異常な熱気を放つ、地下繁華街跡。
荒神出現時に地底火山が爆発。そのせいで地下6階までの大規模な迷宮は4階までマグマに呑み込まれ、人が出入りしなくなった残りの階層は荒神の巣となっている。
そんな場所の地下2階を、ユウは慎重に進む。
支部長からの特務。この階層にて確認された強力なオラクル反応、それを調べ、発見次第排除という任務で来ている。
(・・・、シオを探してるってことかな・・)
支部長の思惑を考えながら、ユウは奥へと進んでいく。
暫く歩いたところで、携帯端末のレーダーに変化がある。ユウは手の中のそれをポケットにしまい、神機を握り直す。そこへ、
ゴォォォッ!!!
全身を真っ赤に染めたグボログボロがマグマの海から飛び出してくる。ユウは内心ホッとしたのか息を吐き、目の前の敵を睨みつける。
(人型が・・・そういる訳ないよね)
足の裏に力を込めて、ユウは一っ飛びでグボログボロに近付き、振り上げた神機を叩き込んだ。
ザシュッ!!
「任務、御苦労だったね」
「・・・いえ」
極東に帰投したユウは、報告の為に支部長室に来ていた。変わらぬユウの対応に、支部長の方も変わらず笑顔。はたから見れば、妙な光景に見えるであろう。
「君が特務をこなしてくれるお陰で、エイジスの完成も間近だ。全人類が救われるまで君には苦労をかけるが・・・もう少しだ。頑張ってほしい」
「・・・はい。では、失礼します」
報告は終わり、支部長の長口上も聞いたので、ユウはその場を離れようと踵を返す。そこでやはりと言うべきか、支部長に呼び止められる。
「時に君は、人の姿をした荒神がいたとしたら・・・どうするね?」
「・・・・はい?」
その言葉にピクリと反応し、ユウは支部長へと振り返る。
「今まで人の顔を模した荒神、1部形が人に近い荒神・・・君も相手にしてきただろうが、完全に人の形をした荒神が現れたとしたら・・・・君ならどうする?・・・やはり、殺すのかな?」
「・・・・そうですね・・」
少し間を置いてから、ユウは口の端を上げてから答えた。
「会話でも、してみます」
ユウが出て行った後、珍しく支部長は厳しい表情を浮かべデスクに戻る。それから回線をある場所へと繋ぎ、指示を出す。
「私だ。榊博士の周辺に、網を張ってくれ」
『承知しました』
それからゆっくり目を閉じて、一人呟く。
「それは愚考な考えだよ・・・神薙ユウ君」
その夜。ユウは誰かに揺すられる感覚に襲われ、閉じていた目を開く。すると、
「ユウ!起きたか?」
「・・・シオ?」
寝惚け眼をこすって見ると、自分の上にシオがいた。
「なに〜、・・どうしたの?」
「やぁ!済まないね!」
「っ!!!榊博士⁉︎」
シオに話しかけたと思ったら榊博士が答えたので、ユウは驚きにベッドから転げ落ちる。
「いや〜、いい反応だね〜♪」
「だね〜♪」
「・・・なに?何ですか、いったい?」
頭が追い付かないユウに頷きながら、榊博士はシオの背中を軽く叩く。そうするとシオは、満面の笑顔でユウに応える。
「お散歩〜♪」
「マジで勘弁してほしいんですけど・・・」
夜の寺院後を歩きながら、コウタは文句を洩らす。
ユウが起こされた後、シオは第一部隊の各部屋を訪れ、ユウの時と同じ様に起こして回った。そうして今、全員を引き連れ夜のお散歩と洒落込んでいるのだ。
「まぁまぁ、コウタ君。シオが自らの意思で行動したのは、これが初めてなんだ。尊重してあげてくれないか?」
「だからって、何でこんな真夜中なんっすかー?」
