『本日より、支部長から極東支部全従業員に、個人面談を行います。呼ばれた者は、即出頭願います』
突然のお触れに戸惑う者達の中、サクヤは時が来たのを感じ、自分の意思を仲間に伝える為、歩き出した。
「エイジス計画が・・・、嘘・・」
翌日レンカの部屋に集まった第一部隊は、サクヤの口から伝えられた話にそれぞれが狼狽えていた。落ち着いた様子なのは、既に知っているユウとソーマ、それに話を持ち出したサクヤだけだ。
「そんな・・・じゃあ、全人類が助かるって話も・・!」
家族と安全に暮らせる事を夢見ていたコウタは、まだ信じられないといった表情でサクヤに詰め寄る。しかし、サクヤの反応はやはり期待通りではなかった。
「そんな話は、無いわ。エイジスは、アーク計画を隠蔽するためのフェイクでしかないの。つまり支部長は、自分の計画を遂行するために世界中を騙していたの」
「・・そ、そんな・・・」
がっくりと項垂れるコウタ、怒りに震えるレンカ、計画に利用された事を悔やむアリサ・・・。新人組の様子を伺いながら、サクヤは話を続ける。
「ちなみに、アーク計画の宇宙船搭乗者リストには、ここにいる全員の名前があったわ。・・・おそらく望めば、家族も連れて行けるはずよ」
「っ!!それって・・!!」
サクヤは1度目を閉じてから、聞き返してきたコウタに目をやる。
「・・コウタ。あなたが希望すれば、家族と一緒に行けると思うわ」
「そう、か・・。で、でも、みんなは⁉︎」
「・・・俺は・・」
「・・・・」
選択を迫られた新人達が黙ってしまうと、再び沈黙が部屋を包む。それを破るように、ユウが口火を切る。
「・・・僕は、残るよ」
「「「えっ⁉︎」」」
三人が視線をユウに向けて驚いていると、ソーマも後に続く。
「俺も残る。あの野郎の思い通りになるのは、ごめんだからな」
「・・ソーマさん」
そんな二人を見て、サクヤもフッと笑みを浮かべながら前に出る。
「当然、私も残るわ。この話を知った時から、私の答えは決まってるの」
「サクヤさん・・・」
声を掛けてくるアリサの肩に手を置いて、サクヤは微笑む。
「アリサ。昨日から始まった支部長の個人面談。おそらくは、アーク計画の話だと思う。順番的に明日には私達も呼ばれるわ」
「・・・はい」
それからコウタとレンカにも視線を移し、サクヤは話を続ける。
「あなた達も・・・。その時までに答えを決めときなさい。例え敵対したとしても、私達はあなた達の選択を尊重します」
「・・・邪魔をするなら、容赦しないがな」
「ソーマ!」
「ふん・・・」
横から口を挟んできたソーマを窘め、サクヤは改めて皆に言葉を投げかける。
「どんなことがあっても、私達は第一部隊、1つの家族のようなもの!ここから先、道を違えようとも、それだけは忘れないで」
その言葉を切っ掛けに、サクヤ、ユウとソーマは、部屋を後にする。残されたレンカ、コウタ、アリサは、ただ黙って悩み続けた。
部屋を出てからサクヤ達は、榊博士の研究室へと足を運んでいた。一人状況をわかっていないシオがはしゃぐ中、榊博士を含めた四人で、今後の事を話し合っていた。
「・・・第四部隊の子から聞きました。やはり、アーク計画の話を持ちかけられたそうです」
「そう・・・。もう、準備が出来たという事でしょうか?」
「おそらくは、間違いないだろうね。・・・後は、シオだけだろう」
「そんな事はさせねぇ。シオは・・・あの野郎にだけは・・!」
与えた車のオモチャを走らせるシオを眺めながら、決意を固める四人。まだ支部長もシオがここにいるとは知らないであろう。勘付いてはいるかもしれないが・・・。
