激闘の一夜から、1週間。
榊博士の研究室のベッドで、リンドウは右腕を博士に向けて、天井を眺めていた。つまらなそうにしているところを、榊博士はニコッと微笑んでから、検査を続けながら、話しかける。
「退屈かい?リンドウ君」
「ん?いやぁ、すいませんね。暫くぶりにここに転がってると、帰ってきたっていう、なんかぁ・・・、感慨深いものがっすね・・」
「それは、嘘だね?」
「ははは・・」
ばらすつもりで適当な嘘を言ったのを見透かしてもらってから、リンドウは榊博士と笑い合う。
「君とこんな話をしていると、やはり落ち着くものがあるよ」
「残念ながら、俺もっすよ。博士」
「それは、ご愁傷様、だね」
そんな二人のやり取りに、世界も眩しい晴れ空に包まれていた。
全ての検査を終えてから、榊博士は着替えを済ませたリンドウへ、少し重い表情で口を開く。
「リンドウ君・・。君の右腕のことなんだが・・」
「・・・そうっすか。やっぱり、このままっすか」
「察しが良くて助かるが・・・、私の力及ばず、すまないね」
「いえ・・・、何となくわかってたんで」
そう言いながらリンドウは、変わり果てた自分の右手を見つめ、指を曲げ伸ばしする。
荒神化していた名残として、リンドウの右腕は、黒く歪に変形していたのだ。ユウの感応現象と、自分の神機『レン』で切り離されたおかげで一命はとりとめたが、腕輪が取れた時に変貌した右腕だけは、元には戻らなかったのだ。
「生きているだけ、マシってもんですよ」
「ふふ。君のその前向きな姿勢には、いつも救われるよ」
そう言って笑う榊博士に、リンドウは頭を掻きながら苦笑する。
「何か、気持ち悪いっすね」
それから二人は、久方ぶりの世間話に、花を咲かせたのだった。
静かな神機保管庫に、二つの影が並んでいる。
リンドウとユウは、片手に持った配給ビールを、1本の神機の前に置いてある配給ビールに、コンっと当てて、一口喉に流し込む。
「ふぃー。やっぱ、これだよなぁ」
「リンドウさんは本当に好きですね」
笑いながらもう一口飲み込むユウに、リンドウは口の端を浮かせ、手すりへと背中を預ける。
「お前もビールのない生活をしてみろ。1ヶ月ももたねぇぞ」
「それと・・・、これですよね?」
そう言ってユウが取り出したのは、リンドウの吸ってる銘柄の煙草だった。予め封を切ってあったそれから、1本取り出すと、リンドウはそれを受け取り、口に咥える。
ユウがライターで火をつけると、リンドウはゆっくり煙を吸い込み、そして吐いた。
「ふぅー。いや~、最高だな。生きてるってのは、実に素晴らしい」
「意外と安い幸せですね」
「いやいや、後輩のお前に奢ってもらったってのが、良いんじゃねぇか。・・・ありがとな、ユウ」
「もう聞き飽きましたよ」
「言うね~」
ユウとリンドウは、一頻り笑い合ってから、改めて神機の方へ顔を向ける。
「レン・・か。俺はずっとあいつに、守られてたんだな」
「今回は、僕達も助けられました。あの子がいないと、リンドウさんと接触も出来なかったかもしれませんから」
ユウの真面目な表情に、リンドウは黙って煙草をふかす。
「ユウ。俺はな、これから先のことを・・・・、考えてんだが・・」
「・・僕もです。・・・・・実はゴッドイーターになる前から、考えてたことが」
「な~るほど。奇遇だな。・・・聞かせてくれよ」
面白い話に期待した子供のような笑顔を浮かべて、リンドウはユウへと話を促す。それに応えるように笑みを浮かべてから、ユウは自分の考える、未来の話をする。
晴れ渡る空の下、リンドウは無線で状況を確認してから、新しく入隊した二人のゴッドイーターへと向き合う。
アネット・ケーニッヒ、フェデリコ・カルーゾは改めて背筋を伸ばし、上官からの指示を待つ。
「よーし、お前らー。今から楽しい楽しいお仕事の時間だが、その前に俺から伝えることがある。いいか?」
「「はい!!」」
畏まった挨拶を返す二人を見て、リンドウは約1年前のユウのことを思い出す。
数えてみれば大した時間ではなくとも、色濃く、恐ろしい程長く感じられた。振り返るその顔は、遠くの景色に思い出を見るよう目を細めている。
「あの・・・、リンドウさん?」
少しの間に心配してか、アネットが声を掛けてくる。
「ん?・・・おぉ、すまんすまん。ちょっとした思い出に、浸っちまっててな」
「それって・・・、サクヤさんとの結婚式ですか?あれは、とても素晴らしかったです!」
フェデリコの言葉に、リンドウは目を大きく開けて驚き、アネットは手を前に合わせて、乙女の顔になる。
「確かに!とっても、素敵でした!もしかしてぇ、もう子供の話とか、しちゃってるんです?」
好奇心に目を輝かせて聞いてくるアネットに、リンドウは頭を掻きながら、質問に答える。
「そいつは、まだまだ先の話だが、名前だけは決めてるってことで、いいか?」
「えぇ~!知りたいです!!」
「また後でな。まずは仕事だ。」
「はい!」
「は~い」
二人それぞれの反応で返事を聞いてから、リンドウは軽く咳払いをしてから、口を開く。
「いいか?俺からの命令は3つだ。死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そして隠れろ、隙を見てぶっ殺せ。ん?これじゃあ、4つか?」
「は、はぁ・・」
「アリサ先輩に聞いた通り・・・ぷぷ」
アネットの笑い声が聞こえたのか、リンドウは再び咳をしてから、喋り始める。
「良いんだよ、数なんてのは。それに俺は、もう一つ増やすことにした」
「?何でしょうか?」
フェデリコの言葉に目を細めてから、リンドウは空を見上げる。
「生きることを、逃げるな」
世界は今だ、荒神の脅威から脱しない。
今だ安心して眠れない人達が、希望を求めている。
だからこそ、彼等は戦い続ける。
不条理な神を、倒すために。
GOD EATER達の戦いは、終わらない・・・。
これにて、本編を終了しました!!
長らくお付き合いいただきました皆様。本当にありがとうございました!
まだまだ、お付き合いいただけるのでしたら、少しばかり番外編を掲載いたしますので、そちらの方も良ければ読んで上げてください!