仕返しと言わんばかりに、飛び掛かってきそうなレンカの足元に、ツバキは2,3発牽制をして距離を取らせる。
「サクヤ!ここから指揮権をもらう。かまわんな?」
「あ、・・は、はい!」
「よし!」
急に声を掛けられてから、我に返ったサクヤは、改めて神機を構えなおす。それに頷いたツバキは、皆を目で確認してから声を上げる。
「聞け!作戦の要は、私が撃つ!貴様等は私と、アリサの援護しろ!」
「・・え?」
《了解!!》
自分の名前に素っ頓狂な声を出してしまったアリサ、それ以外の人間は全員綺麗にそろえて返事をする。
「前衛にタツミ、シュン!注意を引くだけでいい。決して無理をするなよ!」
「「了解!!」」
「後衛はサクヤ、コウタ、カノン!足元に牽制だけでいい。自分で足を止めようと思うな!特にカノン!!私の目が黒いうちは、余計な行動はとるなよ?」
「「了解!!」」
「は、はいぃ!了解ですぅ!」
「後の者は四方に離れて円形で囲め!傷が深ければ離脱してかまわん!残った者だけで、空木をこの場所から逃がすなよ!」
《了解!!》
そこまで言ってから、1度大きく息を吐き、カッと目を見開き叫んだ。
「では各自、行動に移れ!!」
《はい!!》
皆一斉に動き出したところで、ソーマが黙ってツバキの横に立つ。それを横目で確認してから、ツバキは口を開く。
「ソーマ、1発しかない。私の射線上に、隙を作ってくれ」
「ふん。あんたなら俺のフォロー無しに、当てれそうなもんだがな」
かつて背中を預けた中だからだろうか、ソーマの信頼の言葉に、ツバキはフッと笑みをこぼす。
「私に何年ブランクがあると思っている。それに、神機を持っての制御は1時間が限度だそうだ。まったく、榊博士も人使いが荒い」
「嘘吐きが。・・・・外すんじゃないぞ」
喋り終わると、ソーマもレンカへと走り出す。
彼を見送ってから、ツバキは傍へと控えていたアリサに振り返り、話しかける。
「アリサ。今から私が、榊博士の作られた《オラクル細胞制御ワクチン》をバレットで撃ち込む」
「《オラクル細胞制御ワクチン》、ですか?」
「正確に名前が無いらしくてな。仮だ。それを打ち込めば、一時的に空木の体内のオラクル細胞を弱体化する。お前たちが普段打っているモノより、強力なモノと判断してくれていい。今は細かい説明を省く」
「・・・はい!」
アリサの返事に頷いてから、ツバキは銃口をレンカの方向へと固定する。
「私の射線はここで決める。おまえは発砲に合わせて、空木の元へ行け。奴に感応現象を使い、意識を完全にひっぱってこい。ユウ曰く、お前にしか出来ないそうだ」
「ユウが・・・。ですが、何故ここにユウはいないんですか?サクヤさんも詳しいことはわからないと・・」
一瞬だけ眉をピクリと動かしてから、ツバキは表情を崩さずに言った。
「今は、この戦場にのみ集中しろ。まず空木を元に戻してからだ!」
「は、はい!了解です!」
無理やり話を切った状態で、ツバキは自分だけに繋いでいる個人回線に、耳を傾けた。
『ツバキ君。ユウ君のオラクル反応が活性化しだした。早くも切り札を使ったようだ』
情報を頭へと叩き込み、整理をしながら、自分が応援に行けるかどうかを計算していた。
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」
ググッガァァッ!
