自分の為に駆け付けた仲間達。その中にリンドウは、姉と、恋人の姿を見た。
「姉上・・・・、サクヤ・・」
「・・リンドウ・・・、リンドウ!」
「馬鹿者め・・、そんな姿を晒しおって」
二人の声に、過去の思い出が駆け巡る。
走馬灯・・・。
リンドウは自分の心に、遠い日に聴いた教会の鐘の音を聴いた。
(・・・あぁ、・・・・・・呼んでんのか・・)
一人何かを納得したように笑みを浮かべてから、リンドウはもう1度、自分の愛した家族を、その目に焼き付けるよう眺める。
「・・・・・・・・・もう、いい」
「なに・・・?」
先頭に立つソーマの返事に合わせ、リンドウは再び口を開く。
「もう・・・、俺のことは、ほっとけ・・・」
「何を・・、何を言ってるの?」
「俺はもう・・・、自分を制御出来そうにねぇ。・・・・サクヤ、みんなに指示を出せ。俺を、討て」
「っ!!」
言葉の意味に縛られてしまったように、サクヤはその場に固まる。しかし、周りの仲間は、即座に反して返す。
「駄目っすよ・・・。俺まだ、リンドウさんに何も返せてないっすよ!」
「そうです!私だってリンドウさんに・・!」
「行くな、リンドウ!俺も帰ってきた!だから、おまえも・・!」
レンカ達の叫ぶ声を、心地良く感じながら、リンドウはツバキへと目を向ける。
「姉上・・・、もう持ちやせん。姉上から、命令を・・」
「くっ!・・・・・そんなこと・・・!!」
苦しそうに胸を押さえるツバキに、首を落とす形で礼をし、リンドウはその部屋の突き抜けた天井の向こうまで届くように、大きな声で叫んだ。
「お前ら!目の前にいるのは、荒神だ!!お前らは何だ?お前らの手の中のモノは何だ?迷うな!攻撃しろ!これは・・・・、命令だ!!」
それは悔しくてか、悲しくてか・・・。
今日何度目かの涙が、皆の頬を伝う。その時、
キィィンッ!!!!
「え・・・・、あれ?」
目の前で起こった現象に、リッカだけは自分の手元と、視線を行き来する。
『お待たせしました、ユウさん。僕との賭け、ここまで来たら、勝ってもらいますよ!』
それは、誰が予期したことだろう。
保管庫に安置されていたはずの、リンドウの神機が、ユウの隣に突き立った。
「・・・・・おまえ・・」
この場にいるはずのなかった人物に、リンドウは目を大きく見開く。
『久しぶり、リンドウ。悪い子には、お仕置きを受けてもらうよ』
それに対し、リンドウが返事を返すより先に、その神機の柄を、ユウが握る。
ブジュウウゥ!!
「っ!!んぐぃあぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!!!」
その苦痛の声に、一同背筋を凍らせ、唯々、2本の神機を左右に構える、神薙ユウから、目を離せないでいた。
「ユウ・・・、おま・・」
「逃げるな!!!」
自分の言葉にかぶせてきたことよりも、その強い口調に驚いて、リンドウは口を開いたまま、止まる。
「・・・生きることから、逃げるな!これは・・・・・命令だぁ!!」
リンドウの神機から彼の心へと、ユウの感応現象から、皆の思いが流れ込む。それに触れた瞬間、リンドウは宙に浮いたような感覚を覚える。
それに影響されてか、漆黒のハンニバルの身体が、ゆっくりと地に足をつける。逆に、リンドウの肉体の方は、何かの力に引っ張られるように、重力に逆らっている。
「ふっ!・・・はあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
その隙を最後のチャンスと見て、ユウは両腕を引っ張るように、その足を力強く、速く、速く・・・、誰よりも、速く。
「ああぁぁぁぁっ!!!」
ザシュウッ!!!ブチブチブチッ!ザンッ!!
リンドウの両脇に突き立てた神機を、捩じ込んでから斬り裂く。
すると、張り付いていた荒神から、リンドウの身体が右腕を残し、今度はぶら下がるように抜ける。つながったままの右腕の部分を、ユウは思い切り薙いで、落ちるリンドウの身体を抱きかかえ、力いっぱい後ろへと飛ぶ。
ほんの数秒足らずの奇跡に、サクヤ達は出遅れた時間を埋めるように、二人の元へと走り出す。
そんな中、1番近くで見ていた褐色の少年が、その白い髪をかき上げながら、飛んでくる彼らとすれ違いに前に出る。
「後は、任せたよ。地上最強・・」
「もう寝てろ。新型最強・・」
すれ違う間に躱された約束をその刃に乗せ、ソーマは純白の神機を叩き下ろす。
「これで・・・、全部、終わりだぁーーーーー!!!」
チュドォォーーーーンッ!!!
