤバい時には、ユウさんかソーマさんが助けてくれますよね?」
「何弱腰になってるんですか?・・・私も、隊長や副隊長が決めたのなら、それに従います」
「みんな・・・」
全員が受け容れてくれたのに頷きながら、博士は微笑む。
「決まりだね。じゃあ早速頼みたい事が、1つあるんだが・・、いいかな?」
「はぁ、なんでしょう?」
サクヤが首を傾げると、榊博士は女の子の手を取り立ち上がらせる。
「この子の名前を、決めて欲しいんだよ」
「名前・・・、ですか?」
「ナ、マ、エ・・?」
アリサの疑問に頷き、榊博士は続ける。女の子は意味がわからないのか、首を横にする。
「これから仲良くするのに、『彼女』とか『この子』というのは、些か味気ない。折角だから、彼女に名前をプレゼントして、より良い関係を結べればと考えるのだが・・・、どうだろう?」
「博士がつけたのでは、ダメなんですか?」
サクヤの最もな質問に、榊博士は頭をかきながら答える。
「私はどうも、こういう事には向いてなくてね・・・。だから君達のセンスに任せるよ」
「センス・・・・ふっ!」
その言葉に反応してか、コウタが低く笑い出す。
「どうした、コウタ?」
「俺、実はこういうのに自信あるんだよね♪」
「・・・嫌な予感しか、しないんですけど」
アリサが怪訝そうな表情を浮かべる隣で、コウタは胸を張って大声で発表する。
「ノラミ!!!」
「・・・?・・ノ、ラ、ミ?」
皆の時間が凍りついた中、女の子だけは確認するようにその名を口にする。
「そう!ノラミ!!どうよー!ぴったりじゃね?」
「・・・・・ドン引きです」
ノリノリのコウタの動きを止めたのは、アリサの一言だった。それにゆっくり顔を向けたコウタは、猛烈な勢いで抗議する。
「なんだよーー!!良いじゃんノラミーー!!」
「良くないですよ!なんですか、ノラミって?馬鹿にしてるんですか、女の子の事!」
「んだよー!じゃあアリサはこれっていう名前、思いついたのかよ!」
「そ、それは・・・!」
発言に迷ったアリサを見て、コウタは指を指して煽り出す。
「ほら、見ろーー!!別に浮かんで無いんじゃん⁉︎」
「い、今!今考えてます!!」
「絶対浮かびっこないね〜。はい!ノラミ決定ー!」
「それは絶対にダメです!最低です!!」
「そこまで言いますーー⁉︎」
「二人共、その辺に・・・」
二人の言い合いにレンカが止めに入り、サクヤとユウは苦笑を浮かべる。そんな中、黙って成り行きを見ていたソーマが、「ちっ」と舌打ちをしてから、ボソッと呟く。
「・・・シオ」
「ん?」
それにユウだけが反応したかと思いきや、荒神の女の子もその声に気付き、ふらふらっとソーマの前まで歩いていく。
そんな事態の変化に気付いたのか、皆の視線はソーマと女の子に集まる。
「・・・シ、オ?」
「・・・・ふん。気に入らないなら名乗るな」
「シオ・・・、ナマエ?」
「・・・・・ちっ」
そんな様子にユウは笑いながら近付き、シオの肩に手を置いてから優しく諭す。
「そうだよ、シオ。君の名前、君の事だよ。シオ」
「シオ・・・。コレ、シオ?」
「うん、シオ!」
自分を指さしてから尋ねる女の子に、ユウは笑顔で応える。
「この人が・・・ソーマがつけてくれた、大事な名前。わかる?」
「・・シオ、・・ナマエ、・・・クレタノハ、ソーマ!」
喜んだ"シオ"は、ソーマを指さしその名を呼ぶ。それから、自分とソーマを交互に指さし、その名前を確認する。
「ソーマ!・・シオ!・・・ソーマ!・・シオ!!」
「ちっ・・・、うるせぇぞ。荒神」
相変わらずの口の悪さに苦笑しつつも、皆はその名に納得したように目の前の光景に優しい目を向ける。
「な、なぁ。やっぱ、ノラミの方が良くね?」
「・・・・ヤダ」
「なんでそんな言葉を、早々に覚えてるんだよ⁉︎」
「シオちゃん、良く言えました♪」
「アリサーー⁉︎」
「・・・テヘヘ」
「あんたも照れてんじゃないよっ!!」
シオ、登場!
原作の捉え方によっては、リンドウが名付け親の可能性も見られますが、ここではソーマにしてみました!