「実に・・・素晴らしいよ!神薙ユウ君!君こそ、私の理想だ!」
突然の発言に、三人は首を傾げる。彼が何を言っているのか、全く理解出来ないのだ。
「何を・・・言ってるんですか?」
怒りの感情を納めず、ユウは支部長へ聞き返す。そんなユウを見据えながら、支部長は話し出す。
「私が・・・何故、君を重宝したのかわかるかな?・・君を、この世界の英雄に仕立て上げる為さ」
「てめぇ・・・、この後に及んで何を・・」
「わからないかな?・・・滅びゆく世界で、新たな未来へと導く、強く、賢く、勇敢な絶対なる正義。それが私の考える、アーク計画には必要だったのだよ!」
「あなた・・・正気なの?」
サクヤの問いに、支部長は真面目な顔に切り替えてから答える。
「もちろん、私は正気だよ。荒神が生まれてから、この世界はいずれ滅びゆく運命。それをただ待っているだけならば、いっそ都合の良いシナリオをこちらで準備し、こちらのタイミングで滅ぼせば良い。後世に繋ぐ命をこちらで確保し、それから終末捕食を起こし、地球から荒神を一掃し、やり直す。そうすれば人類は新たにやり直せる!」
「・・・支部長」
「だが、正しく導いてくれる者がいなければ、荒廃した世界で新たにやり直す事は不可能だ。そこで、君だよ。神薙ユウ君」
ユウを指さし、支部長は再び笑みを浮かべる。
「君は私の理想とする英雄になり得る人物だと、初めて見つけた時から感じていた」
「初めて・・、見つけた・・・?」
「そうさ。君が、フェンリルの医療班に拾われた時からね」
「っ!!!」
その言葉に、ユウは一気に殺気だった。両隣りに並ぶ、サクヤとソーマに鳥肌を立たせる程に・・。
「君は本当に私の理想通りとなった。後は君に、選ばれた千人の人々と共に宇宙へと飛んでもらい、戻ってきたこの世界の導き手になって貰うだけだ。・・・頼まれてくれるかな?」
「ふざけるな!!」
支部長の頼みを突っ撥ねるように、ユウは神機を構え睨みつける。
「・・おい」
「ユウ、待って!」
サクヤとソーマがその肩を掴み、飛び出しそうなユウを抑える。しかし、ユウはジリジリと前へと進み出す。
「好き勝手な事をベラベラと・・・、神にでもなったつもりか⁉︎」
「そうさ!私は神となる!この世界の終焉を左右できる力を持ったのだから!ペイラー!いるんだろ⁉︎今回は私の勝ちだ!!」
それに応えるように、暗がりから榊博士は出てくる。その目は、かつての友を哀しむように切なげだった。
「どうやら、そのようだね。まさかユウ君をその様に利用していたとは・・」
「そうさ!君の切り札もこちらの物となった今、私の計画以外人類を救う方法はない!・・・そうだ。ソーマ、この荒神にご執心なら、空っぽの器で良ければ、君に返そう」
その台詞が合図となってか、囚われていたシオの体は解放され地面へと落下する。
「っ!!!くそっ!!」
ソーマが全力で駆けつけるも遅く、シオの体は地を跳ね倒れ伏せる。届かなかった手を握りしめ、ソーマが歯を噛み締める。そこで、サクヤの力でのみ抑えられていたユウは、静かに神機を下ろす。そして・・。
ビュッ!!
「きゃっ!!」
地を蹴って飛び込んだユウが、一気に支部長へと斬りかかる。
「はあぁぁっ!!!」
ギィンッ!!
しかし、刃が届く前に弾かれ、ユウは後方に着地する。そして視線を向けた先には・・、
「何なの・・、あれ・・!」
「ヨハン、君は・・・」
「・・・・荒神・・」
支部長への攻撃を防いだのは、女性をかたどった荒神だった。その後ろには、その荒神を守護するかのように、もう1体・・。
2対で1つの荒神を愛でるように、支部長は喋り始める。
「今君達に邪魔される訳にはいかない。ユウ君にも1度眠って貰わないといけないからね。些か不本意ではあるが、私が相手をしよう。・・この荒神と共にね」
「荒神と?」
「・・・まさか、ヨハン!君は、荒神と一体化しようというのか⁉︎」
榊博士の叫びに皆目を見開き、支部長へと目を向ける。
「そうさ!私こそ神となるのだ!この世界は、私が変える!」
そう言って支部長は、2対の内の後方に位置する荒神の中へと、その身を投げ入れる。そして・・・。
グゥオォォォオォォンッ!!!