「人目につきにくいと言えば、納得してくれるかい?」
「・・・・はぁ」
そう言われれば納得せざるを得ないコウタは、深く溜息を吐く。他の皆も眠いのか欠伸をしつつなので、コウタにツッコむ余裕もない。
「コウタ!コウタ!これ、知ってるか?『雪』っていうんだぞ?」
「はいはい、ようございましたね〜。・・・で、アリサは何でそんなにへこんでんの?」
「・・・最悪です」
突然訪問されたアリサの部屋は、服や物がとっ散らかっていた。それをレンカやシオに見られたものだから、別の意味で発狂し、顔を覆って俯く今の状態なのだ。
「・・・今度、片付けるの、手伝うか?」
「それだけは止めて下さい!」
レンカのフォローのつもりの優しさに、アリサは余計に鬱ぎ込む。
「それで、シオはどうしてここに来たかったの?」
外の寒さに目が覚めてきたサクヤが、シオに質問する。するとシオは、頭を抱える様にして首を捻り出す。
「ん〜、なんでかな〜?おっかしいな〜」
「理由もなく連れてこられたんですか⁉︎僕達はー⁉︎」
コウタの嘆きも気にせず、シオが悩み続けていると、ユウがフッと微笑みながらシオの頭を撫でる。
「もしかしてみんなで散歩をして、『仲良し』になりたかったの?」
「おぉ!それかな⁉︎ユウは、頭いいなー!コウタとは違うんだな!」
「どういう意味ですかー⁉︎」
ユウの言葉に皆はハッとしたのか、シオに視線を向ける。
「シオ、みんなと、仲良しだって、博士が。でも、シオはもっとみんなと仲良しになりたくって・・・えっとー、えっとー」
また頭を抱えて悩みだすシオに、サクヤも微笑みながら頭を撫でだす。
「そう。シオは、私達ともっと仲良くしたくて、遊びに連れ出してくれたのね」
「おぉー!たぶんそれだ!サクヤも、頭いいなー!コウタとは違うな!」
「それはもういいんだよ!!・・・ったく」
ツッコミながらコウタもシオの側まで来て、シオの頭を撫でる。
「別にこんなことしなくても、俺らはお前と仲良いっての」
「お?そうなのか?」
「あぁ!でも、ありがとな!」
照れくさそうに笑うコウタに、シオは満足したのか走り出す。それを皆は慈しむ様に眺める。
「なんかさ、あいつ・・・もう荒神に見えないのって、俺だけかな?」
「・・・・いや、俺もだ」
コウタの問いに、後ろからレンカが答える。そして答えずとも、皆同じ気持ちを顔に浮かべている様子を、榊博士は嬉しそうに見守る。
「きっとさ・・・、シオは僕達に出会う為に、生まれてきたんじゃないかな」
ユウはそんな願いを言葉にし、はしゃぎ回るシオを目で追う。
壊れかけのこの世界に生まれた、1つの可能性。榊博士が考える終着点に、彼等は気付き始めていた。
暫く歩き回ったところで、シオは突然雪玉を作り、コウタにぶつける。
「あたっ。って、なんだよシオ?」
「エヘヘー。偉かったか?」
「いや、意味わかんないんですけど・・」
急な行動に、榊博士も首を傾げる。そこでシオはユウとソーマを指さす。
「これな!前にユウとソーマがやってた!ここで!」
「・・・・あぁー、あの時・・。シオ、見てたんだね」
「・・・ちっ」
皆顔を見合わせ疑問符を浮かべていると、今度はユウが雪玉を作り思い切りソーマの顔面にぶつける。
「とりゃっ!!」
「っ!!!・・・・・てめぇ」
ゴゴゴゴゴっとバックに文字が出そうな勢いで睨むソーマに、皆顔が引きつりユウとシオは笑う。そしてユウは皆に向かって言う。