向き合った状態で息を落ち着けるユウと漆黒のハンニバル。お互いに傷だらけで苦しんでるようで、まだ自分の限界ではないと、言い聞かせているようだ。
「ペッ!・・・はは・・。強すぎですよ・・リンドウさん・・」
「リンドウですからね」
疲れて薄ら笑いを浮かべていると、再びレンが現れる。
「ピンチを救いに来てくれたの?」
「あなたが望むのであれば・・。どうします?僕的には、リンドウを助けてほしいので、そろそろ頼っていただきたいんですけど?」
まだ余裕という雰囲気を口にしているが、レンも現状まずいと感じているのを、ユウにも見て取れている。ユウ自身も、そろそろまずいと思っていたので、口の端を垂れる血をぬぐってから質問を返す。
「一緒に戦ってくれるってこと?」
「そうですね。でも、もう少しだけ時間もらいますよ?」
「わかった。そこまで言われたら、なんとなく予想がついたよ。急いでくれる?」
「わかりました。では」
またスッとレンは消え、二人の時間に戻る。すると、止まっていた時間が動き出したように、漆黒のハンニバルは四つん這いに、体重を前にかけて吠える。
受け止めたユウの方も、気合を入れるために短く息を吐きだす。それから、首にかけてある尖った装飾を手に取り、首筋にあてる。
「・・・・僕もギリギリだからね。切り札使わせてもらうよ」
プツッ
刺し込んでから5秒弱で抜き、ユウは体中を駆け巡るオラクル細胞が活性化するのを、握りしめた拳に感じる。頭の中の熱くなったものも、一気に冷めていくようだ。
それから向こうが臨戦態勢に入っているのを目で確認してから、グッと1度背筋を伸ばしてから、目を細めてから歩き出す。
「・・・いくぞ」
地面すれすれを刃の切っ先を走らせながら、ユウは低姿勢でその足を速め、ハンニバルへと突っ切った。
ギンッ!
「くっ・・・そぅ!」
シュンが神機ごと後ろへ弾き飛ばされる。それを隙とみてか、サクヤが振り上げた左手に貫通弾を撃ち抜く。
「ぐうあぁ!」
「うっしゃぁ!!」
仰け反ったレンカの脇腹に、タツミが素早く斬り抜ける。そこで上を見てから、驚愕の表情を見せる。そこに跳んでいた、デンジャラスビューティーに・・。
「あっはっはぁ!!」
「待て待て待てーー!!」
タツミが慌てるのを無視して、カノンは迷わず引き金を引く。
「射線上に入るなって、私言ったよね!!」
「言ってねぇよ!!」
ドォーーーーンッ!!!
偶然にもレンカの足元を爆破し、バランスを崩したところに、コウタが至近距離から盛り上がった右肩に、封神弾を連続で撃ち込む。
「ぐ、う、ああぁぁぁぁ!」
「これで、その腕は使えないだろう、レンカ!」
一時的にとはいえ、レンカの右腕は痙攣を起こし、その場に膝をつく。そこへコウタと入れ替わりに懐に入ってきたソーマが、神機の柄で顎を刈り上げ、後ろを振り向く。
「ツバキ!!」
ドゥオォンッ!!
その声を合図に、ツバキは即座に引き金を引き、発砲音に合わせて、アリサはレンカへと走り出す。
弾道を読んでいるかのように、ソーマはその場で躱し、着弾してから1秒足らずでアリサがレンカの前に飛び出す。そして、
「レンカーーーーーー!!!」
「ぐ・・、うぁ・・・・」
持っていた神機を捨てて、レンカへと手を伸ばし、その身を抱きしめた。
そしてアリサの意識は、感応現象によりレンカの内側へと溶け込んでいった。
黒く、
ただひたすら黒い闇の世界。
レンカは、ぽーっと終わりのない世界を眺めていた。
それはいつからか、どれほどの時間か・・・。
あれ程強く、熱い心で、世界の、人々の幸せの為に、荒神と戦い続けてきたレンカ。自分の身体も、心も、幸せも顧みずに・・。
そんな彼も、終わりの時を迎えたのか・・。自分で思っているだけなのか、現実なのか。終わることを願っているのか、自然の摂理なのか。
もう何が何なのか、自分は誰なのか、判断できないほどに、この無の世界にそまりつつあった。
(もう・・・、良いんだよな。・・・・父さん、・・・・母さん・・・・、姉さん)
目を閉じて、ゆっくり水の中に落ちていくのをイメージする。そうすることによって、もう自分は『自分』を放棄しても良い様に思える。
これが、『死』というものならば、なんて心地好い。
(もう・・・・・・・、思い残すことなんて・・・・・)
