車を飛ばして20分。
リッカは、エイジス島の駐車場跡から、最短で中心部に迎えるゲートの前に急停止する。
運転席から飛び降りてから、荷台に固定していた神機のケースを掴み、中へと走り込む。
「はぁ・・はぁ・・、まったく、もう!これで、嘘だったら・・はぁ・・、いくら君でも許さないからね!」
傍目には独り言を言っているように見えるが、実際はレンと話しているリッカ。この事態に、ユウ以外に姿を見せれる可能性として選んだのが、神機に深く関わっている、リッカだったのだ。
「僕は嘘を言ったりしませんよ。リッカさんなら、この突飛なことを信じてくれると思ったので」
「本音は?」
「手ごろに手が空いてるのが、リッカさんだったので」
「神機の精霊じゃなかったら、はっ倒してるところだよ!」
「あはは、怖い怖い」
軽口で躱しながら、ユウの元へと、リッカを誘導した。
急に訪れた沈黙を破るように、ソーマはギリッと歯を鳴らしてから、踵を返し駆け出そうとする。
「待て!ソーマ!」
「待てるか!」
ツバキの呼びかけに足を止めたものの、ソーマは即座に反論する。
ユウとリンドウ。二つの名前が出ただけで、その状況をこの場で理解できるのは、ツバキ以外に彼だけで、その事態に焦っていたからだ。
「あいつがリンドウと戦ってるとわかって、何を待つんだ?」
「落ち着け。お前一人で行くなと、言っているだけだ。私も行く。だが・・・・、もう少し待て」
「ちっ・・・」
ソーマが舌打ちして俯くのを確認してから、ツバキは今だ理解が追い付けないでいる仲間達へと口を開く。
「・・・現在、神薙ユウは、雨宮リンドウが荒神化した、漆黒のハンニバルと戦っている」
「どうして・・・・、リンドウが・・・。どうして、私達に教えてくれなかったんですか!教えてくれたら・・」
「教えたらどうだというんだ!」
サクヤが食って掛かろうと声を荒げたところで、ツバキがそれを諫めるように、更に大声で怒声を浴びせる。
「サクヤ!お前にこの事実を知らせたとして、お前にリンドウを殺せるのか!」
「っ!!・・・それは・・」
「ユウは、最悪リンドウを殺す覚悟を持って、リンドウのところへ単身向かったのだ。サクヤだけではない。ここにいるお前たち全員、変貌を遂げていようと、相手がリンドウとわかってなお、武器を向けることが出来るのか!」
その言葉に、再びその場は凍り付く。ユウとリンドウが戦っているだけでも大事なのに、ユウを助けに行く=リンドウと戦うという覚悟が、持てないでいるのだ。
そんな時間に終わりを告げるようにか、カレルがポツリ呟く。
「・・・・俺は、無理だ」
「カレル、てめぇ!!」
「喚くなよ、シュン。お前だって、リンドウさんには借りがあんだろ?」
「そ、それは・・・」
口ごもったシュンを無視して、普段無口なカレルは、珍しく話を続ける。
「空木を助けるのに、かなり神経使ったってのもあるが、今このタイミングでリンドウさんと戦う覚悟を持てっていうのは、無理がある」
それに同調したように、ジーナも口を開く。
「そうね。例え時間があったとしても、私にもリンドウさんに銃口を向ける自信はないわ」
「わ、私もですぅ・・」
カノンも神機を下して頷く。
皆下を向いて黙っている中、サクヤだけはその手に力を込めて、真っ直ぐツバキを見つめる。
「いえ、私は行きます。私には、愛する人の最後を見届ける義務があります!」
「サクヤ・・・」
その目から、一筋の涙を流しながら、決意を口にするサクヤに、ツバキは胸を締め付けられる思いに襲われる。
その後ろに控えていたソーマが、「ふん」と鼻を鳴らしてから、言葉を発する。
「所詮俺たちがやることなんて、変わらねぇ。荒神を殺すことと、世話のかかる仲間を助けることだけだ」
