GOD EATER 〜神無き世界〜   作:死姫

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57話 未来の選択肢

 

 

朝早くから移動を始めたおかげで、早々に次の拠点、ネモス・ディアナに到着したカンパニーは、荷をほどき、テントを張り始める。

そこへ1団を連れて、市長の葦原八雲がやってくる。それに気づいた者に呼ばれてか、益恵が杖を突きながら前へ出る。

「遠路はるばる、ご苦労様です。益恵さん」

「また世話になるのぅ、八雲ちゃんや」

「はは。わしはもうそんな年じゃないぜ」

笑いながら握手を交わしてから、八雲は若い者に目で合図し、物資担当の者へと話に行く。そこへ、一段落ついた優が顔を出す。それを確認してから、八雲は微笑み優の傍へと行く。

「お久しぶりです、八雲さん。またお世話になります」

「おぉおぉ、優ちゃんか?また大きくなったか?」

「いえ、それ程でも・・」

苦笑しながらがっちり握手されていると、優は遠くから走ってくる少女に気付き目を向ける。

「兄さーん!・・・」

「あらら。うちのじゃじゃ馬の到着のようじゃわい。爺は退散するかの」

軽く手を振ってから、八雲は益恵を連れて移動する。それを見送って目を戻した頃には、優の目の前に少女は飛び込んできていた。

「兄さん!おかえりなさい!」

「おっと・・。ただいま、ユノ」

突然の事でも難なく抱き止めて、優はユノと向き合う。

「サツキ姉さんは?」

「明日には戻ってくるって。ねぇ、兄さんたちはいつまで?」

「今回は1週間ぐらいの予定だよ。ここの後、1度中東に行く予定だから」

「そう。・・・・もっと一緒にいたいのに・・」

「それは、あたしもってことで良いんだよね?ユノ」

二人の後ろから声を掛けてきて、ミコがゆっくり歩いてくる。

「あ・・・、ミコ姉さん。あははー・・」

「何?違ったかな~」

「そ、そんなこと!?」

焦ったように手を前に振るユノを素早く捕まえてから、ミコは優に聞こえないように、小声で話す。

『ユノ・・・。抜け駆けはなしって言ったろう?順番的には、あたしからだからな!』

『わかってるってば!でも、アピールぐらい、良いでしょ?』

『そ、それは・・・、まぁ・・』

「ねぇ・・・、二人ともどうしたの?」

二人を気にしたのか、優が声を掛けてくると、二人は示し合わせたように、同じ言葉を返す。

「「何でもない!」」

 

若い衆が物資の値踏みをしているのを見守りながら、八雲と益恵はお茶を片手に近況を話し合ってた。

「そういえば、息子を見んが?」

「那智の野郎か。技術者に交じって、フェンリルに働きに行ってる。今回デカい話があるらしくての・・・。それが上手い事いきゃ、わしらネモス・ディアナが救われるとさ」

「そうかい。あの子も、ずいぶんと立派になってなぁ・・」

目を細めて昔を振り返る益恵の隣で、八雲は溜息を吐いて首を横に振る。

「立派なもんかよ。フェンリルの胡散臭い話に乗っかって・・・。まだ、ゴッドイーターになる方が良い。少なくとも、自分の家族は安全圏に持ち込める」

「言うてあげなさんな。あの子も、あんたと同じじゃよ。この街を、人を、守りたいだけじゃよ」

「だからいけねぇ。こっちは文句がつけれねぇからな」

「ふふふ・・・、そうさな」

顔をしかめる八雲に、益恵は笑みを浮かべる。それに伝染されてか、八雲もニッと口の端を浮かせる。

「大人には、なりたくないのぉ。益恵さん」

「全くじゃの。八雲ちゃん」

今更な皮肉を口にしてから、二人は手元の湯飲みを空にし、仮初めの平和な空を仰いだ。

 

 

ユノにせがまれた優は、マーケットの農業車を見に来ていた。輸送用の大型トレーラーの荷台の壁をアクリル板に改造して作られた畑には、野菜を主に作られている。米や麦なんかの穀物も案があったが、大量の水を維持できないということで断念された結果だ。