『私の計画の礎となれ!ゴッドイーター達よ!!』
叫びと共に支部長の声が響く。それを悔しげに睨みつける榊博士は息を吐き、踵を返し歩き出す。
「私がいては、君達の足手まといだろう。・・・彼を、止めてくれ」
そう言って暗がりへと姿を消す。サクヤが戦闘の為に構えたところで、ユウが急に笑い出す。その行為にサクヤも、シオの側にいたソーマも、驚きの表情を見せる。
そして、笑い声が落ち着いて間も無く、ユウは顔を上げて言い放つ。
「相手が荒神なら・・・、喰い尽くしても、文句無いですよね!!」
そして2対1体の荒神、アルダノーヴァへと斬りかかった。
「ああぁぁあっ!!!」
ギィンッ!!
『そうだ!もっと抗いたまえ!君の戦闘は、後世に残す為に記録してるのだから!!』
ズバババッ!!!
ユウと支部長、アルダノーヴァの戦闘が始まってから、サクヤはソーマの元へとやって来る。
ソーマはシオを腕に抱き、その頭を優しく撫でる。
「ソーマ・・・」
「・・もっと、・・・早くこうやって、撫でてやれば良かった」
ソーマはただ優しく、シオを抱き締め、歯をくいしばる。そんなソーマの肩に手を置き、サクヤは喋りかける。
「わかるわ。・・・後になって、色んな後悔が襲ってくるわよね」
「・・・・」
「でもね、今は目の前の敵に集中して!今、あなたの仲間が戦ってるの!私だけじゃフォローしきれない。ユウと肩を並べられるのは、あなただけなの!力を貸して!」
その言葉に力を取り戻したのか、ソーマはゆっくりシオを地面へと寝かせる。そして、手離してた神機を握りしめ、ユウと戦闘するアルダノーヴァへと目を向ける。
「・・・サクヤ・・・、俺の父親とか、気にするなよ。あいつは、俺達の敵だ!」
「えぇ!そうさせてもらうわ!」
「いくぞ!」
走り出したソーマに続いて、サクヤもその足に力を込める。
「くっ、そぅ!!」
何度も弾かれる攻撃に苛立ちながら、ユウは2の手3の手と斬りつける。しかし、2対が互いの隙を埋めるように防いでくるので、中々決定打に踏み込めない。
『どうした?流石の君も、神には敵わなかったかな?』
「・・黙れー!!」
怒りに任せて振り抜いたのに合わせ、前の女性型が指を突き出す。
『そろそろ、眠って貰うよ。神薙ユウ君』
指先が光りだし、ユウに向けてレーザー状の攻撃を放つ。
「っ!!」
「ふっ!!!」
当たったかという瞬間に、横から飛び出してきたソーマが、ユウを掴んでレーザーを躱す。掴まれたユウは目を丸くし、ソーマを見つめる。
「一人で突っ走ってんじゃねぇよ」
「あ・・・、ごめん」
気の無い返事を返してくるユウに「ちっ」と舌打ちをしてから、ソーマは手を差し出す。
「いくぞ、新型最強」
その言葉に、ユウも冷静さを取り戻し、いつもの調子でその手を掴む。
「いこうか、地上最強」
そして二人は少し笑い合い、共通の敵へと向かい合う。その様子に満足の笑みを浮かべてから、サクヤが叫ぶ。
「いくわよ!ソーマ!ユウ!荒神を食い荒らせー!!」
「「了解!!」」
それを合図に、サクヤは貫通弾を放ち、2対同時に撃ち抜く。それに怯んだ女性型をユウが斬りつけ、守護している側を斬り上げる。
「2体を切り離せば、ガードもされない!ソーマ!そっちを任せたよ!」
「わかってる!!」
そのまま二人がそれぞれに斬りかかり、近付こうとするところをサクヤが撃つ。三人の統制された攻撃に、アルダノーヴァは大きく後ろに退がる。それに合わせ、三人も1度距離を取る。
「2体同時に相手をしなければ、何とかなりそうね!ただ油断はしないで!」
「了解です!」
「お前こそな」
軽く声を掛け合い、ユウは右へ、ソーマは左、少し距離をとってサクヤの陣形で再びアルダノーヴァへと仕掛けにいく。
しかし、低く笑う支部長の声が、三人のリズムを崩す。
『私の力がこの程度と判断するとは・・・、君達もまだまだのようだね』
その言葉と同時に、アルダノーヴァは光の柱を形成し、そこから幾つものレーザーが拡散発射する。
「なっ!!」
「ちっ!!」
「くぅっ!!」
何発かを躱したものの、レーザーは吸い込まれるように体を通過する。そして・・・。
「ぐぁぁっ!!」
「がはっ!!」
「きゃぁあっ!!」
三人は地面へと屈服する。それに追い打ちをかけるように、女性型が指を前に出し光を放つ。
『さて。今度こそ眠ってもらおうか。神薙ユウ君』
「くっ・・そぅ!」
ユウに向かってレーザーが射出され、当たるというその時、
キキィンッ!