「要するに、シオは『雪合戦』がしたいんだよ!この前僕とソーマがやってたのを見て、楽しそうって思ったんじゃない?」
「雪合戦・・・、ソーマが?・・・ぷふっ!」
もっとも似合わない掛け合わせに、サクヤが吹き出したのを見たソーマは、少し大きめな雪玉を作る。そして、
「ふふふっ、はぶっ!!」
サクヤの顔面にぶつける。
「ふん」といつもの調子でそっぽを向くソーマに対し、サクヤは眉間に皺を寄せながら笑う。
「・・上等じゃない、ソーマ」
「・・・自業自得だ」
それをきっかけにサクヤは素早い動作で雪玉を作り、ソーマに投げ付ける。が、ソーマはそれを華麗にかわし、飛んできた雪玉は後ろにいたアリサに当たる。
「・・・雪合戦、やりましょうか?」
アリサの方も得意の背中に阿修羅で雪玉を作り出し、それをマシンガンのごとく乱れ放つ。それを呆然と見ていたコウタとレンカ、榊博士に当たる。
そうなると皆スイッチが入ったのか雪玉を投げ合い、ここに第一部隊による『きゃっほう!!夜の大雪合戦!!』が開幕したのだった。
次の日。
待望のシオの服が完成したとリッカから連絡が入り、皆は榊博士の研究室へと集合していた。奥の資材部屋にシオの着替えをサクヤが手伝いに入ってから、5分もしないうちに扉が開く。
「お待たせ〜♪」
サクヤの言葉に背中を押され、シオが照れくさそうにその姿を披露する。
「おぉ♪いいじゃ〜ん!」
「確かに、可愛いな!」
「すっっっごく、似合ってます!!」
「うん!似合ってるよ、シオ」
みんながそれぞれ絶賛する中、ソーマは相変わらず口を噤んでいる。それに呆れて、ユウはソーマを促す。
「ソーマ、何か言ってあげたら?」
「・・・ぁ、あぁ。・・似合って、るんじゃないか?」
「お、おぉ。意外な反応・・・」
ソーマの珍しい行為にコウタがツッコむと、ソーマは舌打ちをしながら背中を向ける。
「おぉ?おっ?おっ?おぉー?・・・エヘヘへ」
皆が褒めてくれるのが嬉しいのか、シオは頬に手を当て喜ぶ。それから急に手を前に組むと、息を静かに吸い込み、口を開く。
「〜〜♪〜〜〜〜♪〜〜、〜♪〜〜〜♪」
シオの口から流れたメロディに、皆驚きの顔で聴き入る。
暫く口ずさんだ後、シオは閉じていた目を開け、皆に笑顔で喋り出す。
「これ、知ってるか?『歌』っていうんだぞ?」
「・・・え、えぇ」
まだ驚きの消えない中、サクヤがかろうじてそれに答える。そんな様子に、シオは無垢な笑顔で首を傾げる。
「・・博士、これは・・?」
「いや、私では・・・ない」
レンカの質問に、榊博士は首を横に振る。「ならどうして」と誰かが口にする前に、シオがその答えを口にする。
「これな、ソーマと聴いたんだぞ!」
「ば、馬鹿!おまえ・・!」
そんなやり取りに皆はソーマに注目し、最初は意外な顔を浮かべたものの、途中からニヤニヤと笑い出す。
「へぇ〜、意外ですね♪」
「まさか、ソーマがね♪」
「ソーマさんに、そんな一面が♪」
「ふぅ〜ん♪あの、ソーマがね〜〜♪」
「いやいや〜、まさかソーマさんがそんなロマンチストだったなんて♪ぷぷっ!」
そんな皆の言葉に、ソーマは「ちっ」と赤くなった顔を腕で隠す。
「くそっ・・・、これだから・・・」
からかわれるのを避けるように部屋を出ようとするソーマを、シオが楽しそうに捕まえる。それを振り払えずに、結局ソーマは皆が飽きるまで色眼鏡で見られ続けた。
シオと第一部隊の絆。深く突っ込んで書きたいと思い書きました!