GOD EATER 〜神無き世界〜   作:死姫

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36話 真実の方舟

 

カタッ

「これは・・・」

目の前に置かれた記録ディスクを見て、榊博士は厳しい表情を見せる。

何度かの試みに限界を感じたのか、サクヤはこの手に詳しい榊博士に相談を持ちかけたのだ。

「これは・・・リンドウが私の部屋に隠していた物です。どうやっても、中を見ることが出来ませんでした。ですから、・・・榊博士なら、これを見る事が出来るのではないかと思って・・」

「・・・・うむ」

表情を崩さぬまま、榊博士は手を前に組み悩む。おそらくリンドウが残したものであれば、自分の考えているものが記録されているであろうと考えたからだ。

果たしてそれは、開示していいものなのかどうか・・・。

「・・・博士は、この中身を知ってらっしゃるんですね」

「・・・・そうだと、言ったら・・、サクヤ君は、どうする?」

「・・・・・」

ある意味予想通りの答えに、サクヤは目を閉じてから覚悟を決める。そう返された時の対処を、とるために・・。

「ならば、教えて下さい。これには、何が記録されているのかを!」

「・・・・」

「私は、知りたいんです!リンドウが私に、何を伝えたかったのかを!」

「・・・それを知ると、君は後戻り出来なくなる。・・それでも、良いのかね?」

榊博士も、サクヤの覚悟を確認する為、顔を上げる。

そこには、強い気持ちを瞳に込めた、女性がいた。

暫くの沈黙の後、榊博士は自分のPCのアイコンの中から、あるファイルを呼び出す。

「・・・私は以前から、リンドウ君にあるお願いをしていた。それの答えが、おそらくその記録ディスクに残っている」

「これに・・、博士から頼まれたものが」

幾つかのウィンドウを開いてから、サクヤに見えるようにディスプレイを動かす。

「おそらくあのディスクには、リンドウ君の腕輪の認証が必要なのだろう。彼の腕輪は墓石に埋め込まれているから、取り出すと厄介なことになる。・・・なので、私が受け取ったデータから、君に伝えようと思う。残したからには、リンドウ君もそう願ってのことだろうからね・・・」

「博士・・・、ありがとうございます」

サクヤの礼に頷くと、榊博士はある画像を写す。

「それではサクヤ君。・・・覚悟して、これを見てくれ」

「はい。・・・・・・っ!!これ、は!!」

それは、リンドウがエイジスで見た、逆さ吊りの巨大な生物だった。

 

 

全てを目にしてからサクヤは、来客用のソファーに腰掛ける。想像もしていなかった大量な情報に頭を抱えていると、榊博士がコーヒーを目の前に置き、対面に座る。

「今見て貰ったのが、リンドウ君が生前調べ上げてくれた事だ」

「・・・・そう、ですか」

放心するサクヤを気にかけながら、榊博士は話を続ける。

「私も・・・正直、信じたくはなかった。だが現実とは、いつも期待通りとはいかないものだね・・」

「リンドウ・・・」

自分を落ち着ける為か、サクヤは用意されたコーヒーを口にする。少し舌に苦いそれが、止まった思考に刺激を与える。

「・・・・もしかして、リンドウは・・・、これを知ったから・・・殺された・・・とか」

「・・そこまでは、私からも何とも言えない。いや、思いたくないと言った方が、正しいのかな」

リンドウが亡くなった時の、作戦中の数々の謀略。それが全てリンドウを消す為だったとしたら・・・。明かされた真実と合わせ、共通に関わっている人物が、黒幕という事になってしまう。

「・・・シックザール、支部長」

「・・・・」

サクヤの呟いた名に、榊博士は目を閉じる。本当はわかっている。でもわかりたくない。榊博士にとっては、研究を共にした大切な友でもあるからだ。

そしてわかっているからこそ、彼に最後のピース、シオを渡すわけにはいかない。彼とは違った形の答えを示す為にも・・・。

「博士は・・・、どうするんですか?」

「私かい?・・私は、自分の研究を全うするだけだよ。それが私にとっての、戦いだからね」

「そう、ですか・・」

サクヤはコーヒーに浮かぶ自分を見ながら、前に進む為に視線を博士に移す。

「それは・・、私にも、手伝えますか?」

その決意ある言葉に、榊博士は微笑む。

「あぁ。君と、君の仲間達にしか、出来ないこと。それが私の考える答えさ」

 