直立立ちになってた漆黒のハンニバルは、その中心をコアごと綺麗に、真っ二つに分かれて霧散していく。
悪夢は、終焉を迎えた。
オラクル細胞が宙に溶け込むように、キラキラと風に流される。長い1日の終わりを知らせる事象に目を奪われながら、ユウはその身をゆっくり地面へと落とす。
ドサッ
「ユウ!リンドウ!!」
音のない世界から解放されたように、静かなエイジス島は動き始める。
「リンドウ!!・・・うっ、・・リンドウぅ・・」
最初に駆け付けたサクヤが、リンドウの身体を抱き起す。右腕は今だ荒神化の名残が残っているが、その他は綺麗に変わらぬままだ。
「・・っ痛ぅ・・。あぁ、助かっちまったか・・、はは」
「本当に・・・・・・、もう・・・」
涙ぐむサクヤの頬を、左手でゆっくり拭う。触れる感覚、人の温もり。リンドウは、口の端を浮かせて、大きく深呼吸をする。そこへ、
「馬鹿者!!」
ツバキが声を荒げて、近付いてくる。さしものリンドウも、今回ばかりは、苦笑するしかなくなっている。
「姉上・・、あのー・・・」
「黙れ!大馬鹿者が!!・・・・・一生分の心配をさせおって・・・」
「・・・姉上」
「馬鹿者が・・」
隠すことなく涙顔を晒しながらも、ツバキは満面の笑みを浮かべてリンドウを見つめた。それをくすぐったく感じるのか、リンドウは頬を掻きながら、視線を落とす。
その光景に、皆満足してから、倒れたユウへと目を向ける。
「ユウさん・・・・、寝ちまってるな」
「あぁ。どこか、笑ってるみたいだ」
何気ない会話に、コウタとレンカは顔を見合わせ、笑い合う。しかし、何か気になったのか、もう1度ユウの方を見る。
「・・・・・まさか、死んで・・」
「なっ!?まさか・・」
コウタの発言に、レンカだけでなく、皆がそちらへと目をやる。
「勝手にこいつを殺すな」
「あ、ソーマさん」
コアを回収し終わったソーマが、倒れたユウの前に座り込む。軽く脈をとってから、「ふん」と鼻を鳴らし、何でもないことを皆に伝える。
「はぁー、そっかぁ・・。良かっ・・ばえふぅ!」
コウタが胸をなでおろした瞬間、その顔面に、リッカの右フックが炸裂していた。
「り、、リッカさん?」
《紛らわしい!!》
殴ったのはリッカだけでも、罵声は全員に浴びせられ、コウタは縮こまって反省した。
皆が落ち着いてきたころに、リンドウはゆっくり立ち上がってから、ユウの隣に突き立った、自分の神機の前へと足を運ぶ。
それから、フッと微笑んでから、それへと優しく話しかける。
「また・・・、助けられちまったな」
『・・・そうだね、リンドウ』
《っ!!》
まさか返事が返ってくるとは思わなかったのか、リンドウとリッカ以外の面々は、驚きを隠せないでいる。
更には、そこから漏れ出した光の靄が集まって、人の形へと変わっていったのだ。
「これ、って・・・、神機、なんですか?」
「私も・・・・・、初めてだ」
アリサの疑問に同調して、ツバキも思わず1歩前へと出る。
『リンドウ。君が初めて僕を握ってからずっと、僕は君を見続けてきた。こうやって話せるのを、ずっと夢見てきたよ』
「はは・・。そこまで思ってもらえるってのは、男冥利に尽きるって感じか?」
『ふふ、そううだね。でも、これ以上サクヤさんを泣かしちゃいけないよ』
「あなたは・・・」
サクヤの複雑そうな顔に、レンはにっこりと笑顔を向けてから、隣に倒れている、ユウへと顔を向ける。
『ユウさんとも、もっと色んなことを話したかったな・・・。でも、僕の時間も、もうすぐみたいだ』
「何言って・・・・・っ!・・おまえ」
冗談を返そうとしたリンドウの目に、レンの透けた体の向こうの本体に、大きな穴が3つ穿たれていた。
『ユウさんのお陰で、君を救うこともできたし、君と話すこともできた。これで行けるんだから、僕は「幸せ者」ってやつなんだろうね』
「・・・・名残惜しいぜ」
『僕もだよ』
二人は恥ずかしそうに、切なげに笑い合う。
徐々に消えていく自分の身体を確かめてから、レンはリッカへと視線を向ける。
『リッカさん。今日まで、僕をずっと大事にしてくれて、ありがとう。次にまた神機になるなら、またリッカさんに管理してほしいな』
「うん。私で良ければ、喜んで」
嬉しさに頬を緩めて応えてくれるリッカから、再びリンドウと向き合うレン。その目はもう、別れを見つめていた。
「いくのか?・・」
『うん。ちょっと、粘りすぎたぐらいだしね』
「そうか。・・・・・ずっと、ありがとうな」
『それは、僕の方も同じだよ。ありがとう、リンドウ。君と共に戦えたことを、僕は誇りに思うよ』
「あぁ、俺もだ。・・・なぁ、最後にお前の名前ってあったら、教えてくれねぇか?」
『また面白いことを。僕は神機だよ?そんな僕の名前を聞いて、どうするの?』
「どうもしねぇよ。ただ、俺の大事な相棒の名前を、覚えときたいだけだ。・・・ダメか?」
『ふふふ。本当に、君達ゴッドイーターは面白いよ。・・・ユウさんにも、ありがとうって・・・、賭けは僕の負けだって、伝えてよ』
「あぁ、伝えとく。今回は、俺も負けちまったしな」
『こればっかりは、ここにいる誰もが譲らないよ。・・生きて、幸せにね。リンドウ』
「あぁ、またな」
『うん。またね』
『レン。君の相棒の、名前だよ』
空へと散っていくレンの魂は、あの時シオがくれたものに似ていた。
暖かく、
儚い、
綺麗な、
彼女の思いであった。
決着です!!
少し簡素な感じもしますが、原作にもきちんと沿ってますので、アリということでw