意志に同調したのか、一面の黒は、ゆっくりレンカを包んでいく。
(これで、終わる・・・・)
それで良いと、目を閉じたその時。
「レンカーーーー!!」
「・・・・っ!!ア、リサ?」
その声に目を開くと、遠くに一転の光が見える。
そこには、ここにいるはずのない者の顔が見える。それはゆっくりと近づいてきて、レンカの胸へと飛び込んできた。
「レンカっ・・、レンカーー!!」
「アリサ・・・、どうしてここに・・・」
「あなたを迎えに来たんです。さぁ。帰りましょう」
「・・・・・だが、・・・・・俺は・・」
アリサの伸ばした手を見ていた視線を、自分達を包む黒い世界へと移動させる。
「ここから、出られるんだろうか。・・・俺は、荒神化して・・・」
「レンカ・・・」
少し俯いてから、レンカは自分の右手を見つめる。
「それに俺は・・・・、1度伸ばしてくれたユウさんの手を、離してしまった。本当は、もう眠りたいのかもしれない・・・・」
「・・・・」
「俺は・・・」
「・・・・・・・バカ」
「え?」
ただずっと黙って聞いていたアリサが、ぽつりと口にした言葉に、レンカはその顔へと目を向けて驚く。
アリサが、こちらを睨みつけ、涙を流していたのだ。
「あ、・・えと・・」
「レンカはバカです。大馬鹿です!私が何故ここに来たのか、本当にわからないんですか?」
「いや・・それは・・、わかるが」
「わかってないです!私は・・・・んっ」
「は・・んむ」
言い訳を返そうとして前へ進み出たレンカの口を、アリサが自分の口で塞いだのだ。そのまま二人は、数秒間時が止まったように抱き合った。
アリサの方から後ろに1歩離れてから、レンカの目を真っ直ぐ見つめる。
「私は・・・、あなたが好きです。あなたを思って、心配で眠れない程に・・・」
「アリサ・・・」
「駄目ですか?」
「・・・あ・・」
返事を待たずに、アリサは両手でレンカの手を取る。その温もりに。レンカは忘れかけていた、姉の言葉を思い出した。
『生きなさい・・、レンカ』
「私と、生きて貰えませんか?」
「・・・・・本当は、俺を殺してもらおうと思ったんだけどな」
そんな返しを望んでいたわけじゃないアリサは、目を吊り上げて、レンカへと平手を打ち付ける。その手を優しく受け止めてから、レンカはアリサを抱き寄せる。
「ちょっ・・・、離して・・!」
「俺は帰る」
「・・え・・」
「アリサの元へ・・。ありがとう」
呆けて力を抜いた隙に、レンカは力強く抱きしめる。それに応えるように、アリサも背中に腕を回す。
そして、二人の愛に呼応したかのように、黒い世界は白い光に覆われる。
瞼の裏に眩しさを感じ、レンカはゆっくりと目を開ける。
「あ・・・」
「気が付きましたか?レンカ」
抱き起こしてくれたアリサを暫く凝視してから、周りを見回す。そこには傷だらけの仲間達が、笑顔で立っていた。
「よっ!気分はどうだ?」
「世話かけさせやがって!今度割のいい仕事手伝えよな!」
「・・・右に同じく」
「本当に!本当に良かったですぅ!!」
「目覚めは、いかがかしら?」
「レンカ!くっそーー!本当に心配かけやがって!」
「ふん。・・・生きてたな」
「レンカ。もう、心配かけさせて・・・。この子は」
皆の言葉一つ一つを、噛みしめるように耳に入れるレンカ。そんな皆の円をかきわけ、ツバキがレンカの前に片膝をつく。
「・・・雨宮三佐」
「よく、戻ってきた。お前は・・・・、お前達は、私の誇りだ!」
《っしゃあぁーー!!!》
そこに集まった全てのゴッドイーター達は、声を上げ、勝鬨を胸に刻んだ。
余韻が冷め切らないうちに、サクヤはツバキの元へと歩み寄る。
「ツバキさん・・・・、ユウに任せていたことって」
「・・・・・」
二人の話が耳に届いたのか、レンカがアリサに支えられながら近付いてくる。
「そういえば、ユウさんの姿が見えませんが・・」
「あっ、そうっすよ!三佐、ユウはどこに行ってるんすか?」
タツミの質問から、全員が注目してくる。その中心に立つツバキは、閉じていた目を開き、重い口を開く。
「ユウは・・・・、リンドウと戦っている」
それは誰も予想しえなかった、最悪の答えだった。
バースト編、ここからがクライマックス!!
ユウとリンドウの激闘!!