 

潮の風が香る堤防の上。

シオを食事に連れてきたソーマは、遠くの孤島に建設が進むエイジスを見ていた。一人物思いに耽る隣に、ユウが上ってくる。

「・・エイジス、見てるの?」

「・・・・あぁ」

夕陽が沈む中、二人は並んでエイジスを眺める。暫く黙ったままの時間の後、ソーマが口を開く。

「あの野郎が・・・、何の為にシオを必要としているのかは、俺も知らねぇ。榊のおっさんは、気付いてるみたいだが・・」

「うん・・・」

それからまた暫くの沈黙が続いてから、ソーマはユウに顔を向ける。

「でもな、俺はシオをいいように利用するなら、あの野郎だろうが榊のおっさんだろうが・・・許さねぇ。あいつに・・・、俺の様な思いはさせたくねぇんだ」

「・・・そう」

そんなソーマの決意に、ユウは微笑む。

「僕も、そんなことはさせないよ。シオも・・、ソーマも僕の友達だからね」

「・・・そうか。・・・ユウ、悪いな。おそらく、付き合わせる事になるが・・」

「いいって。その為に手に入れた力だから」

ユウの台詞にフッと笑みを浮かべ、ソーマは再びエイジスに視線を向ける。その時視界の端に入ったモノに、ソーマは反応する。

「・・シオ?」

「え?」

ソーマに次いで視線を移動すると、すぐ後ろで食事をしていた筈のシオが、いつの間にか崩れた建物の上に立っていた。そして海に浮かぶエイジスを見ながら、小さく呟く。

「・・・・呼んでる。シオを・・・、・・あそこで・・誰かが・・」

吸い込まれる様に一歩ずつ進むシオは、その体を青白く光らせる。それは初めて会った時、神機を沈黙させた時と同じ現象。

「な、に言ってるの?シオ!」

「シオ!待て!行くな!」

「・・・・ユウ、ソーマ・・・っ!!」

二人の訴えに反応したのか、シオは体をビクッと跳ねさせてから、その場に倒れる。

「シオ!くそっ!何なんだ、いったい!」

駆け付けたソーマはシオを抱き上げて、軽く揺すって反応を確かめる。しかしシオは、糸の切れた人形の様に動かない。その様子にユウは口の前に手をかざして、息を確かめる。

「呼吸はあるみたい。すぐに連れて帰ろう!早く車へ!」

「わかった!・・・シオ」

ソーマの背におぶらせてから、二人は急いで車へと走った。

 

 