「ソーマ・・、お前・・」
タツミの投げる疑問に、ソーマは応えるように顔を向ける。
「ユウの奴は、きっと諦めてねぇ。何もしてない俺達があきらめてどうする。そうだろ?空木」
急に話を振られたレンカだったが、ソーマの笑顔に伝染されたように、口の端を浮かせる。
「そう、ですね。ユウさんなら、絶対に諦めない!俺をみんなが救ってくれたように、ユウさんもリンドウを・・・」
「そうですね。感応現象で荒神化したレンカを助けるって足がかりも、ユウが諦めずに出した答えです」
「そうだよ!ユウさんなら、リンドウさんを・・・・。ツバキさん!」
アリサやコウタも希望を捨ててない。その表情に打たれたのか、タツミが頭を掻きながら、レンカの肩に手を置く。
「そうだよな。あいつはいつでも、ピンチを好転させてきたんだからな。雨宮三佐、第1部隊だけでも連れてってやれないですか?ここの後始末は、俺達でやっときますんで」
「タツミ・・・。・・・・・・、まだ終わっていなかったな。わかった。第1部隊は私と来い!タツミ、後を任せるぞ!」
「了解!」
《了解!!》
第1部隊のみ引き連れ、ツバキは走り出した。
「ツバキさん!ユウ達はどこで!」
「エイジス島だ!!」
走り出したユウは、下から斬り上げる。それを上半身を後ろに反らして、漆黒のハンニバルは躱す。
「遅い!」
ガシャンッ ドドンッ!!
それを読んでいたように、ユウは空中で変形させ、顔面へと氷結バレットを打ち込む。
ガガァァ!!
目を抑えながら首を振る相手を蹴り、後ろに下がってから低く上体を落とし、ユウは勢いよく斬り抜ける。
ザンッ!
「まだだ・・」
そう言いながら踏ん張り、ユウは同じように斬り抜く。
ザンッ!ザンッ!ザンッ!
それは、2度、3度、4度・・・・。
ザンザンザンザンッ!!!
そのスピードから、何度斬り付けたのか数えられない程に・・。
そして、何度目かにその足を止め、ユウは相手の前に立つ。
グッウッウッ!グアァァァァ!!
片膝をつきながらも、漆黒のハンニバルは今だ戦闘の意志は消さず、こちらへと叫ぶ。
「やるね・・・、リンドウさん・・・・ゴフッ」
一見ユウの方が有利に攻撃していたようであったが、その間に相手も何発か攻撃を加えていたのだ。どこか内臓をやられたのか、ユウは血の塊を吐き出した。
「はぁ・・はぁ・・、あっ・・・ぐふっ・・・・ふぅ」
ググウゥゥ!ガアァァッ!!
「ははは・・・、でも、見えたよ・・・。リンドウさん」
お互い傷だらけながらも、ユウの1撃が、ハンニバルの胸の傷の隙間から、気を失ったリンドウの上半身が、だらりとはみ出ていた。
「これで、やっと5分だ!」
グゥゴオォォォォォ!!!
自分の弱点を見せたと焦ったのか、漆黒のハンニバルは黒炎の輪を吐き出す。その行為よりも早く、ユウは相手の後ろに回り、背中へと刃を立てる。
(僕の神機の刃渡り105cm。この荒神の背中から胸の幅、約150cm。リンドウさんの幅、約17cm。計算上、全部突き刺しても・・)
「リンドウさんには、当たらない!!」
ザシュッ!!
ギュアアァァァァァッ!!!
確かな感触をその手に確かめ、力任せに神機を捻る。
グリュッパキンッ!
何かが割れるような音がして、声を上げていた漆黒のハンニバルは、両腕から力が抜け、その場へと倒れ込む。
突き立てた刃を引き抜き、ユウはすぐさまリンドウの腕を握る。
そして、感応現象を発動する。
「よし!・・・」
キイィィィィィィィンッ!!
いろんな感情、思い、記憶が、ユウへと一気に流れ込んでくる。その辛さに耐えながら、徐々に見えてきたリンドウへと触れる。
「くっ・・・、リンドウさーーーーん!!」
キイィィンッ!
