GOD EATER 〜神無き世界〜   作:死姫

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58話 誓い

 

 

幼い子供たちの為にと、八雲が設けたプレハブ小屋。

スクラップから回収した黒板に、優は手慣れた手つきで、計算式を書く。そして振り返り、久方ぶりの多数の好奇心を前に、優しく喋りかける。

「はい。じゃあ・・、この問題がわかる人?」

《はーい!!》

ピンと伸ばした多くの手の中から、優は一人を選び、前へと促し答えを書かせる。

「うん。正解。よく勉強してるね」

「え、えへへ」

優の華奢な手が、その子の頭を撫でると、他の子たちはより一層盛り上がりを見せ、問題を催促する。

「先生~、次、次!」

「次ぜってぇ、俺だかんな!」

「次は、わたし!」

「はーい。じゃあ次の問題は・・・」

年に何度かの優の授業を、ネモス・ディアナの子供たちは楽しみにしている。優自身も、体の弱い自分に何が出来るかと考えた時、勤勉に学んだ自分の知識を、子供たちに教えるという形を選んだのだ。

 

授業を終えてから、手元の資料を片付けていると、軽い拍手に視線を上げる。

「サツキ姉さん」

「もうばっちり様になってるわね、優。ただいま」

課せられた仕事を消化したサツキが、古巣のネモス・ディアナに帰ってきたのだ。

現在フェンリル広報課に努めているサツキは、専属ジャーナリストとして、世界各国を飛び回っている。彼女の希望した、『広い世界を見、伝えたい』という夢を叶える為だ。

「いつ戻ったの?」

「ちょっと前にね。そしたら、ちょうど朝凪教授の授業が受けれたってわけ」

「あはは。そんな大層なモノじゃないよ。姉さんの方は、どう?」

優の質問に、サツキは肩をすくめて、手をひらひら振って見せる。

「世界のどんなお偉いさんに会っても、全然ダメ。『世界は自分たちが動かしてるんだー!』って話が、顔にまで出てる。後は良いもの食べてるのね。大概はデブだわ」

「相変わらず、容赦ないね」

前に聞いた時もこんな感じだったかと、優の方も軽く息を吐いてから、サツキの隣へと腰かける。

「優だって、あの臭い息を撒き散らす生き物に会ったらわかるわ。建築やプログラミングなんかは技術者が、医療や荒神対策は研究者が、結局自分の身の安全は、ゴッドイーターに守ってもらってる。上から何の毛無に喋ってるだけなら、私達のような外の人間を、助けてもらいたいもんよ」

「・・・そっか。結局、いつの世の中も、そういった権力者の振舞い一つで、世界は動いているんだね」

「こんな世界になってまで・・・。敵は、荒神じゃないの・・」

抱えた膝に顔を鼻まで落として、サツキは目の前の原っぱで遊ぶ、ユノと子供たちを見つめる。それと同じものに目を向けて、優もまた、静かにその時を過ごす。

 

 

「何だよ。帰ってたんなら、早く会いに来いよ」

夕刻になって、食事を一緒にとカンパニーの滞在場所へと足を運ぶと、ミコがサツキにブーブーと文句を言う。

「会いに来たでしょ?今。私にだって優先順があるわ」

「それって、優のことか?」

「あんた達二人と一緒に・・」

「「わーーーっ!!」」

喋り終わるより先に飛びついてきたミコとユノに、サツキは1歩後ずさってから、ニヤリと笑んで見せる。

「そう。・・・それで、ミコ。何の話だったかしら?」

「くぅ~。頭の良い眼鏡は苦手だ」

「うぅ。私は巻き添え・・」

そっぽ向いてむくれる二人に、サツキはVサインして笑う。優の方は、やはり首をかしげる。

「おやおや。騒がしいと思ったら、戻ってたかい」

食堂として使っているトレーラーハウスに移動しようとしてたのか、益恵が八雲を連れ立って声を掛けてくる。

「お婆ちゃん、お爺ちゃん。うん。昼過ぎに、こっちへ」

深々と頭を下げるサツキを、笑顔で制してから、優とミコに顔を向け話しかける。

「優、ミコや。食事の後、大事な話があるから、皆にそう伝えておくれ。あぁ、カケルとナズナには言わなくていいよ」

「うん。わかった」

優が返事を返し、隣でミコも頷くのを確認してから、サツキの方へと改めて顔を向ける。

「サツキちゃんや。ちょいと、わしらに付き合ってくれんか。そう時間はとらせん」

「あ、はい。じゃあ二人とも、ユノをお願い。すぐ合流するから」

「了解!遅かったらあんたの分、あたしが食っといてやるよ」

「絶対すんなよ、ミコ」

とても良い笑顔ですごんでから、サツキは先を歩く益恵と八雲を追って、走り寄る。

 

