「ねぇ・・・」
「あ?」
「・・・幽霊って、信じる?」
「・・・何だと?」
開発局の長い廊下を歩いていたユウが、突然ミステリアスな事を言い出すものだから、ソーマは顔を顰めて聞き返していた。
「いやね、・・・・昨日みんなが出て行った後にさ、女の子がヒュッて消えたんだけど?」
「・・・本気で言ってんのか?」
「え?駄目・・・かな?」
悪びれもせず、普段通りに答えるものだから、ソーマもいつも通りに「ちっ」と舌打ちをする。
「榊のおっさんに診てもらえ。それから、良く休め」
「あー・・・・、やっぱそう返すよね〜」
諦めたように溜息をついてから、ユウは昨日の女の子のことを思い出してみる。
「今日は挨拶に。いずれまた、会いましょう。ユウさん」
その言葉に意味を求めて天井を眺めていると、ソーマも溜息を吐き、ユウの肩を軽く小突く。
「あたっ・・、なに?」
「悩むのも良いが、目の前の問題を片付けてからにしろ」
そう言われたユウは前を改めて見ると、研究所の前に着いていた。それに頭をかきながら苦笑すると、ソーマは「ふん」と自分も視線を前に向けて、
「さっさと済ませるぞ」
と扉を開ける。それに付いて、ユウも中へと足を運んだ。
室内に立ち込める薫る煙の中、榊博士はカップを3つテーブルに置き、訪ねてきた二人に目を向ける。
「これ、良い香りがしないかい?最近取り寄せた気分を落ち着ける『香』というものだよ。この香りに包まれると、自然と安らぎというものを感じて・・」
「そんなモノはどうでもいい。・・・こいつを呼んだ要件を言え」
ソーマの言葉に説明を遮られ、榊博士も本来の目的を忘れていた自分に咳払いをし、ユウとソーマの前に腰を下ろす。
「そうだったね。共感者を求めるとは、我ながら恥ずかしい。・・・では、本題に入ろうか」
「お願いします」
返事を返してきたユウに1度頷いてから、榊博士は話し始める。
「もう予想は出来ていると思うけど、今回ユウ君を呼び出したのは他でもない。・・・君を吹き飛ばした新種についてだ」
「・・ですよね」
「うむ。・・・私達は君達の持ち帰ってくれたヤツの細胞を、早速調べてみたんだ。それで、驚くべき事がわかったんだよ」
「驚く・・べき事?」
手元に準備していたノートPCを立ち上げてから、博士はある画像を呼び出し、ユウに画面を向ける。
「・・・・これは?」
「これが件の荒神から摘出されたコアだよ。そして・・・、角度を変えて撮影したのがこれだ」
「ん?・・・・・・、これは・・」
少し目を開き表情を変えたユウが見たのは、球体状になっているコアに連なるように、別のコアらしきモノが写っていたのだ。
PCの画面に目を奪われているユウに、ソーマが話の続きを引き継ぎ口を開く。
「このコアに、オラクル細胞を投与したらしい。実験の一環でな・・。それでこうなった。つまりこいつは、コアを2つ以上形成して生まれる荒神だ」
「2つ以上コアを⁉︎」
「想像の域を出ないが、おそらくはね。・・・つまりこのコアを回収した際に1度は途切れた『命』という回線を、体内にある第二のコアへと繋ぎ代えたか・・、あるいは2つ以上連なっていた1つが無くなったのを埋める為に、新たに即座に再生したか・・・。この荒神は、まだわからない事が多いよ」
説明を終えてから榊博士は、真剣な眼差しをユウ達に向けてから、その新たな驚異の名を告げる。
「『ハンニバル』。古い映画に出てくる配役に因んで、そう名付けたよ。医者という立場から『再生』と、殺人者という立場から『破壊』という二面性を持つ、荒神としてね」
エントランスに戻ってきたユウは、一人想いに耽っていた。
つい先刻に聞いた荒神、ハンニバルの事を・・・。
『ハンニバルを討つ為には、その体内に持つコアを全て破壊するしかないと考えているよ。まだ幾つあるかわからないが、今はそれしか浮かばないからね』
「同時に・・・2つ以上のコアを・・・・」
自然と呟いた言葉を聞いてか、受付のヒバリと話を終えたツバキが、側へと歩み寄る。
「どうした?お前は休暇中だぞ、ユウ」
「あ、ツバキさん」
返事を返すユウに笑顔で応えてから、ツバキは隣のソファへと腰を下ろす。
「もう仕事の事を考えているのか?関心ではあるが、お前には休暇を休みと捉えて欲しいんだが」
「えっと〜、・・・なんか、すいません」
苦笑しながら頭をかくユウに、軽く溜息を吐いてから、ツバキは懐かしむように目を細める。
「・・・・お前は、リンドウに似てきたな」
「えっ?僕がですか?・・・どの、あたりがです?」
