「「け、結婚!?」」
報告を受けたユノとサツキは、思わず声を揃えて驚く。
「け、けけけけけけ・・・」
「あらら。壊れちゃったわ、この子」
壊れたおもちゃのロボットみたいに、カタカタ震えるユノに苦笑してから、改めて優とミコの方へと笑顔を向ける。
「まぁ色々思うことあるけど・・・・、二人ともおめでとう」
「うん。姉さんありがとう」
「サンキュ」
サツキに笑顔を返す二人。その穏やかな顔に思うことあってか、サツキは視線をミコへと向ける。
「・・・・・ミコ、ちょっと良い?」
「なんだよ。祝いでもくれんの?」
「茶化さない。ユノにもちゃんと、話したいでしょ?」
「ん。まぁな・・・」
サツキの真意に納得したのか、ミコは頷き、優へと顔を向ける。
「悪い、優。あたし達、ちょっと女同士の話があるんだ」
「え?そう?う~ん。じゃあ八雲さんのところに行ってるね」
「了解」
「ごめんね、優」
笑顔を残してその場を離れる優を見送ってから、サツキは自分の聞きたかったことを、ミコに訊ねる。
「ミコ・・・。あんた、ゴッドイーターになるのね」
「察しが良すぎて、つまんねぇな」
「昨日お婆ちゃんから聞いたの。パッチテストのこと・・・。後はあんたの性格と、話を受けた優のこと、照らし合わせれば容易に想像できるわ。何年の付き合いだと思ってるの?」
「・・・幼馴染ってのも、不憫なもんだな。お前らには言わないつもりだったんだけど・・」
頭を掻いて俯くミコに、サツキはその表情を崩さず話を続ける。
「私はフェンリルのジャーナリストとしての立場を使って、世界中に点在する支部を見てきたわ。ゴッドイーターの現状は、最悪よ。例え異常な回復力を持とうとも、内臓えぐられ、首が飛べば例外なく死ぬわ。私はそれを、たまたま本部で目撃したわ」
「・・・・え?ゴッドイーターって・・・、ミコ姉さん?」
正気に戻ったユノにも聞かせるべきと、目で合図してから、サツキは更に続ける。
「ましてや、ここ極東地域のフェンリル、『アナグラ』は最前線よ。精鋭揃いと言われているけど、逆に言えば、精鋭しか生き残れなかったってこと。それでもあんた、ゴッドイーターになるの?」
「姉さん・・・」
サツキの話に、ユノは不安の表情を浮かべる。そんな中、ただ黙って聞いていたミコは、フッと笑みを浮かべてから口を開く。
「サツキの言ってるようなことは、嫌になるくらい考えたよ。あんたが一番反対しそうなことも・・・。でも、優は受け入れてくれた。だからあたしは、迷わず前に進める」
「そう。決めちゃったのね・・・・。あんたも・・優も・・」
「で、でも・・でも・・!」
もう言っても無駄と目を伏せたサツキと対象に、ユノはおろおろしながらも、抗議しようとする。しかし、その相手のミコは、笑って頭を撫でてきて、反論は認めないと目で訴えてくる。
「悪いな・・ユノ。あんたに出来ない方法で、優を落としちまって・・。ただ約束する。あいつは、私が元気にして見せる」
「・・・・・・うん」
「・・・あたしも、死なねぇよ。あんたを置いてな」
「うん!」
心配していたことを見透かされたのをきっかけに、ユノはミコの胸へと飛び込む。それを優しく受け止め、ミコはとんとんと背中を叩く。
「・・・・姉さん・・、ごめんね。結婚、おめでとう」
「ごめんは可笑しいだろう?・・・ありがとな、ユノ」
涙ぐむユノが落ち着いてから、三人はもうしばしの間、女同士の話を続けた。今度は、笑い合って・・・。
フェンリル極東支部、通称『アナグラ』。
各支部の中で、もっとも過酷な支部と言われている。
その開発局研究棟の倉庫に、支部長のヨハネス・フォン・シックザールは、先日本部より運び込まれたモノを確認に来ていた。
「どうだね?」
「はい。電圧チェック問題ありません」
「そうか・・・。後は、どこでやるかだな」
研究員の報告に、満足気に笑ったのも束の間、支部長は顎に手を当てて目を伏せる。
「近隣にも、まだ息をひそめて暮らす、一般人は存在します。南の荒野あたりが適当かと」
「あちらは防衛班の管轄内だ。下手に誤作動して、彼らを巻き込む必要はない。なので・・・」
手元の携帯端末から地図を呼び出し、支部長はある一点を指さす。それを確認してから、研究員はぎょっとして目を大きくする。
「ここは・・・、確かまだ何人かの住人がいると・・」
「君は・・・、我が支部の貴重な戦力と、何の役にも立たない小動物の群れと、どっちが大事か・・・わかるね?」
「・・・・それ、は」
彼の口から出た意外な言葉に、研究員は思わず1歩後ずさる。そんな彼の肩を軽く叩いてから、支部長は涼しい顔をして歩き出す。
「明日には実験を開始する。調整を頼むよ。・・・・君も、家族は大事だろ?」
「っ!?・・・・・わかり、ました」
他言無用を釘を刺された研究員は、憂鬱な顔を下げて作業を再開する。支部長はそれ以上何も言わずに、倉庫を後にした。
荷物をまとめ終わったカンパニーは、出立の準備の為に動く人たち以外は、世話になった八雲達に挨拶していた。