畑の角っこの方では南瓜が育ててあり、そこの管理を子供ながらもカケルが任されている。

「カケル」

「あっ、先生。それと、ユノお姉ちゃん」

「久しぶり、カケル君。どう?調子は?」

「うん。見て」

ちょうどカケルが収穫したのか、人の頭ぐらいに育った、立派な南瓜が目にできる。

「ちょうど収穫できたから、これ。ユノお姉ちゃんに、あげる」

「本当に?ありがとう」

手に抱えていたそれを、カケルはユノへと渡す。二人が笑い合っていると、その畑の端の方から、ナズナが顔を出して叫ぶ。

「ちょっとー!カケル、これ全然じゃん!」

「え、えーっ!?そんなこと言われても・・」

「南瓜と同じとか何とか言って・・・。あ、ユノお姉ちゃん、こんちは!」

「うん。こんにちは。ナズナちゃん」

文句を垂れながらも、ユノにきちんと挨拶をするナズナに、優はくすっと微笑む。当のナズナは、再びカケルを睨みつけ、小言を並べだす。

「カケルって本当に、駄目だよね!せっかく私が希少なスイカの種を入手してあげたのに、全然大きくならないし」

「だって・・・・それは、ナズナちゃんが、勝手に植えて、ちゃんと管理しないから・・・」

「なに分かんないこと、ぶつぶつ言ってんの?育てるのは、あんたの役目でしょ」

「えぇーっ!?」

いつも通りの二人のやり取りに、優もユノも声殺して笑う。けして喧嘩でもイジメでもない、よくある日常に、優は子供のころの自分とミコを重ねる。

 

『優ーー!!勝負ーー!!』

 

振り返ってから、後悔する優。

昔のミコは暴れん坊で、何かにつけて勝負を吹っ掛けられた。その度に優が勝つのも、原因だろうが・・・。

「痛い!」

「ほらほら、その辺で・・」

「うーーー」

ふと我に返ってみると、またカケルがナズナに殴られ涙ぐんでいる。それを笑顔で間に立つユノ。軽く息を吐いてから、優は懐中時計を取り出してから確認し、3人の前へと歩み寄る。

「はい、そこまで。そろそろ戻って健康診断の時間だよ。今日は矢田先生が来てくれる日だから」

「ほーい」

「うぅ・・、はい」

二人の返事に笑顔で頷いてから、ユノと挟んで手を繋ぐ。仲直りの合図に、ナズナは渋々カケルの手を握る。

そのまま軽く手を振りながら、優達はその場を後にした。

 

 

「・・・うん。今日も良好だね。お大事に・・、次の方どうぞ!」

ネモス・ディアナの居住区。その中の空き家を利用して、フェンリルから派遣されている矢田医師は、カンパニーの人達を丁寧に診断している。

『世界の救済』を謳ってる、対荒神殲滅組織『フェンリル』。

彼等の活動は多岐に渡り、このように生存者への医療提供なども行っている。・・表向きでは、あるが。

そんな中でも、矢田は例外で、真に人の命を救おうと考えてる、組織の中ではまれに見るお人好しだ。その誠意あってこそ、ここネモス・ディアナに受け入れられている。その時知り合った益恵に頼まれ、今はカンパニーの健康管理もしている。

 

一通り片付いたところで、次に部屋に入ってきた優を目にして、矢田は笑顔を見せる。

「やぁ、優君。調子はどうかな?」

「はい、少しだけ胸が痛むかなって・・。あ、お願いします」

挨拶の遅れたことに焦る優を片手で制してから、矢田は神妙な顔で優の脈をとる。

「ここ最近では、いつ頃痛んだ?」

「3日前です。その前は、1週間くらい前だったかと・・」

「そう。シャツを上げてくれるかい?」

「あ、はい」

シャツの前をまくった優の胸周りを、矢田は聴診器を当てながら、黙って心音を確かめる。何ヶ所か当ててから聴診器を取り、矢田は隣に立っていた看護師の春咲渚へ顔を向け、指示を出す。

