42話 止まらない秒針
「ふぅ・・・はぁ・・はぁ・・」
積もった雪が溶け出した寺院跡。
一人息を荒げて歩く男がいた。
エイジス事件から変化した月に照らされる姿は、人としては余りにも異形な姿をしている。
黒く大きく尖った異物が肩から突き出し、その突起から流れでる腕は、赤い血管のような物が貼り付いている。そして手の甲には、紫に輝く水晶のような物が埋め込まれて、もう生き物の腕とは呼べないモノとなっていた。
「・・・くぅっ、・・・あぁ・・・はぁ・・、っ!!!」
全身に走る痛みを堪えながら歩く男の目に、この世を滅ぼす存在『敵』が映し出される。
その目の前の化け物に反応してか、異形な右腕は手の甲の水晶から吐き出すように、黒いノコギリ状の刃を形成する。
「・・・はぁ・・はぁ、あ・・ら、がみ・・!!」
右腕から出てきたそれを握り、男は一気に駆け出す。こちらに気付くより早く、大きく振りかぶったそれを、
「おおぉぉぉぉお!!!」
強く叩きつける。
ザシュッ!!
沈黙した化け物の上に立ち、黒い刃を手の中へと収めると、男は月を仰ぎ見る。その眩しさに怒りを込めてか、体中を蝕む痛みを訴える為か・・・。彼は夜の静寂に向かって、大きく叫ぶ。
「ぅ・・うぅぉおおぉおぉぉぉおぉぉ!!!!」
闇を切り裂く悲痛な声は、極東全域へと響き渡る。
ここから、新たに始まる。
GOD EATER達の戦いの物語が・・・。
「んーーー・・・」
「・・、どうかしたか?」
「ん?・・・うん」
エイジス近辺に集まってきていた荒神一掃に来ていたユウとソーマ。すでに任務を終えて報告も済ませ、これから帰投しようという時に、ユウが神機を眺めながら唸って動かないので、ソーマが気になり声をかけたところだ。
「なんかさ、最近調子悪いかな〜って」
「・・・おまえ、整備に出してんのか?」
「いや、ここ最近忙しくて・・・2週間位?」
頭をかきながら苦笑するユウに、ソーマはいつも通りの舌打ちをしてから、座り込んでいるユウの側へ寄る。
「お前が強い事ぐらい、極東の奴なら誰でも知ってる。だが神機がイカれりゃ、いくらお前でも死ぬぞ」
「ははっ、申し訳ない。今日にでもリッカに診てもらうよ」
「・・・ふん」
ユウが立ち上がったのを切っ掛けに、ソーマも隣に並び歩き出す。そして横目で見ながら、話を続ける。
「お前・・・リッカと乳繰り合う暇があったら、てめぇの相棒の管理でもしてもらえ。お前のなら誰のよりも優先するだろう?」
「あぁ!そういうの、下衆の勘繰りって言うんじゃないの⁉︎ソーマの口の悪さは、中々治らないよね〜」
「ふん・・・、ほっとけ」
二人が歩く先に丁度着いたのか、ヘリが迎えに来ていた。
それを確認しながらも喋る口は止めぬ二人を、ヘリの乗組員は苦笑しながら見守っていた。
ドドドドッ!!
無数のバレットが、浮遊するザイゴートを撃ち抜く。それに合わせて、地上で待ち構えていたレンカとアリサが捕食形態を大きく展開させ、落ちてくる敵をまとめて喰らいつかせる。
ガブュウゥッ!!!
それを遠方にて確認したサクヤは、捕食を逃れて体勢を立て直そうとする3体をスコープに収め、貫通バレットを放つ。
ドドォンッ!!!