何かに弾かれるように、ユウは握っていた手を離す。すると、
「・・・・・うっ・・・・、くぅっ・・・くっ・・・・」
「・・・り、リンドウさん!!」
声が洩れたところに、ユウが声かけると、リンドウは閉じていたその目を、ゆっくりと開く。
「う・・・・、く・・・ユウ、か?」
「リンドウさん・・・、よかった・・」
会話が成立したことに、ユウは安堵の気持ちに力を抜く。しかし、
「っ!!ユウ!逃げろ!!」
「え・・・?」
その一瞬を、敵は見逃さなかった。なにより、相手はハンニバル。自らの体内で、コアの再構築できる荒神。
リンドウに気を取られたのが、ユウの誤算だった。
「しまっ・・・!!!」
グアオォォォォォッ!!!
ズゴォォォォォンッ!!!
「ユウーーーー!!」
その場一帯を大きな炎が包み、ユウの姿が完全に飲まれた頃を見計らって、
ドォォーーーーンッ!!!!
爆発を起こし、火柱が天へ上った。
「わっ!熱ッ!」
突然熱風が通り抜け、リッカは咄嗟に顔を覆う。
しばらく続いたそれが収まったころに、目を開くと、目の前にレンが手を広げて立っていた。
「流石に今のは、普通の人間にはきついですね」
「あ・・・、ありがとう」
「いえ。急ぎましょう。僕の予想通りなら、ゴッドイーターでも平気ではいられない」
険しい顔つきで、進む先を見据えるレン。その意味にハッとしたリッカは、残り僅かの道を一気に走り抜け、扉の解錠ボタンを押す。
そこには、足を震わせながら、何とか立っているユウと、それを見つめるリンドウを胸にはめ込んでいる、漆黒のハンニバルが炎の翼を広げ、飛んでいた。
「ユウ君!!」
「・・・・ふぅ・・ふぅ・・」
リッカの声がその耳に届かないのか、ユウは肩を揺らすだけで、返事を返しては来ない。
代わりに聞こえてきた声は、リッカにはずいぶんと懐かしく聞こえた。
「リッカ!ユウを連れて逃げろ!」
「っ!!リンドウさん?」
「そうだ!いいから・・っ!?くっそ!逃げろー!」
「えっ・・」
リンドウの思惑とは反対に、漆黒のハンニバルは標的をリッカに切り替え、口を大きく開き、炎を吐き出す。
「まずい!」
レンの声を遠くに感じ、リッカは目を閉じる。そして、
ドォーンッ!!
爆音が響き、煙が巻き上がる。リッカの姿が見えないのを、リンドウは目を反らし閉じる。しかし、耳に届いたのは、
「まだ・・・、終わってないですよ!リンドウさん!」
「っ!!」
かつて共に戦った、仲間の声だった。
そして、煙は晴れる。
「アリサ!」
「良かった。ちゃんと、意識はあるんですね」
後ろで目を閉じていたリッカも、声が聞こえるのに目を開き、目の前のアリサを確認する。
「アリサ、ちゃん・・・」
「リッカさん、無事ですか?」
アリサの笑顔に、力が抜けて座り込むリッカ。その頭をクシャっと撫でられ、顔を上げる。久しく見なかった神機を持つ姿の、ツバキが立っていた。
「ツバキさん・・、どうして・・」
「馬鹿者が」
優しく笑んでから前を向いたその先に、一人、二人、三人と、人が降ってくる。コウタ、レンカ、サクヤ、そして、
「よぉ、生きてるか?親友」
「・・ふぅ・・ふぅ・・・、ははは。何とか、ね」
ユウの隣に降り立ったソーマが、担いでいた神機を振り下ろし、リンドウを見る。
「くぅ・・・、ソーマ・・」
「ふん・・・、迎えに来てやったぞ。リンドウ」
今、新旧合わせ、総勢8名の第1部隊が、集結した。
ゴッドイーターだよ、全員集合!!
次、行ってみよう!!