益恵の居住テントに招かれてから、サツキは目の前に出されたそれに肩を震わせる。

「・・これ・・・・、ゴッドイーター適任を、調べる・・・、パッチテスト、ですよね?」

「そうじゃ・・。サツキちゃんなら、すぐにわかると思うたよ」

「で、でも、なんで・・・、お婆ちゃんが・・?」

信じられないといった気持ちで、質問するサツキに、八雲は目を伏せ、益恵は重い口を開く。

「フェンリルが・・・、寄越してきよったわ。矢田先生を通して、優のことを相談したらの」

「っ!!・・・・どこまで、腐ってるの。人ひとりの命がかかってるのに、あいつらは・・!!」

前々から、このことを相談されていたサツキは、益恵の言葉に、フェンリルがどういう対処とったのかを、容易に判断できる。

実際、世界中を見渡しても、フェンリルがやってる常套手段であるのを知ってもいた。しかし今回のことに関してだけは、最後の良心をと願っていた部分もあったのに・・・。

「・・・・わしらは、使ってみよう思うちょる」

「なっ・・、お婆ちゃん!」

「サツキ」

気持ちを前にぶつけそうなサツキを、黙って見守っていた八雲が、言葉で踏みとどめさせ、首を横へ振る。

「これも、生きる選択の一つじゃ。わしらが、口出しすべきじゃない」

「でも、お爺ちゃん!・・・そうだ、ここでカンパニーを・・」

「受け入れる余裕がないのも、知っておるじゃろ?」

サツキの提案を否定した八雲は、ネモス・ディアナの市長として、苦渋の決断をしたというように、眉間にしわを寄せ、それを伸ばすように指でなぞる。

「全員で百数十人。誰も通らない可能性だってある。・・・お前の気持ちは、わかる。じゃがここだって、余裕があるわけじゃない。実際、受け入れてカンパニーがなくなっても困るってのが、わしらの現実でもあるんじゃ」

「・・・・」

「お前さんも、世界を回れば、こんな問題に何度かぶち当たったこともあるじゃろう?」

「・・・・はい」

すっかり消沈してしまったサツキに、そのくたびれた体を引きずって近寄った益恵は、優しくその体を包む。

「ありがとうよ、サツキちゃん。わしらを思ってくれて」

「それは・・・・、だって・・・お婆ちゃん」

しがみついて声を殺して泣くサツキを、優しく撫でながら声を掛ける。

「泣かんでええよ。さぁ、こんな辛気臭い話は終まいにして、ご飯でも食べようかねぇ」

「・・・・うっ・・うっ・・」

「ほれほれ、笑わにゃあ美人がもったいないえ」

サツキの気分が落ち着くまで、益恵は優しく撫で続けた。

 

 

居住テントが並ぶ中の開けた場所に、子供二人以外の、カンパニーの面々が集まった。そこで益恵は、昨日話し合って決めたことを、皆へと伝える。

しばらくの沈黙の後、正嗣が改めて確認する。

「いいか、みんな。これは決まったことであっても、受けたくない者は受けなくていい。ただわかって欲しいのは、これは家族を安全な地に連れていけるチャンスなんだ。通った者も、通らなかった者を後ろめたく思う必要はない。誰だって自分の命、家族の命が大事だ。それはこの大きな家族、『カンパニー』だってそうだろう?」

皆迷いの色を見せていたが、正嗣の言葉に、強い眼差しを見せる。

気持ちがまとまったのを見計らってから、皆へと気持ちをぶつける。

「これをきっかけに離れる子もおるじゃろう。じゃが忘れるでないよ?例えどこで生きようとも、わしらは『カンパニー』何じゃからな」

《はい!》

その声は、新たな未来への決意の咆哮だった。

 

 

話し合い後に、皆パッチテストの使い方を聞いてから受け取り、その日は解散した。

夜も深まり寝静まった頃、優はまた一人、トレーラーの荷台に上がっていた。手元にはパッチテストがあり、それを見つめながらしばらく考える。

『ゴッドイーター』。

その体内に、荒神を形成するオラクル細胞を取り込み、ずば抜けた身体能力と回復能力を得る。同じくオラクル細胞を使い造られた兵器『神機』をその手に、人類の敵『荒神』を倒す者。