「そうやって苦笑いしながら頭をかくところや、なんだかんだ休みたがらないところ、とかな」
「そ、そうですか?」
そう言ってまた頭をかくユウが可笑しく、ツバキは少し声を漏らしながら笑い、それからそっと目を閉じる。もしリンドウが生きていたとしても、否定しただろうかと考えながら・・・。
「ユウ・・・・。私はまだ、リンドウが生きているように思うのだが・・・・お前はそんな私を笑うか?」
目を閉じたままそう言葉を放つツバキに、ユウは少しだけ考えてから口を開く。
「僕は・・・・、笑わないです」
「そうか・・・、ありがとう」
小さくお礼を言ってから、ツバキは立ち上がってユウに顔を向け、いつも通り『敏腕上司』の仮面を被りなおす。
「今日のスケジュールが終わったなら、早く部屋に戻って休め。いいな!」
そんなツバキのノリにユウも乗っかって、立ち上がって敬礼する。
「はい!了解です!」
それから少し笑い合ってから、二人はそれぞれの目的へと足を進めた。
南の山岳地帯の奥。
貯水湖の周りを覆うように生えている、木を模した荒神。それらの根元に携帯カプセルを打ち込むサクヤは、作業中にも関わらず、先日聞いた新種の荒神の事を考えていた。
受けた説明の中で、最も気になる事・・・それは、
(再生能力が高く、複数のコアを持つ・・・・か)
ゴッドイーターにとって厄介な問題であった。
再生能力が高いとしても、理解してしまえば回復する前に叩けばいい。しかし複数のコアを所持するとなると、その位置を特定する前に復活されると大きな隙を与えることになる。
そして、もう1つ。
件の荒神、ハンニバルは・・・油断したとはいえ、'あの'神薙ユウを一撃でのしたのだ。
そんな相手に、こちらは上手く対処できるのか?そんな不安を、サクヤは悩んでいたのだ。
「ふぅ・・・・・・まぁ、悩んでばかりでも、しょうがないか?」
最後の一本を打ち込んでから、サクヤは心の中の不安を拭い去る様声に出す。
「よしっと!」
持って来ていた荷物をまとめて、サクヤは森に向かって話しかける。
「また来るわね。・・・・・リンドウ」
今は亡き雨宮リンドウの最後の場所。そこへ言葉を残して、サクヤは貯水湖の集落へと歩き出した。
荷物を車に片付けてから、サクヤは代表で来ていた数人の者へと顔を向ける。
「これで、暫くは大丈夫だと思います。もしも何かありましたら、すぐにご連絡を」
「あ、ありがとうございます、サクヤさん!」
「本当に、助かります!」
深々と頭を下げる住民に、サクヤは笑顔で声をかける。
「頭を上げてください。私に出来る精一杯を、させていただいてるだけですから」
「いえ、本当に・・・!」
再度頭を下げ続ける人達に、どうしたものかと戸惑うサクヤの元に、緊急通信音が耳に入る。すぐに車の無線をつけてから、受信機へと声を放つ。
「こちらサクヤ!本部!どうしました⁉︎」
『サクヤさん!今どこですか⁉︎すぐに極東に帰投して下さい!』
焦り声を出すヒバリの言葉に表情を変え、最悪のケースを想定しながら問い返す。
「ヒバリちゃん!どうしたの⁉︎すぐに戻るから、状況を!」
『極東に・・・ザザ・・、荒・・・・ザッ・・』
「何⁉︎聞こえない!ヒバリちゃん⁉︎」
住民に手だけで挨拶をしてから車に乗り込み、サクヤはキーを回しながら聞き返す。
そして、最悪のケースが、訪れていた事を知る。
『極東支部に・・・・、ザザ・・・荒神が侵入しました!』
警報が鳴り止まぬ廊下を、ユウは走り抜ける。
今現在、極東に控えているゴッドイーターはいない。そんな隙を突いてか、荒神が直接極東へと侵入してきたのだ。
事情を知ったからには我慢も出来ず、ヒバリの声を無視してから、ユウは神機保管庫へと向かったのだった。
扉を開けてから中へと駆け込み、ユウは自分の神機の保管場所に目をやる。しかし、そこには自分の相棒は見当たらない。
「何してるの⁉︎」
声をかけられビクッと肩を上げてから、声のした方へと顔を向ける。そこには、神機をシェルターへと収める作業をするリッカがいた。
「リッカ!僕の神機は⁉︎」
「まだ直ってる訳ないでしょう⁉︎どうしてここに来ちゃったの⁉︎」
作業の手を止めずに文句をいうリッカ。わかっていても落ち着かないユウは、自然と辺りを見回す。
その時、不意にユウの目に止まった1本の神機。そしてそこへと駆け寄り、それへと手を伸ばす。その行動に驚いたリッカは、作業を中断しユウへと走り寄り背中を掴む。
「ちょっと何考えてるの⁉︎ユウ君!そのリンドウさんの神機をどうする気⁉︎」