「渚君。エコーの準備してもらえる?」

「はい、先生。こちらを・・」

「ありがとう」

渚から受け取った太めのカメラの先に医療用ローションを塗り、優の胸周りへと巡らせる。そのまま暫く行った後、矢田は「ふぅ」と息を吐いてから、軽く微笑んで見せる。

「少し検査に時間をもらうね。外で待っててもらえるかな?」

「え?あ・・・、はい」

少し腑に落ちない表情をしてから、優は体に着いた液体を拭き取り、外へと出ていく。

そのほんの数分後に、益恵が杖を突きながら入ってくる。ノートPCに取り込んだ映像を目に頭をかいてから、矢田は改めて益恵に向き合った。

「お久しぶりです。代表・・」

「・・・・聞かせてくれるかい?」

「はい・・・」

俯いたままノートPCを益恵に向け、ゆっくり息を吸ってから、矢田は話し始める。

「優君の・・・・、心臓は、もう1年も持ちません」

覚悟を決めていたとはいえ、益恵はしわだらけの顔に手を当て、目をぎゅっと強く閉じた。

 

一頻り検査の結果を聞き終えてから、益恵は張り詰めた空気を切るように、短く息を吐く。

「ありがとうよ、先生。正直に、話してくれて・・・」

「いえ。・・・・・・お力になれず、すいません」

腰かけた椅子から落ちるかもと言わんばかりに、矢田は深く頭を下げる。そんな彼の肩を叩いて起こし、益恵は首を横に振る。

「ええんじゃよ。先生は十分、良うしてくれとりますわ。あの子だけ特別っちゃあ言えん」

「ですが・・・。医者としては不謹慎ですが、こんな世の中でなければ、彼に合った心臓を・・・、見つけれると思うんですが」

「・・・・。わしのしぼんだモンじゃあ、あの子に上げても、なんも役にたたんじゃろうしな」

「・・・・・すいません」

肩を落として悔しがる矢田に、益恵は首を横に振る。

「いいんよ。・・・・じゃが、この婆の願いに、もうちっと付き合っておくれ」

「もちろんです!私は諦めるつもりは、ありません!」

その思いだけでも満足と笑って見せて、益恵はゆっくりと立ち上がり、出入り口へと歩き出す。

「あ、代表!まだ、あなたを診てませんが?」

「わしはええ。もうすぐ優が戻ってくるじゃろう。わしの分も、あの子を・・」

そう言ってから、出ていく益恵と入れ替わりに、優が入ってくる。

そのまま席に着いてから、優は矢田へと顔を向ける。

「今お婆さんの診察、終わったんですか?」

「あぁ。それじゃ、結果を報告しようか」

 

 

夜も更けてきた頃、優はテントを抜け出して、一人月を眺めていた。

開けた空き地に止めてあるトレーラーの荷台に上り、優しく自分の胸を撫でながら、矢田に言われた言葉を思い出す。

『言いにくいんだが・・・、優君に残された時間は、1年だよ』

自分が生まれつき心臓に疼くものを感じるのを、優は知っていた。矢田に初めて診断を受けた時に、朝が来ないかもと眠れなかったのを思いだす。

いつかはこうなることを、彼はわかっていたのだ。

平和な時代であっても、重い病気。

本来なら、然るべき医療機関に入って療養をするべきだが、荒神が世界を喰い漁ってからは、全ての医療はフェンリルが牛耳っている。組織の恩恵を受けない限り、それらの機関に入ることはできない。

だから余計にも、優の命は秒読み段階だった。

「・・・・・くそ・・」

珍しく口汚い声を洩らし、優は右手を握りしめ、それを抱く。

「よっ。一人で月見かい?」

「あ・・・、ミコ」

優の返事にニッと笑顔を作ってから、ミコは隣へと腰かける。

「どうしたの?」

「それは、こっちのセリフ。どうしたの?夜中に出歩いちゃって。婆様がいないと、眠れない?」

「そ、そんなこと・・・」

「ふふふっ」

優の慌てように、ミコは静かに笑う。今日は大事な話があると、益恵と他大人連中は、集まって会議をしている。

「もう。そんな歳じゃないよ」

「うん。わかってる。・・・元気出た?」

「え・・・・・?」

不意に返された言葉に、優は言おうとしていた言葉を見失う。

「僕・・・、元気、なかった?」

「自分で気づけないうちも、重症。これ、矢田先生が言ってたよ」

「そっか・・・。ごめん」

「いいよ」

そう言ってから、ミコは優の肩へと頭を預ける。どうせ気付かないとわかっていても・・・。

 