3体がまとめて射貫かれ沈黙したのを確認してから、サクヤは無線を繋ぎ、別に動いているコウタへと連絡する。
「コウタ?そっちの方はどう?」
『こちらコウタ!こっちも問題ないです!今からそっちに合流します!』
それを聞いてホッと胸を撫で下ろしてから、サクヤは手信号でレンカへと合図を送り、再び無線へと声をかける。
「こっちも片付いてるから、急がなくていいわ。周りの警戒だけは怠らないで。お疲れ様」
『うっす!お疲れ様っす!!』
無線を切って息を吐いてから、サクヤは陣取っていた高台から飛び降りて、レンカとアリサの場所へと歩き出した。
サクヤの運転する車で帰投する途中、コウタが流れる景色を眺めながら呟く。
「なんかさー・・・、最近荒神が減ってきた気がするんだけど」
その言葉に顔を上げたレンカが、笑みを浮かべ答える。
「そうだな。・・・エイジスの1件から暫くは数が増えたと思ったんだが、ここ数日は小型の群れしか確認しなくなったな」
「だろ?もしかしたらさー、荒神も徐々に減ってんじゃないかなーってさ!」
レンカの発言に明るく返すコウタに、呆れたように溜息を吐いてから、アリサが口を開く。
「そんな簡単に荒神を一掃できるなら、誰も苦労はしません。もう少し思慮深くなった方がいいんじゃないんですか?」
「あんだよー!苦労なら俺らがしてるだろー?その結果荒神がいなくなりゃ、それで良いじゃん⁉︎」
反論してきたアリサに、膨れっ面で騒ぐコウタ。割といつも通りの光景にちょっとした平和を感じてか、サクヤは進路に視線を置きつつ微笑む。
「いいんじゃない?コウタ位楽観的な考えもなきゃ、私達ゴッドイーターなんてやってられないわ。それにどんな状況であれ、私達がやる事は変わらない」
「・・・荒神を、倒す」
「えぇ・・、そうよ」
静かに呟くレンカにサクヤは答え、少しの沈黙が訪れる。
それを良しとしないのか、やっぱりコウタは場を和ませる為に喋り出す。
「ま、まぁさ!俺らが頑張ればさ、いずれ平和に暮らせる世界がやって来るって事だよな!そしたら明日も、頑張っていこう!ってさ!」
底抜けの明るさで立ち上がり宣言するコウタに、皆は表情を崩し笑い出す。
「そうだな。・・・俺達が頑張らないとな!」
「どうせ、何も考えてないんでしょうけど・・」
「ふふっ。そこも含めて、コウタの魅力じゃない?」
皆の答えに頷いてから、間を置いてコウタは真顔になる。
「あのー・・・、皆さん、褒めてないですよね?」
「驚きです。思った程、馬鹿じゃないんですね」
「あんだよーーー!!もぉーーー!!!」
コウタの嘆きが木霊する中、車は極東の外門前へと辿り着いた。
開発局の1室で、リッカは神機と向かい合い溜息を吐く。
「・・あのね、ユウ君。君が引っ張り蛸なのはわかるけど、こんな状態になるまで整備に持ってこないなんて・・」
「いやぁ、面目無い」
頭をかきながらユウは苦笑し、睨んでくるリッカに謝罪する。
ソーマの助言に従い、神機を整備へと持ってきたユウ。「遅い!」と怒るリッカに頭が上がらないでいるのだ。
「銃身は少し曲がってるし、刃は大分傷んでる。もっと悪いのは盾!これ1日やそこらで直るものじゃないよ?接合部分が甘くなってる。いずれは弾け飛ぶよ⁉︎」
「あ・・・はははっ」
神機の各部をチェックしながら捲したてるリッカに、ユウは2、3歩後退る。
「と、とりあえず、明日からも任務詰まっちゃってるし・・・出来る限りお願いします」
「・・・休めないのはわかるけど・・・、その内徹底的に修理させてもらうからね!」
「は、は〜い・・・」
詰め寄ってくるリッカに笑顔を引き攣らせ、ユウは両手を挙げて応えた。それを見てから溜息を漏らしてから、リッカは神機をのせた作業台へと戻る。
「盾の方は出来るだけ使わないでね。ユウ君なら荒神の攻撃を躱しながら戦うことだって出来るでしょ?」
「努力するよ」
リッカは道具を揃えながら、振り返らずにポツリ呟く。
「・・・・ちゃんと、無事に帰って来てよ?」
その言葉にユウは目を大きく開いてから、フッと笑みを浮かべ答えを返す。
「うん。・・・気を付けるよ」
「・・・・・・うん」
返事を確認してから、ユウは部屋を後にする。
一人になった部屋で作業を始めたリッカは、ユウの神機を丁寧に修繕しながら願う。
(お願い・・。ユウ君を、守ってね)
部屋を後にしたユウは、ついでに報告をと榊博士の研究室へと足を運ぶ。
同じ開発局内にある研究室。神機開発の階層から、エレベーターで2つ上へと昇った奥にある。
(また、顔近いかな〜)
榊博士からの任務の際は、ソーマは絶対に報告へは行かない。基本的に人との交流を拒むソーマも、シオのお陰で徐々に緩和されて来ていると言っても、榊博士は二人で会うのは嫌らしい。
(僕も別に、好きなわけじゃないんだけど・・)
そんなことを思いながら歩いていると、研究室の前へと到着する。軽い深呼吸をしてから、ユウはノックをしようとする。
『・・・やはり、か』
(・・・ん?)
