「・・・ペイラー、私は・・・・間違っていたのか?」
「それは・・・、結果でしか語れない答えだよ、ヨハン。・・私達人類は、そういった業を背負いながら、生きていかなくてはいけない・・・のかもしれないね」
「・・・・・ふっ。君はロマンチストだとばかり思っていたが、結構なリアリストでもあったんだね」
「・・・・・・・・ヨハン」
研究室のデスクのPCと向かい合う榊博士は、動かし続けていた手を休め、椅子に深く背を預けて息を吐く。彼との最後の会話を、ふと思い出したからだ。
エイジス事件から早1ヶ月。ヨハネス・フォン・シックザール亡き後、極東支部の支部長の座を兼任する事になってから、日々研究だけに打ち込んできた時とは比べ物にならない程の忙しさに追われていた。
最初は断ろうかと思ってはいたのだが、ツバキの強い推薦から逃れられなかったのもあるが・・・本当は、唯一の友であったヨハネスの罪の清算を肩代わりしたかった気持ちが強かったのかもしれない。
(ただの、自己満足に過ぎないのだがね・・・)
もし前支部長がいたら、「やはり君は、ロマンチストだよ」と言っていたであろう。
そんな事を思いながら榊博士は立ち上がると、PCをスタンバイモードに切り替えてから、研究室から外へと歩き出した。
久方ぶりにエントランスへと顔を出した榊博士は、受付で事務処理をしているヒバリのところへと足を運ぶ。
「やぁ、ヒバリ君。仕事、ご苦労様だね」
「え?あ、榊博士?お疲れ様です!」
仕事の手を止め立ち上がったヒバリに、榊博士は「構わないよ」と手で制す。しかしヒバリは立ち上がったままなので、榊博士は少し考えて話しかける。
「そういえば今日の任務状況を聞いていなかったね。聞かせて貰っても?」
「はい!少々お待ち下さい!」
頭を下げてから、ヒバリは目の前の情報端末を操作し、丁寧に説明しだす。
「現在第三部隊が装甲壁改修の防衛にあたってます。神機修繕資材の搬入護衛には、第四、第五部隊に動いて貰いました。それから、第二部隊に第八から十一部隊を傘下につけ、周辺の荒神の動きを探ってもらっています。ここまでで、何かございますか?」
「大丈夫。続けてくれたまえ」
軽く息を吐いてから、ヒバリは話を続ける。
「討伐の任には第六部隊に工場跡地へグボログボロの群れを、地下街に確認されたヴァジュラとコンゴウの方には第一部隊にお願いしました。尚ユウさんとソーマさんの二人には、最近現れた未確認の荒神の目撃がありましたので、そちらの方に向かってもらってます。・・・と、以上になります!」
「・・・・そうか。ありがとう」
「?どうか、されましたか?」
少し考えるように眉間に皺を寄せていたので、ヒバリは自分の報告に不備があったのかと不安になる。そんなヒバリに気付いてか、榊博士はすぐに笑顔を作り口を開く。
「いや、君の説明に不満があった訳ではないよ。ただ、今日も若者達に命を懸けさせているなと、自分を不甲斐なく思ってね」
「・・・榊博士」
自分の言葉に苦笑してしまう榊博士に、ヒバリは心配そうに見つめる。
「お疲れですか?」
「そんな事は、口が裂けても言えないよ。ゴッドイーターやそれを支える為に動いている君達に比べれば、私の疲れなど微々たるものだよ。・・・邪魔したね」
そう言って榊博士は、その場を後にした。残されたヒバリは少しだけ俯き、それから作業を再開した。
次に榊博士が訪れたのは神機保管庫だった。
ゴッドイーター達は任務に赴く時と、帰投した際には必ずここを通過する。ここへ来れば人類が如何に危険な状況下にあるのかを、改めて認識する事が出来ると、彼は考えたのだ。
今は静かなその場所を、ゆっくりと歩く。その中の一箇所で足を止め、榊博士はその先にある物を見つめる。
「・・・・・リンドウ君」
そこには、今は亡き盟友の雨宮リンドウの神機があった。
彼の相棒が極東に戻ってきた時、榊博士はまともに見る事が出来なかった。リンドウの死を受け入れられなかった一人として、彼は今日までこれを見に来る事が出来ないでいたのだ。