 

特別に八雲に部屋を貸してもらっている益恵たちは、着いているテーブルの真ん中に置いてある、小さなケースを見つめながら、深刻な顔をする。

誰もが言葉に困ってる中、益恵がゆっくり目を開けてから、口火を切る。

「・・・矢田先生から言われてのぉ。これが、フェンリルの答えじゃよ」

「くそっ!人のこと舐め腐りやがって!」

一番に恨み言を口にした正嗣は、テーブルに上げていた右手を、グッと握りしめる。

「優だけでも、ちゃんとした施設に入れてやってほしいって願いも、まともに聞いてくれねぇなんて!」

「およし、正嗣。もう夜じゃよ」

「しかし、代表!」

「そうですよ!とっつあんの言う通りですよ!」

「優は、もう後がねぇってのに・・」

1度誰かが言ってしまえば、思いを共にする皆の声は止まらない。しかし、それでは先に進まぬと、益恵が大きくパンッと手を鳴らす。

「静まりな!ここは、借りた場所!みっともなく騒ぐでないよ!」

「あ・・・、いや・・」

「あんたの声が、一番うるさいよ。益恵さん」

その剣幕に皆たじろいだところへ、家主の八雲がコーヒーを入れてくる。一人一人に手渡したところで、「ふぅ」と溜息をしてから、話題の中心に目を向ける。

「パッチテスト・・・・、ゴッドイーターの、か」

「そうさね・・。これが、フェンリルがよこした答えさね」

怒りが納まらぬ益恵の隣に、八雲は椅子を持ってきて座る。それからもう1度溜息を吐き、静かに話し出す。

「これを誰が通ったところで、優ちゃんはフェンリルには入れんよ」

「なっ!八雲さん、どうして!?」

思わぬ言葉に、驚きを口にした者への返答として、皆に伝えるよう続ける。

「血の繋がりが、ないからじゃよ。フェンリルが受け入れるのは、パッチテストに通った人間の家族・・・特に、血縁をじゃ」

「そ、そんな・・・」

「優ちゃんには、益恵さんしかおらん。これで益恵さんや、優ちゃん本人が通っても、足手まといを『あの』フェンリルが受け入れると思うかい?」

フェンリルをよく知る人間なら、誰しも知っている。

それが人であろうとも、役に立つかどうか、天秤にかけると・・・。

「くそ・・・」

「じゃあ・・・、何のためにこんなもの、先生に・・!」

正嗣が答えを求め、益恵と八雲に目を向ける。それに合わせて集まった視線に、どちらからともなく、口を開く。

「・・・・建前という名の」

「宝探しさ・・」

あるいはと予想していても、二人の言葉に、皆は一気に落胆という空気に襲われる。

 

暫くの沈黙を破るように、益恵は神妙な顔のまま喋りだす。

「・・・そろそろ、潮時と、考えるべきかねぇ」

「・・・・え?」

それの意味を確かめるように、皆伏せていた視線を、益恵へと集める。

「優のことがきっかけじゃったけんども、そろそろ・・・わしらも選ばにゃならん」

「代表・・・、それって・・」

正嗣に頷き返してから、益恵は一人一人の顔を確かめながら、話を続ける。

「最近、更に荒神の数が増えよる。それは皆、その目で確認しておるじゃろう?フェンリルも、日々増え続ける荒神に対して、戦士の数が足らんのじゃ。こんな1団に、こんなものを持ってくるぐらいじゃからな」

《・・・・・・・》

次に何を言われるか、そしてそれが、これからの自分たちの未来の為の選択だと・・。

「どうせ過酷な世の中じゃ。せめて家族に、安らかな眠りを与えるチャンスを、持とうじゃないかえ」

誰もそれに反論できずに、その議題は承認となった。

 

 

 

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