「また・・・、減っちゃった、わね・・」
「え?」
ポツリと呟いたサクヤの横顔に、ユウは問い掛ける。それにサクヤは、苦笑しながら返す。
「ほら。折角ユウが来てから大所帯になったのに、今は来る前と同じ三人。寂しくなっちゃうわね〜」
「あぁ、そういう・・。でも、まだそうと決まった訳じゃないですよ」
「ううん。こんなクーデター染みた事、付き合わせれないでしょ?あの子達には、こちら側に来てほしくない」
切なげな表情を浮かべ笑うサクヤに、ユウもまた同じ顔をする。そこにソーマが「ちっ」と舌打ちをし、悪態を吐く。
「別にあいつらが居ようが居まいが、どうだっていい」
「もう、ソーマは。ユウのお陰で少しは丸くなったと思ったのに・・相変わらずね」
「・・・うるせぇ」
そんなソーマに苦笑してから、榊博士が話し出す。
「とにかく、支部長にシオを渡さない間に、君達にエイジスの未完の巨大荒神を破壊してもらう。その映像と集めたリストや計画書を世界中に公表すれば、アーク計画を壊滅出来る。その為の準備を、私は急ぎ進めよう。1番酷な戦闘を、君達三人に任せるようになるが・・・よろしく頼むよ」
その言葉に三人は深く頷き、アーク計画の要、終末捕食を起こす為の巨大荒神を意識する。
そんな時・・・。
ガタッ、ガタガタッ!ガタガタッ!・・・ブゥンッ
突然地震が起こったのか、部屋の棚や積まれた機械が揺れ、明かりが落ちて非常灯だけが照らす。
「・・・なんだ?」
「多分地震かな?・・・博士?」
ユウの言葉に落ち着いた様子で、榊博士が答えを返す。
「問題ないよ。この建物はメインシステムが落ちた場合、サブシステムへと切り替わりそこから電源も普及する。・・・おっ?ほらね」
それで皆が安心してから暫くして、榊博士の顔が徐々に青ざめていく。
「し、しまった。・・メインシステムが、落ちたのか・・・。だとしたら・・!」
「え?・・博士?」
サクヤが気にかけてきたのを振り払うように、榊博士は焦りながら叫ぶ。
「サクヤ君!すぐにシオを連れてこの部屋から出てくれ!ユウ君とソーマ君は・・!」
ガチャッ!
ザザザザッ!!
榊博士の声を遮るように、衛兵達が研究室へと雪崩れ込んでくる。それに咄嗟に構えをとったユウとソーマだったが、
ババババッ!!
「がっ⁉︎」
「ぐぅっ⁉︎」
遠隔用スタンガンで痺れさせられ、その場に倒れる。
倒れたユウの目に入ったのは、見慣れた黒い編上げブーツ。そこから視線を上にあげてから、顔を歪め睨みつける。
「・・・シックザール・・支部長・・・!」
「やぁ、神薙ユウ君。やはりと言うべきかな?博士についていたのは」
「くぅっ!・・・野郎!!」
ソーマの声には耳を貸さず、支部長は榊博士へと足を進める。その後ろではシオを背中に隠すサクヤが立っている。そんな二人に微笑みながら、支部長は口を開く。
「まさか自然現象に救われるとは・・・、皮肉なものだな。ペイラー」
「私もまさか、こんな形で君に暴かれるとは、思ってもみなかったよ。ヨハン」
「・・あ、あの、どういう事ですか?博士」
後ろから飛んでくるサクヤの問いに、榊博士は悔しげに答える。
「私の部屋のセキュリティは、この開発局独自のメインシステムによって動かしている。だからこそ外からの介入を許さない形を取れていたのだが、サブシステムに切り替わると話は別だ。サブシステムは極東全域に干渉する。つまり・・・」
「今まで見えなかったモノが、丸見えということだよ。サクヤ君。もっとも、ここまで早く対応できたのは、初めから網を張っていたからだがね」