「・・間に合った!」
「レンカ・・」
ユウの前に盾を展開した、レンカが立っていた。
レンカがユウを庇ったと同時に、
ドンッドンッ!ドドドドッ!!
アリサとコウタが引き離すように撃って出る。
レンカもそれに続こうと駆け出そうとした時、ユウがその手を掴んで引き止める。そして掴んだ右手を自分の目の前へと近付ける。
「・・・レンカ、この腕・・いつから・・・」
「っ!!これは・・、その・・」
その手を振り払い、レンカは腕を隠すように手袋を引っ張り上げる。そして、どこか諦めたような笑みを浮かべる。
「暴走、してるよね?それ、いつから⁉︎」
「ユウさん!」
レンカの叫びに、ユウは言葉を飲み込む。
「もう、・・・俺の命は、長く持ちません。だから、使い切る時は自分で決めます」
「レンカ・・・」
悲しげな目をするユウに、レンカは笑いかけ、そして改めてアルダノーヴァへと走り出す。その強い背中を見てから、ユウはより一層気を引き締め、神機を握り直す。
「はぁっ!!」
レンカが斬りつけにかかるのを躱したところへ、コウタが撃ち込む。そこをアリサがさらに斬り上げにかかるが、
『甘い!!』
ドォーーンッ!!
アルダノーヴァの拡散レーザーに、レンカ達もその身を撃ち抜かれる。
「ぐぅぅっ!!」
「きゃっ!!」
「うわぁぁっ!!」
三人もまた地面へと投げ出されると、追い打ちに女性型が長い腕を振り回すように殴りつけ、更にレーザーを無数に放つ。それによって応戦しようとしていたユウとソーマ、サクヤにもその手が届き、全員が地に伏す形となる。
身動きが取れないと判断すると、浮いた体を優雅に動かしながら、アルダノーヴァはゴッドイーター達を見下ろす。
「くっそぅ!」
撃ち抜かれた腹の傷を押さえながら、ユウは悔しさを洩らす。ソーマも足をやられたのか必死に立ち上がろうと神機を杖に力を込める。
皆が必死な形相でその身を起こそうとする中、痣が広がったレンカは力を振り絞れないでいる。それに気付いた支部長、アルダノーヴァはレンカの前にその身を移動する。
『ほう。君はそろそろ限界のようだね、空木レンカ君』
「・・うっ・・く」
その言葉に過敏に反応したアリサが、顔を起こして疑問を投げる。
「何を・・言って、るんですか?」
『ふむ。知らないようだね。アリサ・イリーニチナ・アミエーラ君。彼は、オラクル細胞の暴走に侵されてるのだよ』
「・・・え?」
「く、そ・・・言うな・・・」
レンカの懇願も虚しく、支部長は更に続ける。
『彼は、もう時期死ぬということだよ』
「嘘・・・」
「やめ、ろーーーっ!!」
支部長の言うことを理解しているソーマとユウも共に、苦悶の表情を浮かべる。そんな中、アリサは涙を流して否定する。
「嘘よーーー!!!」
その言葉こそが『嘘』だと言うように、支部長ことアルダノーヴァはその腕を振り上げる。
『君にも期待していたのだが、そういう事情なら仕方あるまい。君には来るべき新たな時代には不必要な存在として、この場でご退場願おうか』
その意味を理解した時、皆は力の限り止めようと抗う。
「やめろー!ちくしょう!!」
「・・やら、せるかよ!!」
「これ以上・・・、目の前で、仲間を殺されて、たまるもんですか!!」
「させない・・・絶対にやらせない!レンカを、あなたなんかに・・!!」
「くぅ!・・レンカ!!」
その抵抗を虚しく思い、アルダノーヴァは一言でその意思をへし折る。
『こういう時に使うのだろうな。「無駄な足掻き」とね』
ビュッ!!!
(させない!!)
ユウは咄嗟に掴んだソレを、自分の腕に突き刺す。そして・・。