優はそれになれば、自分の心臓も治るのではないかと考えていたのだ。

しかし、それ自体賭けではあるし、何より自分の故郷、カンパニーを出なければならない。

暫く目を閉じていたが、優は右腕の袖を捲くり、パッチの保護シールを剝いで張った。陰性なら変化なし。陽性なら・・。

数秒たってからシールを剥ぎ、確認する。

月の明かりに照らされた優の右腕には、赤い痣のようなものが出来ていた。

検査結果・・・・・、陽性。ゴッドイーターの資格有り。

一つの疑問が解決されたことに、ホッとしてしまったのか、優は大きく息を吸って吐き出した。

「優・・・」

「え?ミコ?」

彼女が何時来たのか気付けなかった優は、少しだけ驚いてから、自分の捲くっていた袖を慌てて戻す。その反応に全てを察したように、ミコは息をついて優の傍へと歩み寄る。

「陽性だったんだね・・・、やっぱり」

「・・・・わかるんだね」

「優のこと、だからね」

苦笑する優に対し、ミコは真剣な表情を崩さない。そして隣に座ってから、自分の右腕を捲くって見せる。

「・・・・あたしも、陽性」

「ミコなら、わかる気がする」

「茶化すな」

褒めたつもりなのに怒られてしまった優は、少し身を引いてしまう。そんな彼の目を見ながら、ミコは自分の決意を口にする。

「優・・・・・あたしと、結婚してくれ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えぇ!?」

頭がフリーズしてしまっていたのを、無理やり元に戻してから、優は目を大きく開いて驚く。その返しも想定内と流し、ミコは話を続ける。

「あんた、ゴッドイーターになれば、その心臓が治るって思ったんじゃないの?でも、カンパニーを出たくないとも」

「う・・・」

図星をつかれ、何も言えない優に溜息を吐き、ミコはさらに続ける。

「あたしは、そんな賭けみたいなことを、あんたにして欲しくない。かと言ってこのままと言う訳にもいかない。だから、あたしと結婚して、家族になって。あんたがフェンリルの医療施設に入れるように、あたしがゴッドイーターになる」

「で、でもそれじゃあ、ミコが僕の犠牲になるみたいで・・・。それに、別に好きでもないのに、結婚なんて・・」

「好きだよ・・」

「え・・・」

またも意表を突かれた言葉に、一瞬気が遠くなりそうになる優。しかし見つめてくるミコの瞳に、嘘がないのを感じると、途端に体から緊張が抜ける。

「あたしは、ずっとずっと、好きだった。カンパニーのみんなや、ネモスのみんな、ユノやサツキに向ける好きとは違う。優を男として、女のあたしが好きなの」

「そう・・、だったの。ごめん・・・・。僕はみんなに気を使われまいと気遣ってるつもりで、こんなに近くの君のことに気付けないなんて・・」

自分の不甲斐無さに、頭を掻いてごまかす優。その態度に自分のこれまで言った言葉に、顔を赤くするミコは、グッと詰め寄ってから、口を開く。

「あ、あたしの・・・、きも、気持ちは、言った。・・・うん、言った、から・・、あんたは、の、答えを・・・、聞かせてくれよ」

「・・・・うん。結婚しよ」

「そう、だよな・・。急には・・・・・・・、今なんて?」

聞き逃してしまったかのように、ミコが確認してくるから、優は改めて彼女の手を取り、優しく微笑む。

「本当は、男の僕から言うべきだよね。神楽ミコ。僕、朝凪優と、結婚してください」

「・・・・い、良いの、かい?」

「うん。僕も、ずっとミコが好きだった。だから、これは僕の気持ちだよ」

「で、でも、ユノみたいに可愛げないし、サツキみたいにおっぱいデカくないし・・」

「二人のことは、兄弟のように好きだよ。でも、女として好きなのは誰と聞かれたら、ミコだよ」

優の言葉一つ一つをその耳に焼き付けてから、ミコも次第に落ち着きを取り戻す。そして二人は、ゆっくりと顔を近づけていき、そして・・・、二人の距離はゼロになった。

 

 

「そうかい。やっとかい」

翌朝、優とミコは一番に益恵へと報告に来た。二人の話を聞いた益恵は、その目に涙を浮かべ喜んでいたのだ。

「お婆さん。僕は、ミコとフェンリルに行くよ。それで・・・、二人で話したんだけど、僕も心臓を直してから、ゴッドイーターになるって持ちかけようと思うんだ」

「それじゃ・・、お前さんも・・」

「うん。陽性だった」

少し残っている陽性の痣を見せて、優は話を続ける。

「フェンリルは肉親を受け入れてくれる。だから、お婆さんも・・」

「それは、いらないよ」

思わぬ言葉に、開いた口を止めてしまう。

「ど、どうして・・」

「カンパニーに残る子たちは多い。わしが置いて行く訳にはいくまい」

「で、でも、僕は・・・!」

優が思わず伸ばした手を、ミコが制してから口を開く。

「優。婆様は、私達の故郷を守ってくれようとしてるんだよ?わかってあげなよ」

「でも、僕はまだ・・・・、お婆さんに何も返せてない。せめて、安全なところにお婆さんを・・」

今だ納得をしない優に、益恵はその優しさに応えるように笑う。そして、彼との思い出を振り返り、視力の薄くなった目で、優を見つめる。

「わしに恩義を感じてくれとるなら、元気になって、わしに二人の子供を見せておくれ。それだけを楽しみに、わしは後10年は生きよう。ええか?」

「お婆さん・・・」

「婆様・・」

二人は熱くなった目頭をこすり、大きく頷いてから、益恵を見つめ返す。

「はい。元気な子を、産みます」

「お婆さん、長生きして下さい」

その晴れやかな顔に、益恵も大きく頷き返した。

 

 

 

 

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