「・・・そういう、こと!」
状況を理解したサクヤは、シオを前に出さないよう手を伸ばす。その後ろから、倒れたソーマとユウを心配そうに眺めるシオ。それを庇うように前に立つ榊博士。そんな三人が愉快なのか、支部長は低く笑いながら手を前に差し出す。
「お喋りはこの位にして、本題に入ろう。・・・サクヤ君、それをこちらに渡してくれるかな?」
「誰が・・・、渡すものですか!」
荒神を庇い立てる姿が滑稽といった顔で、支部長は1歩前に歩みを進める。その足を、倒れていたソーマが掴み止める。
「待て・・っく!!あいつに・・、触る、なー!!」
必死に抵抗する息子に冷たい視線を向ける支部長。少しの間を置いてからそれを振り払い、支部長は溜息を吐く。
「まったく・・・、君達はそれがなにかわかっているのか?それは人類の敵、荒神だ!それ以上でも、それ以下でもない!」
「違う!!」
支部長の発言に怒りを露わにしたユウが、痺れる体を必死に起こそうとしながら叫ぶ。
「シオは・・・、シオは・・・荒神、なんかじゃ・・ない!」
「ほほう。ならば、何だというのかね?」
呆れた様子で笑う支部長に、その体を無理矢理起こし、ユウは正面を向いて言葉を放つ。
「シオは、僕達の、家族だ!」
「・・・・・」
その答えが期待外れだったのか、支部長は首を横に軽く振り、指を鳴らす。それを合図に、控えていた衛兵は立ち上がったユウと抵抗しようと足掻くソーマを取り押さえ、榊博士とサクヤを押しのけ、シオを運んできた小さな檻に押し込む。
「ちょっと!離しなさい、よ!!シオ!!」
サクヤの抵抗も虚しく、シオの入れられた檻の鍵はかけられ、そのまま外に運び出される。
「ここ、やだ!やだやだ!!博士!サクヤ!ユウ!」
「くっそーー!!」
「待って!シオー!!」
「シオ!」
檻の中で暴れるシオは、倒れたソーマと目が合う。そして隙間から一生懸命手を伸ばし、ソーマもそれに応え手を伸ばす。
「ソーマ!ソーマー!!」
「くそっ!!シオーー!!」
伸ばされた手は届くことはなく、扉は閉じられ、ソーマは力無く顔を伏せた。
神機保管庫に来ていたレンカは、リンドウの神機の前に立っていた。今日はそこまで出撃する者がいないのか、いつもに比べて静まり返っている。
「・・・リンドウ・・、・・俺は」
今は亡きリンドウに、自分の向かう先を尋ねるように呟き、返ってくるはずのない答えに俯き拳を握り締める。
そこへ、足音が一人分鳴り響く。そちらへゆっくりと顔を向けると・・、
「アリサ・・・」
「・・レンカ、リンドウさんに相談ですか?」
アリサが優しく笑みを浮かべやって来る。
二人並んで、リンドウの神機を見つめながら、アリサが口を開く。
「どうするんですか?・・レンカは?」
「俺は・・・」
一息吐いてから、レンカは話し出す。
「俺が、ゴッドイーターになったのは・・・、こんな世界を覆す為だ。・・小さな幸せを、人々の笑顔を守る為に、この力を望んだんだ」
「・・・・えぇ」
「だから、何かを犠牲にして手に入る幸せを、俺はこれ以上望んじゃいけないんだ!そうじゃないと、俺の命の為に犠牲になってくれた、俺の家族に、顔向け出来ない!」
「・・・そうですね」
優しく微笑みながら、アリサはレンカの決意を噛み締める。そしてアリサも顔を引き締め、レンカへと顔を向き合わせる。
「私も、あなたと答えは同じです!こんな世界になってまで、人が人の命を軽んじるのは、間違っていると思いますから!」
「アリサ・・・、あぁ!そうだ!」