ユウが手に取ろうとしたのは、亡きリンドウの神機だった。しかしその行動を止めるリッカ。掴めないもどかしさに、ユウは後ろへと喋りかける。
「リッカ離して!誰かが戦わなきゃ、極東が殺られる!」
「それでもダメ!ユウ君なら理解してるでしょ?私が止める理由を!」
「くっ・・・!」
その言葉に歯止めがかかってか、ユウは抵抗する力を弱める。
リッカの言う理由。それは、ゴッドイーターにとって、守らなければならない事の1つ。
『他の者の神機を、持ってはならない』
普通の人間が神機を持てば、当然オラクル細胞がその本能によって、対象を侵し喰い尽くす。ゴッドイーターは、体内に投与した偏食因子によって、神機の中の人工コアと結合しそれを振るう。
しかし、それも例外は存在し、それが『他の者の・・』の話に繋がってくる。
ゴッドイーターは各神機の人工コアとの『適合』を許された神機のみ扱う事が出来る。適合外の神機を無闇に使った場合、神機のオラクル細胞によって侵食され・・・、そこからはオラクル細胞の暴走と同じ現象が起こる。
リッカが止め、ユウが抵抗を止めたのは、その為である。
「お願い。ユウ君が凄いことはよくわかってる。偏食因子の過剰投与にも耐えて見せたんだから。でも、コレだけは止めて欲しいんだよ!」
「・・・・・でも」
リッカの言葉に迷い、揺らぐユウ。伸ばした手を神機からゆっくり下ろしたその時、
ゴガァァンッ!!
「え?・・」
「くそ!しまった!」
ギャォォッ!!
侵入したと思われるオウガテイルが数匹、保管庫の壁を突き破って入ってくる。
「うそっ!ど・・どうしよう⁉︎」
「・・くぅっ!!」
顔を青くし足を震わせるリッカを見て、ユウは決心を固めてから、下ろしかけた手を伸ばし、
ガッ!
グジュジュュッ!!!
「がぁっ、あぁぁぁああぁぁっ!!!」
「ユウ君!ダメー!!」
リンドウの神機を掴む。
不適合の為に反発してか、侵食が始まったユウの右手から、不可思議な色の痣が広がりだす。
「ぐぅぅぅうっ!こ・・のぉっ!!」
「やめて、ユウ君!手を離して!!」
立てスタンドから無理やり取り外し、ユウは息を荒げながらオウガテイルの群れへと神機を構える。
「はぁ・・はぁ・・、ちょっとで・・いいから、言う事、・・聞いて、・・・よっ!」
声に合わせてユウは飛び込み、違和感が有れど神機を振るい、先頭のオウガテイルの顎下から胴体へ減り込ませ、そのまま斬り裂く。
ザァシュッ!!
「ぐぅぅっ!!!く・・っそ」
振り抜いた手に力を込める度に、ユウは体の痛みを堪える。
(・・・・レンカは・・・・・、こんな痛みを、毎日耐えて・・)
偏食因子投与の際にも、さして痛みを感じなかったユウだが、流石に侵食の痛みには耐えられないようだ。
「・・うっ・・・!・・くそっ・・、ぐぅ」
3体目を沈黙させたところで、ユウは膝をつき、顔を歪める。頭の先から流れてくるような汗に濡れ、肌を焼く痣は徐々に広がっていく。
その隙を見逃さなかったか、最後の1体がユウへと飛び掛る。
「ユウ君!危ない!!」
「くっ⁉︎」
リッカの 声に辛うじて反応してか、ユウは片脚を踏ん張り、地につけていた神機を一気に振り上げ、
ザシャァアッ!!
ギュェー!!!
オウガテイルの腹から突き刺し、そのまま振り抜いた。体を半分にされてか、オウガテイルは動きを完全に止める。
「・・・ユウ、君?」
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・・・リッカ」
全ての荒神を倒した事を、改めて目で確認してから、ユウは手の中の神機を離そうとする。
その瞬間、
『やっぱり。・・・あなたですね。合格です』
声が聞こえた。
そして、
キィィィィィィィイン!!!!!
「がぁっ!ぐぅあぁぁぁぁ!!」
「ユウ君⁉︎どうしたの!ユウ君!」
必死に叫ぶリッカの声がだんだん遠くなっていき、
ユウの意識は、
白く、眩しい世界へと、
吸い込まれて行く。
そこでユウは、別れたはずの彼を見た。
『俺にとって弟のようなやつだった!』
「・・・・リンドウさん」
『家族殺られて、黙ってる人間なんざいねぇんだよ!!』
幻の様な世界を見ながら、ユウは神機を手離し、その場へと倒れた。
結構間を空けて、久々に書きました!
ペース落ちてますが、ちゃんと完結まで持っていきます!
因みにこれを書き終えてから、続けて2まで行っちゃおうかな〜・・・なんて考えてみたり。
どう思います?( ̄▽ ̄)