挙げた手を止めたユウ。既に先客があったのかと入るのを躊躇い、どうしようかと考えている内に、また人の声がする。
『博士・・・俺は、後どの位もちますか?』
(レンカ?・・と、博士)
珍しい組み合わせと思ってか、何か気にかかったのか・・。ユウはその場に留まり、耳を扉へと当てる。
簡易ベッドに寝かされたレンカは、険しい表情で機械の画面を眺める榊博士へと現状を尋ねる。少しの間を置いてから、榊博士は眼鏡をクイとあげてから答える。
「・・・正直に言おう。君の命は・・・・3ヶ月もたないだろう」
「・・・・・そうですか」
納得したようにレンカは頷き、小さく笑みを浮かべる。それを切なげに見つめながら、榊博士は話を続ける。
「君の体内のオラクル細胞、偏食因子の活性化により、君の肉体は悲鳴をあげている。既に80%以上の浸食を赦した肉体を誤魔化すのも、そろそろ限界だよ。君の体は・・・・、いずれ荒神化する」
そんな言葉にも特に驚かずベッドから起き上がると、レンカは服を着用する。その背中に、榊博士は切実な思いで声をかける。
「レンカ君!今ならもう少し命を永らえれる!神機を手放し、ゴッドイーターを引退しないか⁉︎」
上着を羽織ってから、レンカは振り返り笑顔で応える。
「まだ戦うことが出来るなら、俺は神機を手放したりしません」
「どうしても・・・、なんだね?」
「はい。・・・俺の命は、みんなの幸せの為に使い切ります」
もう何も言えぬと思ってか、榊博士は目を閉じて息を吐く。そして、レンカを研究室の奥へと促す。
「わかったよ。ならば今日も、私の出来る最大限の努力をさせて貰おう」
「はい。ありがとうございます、榊博士」
お礼を言ってから奥へと足を進めるレンカに、榊博士はもう1つだけ質問をする。
「もし・・・・君が荒神と化してしまった時に・・・。介錯は、誰に?」
質問に答えるためか足を止め、レンカは寂しげに笑みを浮かべて振り返った。
「第一部隊・・・・・・・、アリサに」
扉からゆっくりと顔を離してから、ユウはその場で拳を握り締める。レンカが危険な事は分かっていたはずだった。なのに、いつも通りに振る舞うレンカに安堵していたのか・・・。ゴッドイーターにとっては当たり前の事から目を背けていた自分に、ユウは怒りを抑えきれないでいた。
(なんで・・・!こんな事に・・・、くそっ!!)
ガンッ!!
近くの壁を殴ってから、その痛みを抱いて、ユウはその場から逃げ出すように去って行った。
バースト編開始です!
レンカを交えているので、こちらも色々と原作とは違う部分もあると思いますが、お楽しみ頂ければと思います!