二人は決意を新たにリンドウの神機を見つめ、そして1礼する。それから認証端末の前に行き、腕輪を読み込ませ、自分の神機を呼び出す。
「ユウさん達が捕まったのは、おそらく俺が謹慎前に入っていた地下牢の筈だ。場所は俺が案内する!」
「みんなが捕まった時点で、シオちゃんは支部長の手に・・・。あの子も、必ず助けます!」
「あぁ!行こう!」
二人は己の神機を手にし、極東内へ向かって走り出した。
コウタは実家の二階の自室から、窓の外をボーッと眺めていた。
エイジス計画が嘘だったというショックから、自分の思い描いた家族の幸せを叶えられないと知ったのだ。
彼の望みは、自分と関わった人達みんなと、エイジスで幸せに暮らすことだった。この極東の居住区に住む人々、極東で働く人達、同じゴッドイーターとして戦う仲間、ダム近くの集落の人達、自分自身の家族、そして・・・、第一部隊の仲間。みんなと平和に暮らすことだ。
アーク計画で望めるのは、自分の家族のみ。一般人はリストには上がっていないし、第一部隊はおそらく皆話にのらない。自分だって本当はのりたくない。しかし・・・、のれば家族だけは救える。いくつもの考えが頭を渦巻き、どうしていいかわからなくなってきた時・・。
ピピッピピッ
「え?・・・これ・・」
自分の携帯端末を確認すると、レンカからメールが届いている。このタイミングだから少し迷ったが、コウタは震える指で開封ボタンをタップする。
「っ!!なっ、なんで!!」
メールには急いで打って寄越したのか、簡単な内容だけ3行にまとめられていた。
『ユウさん達が捕まった。シオもさらわれた。助けてくれコウタ』
そのレンカらしい淡白なメールに事情を飲み込んだコウタは、携帯端末を握り締め、目を閉じる。
「くそっ。くそくそっ!俺は、・・・くそっ!」
コウタが自然と洩らした声を聞きつけたのか、母親が2階へと上がってくる。
「・・コウタ?」
「あっ・・、ご、ごめん!なんでも、ないよ」
必死に誤魔化そうと背中を見せるコウタに、母は優しく笑みを浮かべ、肩に手を置き抱き寄せる。
「え、あっ・・・母さん?」
「あんたは、本当に父さんと一緒で、隠し事が出来ないんだね」
「えっ?・・・何、いって」
疑問をぶつけるコウタに、母は笑みを崩さず話を続ける。
「父さんが亡くなる前にね、言ってたの。『コウタは優しい男だから、友達の事で悩んだりするとすぐ顔に出るだろうから・・・。迷ってるなら背中を押してやってくれ』って。自分だって、同じ事ですぐ顔に出るくせにね」
「・・・父さん」
懐かしむように笑う母に、コウタは涙をこらえながら俯く。肩を震わすコウタを自分に振り向かせ、母は強い口調で想いを伝える。
「行ってきな、コウタ!あんたの友達が、待ってるんだろ?例えそれで私達家族が犠牲になっても、あんたの足枷になるぐらいなら、死んだ方がマシなんだよ!」
「・・・母ちゃん・・俺・・!」
「私達を犠牲にしたくないなら、全部守ってみせな!あんたは、父さんの子だろ⁉︎」
「っ!!!」
その言葉に、溜めていた涙を拭ってから、コウタは真っ直ぐ母を見つめる。
「俺、行くよ!それで、全部守るよ!だから・・・、っ!・・行ってきます!!」
「うん!行ってらっしゃい!」
そう伝えてからコウタは2階から駆け下り、テレビを見ていた妹の頭を撫で回してから笑う。
「兄ちゃん、ちょっとヒーローになって来るな!」
「えっ?う、うん・・」
そしてコウタは家を飛び出し、極東へと足を速めた。
ゴッドイーター最終戦までもう少し!
バースト編も考えないと・・・。