「忙しいというのは、言い訳になるかい?リンドウ君」
そこにいるかのように、話しかける榊博士。耳に今でも残る、リンドウの言葉を、彼は目を閉じ思い出す。
『博士も、長生きして下さいよ』
「こんな年寄りの代わりなど、幾らでもいるというのに・・・。私は君にこそ生きて、彼等を導いて欲しかった」
閉じた目をゆっくりと開き、榊博士は成立のしない会話に時間を費やした。
「あれ?榊博士?」
どの位時間が過ぎたのか・・。榊博士は声をかけられ我に返り目を向ける。そこには帰投したばかりのユウとソーマが立っていた。
「・・・おかえり。首尾は上々だったかな?」
「ちっ・・、そんなこと、わざわざ聞きに来てやがったのか」
ソーマの悪態にユウが苦笑していると、榊博士は笑顔で言葉を返す。
「君達を心配して来た・・・と言ったら、信じるかい?」
「ん?う〜ん・・・、どうしましょうか?」
「信じるとでも思ってるのかよ、おっさん」
予想通りの反応に、何故か嬉しくなった榊博士は、ゆっくり近付き二人の肩に手を置く。
「いやいや。・・・いつも、苦労をかけるね。ありがとう」
「は、はぁ」
「何なんだ。・・気持ちわりぃ」
頭をかきながら笑みを浮かべるユウと、怪訝そうな表情でそっぽを向くソーマ。対照的な二人だが、その心には確実にリンドウの意思が引き継がれている。
(いや・・・二人だけじゃないね)
そう思いふと顔を上げると、帰投したゴッドイーター達がぞろぞろと入ってくる。
「・・あれ?榊博士じゃん⁉︎おーーーい!!」
「ちょっとコウタ!今は支部長代理でもあるんですよ⁉︎気安く声をかけて、ドン引きです!」
「まぁ良いじゃないアリサ。本当に珍しいんだし」
「そうだな。博士も、今まで通り気軽にと言っていたし・・」
「わわっ!支部長代理がって事は・・、私の失態がもう知られたって事ですか⁉︎」
「お前の失態は何時も通りだから!もう失態というより日常だからな!」
「タツミの言う通りだぞ、カノン。頼むからもう少し訓練してくれ」
「いいんじゃね?それがカノンだしよ〜!」
「・・・まぁ、死ななきゃ良いんじゃねぇか?」
「ふふっ。それにカノンのそれが無くなると、私も寂しくなるわ」
一気に騒がしくなった保管庫で、榊博士は微笑みを浮かべながら、誰にも聞こえないような小さな声で呟く。
「君達こそが、リンドウ君の遺した意思・・・、誇りだよ」
そうして榊博士は、賑やかな声の中へと身を投じた。
真夜中の研究室で、榊博士はコーヒーを片手に外を眺める。
破壊と滅亡の為に生まれた神によって、喰い荒され、悲しみの溢れる世界。そこで生き残る為に彼と、彼の友は、神に抗う術を探した。
愛する人を失い、愛すべき息子を実験動物とした友。全てを達観し、神すら実験対象とした彼。そんな二人によって作られた、人類が生き残る為の唯一の希望。神を断つ武器『神機』と、それを持ち戦う戦士『GOD EATER』。
それは、正しい答えだったのだろうか?こんな時代に、それを判断できる者はいない。
だからこそ、彼は止まれない。自分がして来た事、友のして来た事の終着点は違っても、自分が望んだ未来、友が望んだ未来は、決して違うモノではなかったはずだから・・・。
榊博士は持っていたコーヒーをテーブルへと置き、デスクに戻りPCを起動する。
「私は・・・止まらないよ、ヨハン。私達の願う未来は、まだ終わった訳ではないからね」
静かな部屋にキーボードを打つ音だけが響く。
彼の戦いも、まだ終わらない。
番外編書いてみました!
榊博士という人物、個人的には嫌いではないです。
ゲームなんかじゃ楽観的なところが目立ち過ぎて、「ロマンチストなのに、非人道的」なイメージがありそうですが、この話に書いたように、目的の為には迷わず命を天秤にかけるも、大切な命を失えば涙するような素敵な上司であると思っております。
そろそろ執筆再開しようと思っての番外編です!
バースト編、しばしお待ちを!