益恵の差し出した手を握り返し、八雲の方も感謝を込めて軽く頭を下げる。
「毎度あんた達には、わしらも世話になる」
「わしらも、生きるためじゃて。気にせんでええ。わしらは、助け合って生きていかねば・・」
「そうじゃの・・」
二人の代表の挨拶の間に、他の者も別れを済ませる。
「ユノ、サツキ姉さん。年明けには1度戻るね」
「うん、またね。兄さん、姉さん」
「それを最後に、あたしらはフェンリルに向かうよ」
「力を過信して、妙なことに首突っ込まないでよ?フェンリルは一枚岩じゃないんだから」
4人の幼馴染もまた、別れを惜しみつつ、再開のための約束を交わす。
少し外れた場所で、看護師の渚を呼び出していた正嗣は、自分の右袖を捲くって見せる。それを目にしてから、渚は目を見開いてから、正嗣の顔へと視線を移動させる。
「正嗣さん・・・、これって・・」
「あぁ。昨日の夜に、やっと踏ん切りつけてな。フェンリルに入れば、おまえと一緒になれる」
そう言ってから彼は、胸ポケットに入れていた銀の指輪を取り出し、渚の左手の薬指へとはめる。その自然な行為に、渚もまた流れるようにその左手を胸の前で抱き、体を正嗣へと預ける。
「本当に・・・、私を選んでいいんですか?カンパニーを出ることになるのに・・」
「みんなにも後押しされちまったしよ。・・・次にこっちへ寄ったときに、渚の所属する支部へ、連れて行ってくれ。幸せに・・・、するよ」
「・・・・・はい」
2年前より恋仲だった二人も、これを期にと、新たな道を選択したのであった。
ブロロロロロッ!!
先頭車両がゆっくり動き出してから、カンパニーはネモス・ディアナを去っていった。
ずっと遠くに煙を上げる1団を見つめ続けるユノに、サツキは隣に立って話しかける。
「ユノ。最後にミコと話してた『約束』って、何のこと?」
「・・・『優兄さんを射止められなかった者は、射止めた者の言うことを、一つだけ聞く』って約束。ちょっと、変わったこと言われちゃったけど・・」
それに興味を抱いてか、サツキは肩を抱き寄せ、悪い笑みを浮かべて追及してくる。
「なになに~?あの子がいうことだから、変わってるとは思うけど」
「うん。次に戻ってきた時に、自分の書いた詩に曲をつけて歌ってくれって・・。変わってるよね?」
「詩ぃ?あの子がね~。教養があるんだか、無いんだか・・」
苦笑するサツキに、ユノは笑顔を向けてから、それぞれの家へと戻っていく人達に次いで、歩き出す。
「ユノ?いつもだったら、もう少しいるのに・・」
「うぅん。二人が来るまでに、やりたいこと出来たから」
「やりたいこと?」
「正確には、プレゼント!本当は今日が良いと思うけど、次までに間に合わせる!」
よくわからないといった感じで後に続くサツキを連れ、ユノは八雲のところへと向かった。
この日、極東は『クリスマス』を迎えていた。
カンパニーのトレーラーはゆっくり進みながら、中東のフェンリル北京支部を目指している。荒神出現の影響により、世界の海のいくつかは枯渇し、陸となって移動できるようになっている。その一つに、日本海も上げられる。
ネモス・ディアナが見えなくなってから暫くして、監視をしながら書き物をしていたミコは、「ふぅ」と息を吐いてから、手元の紙を持ち上げる。暫く目を通してから、微笑んで折り畳み、一緒に置いてあった封筒へと入れ、腰に付けたミニバックへとしまう。
そこへ、優が上がってきてから隣へと腰を下ろす。
「何か嬉しそうだね?」
「ん?ふふふっ、まぁね」
秘密なんだなと悟ってから、優は視線を周りの景色へと向ける。
「・・・相変わらず、目が良いのな。双眼鏡なしで、どのくらい向こうが見えんの?」
「ん?うーん。もうすぐ到着する休憩地点は、もう見えるかな」
そう言われてから、ミコも肉眼で見ようと目を細めるが、結局よくわからず、双眼鏡を覗く。
「ん~。あ、あった。凄いな、あたしの旦那は」
「だ、旦那って・・」
少し照れる優に比べて、余裕の出てきたミコは笑って見せる。
それから数刻してから、カンパニーは廃ビルの並ぶエリアへと一時の休憩にと足を止める。
「各自障害を確認!俺たちの休憩は、ここを動いてからだ!」
《了解!》
自警団へと正嗣は叫び、皆それぞれの配置へと就き、周囲に注意を向ける。彼等が防御陣を敷いてる間に、他の者は食事を済ませたりする。
周囲に危険がないと胸を撫で下ろしてから、自警団も交代で食事を済ませる。
「よし。そろそろ行くか。燃料の補充は良いか?」
「あぁ。ばっちりだ!」
「なら長居は無用だ!みんな乗り込め!」
これといった問題もなく、その場を離れる準備をする。元々よく利用する場所なので、気を抜いてしまったのかもしれない。
その油断が、一瞬事態の変化へと遅れた。
たまたま見張り台に上がっていた優の表情が、焦りの色へと変わる。
「あ・・・、荒神がくるぞーー!!」
まさかのタイミングに、誰もがほんのわずかの間だが、凍り付いてしまった。