「・・・そうか。二人共、御苦労だったね」

榊博士はシオをベッドに寝かせてから、ソーマとユウに視線を移す。ソーマは落ち着かない気持ちを抑え切れず、榊博士に食って掛かる。

「おい、博士!シオはどうした⁉︎何で倒れた⁉︎倒れる前に見ていた、エイジスと関係あるのか⁉︎」

「ソーマ!落ち着いて!」

今にも掴みかかろうとするソーマを、ユウが肩に手を置き制する。

「・・・くそっ!」

ユウの顔を見てから、ソーマは舌打ちしながら顔を背ける。それを見てからユウは、榊博士に目線で訴える。

「博士・・・」

「わかってるよ。・・・私の推測でしかないが、それで良ければ、話そう」

大きく息を吐いてから、榊博士はデスクの部屋へと移動しながら口を開く。

「・・・シオは、おそらくエイジスに呼ばれたんだと思うよ」

「エイジスに・・・呼ばれた、だと?」

黙って後ろについて来るソーマが返したところで、デスクのある部屋に着く。中に入ってから榊博士はPCを立ち上げ、手早くファイルを呼び出す。

「・・・これを、見てくれるかい?」

「これは・・・っ!!なっ!」

「・・・・・なんだ・・、こいつは?」

ユウとソーマが見せられたのは、エイジスの中の画像だ。その不可解なモノに驚愕する二人に、榊博士は答える。

「これは・・・リンドウ君が調べてくれた、エイジスの中の真実だよ」

「リンドウさんが⁉︎じゃあ、この写真は・・!」

「・・・リンドウ君が、エイジスに潜入して撮ってきたものだよ」

驚くユウとは相反し、ソーマは落ち着きを取り戻したのか、冷静に聞き返す。

「それで?こいつが、シオを呼んだってのはどういう事だ?」

「・・・・まだ、私にもわからない。・・しかし、シオがエイジスから干渉受けたとするなら、コレしか考えられない」

「干渉って・・・、これからシオに何らかの影響があったと?」

ユウの問いに黙っている榊博士に、ソーマが目を細めながら詰め寄る。

「博士。・・こいつは、荒神じゃないのか?」

「・・・・そうなんですか?博士」

「・・・・・」

榊博士は椅子に腰を下ろしてから、溜息を吐いてから話し出す。

「そうだ。・・・リンドウ君の報告から、私もほぼ間違いないと確信している。これは、人工的に作られた荒神だ」

「人工的に・・・作られた、荒神」

「ろくでもないとは思ってたが、そんなもんを作ってたのか。・・・あの野郎」

榊博士は画像を閉じてから、今度は別のファイルを開く。そこには、いくつもの名前が表記された書面が映し出される。

「これは・・・、なんですか?名前が書かれてますけど・・」

「これには、各国の著名人の名が記されている。エイジスのコンピューターをハッキングして入手したものだよ」

「・・・それがどうした?」

「次は・・・こっちだ」

再び別のファイルが立ち上がり、ユウとソーマはそれに目を通す。

「『アーク計画』?・・何だこれは?」

「・・・終末、捕食?・・これって!!」

そのまま書面を下に追っていったユウとソーマは、理解と同時に目を疑う。そんな二人に確認するように、榊博士が言葉を紡ぐ。

「この世界を滅亡させる終末捕食。それを強制的に起こし、選ばれた人類を宇宙へと逃がし、終幕を経た地球に戻って来て新たに世界を再建する。それが『エイジス計画』を盾に裏で進められている本当の計画、『アーク計画』だよ」

改めて榊博士が口にしたそれは、ユウとソーマの心に大きな怒りを刻みつけた。

 

 

眠っているシオを看ながら、ユウはベッドの横に座るソーマに話しかける。

「アーク計画・・・。僕達の名前もリストに書かれてたね。・・ソーマは、どうする?」

「・・・・俺の答えはとっくの昔に決まってる。それより、お前はどうする?」

質問を返してきたソーマに、ユウは肩を竦めて答える。

「僕も・・・ソーマと同じだと思うよ」

「そうか・・・」

短い会話にお互い納得してから、ユウとソーマは静かに笑い合う。そうしていると、いつの間に目覚めたのか、シオがそれに交ざって笑い出す。

「っ!!シオ!気付いたのか⁉︎」

「うん!ユウとソーマが嬉しそうだったから、シオ嬉しくなった!これ、偉いか?」

「・・うん。偉いよ」

「そっかー。偉かったか!」

シオが照れながら笑うのを見て、ソーマは溜息を吐いて微笑む。

「ふん。・・・呑気なヤツだ」

それから三人は一緒に笑い合った。

 

 

三人の笑い声が響くのを耳に、榊博士は拳を握り締める。そして凶行しようとしている友へ、届かぬ声を洩らす。

「ヨハン・・・、やはり私は、この子達の笑顔を奪えない。・・・だから私は、観測者である事を・・・辞める」

その決意を口にし、榊博士はPCのキーボードに手を走らせる。

 

 

 

 




早々にアーク計画の名を出しましたが、話はまだまだ続きます!
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